「更新終わったぞノクス」
「ありがとうアルテミス」
24階層の出来事の後。フィンさんに詳しい報告などをした後日に俺はステイタスの更新をしてもらっていた。とは言え更新したところであまり変化はないだろう。
ノクス・リータス レベル5
力S999
耐久A892→893
器用SS1011
敏捷SS1107
魔力SS1127→1128
混沌I
剣士H
復讐鬼I
加速G
「ここらがやっぱり頭打ちかな」
元々ステイタスの成長速度はファミリアの中でも異様に速かった。しかし、どうしたってここまでくると限界がある。
「耐久は相変わらずあまり上がらないな」
「まぁ、攻撃を貰うこと自体が少ないしそこはしょうがないさ」
アルテミスの言う通り、耐久のステイタスは今も昔もそう上がらない。スキルの影響も一つだろうが、ノクスは基本的にスピードアタッカーである。それゆえに大前提として攻撃はほとんど貰わないので耐久がほとんど上がらない。とは言え当たらないのなら上がらなくてもいいのでわざわざ上げようとも思わない。
「そうだノクス。今日新しい剣ができるとヘファイストスから聞いている。一緒に行かないか?」
「あぁ。剣をけ取ったら街でゆっくりしよう」
こうして今日の方針は決まった。ロストヴェインの事もあり、もう一振りにも期待と同時にまたしても神器としか言いようもない武器を所持する事にある種の不安にも似た思いを覚えながら家を出る準備に取り掛かるのであった
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「いらっしゃいノクス、アルテミス」
「お邪魔してますヘファイストス様」
「こんにちはヘファイストス」
アルテミスと二人でヘファイストス様の部屋に訪れると待っていたと言わんばかりに迎え入れられる。いや、今日渡せるという事なのだから当然の事だろう。
「さて、早速剣の方を渡すわね」
そう言うとヘファイストス様は来客用にしつらえられた対面の席から立ち、執務用の机上に置かれた一振りの剣を取り再び座るとノクスの前に差し出した。
「銘は『魔剣クレシューズ』よ」
「クレシューズ............」
差し出された鞘に収められた剣は恐らくロストヴェインと同形だ。しかし、鞘と鍔に刻まれた意匠はロストヴェインが龍のシンボルに対して狐を模したものであり、またその鍔と柄の色は金色のロストヴェインに対し月の輝きにも似た銀色である。
手に取ると重みはロストヴェインと変わらないだろう。だが、しかし不思議とロストヴェインとは異なり持った瞬間からまるでずっと使い続けていたかのように馴染む。
「その剣はロストヴェインとは違う部分があるの」
「違う部分ですか?」
「えぇ。当然魔剣としての能力は勿論だけれども素材にアルテミスの髪と
「そうなんですか..............ん?待ってください。髪もですが俺の血をどこで?」
聞き入っていたが見逃せないことが一つ。自身の髪と血をどこで入手したかだ。百歩譲って髪はまだわかる。だが血なんて取られれば気が付くはず............
「すまないなノクス。寝てる間にこう...........チクっと」
はい、気が付きませんでした。アルテミスの前とは言えいささか警戒心がなさすぎる自分に驚く。それによく考えてみれば俺はスキルの影響もあって回復が早いので軽傷なら跡も残らないし、冒険者でもあるため痛みに耐性がある以上チクっとされたぐらいじゃ気が付くわけもない。
「いやまぁいいけど............なんか回復が早いてのも考え物だな」
まぁ、状態異常も無効なのでそう言う暗殺もされないが何とも言い難い気持ちだ
「ふふ.........相変わらず仲がいいわね」
そんなヘファイストス様の言葉に少し照れる
「さて、素材の事については話したわね?その剣は詰まる所貴方だけの一振り。貴方に最も適した剣と言うわけよ」
「成程.........主神の血と髪、俺の血と髪が含まれてるからこんなに手に馴染むんですね」
いわば自身の分身。この不思議としっくりくる感覚も納得だ
「さて魔剣の能力についてだけど、その魔剣能力は『超集中力』よ」
「『超集中力』ですか?」
その言葉だけでは能力が理解できず、聞き返す
「そうね...............ノクス。貴方凄い調子がいいと感じたことないかしら?例えばモンスターの動きがよく見えるとか」
