第25怪 ウイズダムCEOからの提案 

 僕はシルバーナを用いて今までやりたくてもできなかった魔術と魔力の実験を実行した。一切の妥協なく、徹底的に。結果、シルバーナの全ては有効活用されて【小回復リトルヒール】と【捜索サーチ】は完成に至る。これで契約を完全に履行できる。

  【捜索サーチ】により、薬物中毒となった若者たちを指定して【小回復リトルヒール】を発動、その際、魔力に【解毒】の効果を込める。これで薬物中毒の解毒はできたはずだ。

 あとは、エミのように無理矢理、異界の化け物と同化させられたものたちだ。これは【小回復リトルヒール】と【人回帰】の効果の付与で元に戻ることを確認している。まあ、エミのように混じり合って融合したものは、全てを分離するのは不可能かもしれないが。

 さっそく、行使してみると案の定、エミは瞼を開けて、大きく背伸びをすると、

「パパ、おはよう」

 そんな呑気な台詞を吐いたのだった。


 現在、ウイズダム本社ビルの最上階に戻った僕たちは、最後の後始末を完了したところだ。

「まさか、ウージ・インゼクにテキサにある【影法師シャドウマスター】の土地や財産の一部の権利を君に譲渡させたうえで、合衆国ステイツ政府に引き渡すとは……。君、合衆国ステイツ政府と裏で取引していたね?」

疲れ果てたような声色でクリフは一目瞭然の事実を確認してくる。

「まあな。今の私らの目的は実のところ、この合衆国ステイツでの活動拠点と資金だったものでね」

 もちろん、活動拠点や資金はあくまでおまけ。僕の最も大きな最も大きな目的は初めて真の意味で悪を執行すること。実戦経験の確保と、魔術の稼働実験さえもその付録に過ぎない。

 こんな悪質な目的を持っていると知られれば間違いなく危険分子扱いされる。もとより、世界と仲良しこよしになるつもりは毛頭ないが、僕の理想は、あくまで悪を為してこの世の一切の理不尽をくじくこと。それは秘密裏にされるからこそ意味がある。どこぞの魔王のように世界征服を掲げて悪を為すなど三流の悪のすることだ。

与えられる情報が少なければ、人はその不安を解消するために噂を流す。その莫大に膨れ上がった噂はいつしか人の心理に強く残り、限りない真実のものとして絶対の畏れを抱くようになる。要は、都市伝説や怪談を人が信じる心理と同じことだ。

 このように、人は正体不明の存在を過剰に恐れる傾向がある。だから、利益を求めていることを全面に出していれば、交渉相手も理解しやすく、目立たず、無難に乗り切れる。あえて金といったのは、そういう理屈だ。

