とある無力の幻想郷~紅魔館の佐天さん~   作:王・オブ・王

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10,幻想御手<レベルアッパー>

 昨日、風紀委員(ジャッジメント)の仕事を手伝ったあと、私は初春と白井さんと御坂さんの三人とお茶をした。

 まさか御坂さんまでの風紀委員(ジャッジメント)の仕事手伝ってたなんてねぇ~。

 ついでにさっそく昨日重福さんからメールが来た。とりあえず手紙がないからメールでって思ったけど……あの子すんごいぐいぐい来る。

 そして昨日は昨日、今日もつまらない能力者に関する授業があった。

 まぁつまらないとは言えちゃんと習わないとしょうがないんだけどねぇ~。

 今まで能力についてまったく勉強してなかったこともあって中々どうしてついていけない。

 これで能力習得につながれば良いけど……大体能力ってある意味では『妄想力』の力でしょ、あたしにその才能があるかどうか、それに関しては才能しだいだしなぁ~。

 能力っていうのは『自分だけの現実(パーソナル・リアリティ)』によって人それぞれ変わる。だからこそマルチスキルってのはありえない……とか色々と覚えたんだけど。

 つまりは私が『火を出せる』って本気で思えばそれはできるということなんだけど、ただの思い込みと能力を得る思い込みでは格が違う。そう思えばやっぱり私って才能ないのかなぁ。

 

「あっ初春、AIM拡散力場の名称って『An Involuntary Movement』で良いんだよね?」

 

「そうですけど……最近佐天さん変わりましたね」

 

「え?」

 

 私は思わずそんな声を出した。だって初春ったら変なこと言うんだもん。

 変わったとか……まぁ変わっただろうけどどういうふうにか少し気になる。

 だって、移植した眼帯のこととか腕のこととかで少しでもバレたら……眼が紅いのはバレてるといっても移植したのがバレたら。

 

「なんていうんでしょう、前より前向きになりましたよね。能力に対して」

 

 そうかな? なりふり構ってらんなくなっただけな気もするけどねぇ。

 まぁ確かにそうかもしれないけど違う部分もある。表にそれを出さないで卑屈になったってのもあるし……前よりレベルが高い人に対しての第一印象も良くない。まぁその分其の人を知れば私だって心を開くけど、第一印象は良く思えない。

 相変わらず私って頭硬いなーとか思ってもしょうがないものはしょうがないよねぇ。

 

 

 

 初春は今日セブンスミストに行くらしいけどとりあえず断っといた。

 御坂さんと行くらしいけど、私は補修回避のために勉強しなきゃだし……まぁある種の暇人。

 まぁ暇なことは良いことだよね。私から言わせてもそうなんだから風紀委員(ジャッジメント)にとっては暇ってことはとても良いことなんだろうと思う。

 さてさて、そんな平和な私はさっさと帰って勉強しますかね~。

 

「困った……」

 

 なにやら困ってる人発見、て美人だなぁ……いやクマすごっ! 目の下黒いじゃん!

 どうやったらああなるんだろ、普通寝るよねそうなる前に……。

 大丈夫かなぁ、まぁ暇だし付き合っても大丈夫か!

 

「あの~どうかしたんですか?」

 

「あぁいや、そのだね……研究所のカギを無くしてしまって」

 

「研究員の方ですか、なんてことはともかくとしてカギですかぁ」

 

 少し頭をひねって考えてみる。そんなの私がわかるわけないじゃん!

 でも声をかけてそのまま放置っていうのも後味が悪い夢見が悪い。ならしょうがない。幻想郷でYesウーマン佐天と言われたこの私に任せなさい! 言ったの霊夢さんだけど。

 とりあえずなくしたものを見つけるかぁ、こんな時能力が欲しいなぁ。

 あぁ、でもこれなら文字通り『なくしたものを見つける程度の能力』とか欲しいななんて。ないかそんなの。

 

「とりあえず今日行った場所とかわかりますか?」

 

「あぁ、セブンスミストに行った」

 

「なるほど、じゃあ……行きますか」

 

 そう言うと、少し驚いたような顔で立ち止まっている女性。

 あぁ、忘れてた忘れてた。

 

「私、佐天涙子です。中学一年生ですけど……たぶんほかの中学一年生よりは濃ゆい人生歩んでます」

 

 それだけの自信が私にはある。うん、だって一回死にかけてるし。

 だけど目の前の女の人は動かない。なんで?