「そうですね...........確かにありますね」
言われてみると、意識はそこまでしたことはないが確かに相手の動きがよく見えて先読みが冴えるときなどはこれまででいくらか経験がある。
「つまりはそう言うのを自発的に起こせる...........もっと大げさに言えば自発的にリミットオフを使えるようにできるの」
「それはまた........」
要は神経と集中を極限まで研ぎ澄ます能力と言う解釈だろう。確かに派手な能力と言うわけではないが、明らかに図抜けた力である
「その魔剣はね。説明した通り貴方に最も適した剣。それは能力もそう。その魔剣の能力があれば貴方の攻撃はもっと自由に、もっと広く、もっと速く、もっと正確な攻撃を可能にするはずよ」
「...........」
この剣があればもっと強く...............いや、違う。ただ切れる手札が増えただけだ。勘違いしてはいけない。この剣やロストヴェインは俺が今まで取れなかった手段を増やしてもらえただけに過ぎない。強くなるにはやはりランクアップしかない
「ノクス?」
「いえ、ありがとうございます。本当に」
「.........礼はアルテミスに言いなさい」
そう、本当に感謝を伝えるべきは俺の背中を押してくれるアルテミスだ。そのアルテミスの為にも............彼女をもう二度と危険から逃がすのではなく、その危険を打ち払うだけの力を身に着ける。
「アルテミス。本当に.............本当にありがとう。俺は今度こそちゃんと守れるように強くなるよ。ヘファイストス様の打ってくれたこの剣.........アルテミスのくれた剣でもっと強くなる。絶対に」
そして、思い出した自分の
(そうだ............俺は負けず嫌いなんだ。アイズにも..............フィンさんやリヴェリアさん、ガレスさん達にも負けたくない)
森にいた頃はずっと守ってくれた家族たちを守りたい..............いや、強くなりたかった。そうすれば捨てられた自分に価値があると思ったからだ。守るという行為に自分の価値を見出したかったから。
そして...............
「あぁ。強くなるノクスの事を私はずっと応援している。けど、あまり無茶はしないでくれ。ノクスは私にとってただ一人の大切な
そんな様子を見ていたヘファイストスは相変わらずの中の良さに口が甘くなると呆れ半ばに2人を見ているのであった
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「久しぶりやな~アルテミス」
「久しぶりだなロキ。相変わらずそうだ」
ノクスが武器を受け取ってすぐの事だった。今度はロキ様とフィンさんがヘファイストス様を尋ねてきた。内容は遠征の件だそうで、同行する者としてフィンさんに一緒にどうかと聞かれたので今はヘファイストス様の執務室から離れ、とある鍛冶師の工房へと訪れる道中だ
「にしても............なんや変わったなアルテミス。こう...........柔らかくなったちゃうんか?」
「どうだろうか?..............でもそうだな。もし私が変わったとすればそれは彼のおかげなのだろな」
「成程なぁ...........あの恋愛アンチが惚れたあの子は相当のモンちゅうことなんやろうな」
アルテミスとロキの二人は嘗てのお互いの姿を思い浮かべて世間話をしながら、かつて持ち掛けられた同盟についての話を少ししているようだった。
「ノクス。その二振りの剣がもしかして?」
「はい。新しい剣です」
「君の方も間に合ったようでよかった。それにしても凄まじいい業物だね」
流石は長く冒険者をしてるだけあり、武器の目利きがいい。鞘に収まった状態でもその剣がどれほどのものかを悟る程だ。
「はい。前にも話しましたが自分の武器はヘファイストス様手ずからの物ですから。とは言え、今回のは干将莫邪の比じゃないですけど」
干将莫耶自体が相当の業物であり、ノクスの魔法を付与して戦うスタイルに合わせた素材の選択から剣としての能力も一級品だ。しかし今回の剣はそれをはるかに凌ぐ。
「見て分かるよ。その魔剣..............いや、魔剣を超えた神器と言うべき武器だね」
「それはそうよ。神が打った剣だもの。魔剣はあくまで人の尺度だし」
そんな会話に入ってきたのは制作者本人であるヘファイストス様だ
