第21怪 ウイズダムCEOの試験

 私服に着替えると、指定の場所へと向かう。ウイズダムのCEOが指定したのは、山の中にある廃校舎だった。近くの木陰で美緒が作ったコスチュームに着替えると、その場所に向かう。そこには数百人にも及ぶ一目で堅気ではない荒くれものどもで溢れていた。

 こんなコスプレのような恰好はやはり僕だけであり、注目の的だった。周囲から失笑されながら待っていると、スーツにサングラスを着たゴツイ男が数人現れる。そして、校庭の朝礼台の上にノートパソコンを置き、電源を断ち上げる。

 椅子に座っているチョビ髭、金髪の紳士が映し出された。

『初めまして。私は諸君らに今回の件を依頼するウイズダムCEO、クリフ・ウイズダムだ! 今回の依頼は私の祖国の軍事会社さえも匙を投げるほどの危険度! 腕に自信のないものは今すぐ帰って欲しい!』

 画面の中のチョビ髭紳士の隣にいる通訳が、ジパング語でそんな当然の台詞を吐く。

「はっ! その割にド素人のコスプレ餓鬼がいるみたいだが?」

 クマのような巨躯の男が僕を見ながら鼻で笑いながら実にもっともな事実を指摘する。

 ほら、美緒、やっぱり、コスプレだってよ。だから、僕の理想のデザインの方がいいといったんだ。

「同感だな。見たところ、一攫千金を夢見た身の程しらずとクライアントを搾取して金をせしめようとする詐欺師しかいないようだが?」

 別にはったりではなく、こいつらの身のこなしをみても武術を少し齧ったことのある素人の集まりだ。件の兇悪組織がいくら不甲斐なくても、こいつらに後れを取るほど間抜けじゃあるまいよ。

 僕の言葉に一瞬の静寂の後、

「ざけんなっ! クソガキがっ!」

「雑魚はテメェだろっ!」

 罵詈雑言の嵐となる。面倒くさくなった僕は、

「で? 君は仮にこのボンクラどもの言うように私が子供だからという理由でこの依頼を拒絶するつもりか? だったら、時間の無駄だ。私は退散するとしよう」

 小指で耳を穿りながら本題を尋ねる。これ以上の時間のロスは勘弁願いたい。何より、属性のみで依頼を決めるような無能と組むほど僕は馬鹿じゃない。

『心配いらない。私が求めるのは強者だ。子供だろうと、兇悪犯罪者だろうと、詐欺者だろうと、私は強い一人と契約する』

「おい、ここで壊しちまったらどうなる?」

『どうも。私は何も関与しないし、見てもいない。ただ、最後に立っていたものと契約するのみ。その責は諸君ら自身で負ってもらう』

 その突き放すような台詞に、顔を見合わせる荒くれ者ども。

「それを聞いて安心したぜぇ。要はここでのことは全て黙認されるってわけだろぉ? 俺は餓鬼を壊すのが三度の飯より好きなんだぁ」

 熊のような巨漢が指をパキパキと鳴らしながら、嫌らしい笑みを浮かべながら僕に近づいてくる。

「私も安心したよ。これで心置きなく暴れられる」

 僕はクマのような巨漢の懐に飛び込むと、右肘を引き絞る。

「へ?」

 驚愕に目を見開く巨漢の鳩尾に右拳を突き上げる。弓なりになって持ち上がる巨体に右回し蹴りを食らわせる。何度も校庭のグラウンドをバウンドしながら吹き飛んでいき隅に生えていた大木に激突してしまう。

 僕は奴まで疾駆すると気を失っている奴の顔を軽く蹴り上げた。

「ぐがっ!?」

 頭を振って起き上がろうとする奴の口を鷲掴みにして持ち上げて鬱陶しくピーチク喚くのを防ぐ。

「ぐむむっ!?」

 必死に僕の右手から逃れようと暴れるクマのような巨漢に、

「子供を壊すのが三度の飯より好きなんだろ? ならば、己が壊される覚悟くらいもできているよな?」

 問いかけながら、左拳を握り絞めて肘を引く。

「むぐがががっ!」

 半狂乱でもがくクマのような巨漢に僕はゆっくり左拳を突きつける。

 

 ぼろ雑巾のようになったクマのような巨漢を投げ捨てて、グルリと周囲を見渡す。

 おそらく慈悲を求めて泣き叫ぶ巨漢を構わず殴り続けたせいだろう。真っ青な顔で各々の武器を握って僕から距離をとって後退る。

 やはり、こいつらも、今まで僕が戦ったゴロツキ共と同じ。安全な舞台でした戦えぬ卑怯者でしかない。

「悪いが、逃がさんよ。逃げては選別にならんしな」

 地面を蹴ってその一人との距離と詰めて眼前で見上げる。

「いひぃっ!?」

 悲鳴を上げる男の鳩尾にワンパン入れるだけで、泡を吹いて悶絶する。

 【魔力増幅マジックブースト】の魔力暴発の副作用と日々の魔力を込めた状態での鍛錬の成果だろう。気が付くと身体強化の魔術が未発動でも明らかに人外の身体能力を発揮できるようになっていた。故に、この程度の輩どもなら魔術など一切使用しなくても、問題なく処理できる。むしろ、こいつらのように鍛えていない木偶共との戦闘は、魔術未使用だとしても殺してしまわないように手加減に細心の注意を払わねばならない方がよほど厄介だ。

「や、やっちまえっ!」

 誰かがそんなテンプレ発言をすると、武器を片手に一斉に僕に襲いいかかってくる。

 僕は地面を蹴って奴らの制圧を開始した。

 

 当初は震えながらも向かってきた奴らも、次々に倒されるのを目にしてすぐに逃げ惑うだけとなる。それを一撃で悶絶させて遂に最後の一人が倒れて僕の勝利は確定した。

「皆、眠ってもらった。これで強さの証明は十分かね?」

 僕は画面越しにチョビ髭紳士にそう尋ねると、

『も、もちろんだ! すぐに契約させてもらおう!』

 よほど気が動転していたのだろう。クリフは通訳を介さず英語でそう早口で返答したのだった。

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