才禍の怪人


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作:でるぱ
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第6話 準備


「結局アリス君達の言う通りになっちゃったか…」

 

見覚えのあるアポロンのあの色欲にまみれた眼。あの兄妹のどちらかが所属している時点でこの展開はどのみち避けられなかっただろう。

 

「歴戦の冒険者であるアルフィア君が『99%勝てる』って言っているから大丈夫だろうけど…」

 

冒険者としてはほぼ最高位である生前(かつて)のレベル7の暴力には頼れないが、それでも今以上のトップ・ファミリアで培った経験と観察眼は頼りになる。

何より子供たちを溺愛しているが甘やかしたりはしない。誤った判断を下して危険にならないよう、贔屓して過大評価をするようなことはないだろう。

 

眼晶(オクルス)で戦いぶり見せてもらったけど凄かったし…」

 

ダンジョンに頻繁に潜ってもっぱら魔法のテストをしていたがもうほぼ完全に使いこなせているようだ。使える数を考えると的確に手札を切るには高い判断力を求められると思うのだが、それこそ彼女にはあの【静寂】が常についているのだ。

生まれは確かに変わっているかもしれないが…間違いなく良い子だ。ベルもあっという間に絆されたし…とっとと戦争遊戯(ウォーゲーム)を済ませて、闇派閥(イヴィルス)とかいう自身を産み出した悪の地下組織潰しに参加したいらしい。

放置しておくとガチでオラリオが滅びかねないというので心配でもあまり反対出来ないが。今中心になって対処しているというロキの子達に全部任せておけばいいのにと思ってしまう。フレイヤもこれから協力していく方針らしい。

アリス達からの進言で決めたらしいが。ロキからすればびっくりだろう。これまでの彼女からすれば取り敢えずは未だ傍観で済ませそうな段階だからだ。あまり彼女と近くなりすぎるのは良くないと思うのだが…「ベルが狙われている」と言われてしまったし。

「実際に動くのはかなり後のことだろう」と言われたがそれもアリス達が居なかった場合のパターンらしいので楽観視は出来ないとのこと。だから「今のうちにロキ・ファミリアに恩を売りまくって最悪の場合助けてもらう」とのこと。

「都市中に魅了をかけられた場合、『それ』を破れるのはヘスティア様(じぶん)だけ」とかまで言われてしまった。そんな乱暴な手段まで使われるパターンはあまり考えたくないのだが、「アリス(じぶん)は魅了効かないのバレたから『その時』がくれば初手で狙われるだろう」と。

それに「ベルと同じように魅了が効かないアリス(じぶん)はベルのこれ以上にない心の支えになれるだろうからあまりにも邪魔になるだろう」と。「一番手っ取り早いのはアリス(じぶん)が単独で【フレイヤ・ファミリア】を相手取れるくらいになれればいいが今からじゃ流石に厳しいだろう」とも。

「早熟スキル付きの病気のないアルフィア」を想定した場合2年あればそのレベルまで到達するのに充分らしいが、「事は1年以内に起こる」とのこと。その「知識」の源泉は気になるが…

闇派閥(イヴィルス)関連はなんでも「アルフィアがやり残していたこと」らしいが…7年前の事情は聞いた。

決して肯定することは出来ない行いだったかもしれないが、確かな覚悟と信念を持って、より良い未来のために、自身らの命を(なげう)ったその行いなら…頭からは否定も出来ない。

ただ悲しいだけだ。ゼウスやヘラ達が黒竜まで倒せていればアルフィアや今の子達も余計な重荷(もの)を背負わなくて良かったのにと思ってしまう。

アリスの上位の経験値(エクセリア)はもうランクアップ直前まで溜まっている。次の戦争遊戯(ウォーゲーム)の活躍次第で上がるだろう。

というか既に格上のはずの冒険者を下しているのにランクアップ出来ていない時点で彼女の異常さが垣間見えている。

彼女が魔石を埋め込まれた怪人(クリーチャー)とやらなのは驚いたが…「それ」が解決出来る可能性のある研究者とも既に繋ぎを作り、ある程度戻る方法も考えているらしい。

ただ「かなり長丁場になりそうだから近しい者達には順に明かしていく」とのこと。「眼晶(オクルス)はその研究者から貰った」と。改めて彼女のステイタスの写しを見る。

 

