美神の眷属が女神そっちのけで酒場に入り浸っているのは間違っているだろうか


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作:ぴえんふー
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12話 密着


 

 

 

 

 

 

 ――――崩落のひと欠片が落ちた音を聞き届けて、ようやく辺りは元の静寂に包まれた。

 

「ゴホッ、ゴホッ……咄嗟でしたが、どうにかなりましたね」

「……」

 

 そこは、言うなれば歪な洞窟であった。

 辺り一面の薄闇には、かつて貯水槽だった瓦礫の山。

 

 魔法が放つ魔力の光は燈籠(どうろう)のように蒼く照らされている様は、崩落した鉱山の坑道を見ているみたい。

 

 魔法で生み出した鏃によって、家具の突っ張り棒みたく岩盤じみた大きな瓦礫を用いて、崩落による生き埋めを防ぐ一時的な傘としている。

 

 結果、確保できたのは圧死してないのが不思議でならない、洞窟と言うにも穴倉というにも不出来な人間一人分の隙間だけを確保した狭苦しい空間だった。

 

「……逃げられましたか。まぁ、当たり前ですが」

「…………」

 

 遠ざかっている気配に、舌打ちをしそうになるのをどうにか堪える。

 不覚を取った己が癪に障るが、食人花とオリヴァスの悪足掻きは間違いなく効果的であった。

 

 古いとはいえ人災程度ではどうにもならない頑丈な作りをしている貯水槽。

 広大かつ人の気配が皆無と言って良いこの場所は、ある意味地上での戦闘に適している。

 

 しかし、相対する敵が『Lv6』クラスとの戦闘を想定した場合はどうか。 

 頑丈な貯水槽は戦闘の余波によって、最後の食人花による質量攻撃に耐えられない程の損傷を蓄積させてしまったのだ。

 

 結果として、今の俺は停止を余儀なくされている。

 

「またロイマンさんに怒られるか……またギルドの仕事を吹っ掛けられそうだ」

「………………」

 

 よって、迎撃も追撃もままならない。

 

 となれば憂慮すべきは、瓦礫の山との我慢比べの現状だろう。

 

 片腕立て伏せの体勢のまま固めざるを得なかった体。

 

 脚は膝立ちのまま背中の岩盤を支える一助として機能し、同時にひとたび緩めればこの奇跡のバランスが崩壊することは想像に難くない。

 

「……あの……何か言ってくれると……」

「……………………」

 

 そこでようやく、言葉が途切れた。

 

 耳を貫く静寂が、幸か不幸か同伴者の状況を如実に伝えてくれている。

 手もある。脚もある。武器も失っていない。

 

 陶器のような白い肌も舞い上げられた塵と埃でまみれてはいるものの、どこかを鋭利に斬ったり突き刺さっている様子もない。

 

 咄嗟に抱え込んだ彼女の存在は、()()()()()()()()()()()()()五体満足で生存している。

 

 

 そしてそれよりも何よりも――その感触は、柔らかかった。

 

 

「レンリ、さん」

 

 

 霞むような薄い声が、耳を撫でる。

 

 感じたことのない感触をより鋭敏にする声が、俺の名前を呼んでいる。

 

 瓦礫の山を支える岩盤の傘とのサンドイッチを防ぐ背中は痛みを感じるくらいには堅いのに、前の方は凄くやわっこい。

 

 動かせない脚は何かに挟まれたような温もりと肉感に包まれていて、胸と股下にかけて吸い付くような柔らかさと温かさがあって、なんだか凄くムズムズする。

 

 ……現実逃避じみた状況把握もここまでだろう。

 

 

 簡潔に問う。

 

 

 ――――偶然にも女性を抱き締める構図から動けなくなった時、男は何を喋れば良いのだろう。

 

 

「……」

「……」

 

 呼ばれた名前に応える事も出来ず、気の利いた一言さえこの口は言葉にすることが出来ない。

 

 ……誠に、大変不謹慎であることは重々承知ではある。

 

 命の危機だ。

 もしかしたら生き埋めになってたかもしれないのに、能天気と罵られても反論しろとこの場で言われら恐らく出来ない。

 

 だが――正直、それどころじゃない状況が俺とリューさんを襲っていた。

 

「――、――」

 

 息遣いが耳元に消えていく距離に彼女の顔があるということを、改めて認識させられた。

 

