第23怪 僕の破綻した心

 次の日、クリフと僕、トラン、アドナの三人でテキサ州の郊外を訪れることとなる。

 車内で【捜索サーチ】の試験運転をしているとき、僕のラインの通知音が鳴る。スマホを確認すると、美緒からの報告だった。


 ――ダーリン、調べたよ。こいつら真正のクズだ。やっちゃって!


 ただそれだけが書かれていた。美緒は決して正義感が強い方ではない。というより、僕とつるんでこんな危険な事をしている以上、逆に倫理観は壊れている部類の女だ。それがこうも激烈にこの組織に悪意を向ける。おそらく、これは――。

 僕はラインで資料を開く。

「くははっ!」

 口から洩れる笑み。マジで笑える。確かにこいつらなら、何をしても大抵なことは許される。というか、誰も文句すら言うまい。

「アビス、どうしたんだ? 何かあったのか?」

 隣のクリフが私の突然の奇行に尋ねてくる。

 何かあった? あったさ。ありまくりだ。僕にとって都合よすぎる事が起きた。

これから僕らが会うやつらは誰もが認める外道。あれらを玩具に、僕は此度、正式に悪の道へと踏み出す。今までのお飯事は違う。此度、僕は正式に怪人となる。

ほら、人を呪わば穴二つというだろう? たとえ、外道であって大勢の命を奪うことは紛れもない外道の所業。もっと、葛藤があると思った。もっと拒否感があると信じていた。なのに、今の僕にあるのは悪の道を進むことに対するとびっきりの悦びのみ。

 きっと僕は人として最も大事なものが壊れているんだ。でも、なぜだろう。その事実にどこか心地よさすら感じている。

「直にわかるさ」

 意味ありげな台詞を吐くと僕は美緒に予め決めておいた指示に従うようラインを打っておく。これで準備は万端だ。あとは、奴らに悪を執行するだけ。

 僕は美緒から届いた資料を読み始めた。


 高級車に揺られること5時間、眼前には真っ白な高い壁が聳え立っていた。その門の前で守衛と思しき真っ白のローブのようなものを着ている中年の男に、トランが用件を伝えると、門が開いて通過が許可される。

 私有地はとにかく大きかった。何せさっきから車を走らせているのに、未だに目的地に着かないんだから。

 そうだな。この辺でいいだろう。僕は魔力千を込めて小声で【捜索サーチ】の詠唱を唱える。透明の膜が私有地を含めてこの一帯を覆い尽くしていく。そこから、あらゆる情報を摂取していき、美緒が送ってくれたデータと照合していく。

 高級住宅街ではクソどもが薬中にした若者を相手に酒池肉林を繰り広げていたり、拷問主義のクズが笑いながら若い女を切り刻んでいた。一方、工場では薬中の若者が強制労働に使役さており、襤褸アパートはまさにゴミタメであり、極めて劣悪な生活環境であることは伺われた。

 そして真っ白な四階建ての建物にあったのは――。

(いい感じに腐っているな!)

あまりの都合のよさに思わず小さく呟いてしまっていた。

「ん? アビス、なんか言ったか?」

 隣に座るトランが訝し気に太い眉をしかめながら僕に聞き返してくる。

ちなみに、アビスも、美緒が考えた僕のネーム。僕がAエーというネームに拘ったために、奈落を意味するアビスとなる。若干、いや、かなり、痛々しい気もするが、クズどもを奈落に叩き落すという意味で、インパクトは抜群だと思う。

 まあ、案の定、最初にアビスと名乗ったとき、トランたちには非常に微妙な表情をしていたわけだが。

「いんやなんでもないさ」 

 いけない、いけないな。遂、内心が口から出てしまった。この組織が外道なら外道なほど僕は己の目的を達成できる。

 

 僕らの前を扇動する車がドーム状の建物の前に止まる。

「どうやらついたようだ」

 トランがそんな呟きとともに、車を建物の前に乗り付ける。

「さあ、やっこさんがお待ちかねだ。行くとしよう」

「あ、ああ……」

 濃厚な不安を顔中に貼り付けているクリフに、

「クリフ、悪いようにはしない。私を信じろ」

僕は端的にクリフにそう告げると、僕は歩き出す。

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