 

アリスフィア・クラネルLv.2

力 D 455

耐久F 355

器用C 625

敏捷D 560

魔力SSS1122

 

《発展アビリティ》

対異常:I

 

 

 

スキル

 

対精神干渉(マインドブロック)

神威・魅了の無効化。洗脳・精神干渉への超耐性。

 

 

極大の双魂(オーバーフロー)

魂に合わせて肉体の最適化のために超早熟する。

 

才禍の転生者(アリスフィア)

アルフィアとステータスの共有。技能習得に超高補正。獲得経験値(エクセリア)増大。

 

静寂の記憶(シレンティウム・メモリー)

アルフィアの経験・記憶・技能を自身に最適化して使用出来る。

 

超越界記憶(アリス・メモリー)

少女(アリス)生前(かつて)の見聞きした記憶を自由に引き出せる。

 

 

人怪融合(モンストルム・ユニオン)

異種混成(ハイブリット)(力、耐久、敏捷に成長高補正)

超越界律(ネオ・イレギュラー)

神理崩壊(ステイタス・バグ)【アリスフィア】により無効化。ステイタス表記は正常化される。

劣化穢霊侵食((イミテーション・アニマ・イロージョン)【マインドブロック】により超軽減中。

 

 

【強化種】

魔石捕食でアビリティ向上。精神汚染進行。

 

 

 

自己再生(オートリバース)

治癒力の向上。魔力を消費すると再生力を更に向上。

 

 

四半精霊(クォーター・スピリット)

【魔力】に常時補正(大)、成長にも補正(極大)。

 

魔法

【サタナス・ヴェーリオン】

福音(ゴスペル)

スペルキー【炸響(ルギオ)

「音属性」速攻魔法。

 

 

静寂の園(シレンティウム・エデン)

 対魔法防御魔法。

魂の平静(アタラクシア)

 

 

【マギアレコード】

 

召喚魔法(サモン・バースト)。この世界の既知の魔法を自由に扱える。詠唱文は可変。

 

()早熟の表記を考えるとベル以上の成長速度だろう。しかも他にも更に別の経験値補正スキル…実際基礎アビリティは恐ろしい速度で上がっている。

魔力が特に増加量が大きいみたいだが。使用する魔法からして、絶対注目されるのにそれに加えベル以上の成長速度、表向きの「アルフィアの娘」という出自、更にはあの容姿だ。

遠からず単独で【ロキ・フレイヤ】に存在感だけなら並ぶような冒険者になるだろう。個人の実力なら【猛者(おうじゃ)】も越え得る。

普通なら「零細なら持て余すだろう」と言われそうなところだが、というかロキあたりは実際に言ってきそうだが、彼女にはあのアルフィアがついているのだ。

そのままだったら不穏すぎるであろう、スキルの名残が残っているが、アルフィアのお陰か、彼女自身の魂のお陰か今はかなり安定しているようだ。

闇派閥(イヴィルス)なんて所に居ればその限りではなかったろうが…彼女自身のステイタスに、魂に触れ、今すぐどうこうなることは無さそうということが理解った。フレイヤの見立ても似たようなものだし。

アルフィアの経験や戦闘スキルも引き出せるから本当に隙がない。しかも何故か「多くの魔法の詠唱文が既知」だと。彼女の前世(かつて)とやらが関係あるのか、それとも闇派閥(イヴィルス)繋がりか。