 その端正な顔立ちを前に息を呑む。

 固まったみたいにまん丸になって動かない、涼しくて刺すような切れ長の目。

 

 マスクが剥がれ、露わになった顔立ちは華のように均一的で、傷一つ無い柔肌には心なしか紅が乗っている。

 

 抱きかかえる形になったことで嫌でも伝わる腰の輪郭は女性らしい丸みを帯びていると同時に、鍛えられ洗練された戦士のソレ。

 

 間近で見るリューさんの貌は、本当の本当に綺麗だった。

 

「…………どうしよう

「…………あの、なにか――「違います。これは奇跡的なバランスが故にこうなっているというか」……」

 

 リューさんが何かを発言しようとして、被せるように言葉を放った。

 

 ……これまでエルフの、言い方は悪いが排他的な風習を尊重したのがいけなかったのだろうか。

 

 どうしようもない気まずさに、体が震えそうになるのをどうにか堪えている。

 

 そして何より女性に対して不躾だと思って直視することを避けていた彼女の姿を、まさかこのような形で間近に見ることになるなど誰が予想できようか。

 

「……不快、かもしれませんが、我慢してください」

 

 羞恥やら、情けないやらで押しやられそうな言葉をどうにか絞り出す。

 

 今はこれで精一杯。

 頬を帯びる熱が言葉を呑み込もうとして、その意味をしりずぼみにしようとしている。

 

 そも、俺の抱いたくだらない所感はいずれも当人であるリューさんには関係のないものだ。

 

 だが依然として状況の改善が見られない以上、仕方がない。

 

 こうなれば張り手の一つや二つ、受け入れなければならないだろう。

 

「………………」

 

 だが拒絶を示す張り手も拳も、いつまで経っても飛んでこなかった。

 

 むしろどういう訳か、こうして肌が接触してる状況だからこそ理解してしまう。

 

 何やら、彼女の体温が急激に上昇していることを。

 

「……まさか、どこか怪我でも!? ならここから早く出ないと――!」

「落ち着いてください……幸いどこにも負傷はありません。ただ……私も、正直困惑、している」

「……? それはつまり……大丈夫ということですか?」

「…………ハイ」

 

 無事とは言うが、押し黙るように呟かれた返事を放つ彼女の様子は、どうにも要領を得ない。

 

 だが怪我をしていないというのは本当のことのようなので、ひとまず安心する。

 

 逆に困惑しているという彼女の所感がどうにも気になるところだが、深くは追求しまい。

 

 ……もっとも、今からする頼み事は彼女の現状を見るに酷い追い打ちとなるやもしれぬが。

 

「あの……リューさん。出来ればで良いのですが少しお願いが」

「な、なにか」

「俺の腰のポーチに、精神力回復薬(マジック・ポーション)が二本あります……その、俺は今動けないので……大事に備えて回復しておきたい」

「……」

 

 言うや否や、リューさんの鼓動が速まった。

 

「腰にあるということは、つまり」

「はい、背中側に。その、俺も瓦礫のバランスを把握してるわけじゃないので、下手な動きが出来ない」

「……わかり、ました」

 

 酒場と戦場における冷静沈着な振る舞いとは打って変わり、おずおずと言った様子でリューさんは手を伸ばす。

 

 その振る舞いは、頼み込んだ俺でさえ緊張を誘発させた。

 

「……っ」

 

 接近に伴って、()みるような脈拍が身を震えを錯覚する。

 

 ただでさえ狭苦しい瓦礫の隙間。

 

 異なる体温が交わり、互いの戦闘衣が擦れ合う音が面積と共に増していく。

 

 腰に回され這うように俺の腰に触れる彼女の両手からは、手袋越しだというのにリューさんの持つ溶けるような肌の熱が伝わってきた。

 

 その構図は誤解を恐れず言うならば――まさしく、抱擁を交わす男女そのものだった。

 

「もう、少しです」

「――――」

 

 悶えるような声に、ついには耳にまでその熱が巡る。

 

 その、本当に綺麗な横顔に息が止まった。

 

 女性らしい甘やかな香りを前に言葉を紡ぐことさえ出来ない。

 間近に聞こえるリューさんの息遣いと、聞こえてくる鼓動が小刻みにその存在を主張している。

 

 そして何より。

 

 これだけ接触している以上、お互いの変化や状態なんかは細やかに感じ取ってしまうわけで。

 

