「最後の無頼派作家」といわれた檀一雄の自伝的小説「火宅の人」は1986年に公開された。
当時、東映京都撮影所長だった高岩淡常務(後に社長)が自ら陣頭に立ち映画化しただけあり、宣伝チーフの福永邦昭はヒットを厳命された。
妻子を省みず、奔放に生きる作家を描く同作。「高岩にとって、檀は腹違いの兄。以前から映画にしたかった念願の作品。任侠、実録などのヒットの後、核となる大作の必要性を感じ、社運を賭けた映画化だった」
檀役に緒形拳、妻にいしだあゆみ、檀と関わる女たちに原田美枝子、松坂慶子ら。太宰治役を岡田裕介(後に東映社長)、中原中也を真田広之、檀のまな娘の檀ふみも一雄の母親役で出演。メガホンを取ったのは「仁義なき戦い」から一変、文芸作初挑戦の深作欣二監督。
「これだけの顔ぶれだからパブリシティーには困らなかった」
撮影中、緒形が原田を放りなげるシーンでは、原田が壁に当たり、頬をけがするアクシデントが起こった。福永はその場面を誇張し、深作演出のすごさと二人の熱演をマスコミに売り込んだ。緒形と、松坂や原田の大胆な濡れ場もバンバン使った。その分、演者とのあつれきも生まれた。
「原田は雑誌に掲載された写真を見て泣いた。主人公の自由奔放な生きざまをアピールする手段としてセックスシーンは不可欠だと説得したが、理解してもらえなかった」
今ではよくある手法だが、講談社と手を組んで原作を文庫本化。さらに他の出版社を巻き込んでの「檀一雄フェア」を全国の書店で展開。ヨソ子夫人や長男でCMディレクターの壇太郎の協力を取り付け、秘蔵の遺品を初公開した「檀一雄展」を東京・神田の三省堂書店で開催し好評だった。