未だそのあたりは当分明かしてくれるつもりはなさそうだが。実際にアルフィアの膨大な戦闘技能の中から最適化した剣術をベルに伝えるなど他の者も恩恵を受け始めている。

ダンジョンに同行すれば「回復役(ポーション)()らず」とも。アポロン如きにどうこう出来る器じゃない。そして何故かやたら自分を信頼してくれている。

自身も善良な部類という自意識くらいはあるが、地上の人間にはすぐに判るものでもないだろう。最初から信頼MAXだったのが謎である。或いはアルフィアがヘラあたりから何か聞いていたのか…

本当のところは「悪い逸話がないから」「善良なのを読者として知っていたから」「十二神の中じゃ影薄かったけど貴女自身のお陰で『紐神』として知名度上がりました」とか言われた日にはどんな顔するだろうか。

アルフィアは実はちょっと楽しみにしていた。

ちなみにリリルカは既に改宗(コンバージョン)をしていた。

アリスが付き添いしただけで正史(げんさく)と大差なかったのでほぼ語ることもない。

当然神酒(ソーマ)程度で酔うことはなかったが。寧ろ現代知識から少しダメ出しもしてしまった。いくら腕が良くて神威の類が染み込んでも

純粋な知識量と技術は現代の酒造の方が上なので純粋な味では劣ってしまうのは当然なのだが。しかも彼は眷属を酒造りに参加させていない。温度管理等も当然1人では行き渡らなくなるだろう。

あとザニスが無礼だったので軽くボコった。犯罪を犯している上に異端児(ゼノス)のハンター側と繋がりがあったのも知っているので、ウラノスにチクった上で捕縛した。

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)の時期も正史(げんさく)と大して変わらない日取りになり、

アイズとティオナとの特訓は「神の宴」の後に話をつけていたお陰ですんなりいった。というか何回かロキの幹部陣やロキ自身も参加・見学に来たくらいだ。

神の前で問答してもアリスの正体がバレることはまずない。

 

「既に高い戦闘技術はアルフィアから教えてもらったものか?」と聞かれれば「そうだ」と言えるし、

「アルフィアの実の娘か?」と問われれば遺伝子的には間違いなく血を引いている上にアルフィア自身が娘として扱っているので自信を持って肯定出来る。

「アルフィア自身がお腹を痛めて産んだ子か?」と聞かれたらノーになるが、複製体(クローン)の概念なんてこの世界ですんなり理解出来るのが一部の研究者と医神くらいのものなので、そんな方向を疑う者はまずいない。

というかその概念が広まっていたとしても失礼すぎる質問だ。

 

アイズとティオナはベルとアリスを鍛えていた。というかアリスに関しては純粋な技量だけなら既に2人を上回っていた。タイマン、2対2や2対1など形式を変えて様々な形式で鍛えられた。アリスは魔法のみでだったり剣でのみだったり、戦法を変えて対応していた。

そしてそんな奮起する有望な後輩達を見せられれば彼らも冒険者だ。「自分も」と参加したくなるだろう。フィンが最初に加わったのを皮切りにティオネ、ベートと続き、今はガレスがアリスと戦いベルは休憩しながらそれを眺めていた。

 

「うわあああああああああああああんガレスさんは反則ですって!今の私の出力(パワー)じゃビクともしませんし!」

 

「いや結構痛いんじゃぞ?お主の魔法…というか本気で倒す気なのか…お主は」

 

「もう怒った!【永伐せよ、不滅の雷将】!」

 

「おい待てそれは」

 

「【ヴァリアン・ヒルド】!」

 

並行詠唱しながら小柄な体躯を利用して潜り込み、至近距離でその雷魔法をぶち当てる。ドゴォンと轟音が鳴り市壁の一部が黒焦げにる。無駄なくガレスに収束して当てることで、周囲が崩れることはなかった。

 

「あ、ヤバッやりすぎた…?」

 

「…っなんてやられるわけないじゃろぉがぁ!」

 

プスプス焦げた音を立てながらガレスが再起動する。そうして結局捕まり意識を落とされるアリス。

 

「うわ、『他人の魔法使える』ってホントだったんだ…起動詠唱無かったからレフィーヤより発動早いし…」

 