「…………リューさん、俺から頼んでおいて本当にアレなんですけど、まだ掛かりそうですか」

「わ、わかっている……!」

 

 そしてそれはリューさんとて同じ。

 

 心なしか上ずった声に込められた感情がどんなものか、俺には計り知れない。

 

 俺の場合、情けないことこのうえないがこんな風に口を開いていないと否が応でも意識してしまうので、少しでも会話に思考(リソース)を割くように心がける始末。

 

 そしてようやく、彼女の手に液体が入った二本の瓶が握られていることを確認した。

 

「……よかった、割れてない」

「……本当に、そうですね」

 

 そのことに色んな意味で互いの安堵が声になって漏れる。

 

 それはもう接触が解かれたからか、もしくは持ち物が無事であったことに対するものなのか。

 

 何も余裕がないのはリューさんだけじゃない。

 

 顔に集まった熱が脳みそにまで及んでいるみたいで、俺にだって何が何やらわからないのだ。

 

「……、……り、両手をレンリさんは使えない。だから、わ、私が飲ませます」

「え」

「い、行きますよ、覚悟っ!」

「覚悟ってなんの――ってちょっとリューさんソレ少し勢いつけすぎんぐぅっ!?」

 

 きゅぽん、どすっ。

 

 そんな擬音が聞こえてきそうな勢いでポーションの入った小瓶を口に突っ込まれる。

 

 危うく喉まで貫かれそうになったので咄嗟に奥歯で受け止めて中身を飲み干していった。

 

「……」

「……す、すまないレンリさん……動揺していた」

 

 じとりと。

 

 半分感謝と半分恨めしさを込めた視線を送れば、申し訳なさそうな声色が返ってくる。

 

 ……まぁ、これはこんな状況であんな頼み事をした俺も悪いか。

 

「……元は俺のヘマが原因ですので、気にせず――っ」

 

 ズキリと走った痛みに思わず怯む。

 

 そこからは体が機能として思い出したかのように、燃え上がり内側から膨れ上がる痛覚によってようやく己の砕けた拳の存在を思い出す。

 

 ……思えば、馬鹿なことをした。

 

 合理的じゃないという意味でも、目の前に自傷による怪我など許しそうにない人が居るという意味でも。

 

 どうにか気づかれないようにしよう、と思考を巡らせるがもう遅い。

 

 リューさんはさっきの動揺っぷりとは打って変わって厳しい表情へと様変わりしていた。

 

「レンリさん、その拳を出しなさい。私なら治せます」

「……この程度、どうとでも――」

「レンリさん」

「いえ、ですので――」

「手を、私に差し出しなさい」

「…………」

 

 無言で砕けた拳を差し出す。

 

 今のリューさんには、反論をしたら勝てない核心とそれを許さない力があった。

 

 俺が無様を晒しただけなのだから放っておけば良いのに、その押しの強さと逆らい難い圧に思わず顔を背けてしまう。

 

 それが我ながらどうにも子どもっぽくて、気恥ずかしい。

 

「【今は遠き森の歌。懐かしき生命(いのち)の調べ。汝を求めし者に、どうか癒しの慈悲を】」

 

 詠唱が紡がれ、魔力の励起により緑の輝きが俺の魔法の蒼い光を押し退ける。

 

 先の大光玉のような鮮烈なものではなく、青々と茂る森の木洩れ日を彷彿させる優しい光。

 

 肌に沁みる木々の灯りのように、損傷により膨張する右手から痛みが静かに引いていくのがわかった。

 

「【ノア・ヒール】」

 

 リューさんの手に集中した暖光が俺の右手に当てられ、治療が完了する。

 

 多少の違和感が残るのはポーションのように即効性はないからか。

 とはいえ流石は回復魔法か。開いたり閉じたりを繰り返す限り、既に痛みは感じない。

 

 これなら戦闘になんら影響しないだろう。

 

「ありがとうございます……凄い、回復魔法まで自前で持ってるなんて、自傷と我慢比べな俺からすると羨ましい限りです」

「……いつもこのような傷を?」

「……まぁ、はい」

 

 原形を留めているのでむしろ軽症です、なんて言える空気じゃなかった。

 

 具体的には、砕けた骨を戦場で剣を握れるくらいに仕立て直すのは手間なのである、としか。

 

 だからポーションとスキル以外の回復手段があるのが羨ましいと言っただけで。

 

