眷属と仮定の物語


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作:ひょえあー
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白兎と怪物祭


なんか投稿するうちに違うってなって書き変えてました


次の日の朝食。

 

「ラウル~、その肉頂戴」

 

「嫌っすよ!? 自分の好物だからって人のを取ろうとするなっす!」

 

好物をラウルに譲ってもらえないか交渉したら断られた。

 

…癪なので、ラウルの皿に乗っている狙いの料理を一心に見つめる。

 

ラウルは非常に食べづらそうな表情をしたが、最後には一口でそれを食べた。

 

…ちっ。

 

「アイズー! 昨日楽しかったね?」

 

「…うん。ティオナ、ありがとう」

 

「また一緒に行こうねー!!」

 

昨日ホームにいないと思ったら三人でどっかに行ってたのか。

 

アイズの顔を見るにそれなりに楽しかったようだ。

 

「じゃあラウル、お先に」

 

俺は席を立ち、盆を持つ。

 

「ああ…これからダンジョンすか?」

 

「ああ。新しい剣に慣れときたいからな」

 

ベートと打ち合ったとはいえ、まだまだ足りない。

 

厨房担当の仲間に食器を渡し、礼を言ってから食堂を出てそのまま部屋に向かう。

 

今日は椿さんへ整備に出していた『ウィンクルム』を受け取った後、そのままダンジョンに潜るつもりなので、軽く身支度を整え装備を着る。

 

黒を基調とした『ヘファイストス』のロゴの付いた予備のロングコートに、申し訳程度の金属防具。

 

遠征で駄目にしたメインの装備ではなく、サブとして部屋に置いてあるものだ。

 

デザインはメインと変わりはなく、素材と性能が違うだけだ。

 

最後に新調した剣帯を身に付け、右腰に『レガリア』を差せばいつもの格好。

 

「うしっ、行きますか」

 

部屋に「"夜"には戻ります」と書き置きを残し、俺は工房へと向かった。

 

 

ダンジョン4階層。

 

道角から飛び出してくるダンジョン・リザードやフロッグ・シューターを片手間に斬り伏せる。

 

右手の『ウィンクルム』は椿の元で整備を受け、新品同然の輝きを放っている。

 

「ん~やっぱ22階層まで遠いなぁ…」

 

目的地はダンジョン22階層、『大樹の迷宮』。

 

そこでレガリアと魔法の調整をするつもりだったのだが、如何せん距離がある。

 

俺の脚を持ってしてもそれなりに時間はかかってしまう。

 

魔石で転移装置とか作れないだろうか、今度『万能者』に頼もうとか思いながら歩いていると。

 

「やあぁぁぁ!!!」

 

冒険者の声。丁度正規ルート上での戦闘のようで、少し歩けば姿が見える。

 

白髪の髪に赤い瞳の少年。見るからに新米冒険者だ。

 

常ならば何も思わない。ただ通りすぎるか、危険な場面ならば助けるだけ。

 

だが、目を奪われた。まだまだ稚拙な戦い方だ。しかし

 

「…上手い」

 

ナイフでダンジョン・リザードを仕留め、装備していたバックパックをゴブリンに投げつけて倒す。

 

手元にある手段を全てを使う。そんな必死な戦い方。もう、しばらくそんな戦いを見ていなかった気がする。

 

そして戦闘が終わる。

 

少年は俺に気付いたようで、ぎょっとしている。

 

「えっ! あ、あの…?」

 

途端にワタワタして落ち着きを失くす。

 

「ああ…ごめん。邪魔をする気はないんだ」

 

俺を"下級冒険者いびり"ではないと理解したのか、ナイフとバックパックを回収しだす。

 

「す、すみません! びっくりしちゃって…」

 

「いや、俺の方こそすまない。そりゃじっと見られてたら驚くよな」

 

悪いのはこちらの方だ。俺だって戦いを他人に見られるのは良い気にはならない。

 

急にハッ! と顔を上げる少年。

 

何かあるのかと思えば…

 

「あ、あの…ロキ・ファミリアのファーティ・ニーベルさんですよね…?」

 

う~ん、俺の名前下級冒険者にまで広がってるのかそうかそうか!!!

