第22怪 運命を決定付ける組織名――シャドウマスター

 黒服の一人に案内されて羽田の空港から自家用ジェットで目的地であるテキサへと渡米する。それから車で揺られて僕はウイズダム本社ビルの最上階でCEO、クリフ・ウイズダムの前まで案内される。部屋の中には十数人のいかにも『我らは屈強なゴロツキですよ、はい!』、というような容姿の輩が集まっていた。

「おいおい、今回のミッション、こんなファンシーな恰好した餓鬼も参加させるつもりか?」

 呆れたように、迷彩服を着た坊主の男が茶化してくると、

「ママのおっぱいはここにはありませんでちゅよ~~!」

 ニット帽を被った薄着の美女がまるでコントのような追い打ちをかけてくる。同時に客間に漏れる下品な笑い。

 うーん、ジパングでもそうだったが、こいつらはなぜこうも卓越したモブ発言できるんだろう? もしかしてこいつら、どこぞの有力組織に所属し、日頃からモブを装って実力を隠しているとか? まさかジパングでのアレもそうだったのだろうか? 意気揚々とぶちのめしてしまったぞ。それは途轍もなく小っ恥ずかしいな。

いやいや、流石にそれは考え過ぎだ。ジパングのあれは生粋のモブだっただけ。

 うーむ、怪人六か条、第三条を極めるのは本当に難しい。僕も普段のモブに磨きをかけなければな。

 とはいっても、この姿でモブに振る舞うのは悪手以外の何ものでもない。何せ、僕らはこの姿を記号として世界に売り出そうとしているわけだからな。

それにどうにもこいつらの言動、演技がかっているようだし。

「御託はいい。話を進めよう」

 僕は彼らを無視して開いている席につくと、クリフに此度の依頼について促す。

 僕のこの態度に口笛を吹くニット帽を被った女。迷彩服を着た男も先ほどの子馬鹿にした態度から一転、笑みを消すと両腕を組む。

 どうやら、単に試されていたようだな。やけに演技がかっていたのはそのせいか。

「わ、わかった、今回の依頼についての詳細を説明しよう」 

 クリフがリモコンを操作すると、部屋の天上から吊り下げられていた巨大モニターに映像が映し出される。

「今回、我が娘エミ・ウイズダムを誘拐したのは、【影法師シャドウマスター】だ」

 クリフは僕の運命を決定付ける組織の名を告げた。


 元は【死刃デス・ブレイド】という新興マフィアの一つであり、麻薬ブレイドを若者中心に売り付け、薬漬けにして兵隊を確保。周囲のマフィアを次々に潰して吸収して肥大化し、人身売買に、危険ドラッグの販売、密売、闇カジノ、暗殺、ありとあらゆる悪行に手を染める。最近では遂に独自の軍隊を持つにいたる。

 合衆国ステイツ政府が危険視扱いをし始めると、宗教的を取り込み、【影法師シャドウマスター】と名を改める。そして、他州、他国への布教により影響力を拡大しており、今や誰にも手を出せぬ組織となりつつある。

 既に十数のマフィアを取り込んでいるようだし、確かにこれでは軍事会社もおいそれと首を縦には振ってもらえまい。

 室内の連中は相手が、【影法師シャドウマスター】と知って完璧に及び腰であり、取り乱してしまっている。察するにこの依頼を実際に受けるのはあのニット帽を被った女と、迷彩服の男だけになりそうだ。

 僕は騒動のどさくさに紛れて――。

(聞こえたか。美緒、この【影法師シャドウマスター】について徹底的に調べろ。クリフの娘、エミの所在もだ)

 美緒に指示を出す。

 この会話は襟の部分に仕込んである超小型通信機器から美緒に伝わる手筈となっている。この機器は僕がジャンクショップで中古の部品から組み立てたもので、結構使えるものとなっている。

(了解~! ご褒美追加ね♪)

 そんな弾むような声色を最後に、美緒との通信はプッツリ切れた。

「相手が【影法師シャドウマスター】とは聞いちゃいない!」

「だから私は穏便にと伝えたはずだ。端から奴らと事を構えるつもりはない。君たちは私のボディーガードとしてついてくるだけでいい!」

「俺は下ろさせてもらうぜ! いくらなんでも、相手が悪すぎる!」

「俺もだ!」

「私もよ!」

 次々に部屋から逃げるように退出していき、残ったのは僕の予想通僕ら三人だけ。

「坊主、お前はいいのかよ?」

 身体中に傷がある迷彩服の男が葉巻を拭かせながら、興味深そうに尋ねてくる。どういう心変わりか知らないが、僕の一人称が餓鬼から坊主へと変わっている。

「もちろん、私にとって実に都合がよいビジネスなんでね」

 迷彩服の男は僕のこの発言に暫くの間、無言で凝視していたが、

「お前、見た目よりずっと歳が食ってやがるな?」

 極めて人聞きの悪いこと言ってきやがった。どう答えようと苦慮していると、

「まあ、こんな薄気味悪い餓鬼なんているわけないしぃ。大方、真昼間からその目立つ格好も、私たちを油断させるためでしょうよ」

 ニット帽の美女がその発言に同意、さらなる爆弾を投下してくる。

 ほらみろ、美緒、やっぱりこの衣服、真昼間から着るのは目立つってよ!

 内心で猛烈に非難しながらも、

「脱線した話を戻そう。君らもこの依頼を受ける、そう考えていいのか?」

 僕にとって都合悪い話題から本題へと変える。

「【影法師シャドウマスター】と事を構えるなら断っていたが、あくまでボディーガードなんだろ? なら悪くない仕事だ」

「そうね。相手に交渉に応じるつもりがないなら、端から拉致なんて面倒なことはしない。問題は相手の目的は何かってことだけど?」

「金銭か、それとも、ウイズダムという企業そのものに目的があるのか……」

 軍服の男とニット帽の女が勝手に盛り上がっている中、

「どんな対応をするかは、私抜きで話し合ってくれ」

 右手を上げて、席を立ちあがる。元より、僕は奴らと交渉するつもりは毛頭ない。相手がどんな奴らかで今回の事件の結末が決定する。だから、奴らの目的など考察する必要はないし無駄というものだ。僕は無駄は極力しない主義なんだ。

「了解した。トラン、アドナ、具体的な交渉について相談にのってくれ」

 クリフが迷彩服の男トラン、ニット帽の美女アドナの二人と顔を突き合わせて話始めるのを尻目に、僕は部屋を出た。

 

 クリフが指定した客間で待つこと3時間後、三人は出てくると、今晩、【影法師シャドウマスター】とコンタクトをとる旨を僕に伝えてくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る