端的に言えば───私は調子に乗っていたのだろう。
やりたいことほぼ全てに手が届く全能感、あらゆる魔法を使いこなせる才能、こんな
これが現地人として赤子から普通に育ち、幾度もモンスターの被害に遭っていたりすればまた違ったのだろうが、恐さはあれど、元々そこまで嫌悪感は無い。
位置的には熊や虎より恐い猛獣といったところだろう。猟銃より遥かに強い自前の武力を持った今ならそこまで恐れるものでもないし。
絶対口には出せないがモンスターが混じっているだけで理性のある人型なら獣が混じっている獣人とも大差ない。その程度の浅はかな考えで開き直っていたのだ。
まさかレベル7にも届き得る
街中で見かけた【イケロス・ファミリア】ナンバー2のイレズミハゲのグラン、奴にフェルズさん製の発信器を付けて奴らのアジトを突き止めた。鍵もあるから乗り込むのには問題ないが、戦力が要る。
フレイヤ自身は
そうしてやって来たのは
詠唱短くて高威力だし、射出準備で展開しながら移動も容易だから使い易いんだよね彼の魔法。正直9つもあるリヴェリアさんより彼の2つの魔法の方が使い易い。【ラウルス・ヒルド】はピーキーだが。
同僚を「仲間」というよりは「駒」か「敵」の2通りくらいでしか分けていなそうな彼がなんであんな使いにくい支援系の魔法に目覚めたのかの経緯が気になる。
掘り下げられる日くるのかなあ…魔法は本人の血筋と才能や気質が反映されるんだろうから…やっぱ前者の先天系のパターンなのかな。
オッタルも「喋る怪物」は少し驚くくらいでフレイヤへの報告以外で迂闊に誰か漏らすようなことはないだろう。(そもそも話す相手がいなそう)
ダイダロス通りの入口付近で合流してから目的地に向かう。
「…まさか、貴方自ら来るとは…」
「オレも、お前には強い興味を持っているし、『万一』があったら事が事だ。それに他の
「??ヘディンさんは判りますが、他の方たちは何故?」
「お前らがフレイヤ様のお気に入りだから気に食わないのだろう」
「えーいい歳したオジサン達が10歳の女の子に嫉妬を?それってかなりかっこ悪くないですか?それに私はお兄ちゃんのオマケでしょうに…それともお母様?」
オッタルが「ぶっ」と吹き出す。お母様も笑っている。
「アルフィアのことも、勿論気に入っているだろうがお前も決してオマケなどではない、あの方が一番求める『伴侶』の候補ではないだろうが…『勇士としては申し分ない』と…」
「へぇまあ素直に褒め言葉として受け取っておきますよ、でも『そこ』まで言っちゃって良かったんですか?」
「お前らは勘付いているのだろう?その『伴侶候補』にも…ならどうせ避けられないのならオレなりの誠意だ。家族を無理矢理引き離すようなマネは流石にしたくないからな…お前らには自ら『こちら』に来てくれると嬉しい」
やっぱ悪い人ではないんだよな…狂神者には背信と捉えられかねないギリギリのラインだろうし、この会話も。武人としては尊敬できる部分もあるし、イマイチ嫌いにはなれない。それはそれとして敵になったらぶっ潰すが。
「私個人としてはフレイヤ様
でもそれはベルの想いを切り捨ててまで忖度するほどのものではない。さ、そろそろ今日のゴミ掃除始めましょう、元々犯罪者集団の外道共ですから皆殺しで構わないですよ」
喋っている内にダイダロス通り内の目的地に着いた。正面から堂々と侵入したが、イケロス・ファミリアのハンター掃除はものの数分で済んだ。
オッタルのことを認識して背を向けた奴は後ろから魔法で撃ち抜いてやった。苦し紛れのディックスの
そうして奥の
「は?‥【
扉が横に開き大剣を持った赤髪の女レヴィスが現れ、一瞬呆けて間の抜けた声を上げてしまったが,すぐ魔法を撃って、全速力で後退する。
彼女クラスには大したダメージにはならないが一瞬の足止めくらいにはなる。未だ【イケロス】連中の死体が転がり、オッタルが待機する部屋まで引く。
元々ダンジョンのルームを模した部屋なので、大剣同士を振るって戦うには充分な広さがある。
レヴィスの後ろからは