 

 

ベルは目の前にいるのがロキ・ファミリアの人だと気付いた。

 

右肩のヘファイストスのロゴの反対側、左肩にロキ・ファミリアのエンブレムがあったからだ。

 

(あ、アイズさんのことを知ってる人…!)

 

憧憬の最も近くにいるであろう人間と偶然とは言え出会えたのだ。

 

この機会を無駄にするベルではない。祖父の教えはこんなところでも生きている。

 

目の前の人物の名前は…と思い至ったところで、すぐに知っている人物だと、いや…有名過ぎて知らないわけがない人物だと気付く。

 

(【超越者】…ファーティ・ニーベルさん)

 

「あ、あの…ロキ・ファミリアのファーティ・ニーベルさんですよね…?」

 

「………ああ、その通りだが」

 

(本物だ!!!)

 

ベルは興奮する。

 

目の前のファーティ・ニーベルという人物は名前だけは広く知られている。

 

曰く、猛者と互角。

 

曰く、リヴェリアの隠し子。

 

真偽も不確かな噂がいくつも流れている。

 

話を聞こうとしてもホームの中にいることがほとんどで、滅多に出会うことができず、『冒険者レア度ランキング』ではフレイヤ・ファミリアの面々と並んでの五位。

 

ちなみに一位は『万能者』。仕事に忙殺される彼女は滅多に表へ姿を現さないのだ。

 

そんな人物と出会えたのだ。何か、何か無いかとベルは模索する。

 

「あ、あの…」

 

「君の名前は?」

 

名前を言っていないことを今頃を気付く。

 

「あ、ベル! ベル・クラネルと言います!」

 

「そうか、よろしく」

 

差し出された手を、ベルは握り返す。

 

「あの、ファーティさんは何をしにここへ…?」

 

「うん? 勿論ダンジョン探索だけど?」

 

(なに当然のこと聞いてんだ僕のバカ!)

 

必死に言い訳する。

 

「す、すみません! ホームに居られることが多いと聞いていたので…」

 

曰く、あるハイエルフから離れたくない。おうち大好き人間、等々。

 

「そんなこと言われてんの俺…」

 

「ああ! 違うんですその…!」

 

「いや、いいんだ。…ただできればその話をどこで聞いたかだけ教えてくれると助かる」

 

(絶対オコッテル!!)

 

ピシッ。

 

「…!?」

 

「大丈夫だよ、もう終わった」

 

モンスターが生まれた。そうベルが認知した頃にはファーティが仕留めていた。

 

「す、すごい…」

 

落ちる灰。魔石を狂い無く一撃で砕いている。

 

ベルは思った。この人に、頼んでみてはどうかと。

 

伸び続けている自分のステイタス。

 

主神の言う成長期がいつまで続くかわからない。

 

なら…

 

「あの! 戦い方…教えてくれませんか!?」

 

「お、おう…?」

 

『おう』。そう言った。

 

「やったぁぁぁ!!!」

 

ベル は 師匠 を ゲット した

 

 

「あの! 戦い方…教えてくれませんか!?」

 

「お、おう…?」

 

急に何言ってんだこいつ。

 

唐突に戦い方を教えてくださいと言われても…と思ったが、口では『お、おう…?』と言ってしまった。

 

肯定とも取れるそれ。

 

だがまだ間に合う。まだ…

 

「やったぁぁぁ!!!」

 

ダメです間に合いませんでした。

 

「と、とりあえずダンジョン出るか。話もしたいし」

 

「はい! わかりました!」

 

なんだろう。めっちゃキラキラした目で見られるともう断れないんだが。

 

外に出ればまだ昼も回っていない。まぁダンジョンに潜ってまだ一時間もしていないから当然なのだが。

 

「んー…人が少ないところに行くか」

 

「わ、わかりました!」

 

訪れたのは喫茶店『ウィーシェ』。

 

レフィーヤから教えてもらった場所だ。

 

対面はこの少年…ベルが緊張するかと思い、カウンターの方へ座る。

 