「並大抵の人が扱うには過ぎた武器を打ったわ。でも、それをノクスなら扱える。この子は本当に鍛冶師からすれば何よりも嬉しい位に武器を大切にしてくれるもの」
ヘファイストスがノクスに作った主武装は干将莫耶と今回の二振りのみ。干将莫耶はオラリオに来てほぼすぐに打ったのでおよそ4年は使い続けているが、剣に付きまとう諸々の消耗は驚くほどに少なかった。しかもノクスのステイタスの成長速度を鑑みてもそれは異常なほどだ。
勿論ヘファイストスの腕がいいのは事実だ。何せ鍛冶の神なのだから当然である。しかし、それでも物には限界がある。だからこそノクスの武器の手入れやそもそもの扱いのうまさが常人離れしていることも事実だった。
「この剣は神器よ。人が扱うには度を過ぎた武器..........けれどノクスは扱いこなすもの。ホント、武器を大切にしてくれてるだけでも鍛冶師として嬉しいのに完璧に使いこなしてくれるから彼の武器は他の誰にも任せたくないわ」
執務室を出る前、ロストヴェインの様子を見たことを思い出しファイストスは本当に嬉しそうにそう話した。
ノクスの仕様に合わせた武器でもそれを想像以上に扱いこなすのだからこれほど嬉しい事はないのだろう。しかもそれが神器...........例えノクスに合わせて考えられたバランス、重量、素材を用いられていても人が扱うには度が過ぎた代物である。そうであろうとしっかり扱いこなしたのが剣を見て分かった時のヘファイストスの気持ちはきっと同じ鍛冶師でも味わうことができないであろう
「月並みだけどノクスは天才的に武器の扱いが上手いわよね。前に私に作らせた巨大な
「あぁ、
嘗て諸事情ありファミリア同士の対決である
「流石に数的不利が酷いので雑ですがアレが最善だと思ったので」
「凄い暴れようだったから僕もあの時はよく覚えてるよ。ノクスは槍も扱いが上手いみたいだね」
それはもう凄まじかったとフィンは当時を思い返す。それでオラリオの住民や一部冒険者から畏怖や狂暴な戦士と思われていたりする。
「何ていうかどの武器も一度持てば最適な扱い方がわかるんですよね。あとは自分の戦い方にそれを落とし込むだけみたいな感じで」
昔からどうも武器の扱いが感覚でわかるのだ。流石にロストヴェインはこれまでのどの武器とも次元が違いすぎて感覚にズレがあったが、そのズレも感覚として理解できるしどの武器でも普通に戦える。
「まぁ、冒険者として武器は何でも扱えるようにしといたほうがいですしね」
(ノクスの銀髪.............光の加減では灰色にも見える。まさか、ね)
そう言って笑うノクスにヘファイストスはやや呆れたような表情であり、フィンはノクスのよく目立つ髪色にどこか過去に相対した一人の強者と姿を重ねるのだった
「おぉ〜主神殿に
そう言って工房に迎え入れてくれた鍛冶師は椿・コルブランド。彼女はヘファイストス・ファミリア団長を務めるレベル5。鍛冶師でありながら自身で打った武器の試し斬りを繰り返してそのレベルに至った。他の鍛冶師や冒険者からすればただ一級の鍛冶師と言うだけでも驚異的なのにそれ以上の鮮烈さを持つ人物だ。
「はじめまして椿さん。お噂はかねがね」
「それはこちらのセリフだよ
.........」
挨拶をするとそれ以上に腰に吊った双剣にすぐ目をつけた。とは言え当然と言えば当然の反応だろう。何せこの剣はここオラリオに存在するどの武器とも次元が違う。
「はい。魔剣でありながら決して壊れることの無い神器。神器魔剣ロストヴェインと神器魔剣クレシューズです」
「..........さすがは主神殿だ。なんともたまげたものをお作りになる。とは言え、これを使いこなすお主も大概だな」
おなじ鍛冶師の端くれ。椿にもこの次元が違う武器を使いこなすことの出来る使い手だとひと目でわかる。そしてそれが出来ることがいかに常人離れしているかも。
「椿。言っておくけどノクスの武器を作っていいのはこの私だけよ」
「主神殿も人が...........いや、神が悪い。こんな使い手を前に武器を打ってわならんとは..........鍛冶師にとって一番辛い事ではないか」
椿もノクスの武器を打ってみたい、自身の最高を注ぎ込んだ一振りをどこまで使いこなすのかという鍛冶師としての探求心と興味が沸いたが、すかさずヘファイストスに釘を刺されお預けを食らう。
「彼の武器を打つ喜びはすべて私のモノよ」
