「はッ!」
『キュルルッ!!』
今日も愛刀を携えダンジョンへとやってきた。
巨大な蟻とでも言うべきか、気色の悪い赤黒の蟻を一刀両断する。
仲間が殺されている隙に、もう一匹が俺に向かって来るが、アルフィアがそれをカバーする。四半期の間、一緒に迷宮で培った連携だ。
『キュキュ!』
『キュルッ!』
『キキィイ!!』
まだまだ大量に敵はいる。
『キラーアント』と呼ばれるそのモンスターは7階層から出現する上層のモンスターだ。『ウォーシャドウ』と同様に「新米殺し」の異名を持つ。
単体での戦闘力は決して高くないのだが、外殻の固さから物理攻撃で倒すのは難しい。
更には同種を呼び出す特性や『
その為か、モンスターを他者に押し付ける『
そう、事実今現在10層でキラーアントの群れを押し付けられたのだ。
『キッ!!』
先陣を切って飛び込んでくるキラーアントを、身体を横にずらしすれ違いざまに斬り裂く。
目にも止まらぬ早さで敵を一閃し三分割する。
その間前後左右へと俺を囲んだキラーアント4体をまず刀をやや斜め右前へ抜き、後ろの敵の左胸部を突き、受け流しに刀を振りかぶって90度回って右の敵を斬り、直ちに180度回って左の敵を斬り、さらに90度回って正面の敵を斬る。所謂、四方斬りだ。
そのまますぐに短文の並行詠唱で敵を一掃する天才の安否を確認する。そして【縮地】で距離を詰め彼女の背後にいる最後の1体を死角から瞬殺する。
かれこれ三十分ほど戦闘をしていたからか、深呼吸をすると肩で息をするほど疲れていたことに気付いた。
「...どうだった、
刀剣を振り、モンスターから付いた血を振り払いながら問う。
「最悪だ、私は【ヘラ・ファミリア】だぞ。帰ったらあの
忘れてはならない。彼女の所属するファミリアは【ゼウス・ファミリア】と双璧を成す世界最強のファミリアだ。世界で一番喧嘩を売ってはいけない相手である。そうだとも知らずにモンスターを押しつけた彼等に無言でお祈りを捧げる。
「・・・なにをしている」
「モンスターを押しつけてきた彼らにちょっとお祈りをね、それよりこの後はどうする?」
「
「仰せのままに、天才さん」
そう言ったら、
■■■■
そして12階層に辿り着いた。上層の中でも最深階とも呼ばれるそこは、それより上の階層と比べるまでもなく一度の戦闘が長く、激しい戦闘が起こる。なぜなら、豚頭人身のオーク、アルマジロ型モンスターであるハードアーマードや大猿のシルバーバックなど大型のモンスターが主に湧くからだ。決して、冒険者となって3ヶ月のレベル1が来れるような場所ではない。
やはり自分と隣で嬉しそうに妹の話をする彼女は異質ではないかと思いながら周りに注意を払っていると、前から大勢の冒険者が「逃げろ、はやく!」と走りこちらに向かっていることが確認できた。
「・・・なぁアルフィア」
「・・・・・あぁ」
返事が遅れたのは、6m近くある青いドラゴンを目視したからであろう。
そして視線を横に向けると、拳を固く握りしめてより意志を強固にする彼女の姿が見えた。
「──やるぞ、こんなところで逃げるわけにはいかない。
そうだ、俺も今ここで立ち向かわなければ夢の彼女達に顔向けできない。そんな気がしてならなかった。
「───戦闘開始だ」
合図と共にアルフィアと左右に散る。
狙いを彼女に定めたのだろうか俺の方には向かって来ない
そしてその青龍は動きを止め空気を吸い込む。
「なにかくるぞ!」
「っ!耳を塞げ!!」
『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
注意が向いてないうちに距離を詰める。相手が今までのモンスターと比較にならない強さを有しているのは見ただけで分かる、最初から出し惜しみはしない。
「一歩音超え、二歩無間、三歩絶刀……!」
【縮地】による瞬間移動により爆発的なスピードを1度、否3度の剣閃に乗せる。
『無明三段突き』
心を落ち着かせて平晴眼の構えから“ほぼ同時”ではなく“全く同時”に放つ魔剣はいつものように、命中個所を破壊する──ことはなかった。
「なっ!?」
龍の背後に陣取っていたアルフィアが鱗のない胴体目掛けて魔法を放つがもろともせず、細長い尻尾を鞭のように使って俺を壁に吹き飛ばす。
「がぁぁっ!」
口から吐き出る鮮血。背中から焼けるような痛みが襲う。咄嗟に刀を盾にしていなかったら即死だったであろう。
このままではアルフィアがもたない、そう思い剣を頼りに立ちあがろうとする。
だが肋骨は折れて、身体中から危険信号が出ている。鼓動と脈がうるさいくらいに音を立てる。
「・・・ッ!死んでたまるか、追いつくって決めたんだ!!」
アルフィアに
『グォォォオオオオオオオオオオオ!!!』
ブレスを邪魔された怒りに任せて突進してくる龍を残り3m、2m、1m最大限引きつけると同時に【縮地】でアルフィアの元に駆けつける。
「──明らかに火力が足りないな、
何か手立てはあるのか?」
彼女は重たそうな口を開き、そう告げる。
「あるにはあるが、時間がかかる。
・・・10秒だ、任せるぞ」
彼女は無言で頷く。
左右に散って距離を取り、遊撃を相棒に任せて
───詠唱を開始する。
輝ける
過去・現在・未来を通じ戦場に
全ての兵たちが、今際の際に
その意志を誇りと掲げその信義を貫けと
──突如現れた自分と
刹那、刀身の長い愛刀が両刃直剣の聖剣へと生まれ変わる。光の奔流がより一層輝きを増した。
最後に、彼女に後押しされた逆足を一歩踏み出す
今、常勝の王は高らかに──
手に
王としての私ではなく。
何も守れなかった
振り上げられた黄金の剣は、
その圧倒的な力を以って目前の全てを薙ぎ払う。
青龍が跡形も無く消え去るのを確認し、隣で支えてくれた彼女を見る。
そこには、満足そうに微笑む彼女がいた。
──彼女の顔に宿った微笑みを、瞳に焼き付け、誇ろう。
『英雄』のように、大切な人に笑顔をもたらしたことを。
『希望』を指差し、『未来』を示したことを。
『理想』を目指して彼女達に追いつくと決めた、
今日という始まりを。
かつての『
俺も笑みを浮かべた。
そして彼女は満足げに見届けたあと光となり消えていった