「それで、戦い方を教えて欲しいって…なんでだ?」

 

「…強く、なりたいんです。もっと早く」

 

ひたむき、か。

 

目標に向かって走っている最中なのだろう。

 

そして、ベルにとっては今が一番歯痒い時でもあると理解する。

 

伸びていたステイタスが、途端に伸びなくなる。

 

新米冒険者なら誰もが通る道だ。焦りもするだろう。

 

「なんで俺なんだ? 自分のファミリアの先輩とか…」

 

「その、居ないんです。僕が最初の眷属なので」

 

なるほど。切っ掛けがないと俺のような…所謂先達に教えてもらうことができないのか。

 

「どうして強くなりたい? ベルは、何を求める?」

 

一番大事なことだ。ここがありきたりな答えだったり、嘘を付いているようであればこの話はなかったことにする。

 

「追い付きたい人がいます。でも、その人は遠くにいて…」

 

「早く、あの人の隣に立ちたい。…それだけです」

 

…合格。

 

「ほほぉ、その言い方だとあの人っていうのは女だな?」

 

「いぇっ!? ち、違いますよ!!」

 

「いやいや、わかるぞベル。男だもんな。可愛い子には格好付けたいもんな?」

 

「だから違いますからぁ!!!!」

 

結局ここで軽食を取って、戦い方を教えるのは『怪物祭』が終わった後ということになり、タイミングになったら俺がベルのホームまで向かうということで、今はホームの場所まで案内してもらっている。

 

「ベルは支給品のナイフだよな?」

 

「はい…早くお金を貯めないとなんですけどね」

 

まぁ、しばらくは厳しいだろうな。

 

ベルと話していく内に新興ファミリアの大変さがわかってきて、なんだか申し訳なくなってくる。

 

俺は最初からロキ・ファミリアに拾ってもらったからなぁ。

 

「ベル?」

 

「ミアハ様!」

 

まわりから目を引く美丈夫。女性とも間違う長髪。

 

薬剤系ファミリアの『ミアハ・ファミリア』主神。

 

買い物帰りなのか、袋を両手に持っている。

 

「この時間にダンジョンに潜っていないとは珍しいな……うん?」

 

俺に気付き、目線を向けるミアハ様。

 

「お久し振りです、ミアハ様」

 

「おお! ファーティか! 久しいな、元気にしていたか」

 

「はい、お陰様で」

 

俺とミアハ様が知り合いだということが驚きだったのか、ベルは目を点にしている。

 

「ミアハ様には幼い頃、怪我を治療してもらったんだよ」

 

ベルにそう言うと合点がいったように頷く。

 

「そうであったな。小さな子供が大きな切り傷を受けて倒れていたときは本当に驚いたぞ」

 

「…あの時は本当にありがとうございました」

 

よいよい、気にするなと言ってくれるミアハ様。

 

「それで、二人は何をしておるのだ?」

 

「そ、それがですね…」

 

ベルが状況を話終えた頃。

 

「ファーティ、大丈夫なのか?」

 

「まぁ大丈夫ですよ。ファミリアの中でも俺は割りと自由に動けるので」

 

バレないバレないハッハッハッ。

 

バレたら怒られるけど。

 

「お前がそういうのなら大丈夫なのだろうが…」

 

「あの、ファーティさん…迷惑でしたか…?」

 

ベルがそんな風に聞いてくる。

 

ミアハ様と俺の会話を聞いて不安になったのだろう。

 

本来他派閥に、それも友好派閥ではないところに教えを乞うのは褒められたことではない。

 

ベルもわかってはいるだろうが、それ以上に強い想いを持っているから俺に頼んだのだろう。

 

「いや、大丈夫だよ。俺もベルのことは嫌いじゃないしな」

 

さてと、そろそろ行くとしよう。

 

「それではミアハ様、失礼させてもらいます」

 

ナァーザにもよろしく、と伝えるのを忘れない。

 

「ああ、また会おう。ベルも頑張るのだぞ」

 

「はい!」

 

 

「廃教会…?」

 

「は、はい。ここの地下室です」

 