「かぁ~主神殿よりも先にお主とあっていればと後悔するっ!」
それから雑談を少々した後、遠征についての話し合いを進めていく。その後丁度時間があるという事でノクス達........と言ってもノクスだけのアルテミス・ファミリアとロキ・ファミリアの同盟について話になった
「せや、アルテミス。ウチが同盟持ち掛けた話は聞いとるか?」
「あぁ、聞いている。その件については私に異論はない」
事前にそのことはアルテミスにも伝えてある。こちらの状況としては特にデメリットというものはないし、寧ろ今回のように遠征に参加できたりするのは割とメリットだったりする。探索系のファミリアであるアルテミス・ファミリアはノクス一人だが、かつて戦争遊戯で中堅派閥を一人で下したことの弊害で等級がDとなってしまった。D級以上になるとギルドから遠征の強制任務が課される。しかし、それでも一人は一人な為に通常の税金よりも少々の上乗せで免除されているわけだが、なんだかんだで税金もそれなりに持っていかれる。
お金に困ってるわけではないし、割と蓄えもあるがそれでもこういう稼業なだけに入用になる事や諸々の心配なだけに大きな派閥の依頼と言えど遠征に入ってることになるので上乗せ分を消せるだけありがたくもある。
「まぁ、同盟言うてもお互い気軽に助け合う..........今回の遠征の件みたいな感じやな。後はフィンから少し聞いとるかもしれんが少し厄介な件に関しても力貸してくれると助かるな」
「厄介な件........あぁ、新種関係か?」
アルテミスが少し考えた後、以前話題に上がった新種の件だという事が思い当たった。ノクスも新種に加えこの間の調教師の件やオリヴァスの事などだと、ここ最近の事件の数々を思い返す。
「せやせや。かなりきな臭い問題になっとるみたいや。ウチの子も巻き込まれとるし、黙ってられん状況やな」
「下手したらオラリオの危機になりかねない感じじゃないですか?」
オリヴァスはこのオラリオを滅ぼす気でいた。彼一人でできると思えないし、恐らく神が一柱、或いはそれ以上絡んでいる可能性だってあり得るだろう。それこそ闇派閥に与している者等を考えればかなり頭の痛い問題だ。
「ノクスの言う通り。このまま放置は最悪のシナリオをもたらす可能性があるのは否定できないね。他派閥の君を巻き込む形になっているのは申し訳ないけどね」
「気にしないでくださいフィンさん。アルテミスにだって危険が及ぶ可能性がある以上許容できるはずがない。相手が誰だろうと、どれだけ強かろうが関係ないです。全霊をもってアルテミスを守り、敵を排除する............それが俺の一番ですから」
ノクスが強さを求めるのは残された家族、託された彼女を守るため。もう二度と家族を大切なものを失わない、大切な彼女の笑顔を守る事こそが根底の理由だ。そして今回の件はそれ故に無視などできるはずがない。
「「「.............」」」
「?どうしたんですか?」
ノクスがはっきり言い切るとアルテミスもみんな全員驚いたような表情で固まっていた
「.......いや、そうだね。ノクスの言う通り我々の大切な存在の為に今回の件は解決しなくてはならない」
「いやぁ~中々かっこいいでぇ~こりゃ、アルテミスがこうなるんもわかるわぁ」
フィンさんはどこか眩しそうにそう言い、ロキ様は感心と揶揄うような悪戯な笑みでノクスの決意の言葉に対しての感想を零した。そして、肝心のアルテミスと言えば──────
「.............ふふ、そうか.......一番か............ありがとうノクス。私もノクスが一番だ。だからと言って、くれぐれも無理はしないでくれ。私もノクスが傷つく姿は見たくないからな」
ノクスの言葉をかみしめるように、優しくあたたかな笑みを浮かべた。その頬は僅かに朱がさしていた。
「あぁ。努力するよ」
そう、傷つくことでも彼女は悲しむ。例えノクス自身が屁でもないと思っていることでも傷つけてしまうのだ。
だからこそ強く、強くならねばならない。あの〝猛者〟にだって劣らない、揺るがぬ強さを
(今度こそ......今度こそ何もかも失ってやるもんか............俺が絶対に守るんだ)
何よりも大切なアルテミスを、大切な存在達を守る為にノクスは決意を改め、来るその日.........そして直近の遠征に備えるのであった。