 

「あぁすまない、まさか手伝ってくれるとはな。私は木山春生、研究者だ」

 

「よろしくお願いします、えっと……木山、先生?」

 

 研究所のカギを持ってるぐらいだし主任とかそんな立場かと思って先生なんてつけてみた。

 笑ってツッコミでも入れてくれれば良かったんだけど、少しだけ木山さんが驚いて、そのあとに笑う。

 頷いてるけど、これっきりですよ? いやいや、そう何回もネタで言ったこと、しかも受けなかったことを言うなんてどんなドMですか。

 ということで行きましょう!

 

「木山さん!」

 

「あぁ、そうか……」

 

 なんで若干しょんぼりしてんですか!?

 ごめんですよ!?

 

「ちょっと熱くなってきたな」

 

 そう言って突然スカートのチャックを下ろす木山さん……ちょっと待ってください、あんたが脱ぎ女か!

 というより待ってぇ! 都市伝説さんストップ! いやストリップしないで!

 

「落ち着いてください、冷たいものとか買ってきますから!」

 

 だけど止まることなく次は上着を脱いでシャツのボタンを外しだした。

 あぁ、ピンク色のブラなんて可愛い下着してますね。じゃなくて!

 突然木山さんがボタンを外す手を止めた。およ?

 

「せ、先生と呼んでくれるか?」

 

「……冷たいものを買ってくるから待っててください木山“先生”」

 

「ん、わかった……その、君に“先生”と言われるのは他のものたちに言われるのとは、その別の感じが……」

 

 ん? 『わかった』までは聞き取れたんだけどそのあとがボソボソと言っているので聞き取れない。

 まぁともかく、ボタンを付け直してチャックをあげる木山さん。

 まったく、なんだなんだよなんですかの三段活用! くっそぉ、私って最近こんな感じだなぁ~。

 必ず一癖ある人に絡まれるというか、でも幻想郷でもこんな感じだったし……まさか私幻想郷から変のもんでも憑けて帰ってきたかなぁ……。

 ―――不幸だっ!

 

 

 

 そのあと二人でアイスを食べてからセブンスミストに行くことにした。

 そう言えば御坂さんたちがいるんだっけ、うっわぁ会ったら気まずいけと言い訳はなんとかなるよね、困ってる人を助けてますなんてなんかカッコイイ!

 どうしようかな、木山先生は後ろを付いてきてくれるけど、ようやく冷房の効いたところに来たからか、ちょっと安心。これで脱がなくなるし、うん。

 

「ところでどこら変に行きました?」

 

「新しいスーツが欲しかったからそれを買って、あとは食事をしたな。それとCDショップにもよってみたりした」

 

 なるほど、ならばそこらへんを探せば良いか、たぶん食事ならどこでしたかわかるはずだし、スーツを売ってる店だって3階のあそこしかないしね。

 CDショップは少し広いけどまぁそんなに大変でもない。

 よしっ! さっさと見つけて帰って補修回避のための勉強だぁ!

 

「さ、行きましょうか木山先生!」

 

「あ、ああ」

 

 少し元気に言いすぎたのか、ちょっと驚いてる木山先生。

 まぁ良いか、さっさと見つけてさっさと帰りましょう!

 まずはスーツを見に来ました。とりあえず店員さんに聞いても見つかってないみたいなので、後は探すだけ!

 それにしても下を覗き込むってのもあれだなぁ、優雅じゃないなぁ……ハッ! すっかり紅魔館的な優雅さを求めるように、私としたことが!

 さっさとみつけよ!

 私は這い蹲りながらカギを探した。ちなみに木山先生は服も持たずに試着室に入ってった……涼んでんなあの人。

 

 次は食事をしたファミレス。店員さんに聞いても無かったみたいで探してもらっても無かったみたい。

 じゃあ残るはCDショップぐらいかな?

 

「木山先生、そう言えばポケットとか確認しました?」

 

「ん……そう言えば……あ」

 

 あ、じゃないよ! なにこのパターン、あるやつじゃん! これあるパターンのやつじゃん!

 

「あった」

 

「あったじゃないですよ! どこのドジっ子だ可愛いな!」

 

「か、可愛いなんて言わないでくれ」

 

 なに顔赤らめてるんですか! もぉ、右目見開いて探してた私とは一体。なにこれ、私神様からの加護とか最近はねのけてんじゃないですか?