ミアハと離れ、十分もあるけばそこには着いた。

 

こんなところに人が住んでいるとは誰も思わない様な教会。

 

窓は割れ、床の木材も所々ひび割れている。

 

おそらく『暗黒期』のときに損傷を受けたのだろう。

 

直された形跡もない。

 

「これは…」

 

「あはは…でも、地下室は割りと綺麗なんですよ?」

 

(…ならいいんだが)

 

流石に新興ファミリアといっても極貧過ぎやしないか、そんな考えが頭をよぎる。

 

(ベルも冒険者になってそろそろ半月。主神は元からオラリオに居たと聞いたし、団員ももう二、三人いてもおかしくないんだが…)

 

ある幼女神の思惑を測れないファーティには、答えを出すことはできなかった。

 

「これで『怪物祭』が終わった後、一緒に鍛練ができるな、ベル」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

ピシッと腰を折って礼をするベルに若干気圧されながらも、ファーティは一つやらなければならないことを思い出す。

 

「ベル、主神はどこにいるんだ? 一応、事情を話しておいた方がいいと思うんだが…」

 

「それが…」

 

ベルの答えは、ファーティからすれば訳の分からないものだった。

 

「主神がいない…?」

 

「はい…」

 

主神が居なければステイタス更新ができない。

 

冒険者稼業を営む者には大問題だ。

 

特にLvの低い者程、その影響は大きい。

 

ファーティの様な第一級冒険者ならば更新できなくとも大したことはない。

 

だが、少しでもステイタスを上げて生存率を高めなければならない下級冒険者からすれば致命的だ。

 

「喧嘩でもしたのか?」

 

「いえ、数日帰らないと言われて…」

 

ステイタスの更新は朝に済ましてはいるらしい。

 

なら、それほど問題もなく、主神も勝手な神物ではないのだとファーティは悟る。

 

「そっか。じゃ、また明後日に」

 

「は、はい! お待ちしてます!」

 

ファーティも明後日のことを楽しみに思いながら、ベルの下を後にした。

 

 

ダンジョン22階層、通称『大樹の迷宮』。

 

ベルとの話が終わった後、ダンジョンにとんぼ返り。あまりゆっくりしていると帰りが遅くなるので、急いでここまで来た。

 

「セアァァ!」

 

左手に持つ『レガリア』が、一撃でソードスタッグを屠る。

 

身体は肉塊へと変わり、紫色の魔石がその場に残る。

 

「…問題無し」

 

刃を見やり、耐久性、攻撃力共に問題ないことを確認する。

 

既に灰へと帰したモンスターの数は40以上。

 

俺の後ろにはもう既に、灰の山が築かれていた。

 

Lv.5へと至った身体とそれに見合った武器。

 

次の遠征が楽しみだと思いながら、魔石とドロップアイテムの回収のため一旦鞘へと剣を収める。

 

チンッと澄んだ音が迷宮に鳴り響く。

 

そこらに放っていたバックパックにドロップ品を詰め込んでいく。

 

まわりに気を張りながら、手際よく回収を済ます。

 

ベルを連れてくればサポーターとして役に立つし、経験も積める…と思ったが、そういう適正階層から逸脱し先達のお零れをもらうというのは良い成長の仕方ではない。

 

…迷宮に潜って何時間経っただろうか。

 

時計を忘れてしまったため、時間がわからない。

 

一度18階層に戻って、それからまた続けようかとも思ったが、魔法も試してやるべき事は既に終わった。

 

それに、魔石を拾うのも嫌になっていたので潔くホームに帰ることにする。

 

帰路の途中、冒険者の一団が横穴から現れる。

 

「あれは…」

 

【ガネーシャ・ファミリア】。

 

武装に刻まれている象の顔のエンブレム。

 

あの『群衆の主』率いる都市の上位派閥。

 

巨大なカーゴを引きずっているのを見るに、怪物祭の準備だろうか。

 

そういえば、もう開催が近いことを思い出す。

 

…まぁ、俺はいつも行ってないんだけど。

 

モンスターを地上に運び込むことは、俺は反対であったからだ。

 