「ねえ、ガレス今…」

 

「ああ…ちと意識とんでたな」

 

「「うそっ!?」」

 

「儂以外のレベル6が受けたら…まあ倒されておったろうな…」

 

そもそもガレスのようなタンクタイプ以外だったらば速攻で落とそうとしているため喰らわない。模擬戦でもなければそもそもガレスも喰らっていない。

 

「恐ろしい娘っ子じゃ…敏捷も並行詠唱の腕も高いから、素早い者でも集団戦なら躱すのも難しいじゃろうな…」

 

「私も見に来ておいて良かったな…模擬戦闘ばかりじゃ大味な魔法ばかりの私じゃ何も出来ないと思っていたが…」

 

「レベル3もすぐだろうね…本当に楽しみだよ…対闇派閥(イヴィルス)でも間違いなく使える…」

 

「フィンさんっ皆さんっ!もう1回お願いしますっ!充分休めましたっ!」

 

ベルが奮起する。ベルにはまだ誰にも言っていない一つの目標が出来ていた。「母と妹(アルフィアとアリス)を守れる自分になりたい」というものだ。

かつて居た唯一の大切な家族(おじいちゃん)は訳が分からない内に自分の知らない所で亡くなってしまった。もう2度あんな想いをしたくないと思っていた。

自分と同じ冒険者になるならこれからずっと近くに居ることになる。アリスが物凄く強いのは知っている。あの義母が「いずれ間違いなく最強になる」と断言し、今回の敵の団長も事も無げに下していた。

「彼女を守る」というのなら彼女より弱くては話にならないだろう。憧憬(アイズさん)も最初から凄く強かったし、お義母さんもメチャクチャ強かったらしいし、(アリス)までコレって…

自分はこんなのばかりでいつもちょっと締まらない。「助けに行ったお姫様に助けられたアルゴノゥトみたいだ」と。「(アリス)と隣りで戦うのに相応しい自分に成長出来ればいずれ憧憬(アイズさん)にも相応しい男に」と活を入れる。

まだまだ(アリス)にも戦闘技術で遠く及ばない自分でもせめて気持ちだけは負けないようにと格上を相手にし続ける。

何より自分も間近でアポロンの色欲の篭った眼を見たのだ。アレは自分にも向いていたこともあって生理的に無理すぎた。あの毒牙に大切な2人をかけさせるわけにはいかない。

 

「ハハハッ!やるじゃねェか兎野郎ォ!」

 

何度吹き飛ばされて地に伏しても立ち上がり果敢に攻める。けれどいつ如何なる時も雑にならないよう意識し、頭を回すことを止めない。「技」の重要性はアリス達からみっちり伝えられた。

ベートは戦闘スタイルがベルに元々近いこともあって、物凄く()()()()()()()。絶対口には出さないが「大切な女を守るため」という気持ちも共感するところだ。彼は「守れなかった側」だが。

泥臭く相手に喰らいつき、地に伏せても相手を()めつけながら再び立ち上がってくるその根性も凄い好みだ。

自分と違ってその「大切な女」は恋人じゃなくて妹だし「女のほうが強い」なんて締まらない状況もあって何もかもが同じというわけではないが…

まああんなに強い女ならそもそも死ぬような状況がほぼ考えられない。間違いなくアイズよりも強くなるだろうし。

 

意識が戻ったアリスはそんなベルを眺めていた。

 

やっぱ戦闘スタイル似ていますよね…能力的にはヘディンより彼のほうが師匠に相応しくないですか?

 

(あの陰険エルフにも駄犬にもベルはやらん!絶対に絶対にだ!)

 

うわぁ…これは絶対面倒臭い姑になるよなぁ…




お義母様「死んだフリしてベルを無駄に悲しませたあのクソジジイはいずれ処さんとなぁ?」

妹ちゃん「お供します…!」

アイズのあたりは大体原作と同じ、買い出しはティオナじゃなくリヴェリアとかがやってました。
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