 てかそうでしょ、吸血鬼に仕えてたし……。

 まぁ、木山先生みたいな楽しい人といるのも悪くはないけど、けど……なんか違う気がする。

 

「とりあえず、どうします?」

 

「私は帰るよありがとう、とりあえず今度お礼をしたいから……その、め、メールアドレスを交換しないか?」

 

「お礼なんて良いですよ! それよりそのクマ、今度会うときまでに直してきてくださいね、不健康そうで見てられませんよ」

 

「あぁ、うん」

 

 とりあえず携帯端末を出してから、赤外線でお互いのメールアドレスと電話番号を交換して、終わり。

 嬉しそうにしてる木山先生を見て私も少しだけ嬉しくなったり。

 

「それでは、メールさせてもらうよ」

 

「いつでも待ってますね。せんせっ♪」

 

 そう言うと嬉しそうに笑って木山先生はセブンスミストを出て行った。

 まぁそれはそれで良いんだけど、さ~て私はCDでも見てこっかなぁ~。

 さぁて……ってあれは初春、と御坂さん! あちゃぁ、てまぁ良いか……。

 

「お~い」

 

 そう言って手を振ると驚いた後にあの初春が走ってくる。

 

「佐天さん事件です! 今すぐ避難を、御坂さんが避難誘導をしてくれているので―――」

 

「待った初春!」

 

 少しぐらい整理させてよ。とりあえず事件、木山先生は逃げたよね?

 さすがに抜けてるあの人でも大丈夫だとは思うけど、心配だ。

 

「避難誘導ぐらいなら手伝うよ」

 

「ダメです!」

 

「初春、今は一般の方を逃がすのが優先でしょ!」

 

 強い口調で言うと迷った後に、渋々頷く。

 私も頷いてから初春の背中を押して店員に知らせるように言うと御坂さんのもとへと走った。

 とりあえず御坂さんとお互いの動きを決める。

 私の方が運動神経は良いからとりあえず私が店内を見回るから御坂さんがお客さんの誘導。

 

「お願いします。ではまた後で!」

 

「佐天さん、気をつけてね!」

 

「了解です!」

 

 とりあえずエレベーターで屋上に行って、後は走って見回ってから階段を降りて、さらに下の階も見回る。

 まったくもぉどうなってんのよ!

 そういやどんな事件なのか聞いときゃ良かった。まぁ大概のことなら逃げきれる自信はあるけどね。

 走りながら携帯電話を取り出して御坂さんに電話をする。

 

「御坂さん!」

 

『佐天さん、一体どこに!』

 

「気にしないでくださいすぐ出ます。御坂さんはどこに!?」

 

『私は……っ』

 

 走ってると、先に初春が見えた。さらに先には御坂さんとツンツン黒髪の男の人。

 ていうかあの子の持ってるの、なんか危険な“予感”が……急がなきゃ!

 私が走っていると、初春がその子の人形を持って後ろに投げた。

 

「逃げてください! あれが爆弾です!」

 

 ―――聞いてないっての!!

 私が走っても御坂さんの方が近かった。初春の前に出てきた御坂さんが超電磁砲(レールガン)を打とうとするけど、コイン落とした!

 もうどうにでもなれってのぉぉぉっ!!

 私は急いで御坂さんの前に立つと両手を広げて女の子と初春と御坂さんの壁になるように爆弾に背中を向けた。こんな時に能力がない自分が忌まわしい!

 だけど私の背中に大きな感触が触れる。

 さっきの男の人の背中―――?

 

「なにやって!」

 

「ウオォォォッ!」

 

 男の人の叫び声と共に、爆弾は巨大な爆発を起こした。

 後々にレベル4に近い3クラスの爆発だとわかることになるこの爆発だけれど、その爆発による人的被害は0人。それは直撃すれば人が死ぬクラスの爆発だったけれど、それでもその爆心地付近に居た4人はカスリ傷一つなかった。

 理由なんて誰も説明がつかないだろう。

 ただ殺したのだ。自分だけの現実によって現出させたその幻想を、ただ、殺しただけ。

 

 

 