ギルドも、【ガネーシャ・ファミリア】も何か、別の事情から開催している気がする。

 

それも、とんでもない爆弾を抱えているような。

 

そんな事情が無くても、どっちにしろモンスターを地上に運び込むこと自体が許せないのではあるが。

 

そこまで考えたところで、俺は進路を変える。

 

別に彼らの横を通り過ぎるくらい構わない気もしたが、なんとなく別ルートを通り、上階へと向かった。

 

 

地上に戻ると、既に夜になっていた。

 

もう夕食も終わっているだろうと思いながら、足早にホームへと向かう。

 

門番の団員に小言を頂戴しながら通してもらう。

 

「あなたもですか…」

 

小声で何か言ったようだが、無視して廊下を進む。

 

「全く、調子を取り戻したかと思えばすぐこれか」

 

「…ごめんなさい」

 

リヴェリアさんとアイズがそこにはいた。

 

やっべ、リヴェリアさんに叱られる。

 

すぐに気配を消して物陰に隠れる。

 

…このままやり過ごすか、それとも逃げるか。

 

究極の二択。神々でさえもこの先は見通せない。

 

リヴェリアさんに気づかれるのが先か、俺が厨房に潜り込んで夜食をくすねて部屋に戻るのが先か…。

 

「ファーティ、なにやっとるん?…おえっぷっ」

 

伏兵現る。

 

ロキ…空気読んで…。

 

「ロキ? …それとファーティか」

 

「ただいま…戻りました…。リヴェリアさん…」

 

「夕食には戻るんじゃなかったのか?」

 

腕を組んで、目を細めたリヴェリアさん。

 

俺は渾身の言い訳を考え付く。

 

「リヴェリアさん、俺は"夜"には戻ると書きました。つまり何も悪いことはしていな」

 

「馬鹿者、屁理屈で誤魔化そうとするな!」

 

「はいすみません……」

 

「ううっぷぅ、リヴェリア…あんま大きい声出さんといてー。」

 

ロキは口元を手で覆いながらリヴェリアさんに近づいていく。

 

「待て、近寄るな、来るんじゃないっ」

 

ロキから漂う酒気に一歩後ずさるリヴェリアさん。

 

「で、なにやっとるん?」

 

「アイズがまたダンジョンにもぐっていた。この時間までな」

 

ファーティも、と付け加えられた。俺は時間守ったのに。ひどい。

 

「あー、そういうことなぁ……」

 

アイズの金色の眼を覗き、少し考えていたかと思うと、ロキはおもむろに笑みを作る。

 

「よぉし、お転婆アイズたんと、言い訳してママに怒られファーティたん」

 

「なんか俺だけド直球過ぎない?」

 

「うちらに心配かけとる罰や、明日は付き合ってもらうで?」

 

「「……?」」

 

「フィリア祭や。ファーティは護衛、アイズたんはうちとデートや!」

 

にへらっと顔を緩めるロキ。

 

「息抜きには丁度ええやろ。リヴェリア、いいやんなー?」

 

アイズが口を開こうとしたが、「拒否権はなしやからな!」と先回りされる。

 

「…構わない」

 

「えー! ママァ! 俺何もしてないのに!?」

 

「よし、これから説教だ。紐で一晩中吊るしてやろう」

 

「えっちょっ冗談! 冗談ですから!」

 

「安心しろ、私も冗談だ」

 

「ならその怖い顔を止めて、俺の手を離してくれませんかね!?」

 

俺の悲鳴に、アイズが、少しだけ笑ったように見えた。

 

あとこれホントに吊るされる。

 

アイズに目を向けて助けてと訴えるも、ヒラヒラと手を振られて終わった。

 

「じゃあアイズたん、ファーティ、明日は朝集合なー。一人でどっか行ったらあかんでー」

 

「うん…」

 

えっこれ俺のこと無視ですかそうですか。

 

 

本当に一晩中紐で吊るされた日の翌朝。

 

「ファーティ、何もないとは思うが、アイズのことは頼む」

 

吊るされた俺を横目に、リヴェリアさんは髪を梳かしながら言う。

 

美しい……てか今思ったけどこの状況アリシアにバレたら殺されるのでは?