「一度あなたと会話の席を設けたい」

「ま、まぁ俺の怪我の遍歴は今は置いておきましょう。話し出したらキリがない……それよりも、どうやって抜け出したものか。まずはそれでしょう」

 

 視線に込められた疑念がみるみるうちに強まったので、目下の問題を切り口にする。

 

 凄んだ女性に問い詰められるのは下手なモンスターよりも恐ろしいのだ。

 

「あれだけの規模の崩落が起きたのです。おそらくギルドか憲兵が駆けつけるかと」

「だと良いですが……」

 

 一応、瓦礫の支えの補助に使用している魔法の発光は丁度良い目印になるだろう。

 

 それに憲兵はギルドとの繋がりが強い。

 そしてギルドには、仕事を取り組むにあたりいくつか注意喚起を促すように仕向けてある。

 

 だがそれでもこの状況だ。果たして気づいて貰えるのか。

 

 このザマでは一日以上経過していてもなんらおかしいことはない。

 

 そして時間が経過すればするほど、オリヴァスが遠ざかっていくのは自明の理。

 

 そのことを知ってか、言葉にしたリューさんですら表情に僅かな苦渋を滲ませている。

 

「……迂闊でした。私が前に出ずとも、聞き出そうと思えば聞き出せたのに」

「いいえ、リューさんが居なければ、俺はとっくにヤツを殺してました。だから、アレは正しかったんです」

「ですが」

「俺は危うく貴重な情報源を殺すところだった。リューさんは俺の私刑を止めてくれた。今はそれで良いんです」

 

 自罰的に言葉を続けようとするリューさんを制して、その事実を口にする。

 

 喋る情報源か、口を持たない情報源か。

 内容を確認する難易度に差はあれどどちらを確保すべきなのかは明白だ。

 

「目の前の感情に流された俺が、弱かっただけです」

 

 断じるように。否、まさしくその通りであるとリューさんに告げる。

 

 ああ、認めよう。

 

 俺は、あの男を殺したかった。

 

 殺してきた人間が等しく抱いたであろう『死』への感情。

 俺達に行動不能にされることで、殺された人達と等しくその恐怖を垣間見ていた筈のオリヴァスを見て。

 

 そこに食人花にさせた所業が重なって。

 

 オリヴァス(おまえ)が嗤っていたであろう冒険者たちの姿が思い浮かんで。

 

 気づけば、頭が真っ白になっていたのだ。

 

「でも……これで調査は振り出しだ」

「いえ、徒労にはなりませんよ。既に手は打ってあります……ヤツも気づいた様子はないですし、上手く行ったと判断して良いです」

「……あの一瞬で、ですか」

「正確には奴を殴った時ですけど」

 

 お陰で見失った今でも()()()()()()()()()()()()()

 

 それも危うく殺しかけたことで折角の布石も無駄になるところだったのだ。

 

 だから、リューさんの行動は人道的にも意識を逸らすという意味での作戦としても無駄骨なんかじゃなかかったのである。

 

 とはいえ、施した策は一回きり。あとはタイミングだ。

 

 肉体がまるまる入れ替わるとか、そんなとんちきな事態にでもならない限り効果は発する。

 

 故に使いどころは慎重に選ばねばならないだろう。

 

「……やはり、私はあなたとは違う」

「リューさんだって十分強いでしょう。お陰で、俺は何度も助けられた」

「違う。あなたは我慢できて、私は我慢できなかった……本当であれば、私にあなたを止める権利はないというのに」

「……」

 

 空色の瞳が(くら)く沈む。

 その眼は、目の前のものを見ているようで違う、此処にはないどこかへ言葉を馳せているみたいに、覆せない後悔を感じ取った。

 

 俺はそれを黙って聞き入っている。

 

 代わりに思い出されるのは、リューさんを前にした途端に見せたオリヴァスの変貌。

 

 怨嗟のままに叫ばれた、その『二つ名』だった。

 

「レンリさんは――『疾風』という冒険者を知っていますか」

 

 伏せた瞳は曇ったまま。

 俺が思い浮かべた名を言い当てるように、リューさんはその名を綴る。

 

 その問いが何を意味するのか、今更聞くまでもない。

 

 オリヴァスが憎悪と共に吐き出し、彼女を指し示したであろう『疾風』の二つ名。

 

 それは執行者にして罪人。

 

 裁く者にして裁かれる()()()()()

 

