「あの…アリス…有難うございます…」
「??何がですか?」
「いえ…普通に考えたら捕える手間を考えたら殺してしまった方がどう考えても楽だったのに…」
「───別に…単に死なせるのが惜しいと思ったからですよ…本来真っ当に冒険者を続けていられれば今頃はレベル6以上にはなってそうなくらいの才能と能力は感じられましたからね」
「それに『同じ境遇』と言うのには根本が違いすぎますが…私にとっては数少ない同族でしたから…レヴィスのようにあっさり切り捨てるのも寝覚めが悪かったですからね…」
本当はレヴィスも人間に戻せれば充分味方になってくれる余地はあったのに、あの「装置」が時間や材料の都合で1つしか用意出来なかったから、普通の牢屋で拘束する手間やリスクを秤にかけてあっさり見限ってしまったのだ。
フィルヴィスの重い過去は読者として識っていたから、死なせればレフィーヤに重すぎる傷痕を残すと分かっていたから。単に同情心で優先させただけなのだ。語られていないだけでレヴィスにも同情に値する重い過去があったかもしれないのに。
(メタ的に言えば本来は元アリーゼにされる予定もあったけどそれが無しになったから特にバックボーンも語られることのない、キャラの薄い強敵の1人程度にされてしまったのだろうが)
それにまだ礼を言われるようなことはしていない。結局先延ばしにしてしまっただけだ。私が道半ばで倒れてしまったらフェルズさんもどこまで研究を続けてくれるのか分からなくなるし、
図らずともオッタルを強化してしまったし、私の責任が重くなってしまった。まあ今回の
命が脅かされるイベントは当分ないが。レヴィスの居ない
アイズがレヴィスを倒してランクアップした描写はなかったし、まあそっちも大丈夫だろうたぶん…今回ので私自身もランクアップに値する【偉業】は達成出来ただろうが、基礎アビリティはまだまだ上がる。
レベル3が7同士の戦いにあそこまで貢献したのだからオッタル頼りとはいえ上位の
「…最後に私と話すことはありますか?」
「レフィーヤとは充分話せたよ…気遣い、ありがとう…お前は…なんで『声』に支配されなかったんだ?」
「最初の頃は私も頭の中ぐちゃぐちゃで全然でしたよ。まあその頃に結構干渉されていたみたいなんで、その時に向こうも私の特異性に気付いたんでしょうね、
その後
「レフィーヤのこと…よろしく頼む。お前が導いてくれれば何も心配はない。凄まじい魔法行使だった。正直【
「…貴女が次に起きるまでの間だけですからね…なんか妙な対抗心が見え隠れしているし、私がこの
その姿じゃ見る陰も無かったですからね…それが少し残念だったので、いつかきちんと冒険者として復帰したら今度は
レフィーヤに睨まれる。大方「面倒臭いってなんだゴルァ」とか「勝手にフィルヴィスさん勧誘してるんじゃねーぞ」ってところだろう。
「…なるべく早くな。起きた時お前がレベル8とかになっていても多分驚かないぞ…」
「じゃあ早めに起こしてから10くらいになるところを直接見せて驚かせてやりますよ」
「私もっ!アイズさん達くらいうんっと強くなって驚かせてあげますからねっ!」
「ああ、それは楽しみだな…尋問はしないのか?」
「【神酒による偽装とペニア様への改宗】【精霊の六円環】【ニーズホッグ】…なんかこれ以外の暗躍(の予定)他にありますか?」
「!?」
「まあ奴のタネはもう全部バレているんで必要ないんですよ…所詮その程度の器ってことです。
「ヴァレッタとタナトス如きだけじゃ、もうどうしようもない、だからこの話はこれでおしまいです」
「ディオニュソス様のことは…」
「見逃すことは出来ませんよ?大した被害はまだ出てませんでしたが奴の計画はモンスター以外のこの地上に生きる者達全てに唾を吐く行為ですから」
「割と神様たちにウケが良い私でも『奴を見逃せ』って言っても無理でしょうね」
「いや、いい…流石に
「───ありがとうございました…
「お休みなさいフィルヴィスさん」
「ああ、またな…」
───そうして装置が起動され、フィルヴィス・シャリアは長い眠りにつくのであった。
「───さて…とんでもないことをしてくれたね…勿論良い意味でだが…」
黙って様子見をしていたフィンが口を開く。
「私もあの2人がこんなに早く揃って出てくるとは思いませんでした。いやぁオッタルさんがいて本当に良かったです」
「向こうの最高戦力を図らずしも削ってしまったわけか…」
オッタルをして単独なら死を覚悟するほどの相手を、レベル3の身で確かな戦力となり打ち破ったというのなら…
「君はどこかで、自分が切り捨てられる可能性を危惧していたのかもしれないけど…」
「そんなことはもう絶対出来ないから心配は要らないよ。というかそんなことしたらレフィーヤに殺されてしまいそうだ」
普段なら「そんなことするわけないじゃないですかぁっ!?」とか弁明しそうなレフィーヤが涙ながらにもフィンを気丈に睨んでいる。
最初の内は敵視している節があったのにいつの間にか絆されてしまったらしい。あのままフィルヴィスとどこかで戦って仕留めていればレフィーヤに癒えない
これから一戦交えそうというタイミングで「
普通はどんな対価を積んでも彼らの協力なんて主神が頷かなければ絶対得られないものだ。屋内戦と考えれば少数精鋭の方が良かったし、結果的には最良の人選だったのだろうが。大戦果もいいところだ。
(
【フレイヤ】にはもう絶対やれない。あのオッタルが既にほぼ対等に見ていたのだ。強敵との戦闘経験のお陰か、以前より明らかに気配が研ぎ澄まされている。
こうした修羅場を生き延びた冒険者は大半が素晴らしい進歩をして大成するものだ。ダンジョンでもそうそう出来ない得難い経験になる。
努力もしているし、才能は言うまでもない、師も同じ才禍、仲間も揃っているし、足りていないのは経験だけだったのだろうが…
(負けていられないな…)