 

まぁバレなきゃ犯罪じゃないとロキも言っていたし問題ないだろう。

 

「はい。…まぁロキがいるし暴走することはないと思いますけど」

 

アイズへの心配性は直っていないらしく、度々こんなことを言われる。

 

俺のことはどうでもいいんですか!! と言うと「お前を信頼しているからだ」って言われるから嫉妬なんてものはしない。

 

くっ! 流石俺達のママだぜ!

 

「…お前、今何を考えていた?」

 

「いえ、リヴェリアさんの寝顔を見られ」

 

リヴェリアさんに殴られた後、朝食を早々に済ませた。

 

部屋に戻った俺はようやく装備を解除し、軽くシャワーを浴びた後に簡素な普段着に着替える。

 

一応護衛なので、剣帯を巻いて…どちらを持っていくか迷ったが、最後には『ウィンクルム』を差した。

 

女性を待たせるのはどうかと思うので、少し早めに部屋を出てエントランスホールに向かう。

 

数分経った頃だろうか。

 

アイズが…いや、お洒落をしたアイズがこちらに歩いてきた。

 

丈の短い上衣にミニスカート。

 

小さな花の刺繍が可愛らしく、線の細いアイズによく似合っていた。

 

選んだのはレフィーヤだろうか。

 

この前、何処かに出掛けた時にでも買ったのだろう。

 

「おはよう、アイズ」

 

「おはよう…ファーティ」

 

しばし沈黙の時間が流れる。

 

「剣…持ってきたのか」

 

可愛らしい服装に妙に合っていたため、気付くのが遅れたが、アイズは剣帯を身に付け代剣のレイピアを差していた。

 

「うん、念のため…だから」

 

そう言うと、ふとこちらに目線を向けるアイズ。

 

一応持ってきたけど、よろしくね?、とでも言いたげな表情。

 

最近は本当に表情が明るくなったと思いながら、任せとけと目で訴える。

 

「おはようー、アイズ、ファーティ。ごめんなー、遅くなって」

 

「大丈夫です」

 

ふらふらと現れたロキに、アイズが反応する。

 

「酔いは醒めたのか?」

 

俺の質問に、ロキは「バッチリとは言えんけど、大丈夫や!」と答える。

 

「ん? おお、その服…イイな!? めっちゃ可愛い! まさかアイズたんのこんな格好を拝めるとは!」

 

「…ありがとう、ございます」

 

「まさかうちのためにオメカシしてくれたん!? うっひょー、萌え萌えやー! 似合ってるでー!! 抱き付きー!」

 

最早俺のことは眼中にないようで、アイズに飛び付いていくロキ。

 

しかし、アイズが高速の張り手を見舞ったことでロキの顔面は壁へとめり込む。

 

そして床をのたうち回るロキ。

 

俺は何か察する。

 

「アイズ、離れろ」

 

「…? わかった」

 

アイズは素直にロキから距離を取り、俺の横へと移動する。

 

「なにやっとるんやファーティ!? アイズたんのスカートの中身確認できんかったやないか!」

 

アイズが離れた途端にパッと立ち上がり俺を糾弾するロキ。

 

が、アイズの方を見て途端に静かになり、天を仰ぐロキ。

 

「えぇー神生やったわぁ…」

 

一悶着あった後、ぼろぼろのロキに連れられて俺とアイズは怪物祭へと出発した。

 

「二人とも、すまん。ちょっと行くところあるんやけど、寄ってもええ?」

 

「ああ」

 

「朝ごはん、ですか?」

 

「ん~、それもあるんやけどな」

 

北のメインストリートを南下し、中央広場に出た後、東のメインストリートへ進む。

 

「流石に人が多いな」

 

「お祭りやからな! こういう雰囲気うちは好きやで!」

 

しばらく経った後、大通り沿いに建つある喫茶店の前に出る。

 

「ここや、ここ」

 

ドアをくぐり鐘の音を鳴らすと、店員が対応してくれ、ロキが二言三言交わすと二階へ通される。

 

