第17怪 スカウト命令

 古戸流大武道館の前に止められていたリムジンに乗り込む金色の髪を縦ロールにした少女、ソフィア・エル・スペンサー。彼女の顔は普段の冷静沈着な彼女のものとは思えぬほど悔しさに歪んでいた。

「ソフィア、どうだい? 少しは高くなった鼻は折れたかい?」

「……」

 金髪の髭面の紳士の問にもソフィアは下唇を噛みしめるのみ。

「君の力では、魔術を使えぬ一般人にさえも通用しない。君を守る騎士の選定を始めるけど、いいね?」

「……」

 両手でスカートを握り絞めながら、ポロポロと大粒の涙を流すソフィアに、

「君は敗北の味を知った。世界の広さを知った。君は今日の経験で劇的に成長する」

 右手で優しく頭を撫でながら慰める。

「……次は負けませんわ」

 固く再選を誓うとソフィアは声をだして泣き出してしまった。

 

 ソフィアが泣き疲れて眠ると、

「いやー、世界は広いねぇ。僕は今日、冗談のような存在に会ってしまったよ」

 正面の軍服を着た巨躯の男に話しを振る。

「ソフィア様を破ったハツネ・イオリでありますか?」

「いや、違う。きっと、僕ら魔術師にとって否応でも注目せざるを得ない人物さ」

「魔術師にとって否応でも注目せざるを得ない人物……でありますか?」

 訝し気に繰り返す巨躯の軍服の男に、

「そう。観客席で僕はソフィアが魔術を行使していると指摘する人物に出会った」

 弾むような口調でそう断言する。

「ご冗談をっ! ソフィア様はあの時、無詠唱でした! 強化系の魔術の無詠唱行使自体が秘術! おまけに、当該魔術は発動の有無の識別が不可能である以上、結果で判断するしかない! 本来のソフィア様の実力をかなり正確に把握できていなければ我々でも魔術の使用の有無はわかりません。この魔術の存在すら知らぬ国の民には猶更、ソフィア様の魔術の発動の有無を判断できるはずがないっ!」

「勘違いしないで。僕は一言も彼がソフィアの魔術の発動を結果で判断しているとは言っていないよ」

 巨躯の軍人は眉を顰めながら、両腕を組んでいたが、

「殿下、それでは貴方はその者がどうやってソフィア様の魔術の発動を判断していたとお考えですか?」

「多分、彼には魔力の流れが見えているんだと思う。おそらく、下手に魔術を使えば僕らも魔術師と断定されてしまうだろうさ」

「ちょ、ちょっと待ってください! 魔力自体の可視化、それは唯一、我が国の英雄にしてあの最強の魔導士、メフィスト卿が晩年、成し得た偉業だったはず! この国の民に、いや、今のこの世の何人にも不可能ですっ!」

 どこか必死に否定する巨躯の軍服を着た男に、

「だから冗談のような存在と僕は言ったのさ」

 金髪の紳士はさも愉快そうに返答する。

「自分は……信じられません」

「それでいいよ。どうせ、すぐにわかることだし」

「すぐにわかる?」

 オウム返しに聞き返す軍服を着た男に、金髪の紳士は笑みを消して、

「今から僕がいう容姿の子を調べて欲しい。徹底的にね」

「その子は――まさか、魔力の流れを可視化できるのは子供なのですか!?」

「そうさ。多分、ソフィアと同じくらいの年齢だと思う」

「そんな馬鹿なッ! あり得ないし、あり得てはらないっ!」

「このタイミングで僕が君に冗談をいうと思うかい?」

「……百歩譲ってその子を発見したら、どうするつもりですか?」

「どうするつもりだと思う?」

 いたずらっ子のような笑みを浮かべつつ尋ねる金髪の紳士に、

「まさか、ソフィア様のナイト・グランドにその子供を抜擢するおつもりですかっ!?」

 血相を変えて詰め寄る軍服の男。

「抜擢とは違うな。頭を下げてお願いするのさ」

 軍服を着た男は、しばし頬を引き攣らせいたが、顔を左右に何度も振って、

「正気とは思えません! どうせナイト・グランドを与えるなら、ソフィア様に勝利したあの神人の方が遥かにましです!」

 ヤケクソで反論する軍服の男に、

「世界に数人しかいない神人か……確かに彼女は強力だね。まだ覚醒すらしていないのに、魔術を使用したソフィアと互角だったんだ。覚醒をし、魔術というものを知ればまさに手が付けられなくなるだろうさ。でも彼女はダメだ」

 目をつぶり、顔を左右に振る。

「なぜです!? そんな眉唾な事実を信じるよりもずっと建設的なはずですっ!」

「わかっているはずだ。彼女は神人。近い将来、争奪戦になるのは目に見えている。大国同士の争いに巻き込まれれば、我が国とて甚大な被害がでる。その点、まだ彼は唾を付けられていないようだし、都合がよいのさ」

「調査は、ご命令でしょうか?」

「うん。命令」

軍服を着た男は不貞腐れた顔を能面のような無感情なものへと変えると、

了解でありますイエッサー!!」

 額に右手を当てて声を張り上げたのだった。


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