 かつて正義の眷属としてオラリオに名を馳せたファミリア――『アストレア・ファミリア』として所属し、『闇派閥』を追っていれば嫌でも耳にする冒険者の名前だった。

 

「亡くなられたと聞き及んでいましたが――まさかあなただったとは」

 

 ――――無論、しかるべき調査を重ねたうえで、ある程度の予想はしていた。

 

 『闇派閥』を震撼させ、ついには壊滅する決定打となった彼女の戦いの記録。

 

 全てじゃないが、その存在は認知している。

 それは人伝だったり、()()()()()()()する人達から聞き及んだ話ばかり。

 

 それがリューさんと完全に結びついたのは、オリヴァスがその名を口にし激昂してからの話だ。

 

「――――でも、俺は何も聞きません」

「……どうして」

 

「だって今のリューさんは、とても辛そうだ」

 

「……」

 

 きっと、俺がしてきたことが全て無駄骨となるような情報や構成員に至るまで、リューさんなら知っているのかもしれない。

 

 それこそ、俺は『仇』を真に憎むというのなら、彼女こそを利用し尽くし、俺から大事なものを奪った存在へ報いを与えるべきなのだろう。

 

 

 だが――そんなことはしない。

 

 

「リューさん……自分に課した『正しい』って、時にどうしようもなく辛くなるんです」

 

 どの口が、と内心で己を罵った。

 

 自惚れも(はなは)だしい思い上がった人間の言葉のなんて空虚なことか。

 

 だが、どれだけ恥を重ねようとも。どれだけ愚かと言われようとも。

 それでも、譲れないものがある。

 たとえリューさんがギルドの管理する要注意人物一覧(ブラックリスト)にその二つ名が載る程の存在だったとしても。

 

 今でもそれを悔いているというのなら。

 

 俺はそのことから逃げることを、向き合わないことを『悪』だとは思わない。

 

「……あなたへの義理を果たさず共に戦うことを、あなたは許せるのですか。私は、あなたの本来の目的に近しい人物かもしれないのに」

「それでもです。俺は、俺の欲しいものしかいらない」

「……あなたは、あなた自身は今も苦しんでいるというのに?」

 

 ……それでも俺を気遣う言葉に、思わず笑みが零れた。

 

「俺の苦しみなんて、それこそ考慮することじゃありません。それに――」

 

 彼女は、俺とは違うと言っていた。

 

 それはこの貯水槽で入る時と、先のオリヴァスへ私刑に奔った俺を見た時。

 

 俺が苦しむことは、当然のことだ。

 

 俺は自分の業で間違いを犯して、自分の業で死んでいくことが決まっている。

 

 俺が誰かを殺すというのなら。

 せめて死ぬまで、その間だけは、誰かを助け続けなければならないのだから。

 

「――今の俺は『独り』です。背負っているものが無い俺こそが、地獄を見るのに相応しい」

 

 

 たとえそれが――自分の中に何も残らない、無意味なものだったとしても。

 

 

「……ん?」

 

 そこで、気配がした。

 

「……レンリさん?」

「待ってください、リューさん……地上(うえ)に誰かいる」

「……この規模の崩落とこの迅速な対応となると、おそらく――」

 

 そう呟くや否や、次々と背中の岩盤が軽くなった。

 陽光か、あるいは魔石による灯かりか、隙間から光が漏れてくる。

 同時に誰かの話し声と静寂を保っていた瓦礫の山が誰かの訪れを訴えるように揺れた。

 

 岩を除けたその先には――青髪の女性が、自身の何倍もある瓦礫を片手で持ち上げている。

 

「市内で戦闘の可能性があるとギルドからの通達で街の警護に当たっていれば……これはどういう状況だ、アルノ」

「シャクティさん……取り敢えず、ここから出して貰ってからでも良いでしょうか」

 

 名を『都市の憲兵(ガネーシャ・ファミリア)』所属のLv5、シャクティ・ヴァルマ。

 

 ギルドからの仕事を受領するうちにすっかり顔見知りとなった女性を前に、リューさんが僅かに固まっていたのが何やら印象的だった。

 

 

 

 

 




◇ランクアップの出来ごと

 Lv.2 『猛者』に傷をつける。
 発展アビリティは『直感』。
 二つ名は『火喰』。

 なお、その際正面から「残光」喰らって文字通り真っ二つにされた。

 文字通り、真っ二つ。
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