二階へ足を踏み入れた瞬間、時間が止まったような静けさを感じた。

 

アイズも同じのようで、その綺麗な眉をぴくりと動かす。

 

周りを見やると、客の誰もが惚けたような顔をして、視線を一ヶ所に皆一様に向けている。

 

その先を見ると、窓辺の席で静かに座る紺色のローブを纏った一人の神物がいた。

 

「よぉー、待たせたか?」

 

「いえ、少し前に来たばかり」

 

その神物の声を聞いた瞬間、身体にある種の怖気が走る。

 

妖艶、可憐、凄艶…形容し難い声。

 

その声は、その神物がどれだけの"美"を内包しているかを示しているようだった。

 

「なぁ、うちまだ朝食食ってないんや。ここで頼んでもええ?」

 

「お好きなように」

 

俺が驚いている中、ロキはと言えば、古い仲を感じさせるやり取りをしていた。

 

俺とアイズは邪魔にならないよう、護衛の位置へと控える。

 

すると当然、フードに隠れる顔が見えるわけで。

 

女神、フレイヤ…。

 

ロキ・ファミリアと共に『都市の双頭』と揶揄される派閥の主神。

 

そして、ほんの一年程前に俺が迷惑をかけた神でもある。

 

「ところで、いつになったらその子を紹介してくれるのかしら?」

 

「なんや、紹介がいるんか」

 

「一応、彼女と私は初対面よ」

 

女神の瞳がアイズに向けられる。

 

『魅了』に掛からないよう、直視は避けておく。

 

今までも美神と合間見えることは何度かあったが、この神物から発せられる『魅了』は次元が違う。

 

それこそ『魅了』という権能を用いずとも…。

 

「アイズや。これで十分やろ? こんなやつでも神やから、挨拶だけはしときぃ」

 

「……初めまして」

 

アイズが挨拶すると、フレイヤはニコっと挨拶をするように微笑む。

 

「貴方も、久し振りね」

 

「…その節はどーも。」

 

ニヤリとした視線を向けられ、気まずい思いをしつつも返事を返す。

 

「可愛いわね。それに……ええ、ロキがこの子達に惚れ込む理由、よくわかった」

 

「ロキが【剣姫】にお熱なのは有名だけれど、貴方も相当気に入られているみたいね?」

 

くすり、と笑みを漏らす女神。

 

確かにロキは女好きで有名な女神だ。

 

「いえ、俺なんてただ護衛に連れてこられただけですよ」

 

「ふふ、貴方ほどの男がただの連れとはね。…ロキは男使いが荒いから」

 

ロキは面白くなさそうな顔でぶーたれている。

 

別にちょろっと話すくらいいいだろうに。

 

「それで? 今回はなにやろうとしよんや?」

 

話を進めようとしたロキだが、当のフレイヤは微笑みを返すだけ。

 

「男か」

 

表情を変えないフレイヤ。

 

「はぁ…つまりどこぞの【ファミリア】の子供を気に入ったちゅう、そういうわけか」

 

ロキは一人で見当をつけ、自己完結している。

 

フレイヤが口を出さないのを見るに、当たっているのだろう。

 

天界からの付き合いとは聞いているが、なぜ仲が悪いのか。

 

「目を、奪われてしまった。見たこともない色をしていたわ」

 

「こんな風に、街を見ていた…ら…」

 

フレイヤの視線が、一点に縫い付けられたように止まる。

 

俺とアイズはその先を追う。

 

すると目に入ったのは白髪。

 

「あれは…」

 

呟きかけたとき

 

「ごめんなさい、急用ができたわ」

 

「はぁっ?」

 

「また会いましょう」

 

フレイヤは立ち上がり、本当に急いでいる様子で立ち去っていった。

 

「なんやっていうや…。ん、二人とも何かあったん?」

 

頭をポリポリと掻きながら、ロキが言う。

 

「いや、何も」

 

「…私も、なんでもないです」

 

「いや絶対なんかあったやろ」

 

ロキの追及は華麗に無視する。

 

アイズが何を見たのかは気になるけど、答える気はなさそうだし。

 

 