 特にクリフは経済人。この理由ならすんなり納得してもらえると思った。

 しかし――。

「それは嘘だ。君は最初から【影法師シャドウマスター】という組織を潰すこと自体が目的だった」

 あっさり、私の目的は言い当てられてしまう。

「……なぜそう思う?」 

 そう簡単に読めるような行動はとっていない……はずだ。今後のこともある。その理由が知りたい。

「君は奴らの悪行を知っていた。いや、あの場所に向かう車の中で知ったんだろう? それで組織の完全解体を改めて決定した」

 こいつ、たった、あれだけのやり取りでそれに気づいたってのか? 異常だな。こいつは、普通じゃない。警戒は必要か……。

「勘違いしないでくれ。君のお陰で娘は救われた。君にあるのは感謝だけだ。君に今後一切敵対するつもりはない」

「そうかい。ならば、これ以上詮索はしてくれるなよ? それが私と敵対しない唯一の術だ」

 語気を僅かに強めつつ忠告する。

「ふはっ! 詮索するつもりはないさ! そんな無粋な真似しなくても、あの場にいれば君がどういう存在かは理解できる。なあ、そうだろう?」

 クリフは声を上げて笑うと、ソファーで寛いているアドナとトランに同意を求める。

「ああ、まさか裏で噂になっていた魔導士ってのが、まさかこんな生きる最終兵器のような怪物だったとは夢にも思わなかったがな」

 トランがビールをグビグビと飲みながら、僕を眺めながらぼんやりと僕にとって聞きのがすわけにはいかない呟きを口にする。

「同意。とんがり帽子を被ったシブイおじ様をイメージしていたのに、こんな子供のような容姿だったとはねぇ……」

 皮肉気味にアドナも同意する。

「あんたら、魔導士について知っていたのか?」

「あくまで噂としてだけどな。だが、実際に国レベルでは周知の事実だと思うぜ」

「そうねぇ。この前の政府高官からの依頼は魔導士をボディーガードとして雇いたいから探してくれ、だったしぃ」

 マジかよ……僕が特別だと思っていた力は何のことはない。一般市民だけ。各国政府高官クラスなら、周知の事実だってわけだ。

 美緒にハッキングを頼んだのは各国の有名図書館で、しかも実学のみに集中していた。それがかえって仇となったか。どうせなら、あらゆる分野、方面を精査すべきだった。

 ともあれ、今後は各国の動向も調査対象とすべきだろうさ。

「この度、アビス、君が動いたことで、世界各国は動き出す。そう遠くない日に魔導士という存在は白日の下にさらされる」

 クリフが確信にも似た断言をすると、

「あんなものを見せられたら、当然だろうな」

 トランが大きく頷き、

「だとしたら、混乱の極みよね」

 アドナも難しい顔で噛みしめるように呟く。

「そうさ。一瞬で人や建物を焼き尽くし、癒しもする。あれほどの奇跡ができるんだ。魔術がこの世界にもたらせれば劇的に変わる。あらゆる組織がその奇跡を求めることになる。そして、それは――」

「スマホがこの世界の当たり前になったように、魔術がこの世界の中核となっていくと?」

 僕の疑問に、

「人類の飽くなき探求欲は歴史を紐解けば明白だ。一度、光の当たる場所にでれば、魔術は急速で発展する。誓ってもいい。公開されてから、魔術が我らの日常に侵食するまで3年とかからないということを!」

 クリフは興奮気味に叫ぶ。もう、クリフが何を狙っているのか、僕にもわかる。

「私は誰の下にもつくつもりはない」

 僕の拒絶にも眉一つ動かさず、クリフは大きく頷き、

「当然だよ。君は誰かの下につくタイプの人間じゃないから。私が求めるのは魔導の知識の技術協力。むろん、君が与えても構わないという知識だけでいいさ!」

「私にメリットがあるとは思えないな」

 魔導を広めたいなら勝手にすればいい。技術を独占つもりは端からない。だが、あえて広めようと思わない。そんなことをして目立つのは悪手以外何ものでもないし。

「なら、どうだろう? 今後魔導関連の開発された特許の利益の40%は君に支払おう」

 40%か。技術提供だけで40%か。悪い数字ではない。確かに金はあって悪いものではないが――。

「金の力は絶大だよ。大抵のものは手に入る。奴らが私の会社を狙ったのもそれだ。君の目的のためには当面の軍資金は入用なはずだ。それに君にはきっとすぐに必要となるはずさ」

「それはどういう意味だ?」

「これからの世界はカオスと化す。そんな道理が通じない世界なら、君のような存在はより多く求められるようになる。つまり、今後この世界には君の力が必要となる。しかし、一人でやれることには限界がある。つまり――」

「私に組織を作れと言っているのか?」

「そうさ」

 それは常に考えていたことだ。今回の依頼一つだって美緒がいなければそもそも受けることすらできなかった。だが、組織を作ればより目立つようになる。それは僕の悪の矜持に反する。しかし――。

「まだ時間はたっぷりある。組織の件はゆっくり考えればいいさ。組織ができたときにすぐに動けるように、私の提案に乗って欲しい」

「わかった。よろしく頼む」

 そうだな。金銭が入れば僕の行動範囲も拡張できる。素直に喜ぶべきだろうさ。

 僕が立ち上がると、クリフは僕の両手を握ると、

「娘を助けてくれて、ありがとう、本当に君には感謝する。この恩には必ず報いる」

 謝意を述べてきたのだった。


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