「アリス…お前は…余程人気者らしいな…」
(マズいなフィルヴィスだけでなくレヴィスもレベル7に届いているぞ…)
オリヴァスはきっちり餌としての役目を果たしていたらしい。あのクソザコ幹部()めぇ…
「嬉しくないです…でも他の幹部じゃなくオッタルさんで本当に良かったです」
「ああ…オレも来てよかった」
「まさか貴女方が2人がかりで私を捕まえに来るとはね…
ずっと狂っているから仕方ないのかもしれませんが、大方『ロキ・ファミリア全員よりはオッタルさん1人の方がマシ』と判断したのでしょうが…」
「フン…『もうアリアはいらない』だと。『唯1人の
というか私でいいのなら最初からアイズのクローンでも作っておけ、と思わなくもない。【エアリアル】をこっそり使ったのを目敏く見逃さなかったのだろう。恨めしそうに
「ああ、
徹底的に煽る。こういう時原作知識は便利だ。フレイヤ・ファミリア相手だったら逆効果で後が怖そうなので絶対にやらない。
神話のフレイヤとかところ構わず男と寝まくっているビッチだし、なんなら眷属達も全員穴兄弟確定だから煽るワードはいくらでも浮かぶが、狂神者相手にそんなことは格下相手でもやらない。だがこいつら相手には遠慮しない。
「ほら、エインセルじゃなくてフィルヴィス・シャリアさん、ロキ様とフレイヤ様には『エニュオ=ディオニュソス』ってこと伝えてありますし、
私達が帰還しなければ奴を捕える手筈になっています。あの酔っぱらいは未だ表で善神のフリをしていましたから簡単に捕まるでしょうね?いいんですかこんな所で油売ってて」
後ろ髪が引かれるような動きを見せるフィルヴィス。だが…
「…お前らをすぐ片付けて戻れば問題ない!」
流石にこれくらいで引いちゃくれないか。そのまま突進して殴りかかってくるが…
「【
私レベルの魔法じゃ殆どダメージを負わないが足止めくらいにはなる。そうして動きが鈍ったところで…
「オレを忘れてもらっては困るな」
オッタルの剣がフィルヴィスに向けて振られ、レヴィスが割って入るが流石にパワーでは勝てなく、フィルヴィスの方にふっ飛ばされる。
「フィルヴィスの魔法は私が止めますからオッタルさんは先にレヴィスを仕留めてください!」
前衛がレヴィス、後衛がフィルヴィスに分かれた。ほぼ最強に近い布陣だろう。
「【一掃せよ、破邪の
詠唱が短い。ヴェルフの【ウィル・オ・ウィスプ】でも間に合わないので一気に【
コピーでは無理だっただろう。自前で持っていて良かった…
「【ディオ・テュルソス】!」
フィルヴィスの魔法が不発に終わる。
「───【アルクス・レイ】!」「───【アロ・ゼヒュロス】!」「───【ディア・フラーテル】!」
それから戦いは2時間にも及んだ。レヴィスが討ち取られてからはフィルヴィスもそう長くは保たなかった。
【ウチデノコヅチ】を切るのも考えたが要らなかった。というかそれを使ってバランスを崩すよりは、オッタルの実力をそのまま発揮させつつ、援護に終始するのがベストとすぐ気付いたからだ。
アリスは土壇場で【サタナス・ヴェーリオン】が無詠唱魔法であることを利用して【マギア・レコード】を詠唱しながら【サタナス・ヴェーリオン】を連射し続けて常に援護する戦法を確立させた。
【ジェノス・アンジェラス】が大味すぎるアルフィアでは考えもしなかった戦法だろう。無詠唱魔法そのものが
少しでも魔法の威力を確保するために【
それでも止められなそうなら即座に【
2人が後ろまで突破してアリスが攻撃されないように決して前を通さず守り切った。自身にとってもアリスの援護は生命線だったからである。
フィルヴィスは両足が
「フィルヴィスさん…貴女に関しては先延ばしにするしかなさそうですからね…長い眠りについてもらう前にレフィーヤと話す機会を与えます。貴女の今回の暴挙が動かぬ証拠となってこの後にディオニュソスは拘束されるでしょう」
「さて…同僚に労いの言葉くらいはかけないんですか?ヘディンさん」
入口あたりに待機していたらしいヘディンがやって来た。途中から外にも轟音が響き渡るほどの戦いになり、今はアダマンタイトの床や壁が破壊されまくっている。オッタルの方はどうでもいいが、