 その夜、私はただ道を歩いていた。

 あの爆発を“殺した”あの男の人はすぐに去っていってしまったけど、御坂さんによればあの人はレベル0らしい。

 あれが都市伝説の『どんな能力も聞かない男』ってわけだ。今日だけで都市伝説二つ制覇って私ヤバイなぁ。

 ……それにしても今日は御坂さんのお説教すごかったな。なんていうか、心が痛かった。

 力を言い訳にか、確かにそうかもしれないけど……一概にそうとも言えない。私から言わせれば力が無ければダメだと思う。御坂さんだって力を盾にして今まで不良たちをやっつけてきたんだもん、あの力がなきゃどうなってたかわからない。

 たぶん、御坂さんは能力で行き詰まったりする人のお説教は向いてないんだと思う。御坂さんが嫌いというわけじゃないしむしろ好きな方だけど、そこだけは違う。

 

「私もあの人に一言ぐらい言ってあげれば良かった」

 

 そう、無能力者だからってこの学園都市で決まることがすべてじゃない。

 外に行けば能力を持ってなくてもどうにでもなる。でも、能力判定が微妙でもこの学園都市を出ないのはきっとまだ自分に希望があるからだ。私もそう、自分にまだまだ希望を持ってる。

 私だけの現実、それは一体どんなふうな力なんだろう? まだまだわからないけど、使えたら嬉しいな。

 レミリア様たちに能力だけがすべてじゃないって教えられたけど、無いよりはあった方が嬉しいし!

 

「っと、鳴ってる」

 

 音を出す携帯端末をポケットから出して開くと、重福さんと木山さんのメールが入っていた。

 あぁ気づかなかった。しかも今のは……御坂さんから!?

 なんだろと思って開いてみるとなんでもないようなメール。今日の男の人が何か言ってなかったか、とか。

 御坂さんまさかあの人のこと、あぁ~なんとなくわかる気がする。御坂さん好きそうだわ。

 たぶん高位の能力者とかよりああいう人の方が好きそう。

 

「普通じゃないねぇ、学園都市」

 

 さすがと言わざるをえない。

 とりあえずは帰ってメールを返してだなぁ~。

 それにしても今日は色々あって疲れた。

 ていうか爆弾って、低レベルの能力者ができることじゃないって絶対。

 

「今回は役に立たなかったなぁ」

 

 そう思うとやっぱり羨ましいなぁ、能力。

 まぁ欲しいなら頑張れってことかね! さぁ、帰って勉強勉強!

 ん……って電話?

 

「もしもし」

 

『佐天さん、固法だけど』

 

 知ってます一応表示を見たので。

 

「ところでどうして?」

 

『あぁそうだったわ、貴女に少し調べ物をお願いしたいのよ。貴女って交友関係深そうだし“噂”も結構入ってそうで……』

 

 あぁ、楽なことならいいけど。

 

『能力レベルを上げるアイテムや能力、その他のこと、噂だけでも良いから調べてくれない? お礼は今度するから』

 

「はい、承りました」

 

 あくまで風紀委員のお手伝いのためであってお礼に惹かれたわけじゃないということを自分に言い聞かせる。

 うん、私はそんな安い女じゃないんだから!

 電話の向こうの固法先輩の声は気のせいか嬉しそうだ。たぶん少し楽になるからだと思う。

 それにしてもなるほどね。

 

「調べあげたことは後々にメールでまとめて送りますね」

 

『うん、それじゃあね佐天さん!』

 

 通話を切ってから、私は携帯端末をポケットにしまう。

 中々どうして面倒な気もするけど確かに私も興味をそそられている。たぶん前の重福さんの件もそうだと踏んでいい。聞いてみる? いや、それは最後の手段にしよう。あなり重福さんにそう言うことを聞くのも気が引ける。とりあえず初春頼みだね。

 まさか本当にあるとはね、幻想御手(レベルアッパー)、てっきり都市伝説とばっかり思ってたから意外だったよ。

 さて、頑張って調べますか―――明日から!

 

 

 

 

 




あとがき

今回はグラビトン事件の話でござったな!
佐天さんと木山先生の二人に接点が、ということによりさらに佐天さんったら罪な女。
まぁともかく、次回はこれの幻想御手に迫っていくでござるよ。
ついでに言うなれば本編主人公さんこと上条さんちょい役として出演!

ここからどんどんと物語は進んでいくでござる。
ではこれからもお楽しみにしていただければ感謝で候!

PS
感想ありがとうございますでござる。
やはり意欲向上に繋がるに候。皆様ご協力ありがとうございますにござる!
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