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 日本政府の「緊急事態宣言」を受けて、製造業でも出社から在宅勤務に切り替える企業が増えている。しかし、各社に聞いて回ったところ、特にハードウエアの開発・設計・生産といった業務は在宅勤務が難しく、出社せざるを得ないという。医療器具や生活必需品、社会インフラ機器などのサプライチェーンを懸命につなごうとしている技術者には頭が下がるが、このような態勢はいつまで続けられるだろうか。

 2020年はもともと東京オリンピック・パラリンピックが開催される予定だったこともあり(新型コロナウイルスの影響で2021年に延期)、製造業でも在宅勤務の準備を進めていたという企業は多い。しかし、その対象は事務系職場がほとんどで、技術系職場はあまり検討されていなかったようだ。東京オリンピック・パラリンピック対応であれば事務系職場だけで十分だったかもしれないが、新型コロナウイルスの感染拡大で技術系職場も人ごとではなくなった。

 開発・設計・生産などの業務で在宅勤務が難しいのは、やはりハードウエアの特性によるところが大きい。“現場”に人がいないと、そもそも仕事にならないのだ。実際に物を造っている製造職場はもちろん、その運用を担う生産技術や生産管理、特定の設備を使わなければ業務を遂行できない品質管理や実験といった部門もそうだろう。生産系職場に比べて開発・設計系職場は在宅勤務がしやすいようにも思えるが、「会社のセキュリティーポリシーでデータを社外に持ち出せない」「大容量データを送受信するための通信ネットワーク環境や、設計・解析ツールを動かせるような高性能PCが自宅にない」といった問題がある。従って、技術者がCADやCAEなどのツールを利用するために出社せざるを得ない職場が多いようだ。

人間側の事情はお構いなしのウイルス

 しかし、新型コロナウイルスはそんな人間側の事情などお構いなしである。事務系、技術系を問わず、様々な企業の職場で新型コロナウイルス感染者が確認されるようになってきた。ひとたび感染者が出れば、職場の閉鎖や消毒、濃厚接触者の同定などに追われることになり、仕事どころではなくなる。職場や個人の単位で感染対策を徹底しても、出社する限り一定の確率で感染することは避けられない。そんな綱渡りの状況がずっと続いており、この先も解消のめどはついていない。

 もちろん、今すぐに技術系職場の業務の在り方を変えるのは難しい。だからこそ、ウィズコロナ/アフターコロナ時代を見据えて、まずは開発・設計系職場だけでも在宅勤務を可能にするデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むべきだろう。新型コロナウイルスのような突発的事態への対応力は、日ごろから実践しているかどうかで決まるからだ。

 実際、事務系職場では在宅勤務が進んでいるといわれるが、その進捗には企業間で大きな差が見受けられる。各社を取材すると、それこそ東京オリンピック・パラリンピックのために1年以上前から準備してきた企業の中には3月時点で在宅勤務への移行を進めていた。そうした企業の例としてデンソーが挙げられる。東京都内などにも複数の拠点があるとはいえ、愛知県に本社を構える同社が東京オリンピック・パラリンピックに向けてそこまで準備していたことを今回知り、事前の備えの重要性をあらためて認識した。

 一方で、首都圏に多くの事業所を構えながら、在宅勤務の準備が十分ではなかった企業も少なくない。そうした企業は、4月7日に日本政府による緊急事態宣言が発令されてからも在宅勤務への移行がなかなか進まず、身動きが取れなくなった結果として在宅勤務を越えて休業を余儀なくされた印象がある。