「たくっ。フレイヤは面倒事を…ファーティ、主神命令や、ホームに"ご挨拶"へ行ってこい」

 

「そのご挨拶絶対"殴り込み"だろ」

 

ロキとアイズのデートの護衛の傍ら、俺は俺で屋台を巡ったりして楽しんでいた。

 

幼い頃はそもそも開かれていなかったし、『暗黒期』を過ぎた後も参加しなかった怪物祭。

 

闘技場ではテイムショーが開かれているが、それ以外では目立ってモンスター感があるわけではなかった。

 

もう少し早く来てみるんだったと思いながら、ロキの要望で闘技場へと向かう。

 

「うぅん? なんや、この空気」

 

既に闘技場からは調教師と戦うモンスターの雄叫びが響いているが、中とは反対に周辺の雰囲気は張り詰めていた。

 

何か慌ただしい。見ればギルド職員も相当に慌てており、【ガネーシャ・ファミリア】の団員達も武器を持って都市中に散っていた。

 

…面倒事かよ。

 

俺が周りの状況把握をする一方、アイズは数人で固まっているギルド職員へと声をかける。

 

「…すいません。何かあったんですか?」

 

こちらを振り返って見るなり、驚いた様子で目を見開く。

 

「ロ、ロキ・ファミリア…」

 

すぐに男性職員が状況を説明してくれた。

 

一部のモンスターの逃亡。

 

外部犯による仕業。

 

等々、俺が恐れていた事態が今まさに起こっていた。

 

「…ちッ。だから怪物祭なんざ止めときゃいいものを…」

 

俺の小声が聞こえてしまったのか、職員が肩を縮こませる。

 

だが次には表情を直し、俺達に頭を下げる。

 

「モンスターを鎮圧するには人手が足りません、どうかお力を……!」

 

まぁ、断る理由なんてないのだが。

 

「ロキ」

 

「ん、聞いとった。もうデートどころじゃないみたいやし、ええよ、この際ガネーシャに借し作っとこか」

 

モンスターの数、種類を手早く確認する。

 

「アイズ、悪いけど、一緒に頼む」

 

俺はアイズに向き直り、拳をアイズに突き出す。

 

「うん、行こう」

 

アイズも拳を作り、俺の拳とぶつけ合う。

 

「ええなぁーーー!!! なんか、ええなぁーーーそういうの!!!」

 

「うっさいぞロキ!」

 

 

闘技場の外周部。そこから街を見下ろし、モンスターの位置を割り出す。

 

「…3匹」

 

「…5匹、」

 

言葉少なに交わされる会話。

 

視線で大体のモンスターの位置と自らの獲物を伝え合う。

 

アイズとここまで言外の会話ができるのも、俺とリヴェリアさんくらいだろう。

 

「行くぞ」

 

俺の言葉を皮切りに、アイズは魔法を発動させ、俺は空中に躍り出る。

 

一時の浮遊感が身を襲うが、壁を蹴り、目標のモンスター目掛けて驀進する。

 

下にはティオナ、ティオネ、レフィーヤがロキと合流しているのが見えた。

 

しかし、その光景もすぐに視界の端へと消える。

 

鞘に手を掛け、『ウィンクルム』の柄を握る。

 

「!?」

 

「急になんだってんだ!?」

 

街路を走り回っていたソードスタッグを、剣を横に振り抜き仕留める。

 

「…次」

 

側にいた冒険者が俺の姿を捉える前に疾走を開始し、すぐに次の獲物の元へ。

 

壁を蹴り屋根へと跳躍、2つ程通りを抜けて2匹目も瞬殺。

 

護衛として付いてきた手前、すべて自分がやる方が格好はつくが、人命が懸かっている今は俺のちっぽけな矜持なんてどうでもいい。

 

それにエアリエルが使えるアイズの方が圧倒的に機動力が高い。

 

「最後……!」

 

3匹目のモンスターを狩り終え、剣を鳴らし鞘へと収める。

 

小気味の良い音が街路に響き渡り、戦闘の終わりを告げた。




ベルの扱いを頑張りたいところ
5/5 



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