第29怪 最悪の世界の変容
――各世界への通告。
超神不在の人間界へ八界のメインゲートが出現いたします。副次的な効果として人間界へランダムに存在強度F(上級)以下の存在の交通可能な特殊ゲートが出現します。
脈絡もなく生じた各世界の一定以上の魔力ある者へ為された不思議な通告。それは、真なる力のあるもの以外、まったく意味不明な内容。しかし、その極めて悪質な内容を知る者たちは、この場この時、今己が生きる世界が文字通り修羅神仏、悪鬼羅刹が蠢く世界への変貌を遂げた事をはっきり自覚していた。
それは理性と慈愛による優しい世から、力を至上とする野蛮で救いのない世への変革を意味していたのだ。
八界を支配する怪物たちさえも戦々恐々とする中、最弱の世界である人間界のジパングの一際大きな屋敷の中で狂喜に震える存在がいた。
「くはっ! きゃはははっ! まさか、こんな形で私の長年の渇望の一つが果たされるとはな! 誰が成したかはわからぬが、まっこと愉快! 愉快!」
突然、ソファーから立ち上がって両腕を広げて天を仰ぎ、歓喜の声を上げる白髪の少年。普段、憎たらしいほど大人びている息子に、
「さっちゃん、どうしたの?」
「ふむ、
中年の夫婦が怪訝な顔で、白髪の少年に問いかける。少年は普段の柔和な笑みを浮かべると、
「父様、母様。丁度今流行っている漫画の真似ですよ」
頭をかいて照れたような仕草をする。
「お前はもうすぐ、伝統ある【慶皇館大学付属】の中等部生だ。漫画なんぞにうつつを抜かしている場合ではないぞっ!」
たしなめるチョビ髭の男性に、白髪の少年はすまなそうに頭を軽くさげつつ、
「申し訳ありません、父様、肝に銘じておきます」
謝意を述べる。
「お父さん、いいじゃありませんか。さっちゃんは、少し子供っぽい方がいいです」
中年の女性がチョビ髭の男性に非難の視線をむけつつ白髪の少年に近寄ると優しく抱きしめる。
「まあ、確かに大人び過ぎて心配だったところだし、この程度の茶目っ気があった方がいいか」
そう呟くとチョビ髭の男性も手元の本に目を通す。
「それでは、父様、母様僕は先に寝ますね」
「うむ、おやすみ」
「おやすみ、さっちゃん」
少年は改めて軽く一礼すると、リビングを出て二階の自室へと向かう。
少年の自室には複数の白服を着た存在たちが跪いていた。
「ハコツ様、おめでとうございます」
無精髭を生やした大柄な黒髪の男がその渦を為す禍々しい両眼で、祝いの台詞を吐く。
「首尾は?」
白髪の少年は白服たちに視線すら向けずに椅子に踏ん反り返ると、そう端的に尋ねる。
「此度、八界のゲートの出現を確認しました。直に
隣の白服が報告するが、言葉を言い終わる前にその上半身が弾け飛び、絶命する。
「首尾は?」
無常に繰り返される疑問。
「既に複数のゲートへのアクセスには成功しておりますれば、我らが描くシナリオへの誘導も可能でしょう。また、複数の固有ゲートを開いておりますれば、混乱は必須。直にあの御方も動き出すと思われます」
同胞の一人が殺されたのに眉一つ動かさず、黒髪の男は理路整然と返答する。
「これでピースは全て出そろったッ! これでようやく待ち望んだゲームが始まるッ! コツガ、お前がどうあがこうと、この流れは変わらない。私たちがこの世の全てを望むように変えるのだっ!」
白髪の少年は再度、恍惚の表情で熱の籠った声を上げたのだった。
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