「ハッそんなもの我々の間では皆無なことくらい理解っているだろうに」
「
「身内同士でバカやっているだけでなく、偶にはダンジョンに潜って【偉業達成】の相手見繕わないとレベルなんて上がりませんよ?」
「死んだらオシマイですから生存率上げるためにパーティを組むんでしょうが、こんなこと子供でも理解る自明の理ですよ?」
「これはサービスで教えておいてあげますが【ロキ】のお三方は近い内に全員レベル7に至ります。」
「お三方除くと向こうの幹部は若手ばかり…
「『こんなこと』もう当分言いませんからね?オッタルさん除くと貴方が一番使えそうだから言ってあげるんですから。『一番大切なもの』を見失って、逃げ出したことを『捨てて強くなった気でいるおばかさん』にもよく言っておいてあげてください。
戦うならせめて万全な
「ペナルティ?」と疑問に思ったヘディンだったが、その少し後に主神の号令で歓楽街に攻め入り、理解したのであった。
その後は
───
ロキ・ファミリアのダイダロス通りの調査中、突然フィンに呼ばれてある一角に訪れたレフィーヤ。隠されたような入口に入るとそこには拘束されたフィルヴィスとアリスと【
「フィンが来たならもうオレ達はいいだろう、またな、アリス。礼を言うぞ楽しかった」
「こちらこそ有難うございましたオッタルさん。ランクアップの発表楽しみにしていますよ?」
「…お前はいずれオレ達と戦うつもりなのに危機感はないのか?」
「いや明日とか来週だったら流石に焦りますけどフレイヤ様はそこまで性急な方ではないでしょう?相手が強いほうが越えがいがある。貴方の同僚たちは祝福の1つもせずしかめっ面するだけでしょうからせめて私だけでも、とね。
フレイヤ様からだけでも褒められれば貴方達的にはそれで満足なのでしょうが…お母様も『ザルドの眼は曇っていなかった』って喜んでいますよ」
(余計なこと言うなアリスッ!)
「フ…いやたとえ歳下であっても偉大な先達から褒められればオレも嬉しいぞ、ではなアリス、お前の力がなければオレも死んでいた、重ねて礼を言う。」
そう言って2人は私とフィンさん達にも一瞥すると去っていった。
はあ、しかしまず間違いなくランクアップしただろうなあ…レベル8かあ…レベル7クラスのヤバさを身を以て体験したばかりというのに…それ以上かぁ…私もレベル7以上にならないと詰みそう…ベルもせめて6にはしたいなあ…リューさんと春姫がいても厳しくなった。
やはりアイズとティオナだけでも欲しいな…まあ、
「アリス…今の話って…」
「ああ、聞いてのとおりですよ。この部屋の惨状を見れば激闘だったことは伝わるでしょう?オッタルさんは、まず間違いなくレベル8になれるようになったと思います。私も援護に徹してなんとか勝利を収めましたが…強敵でした」
「…それでその『強敵』の片割れが…」
「はい。ロキ・ファミリアから見れば今回私達が倒した『1人目』のレヴィス…『2人目』のオリヴァスに続く『3人目』のフィルヴィス・シャリアです」
フィルヴィスはオリハルコン製の拘束台に縛られている。私が【
「レフィーヤ?まだ理解が追いついていないですか?ちなみに私は『4人目』ですよ?」
そう言って服を捲って魔石を見せるアリス。レフィーヤは口に手を当てて驚いている。
「あの…アリスが大丈夫なら、フィルヴィスさんも…」
「私だけは『特別製』なのでそもそもの事情が違います。フレイヤ様曰く『魂の規格が違う』らしいので。別に私の意志が特別強いとか、彼女が弱いとかではありません。寧ろ彼女はとても気高く高潔な魂の持ち主だったのでしょう本来は。
でも悪神のディオニュソスに忠誠を誓う人格があり、精霊の支配下にある現状では彼女を自由には出来ません、申し訳ないですレフィーヤ。」
「これから彼女はこちらの【
ウラノス様に最初
「最後に2人で話したいだけ話してください。次は何年後になるか判らないですから、私は耳栓しているんで、フィンさんも」