アイズを信じ、ノクスらはさらに先を行くと遂に最奥へとたどり着いた。
そして眼前には──────
「これは...........」
食糧庫最奥にある柱に食人花の蛇の様な動体が巻き付いている。察するに柱から養分を得ているのだろうか?それに加えて..........
「あの宝玉は!?」
ルルネが気が付いたように、柱には18階層で赤髪の調教師が求めていた宝玉が埋め込まれている。わかってはいたが赤髪の調教師が関わっているのは間違いない。
「.............出て来い。隠れてるのはバレバレだ」
ノクスは柱の後ろに気配を感じると声を張り上げる。ヘルメス・ファミリアの面々も警戒を強めると、まるで悪魔のような仮面をつけた人が現れた。恐らく性別は男...........赤髪の仲間だろうか?
「来ると思っていたよ冒険者共........全く余計な手間が増えた」
そう言うと辺りを無数に食人花に囲まれる
「まだいるのかよッ!」
ヘルメス・ファミリアの誰かがそんな声を上げる。ノクスとて同感だが、敵の懐であるならばこれも当然と言うべきだろう。
「アスフィさん。俺が動き回って敵の注意を散らします」
「大丈夫なのですか?」
ノクスはアスフィに対しそんな提案をする。ノクスは完全にはヘルメス・ファミリアと連携は取れない。であれば敢えて単独で注意を散らしていくことが最善と考えた。
「奴らは魔法に反応する。魔法を使いながら自由に動ける俺が動けば動くほど注意が散漫になります。隙をついてあの男を積極的に狙っていくべきです」
男も調教師と考えれば優先して叩くべきは間違いなくあの男だ。ノクスも囮をしつつモンスターの包囲網を潜り抜けて積極的に狙う気でいる。
「わかりました。お願いします」
アスフィもそれが最善手と至り、すぐさま陣形を整える様ファミリの面々に指示を出す。ノクスは直ぐに迅雷を使って白い雷を剣もろとも自身に纏う。
「全員迎撃開始!」
アスフィの合図と同時にノクスもまた閃光の如く駆けだす。
やはりと言うべきかほとんどがノクスの魔法に吊られ反応を示す。荒波の如く濃密且つ圧倒的な物量の攻撃がノクスに迫る。
(えげつない量だな..........けど)
シュバババババッ!!!!
雷鳴閃くと触手やモンスターの身体は綺麗な切断面を残してバラバラに斬り刻まれる。ノクスの速さはオラリオでもトップクラスだが、それだけで圧倒的な物量差は覆せない。しかしそれを可能としてるのはロストヴェインのありえないまでの性能だ。他のモンスターと比較しても堅い筈の食人花の外皮がまるで溶けるかのように切断できる。
(...........ありがとうアルテミス。これならやれる)
アルテミスに感謝の念を抱きながらノクスはさらに激しく、さらに自由に駆け巡る。
「す、すげぇ...............」
ヘルメス・ファミリアの一人がノクスのまさに雷速ともいえるその剣技、その動きに思わずそんな言葉が零れ落ちた。だが忘れてはいけないのはノクスはこれでまだ最速ではないという事だ。実像分身による弊害がヘルメス・ファミリアの面々にはまるで感じられないことが他の冒険者と一線を画す技術の証明になっている。
(.............とは言え、ステイタスが通常時より落ちてる分押しきれない、か。なら──────)
だが、ノクス自身の感覚として約一歩分の速さが足りない。だから押しきれない。通常時なら後ろにいるヘルメス・ファミリアの負担を考慮しても押しきり、調教師の懐に入り込むだけの自信がある。だが、それが出来ない。
出来ないからこそ自身の役目は──────
「【
剣に追加で風を纏わせ、ノクスは一旦足を止め攻撃を一点に誘い、それを寸前で後ろに軽やかに回避すると剣を引き絞る様に構える
風と雷.............この二つの特徴は速度と貫通力。獄炎の破壊力と別次元での破壊力を誇るそれを組み合わせれば最強の鉾となる。
「瞬滅閃」
ノクスの空間ごと穿つような突きと同時に白い雷槍が瞬く間に伸び、纏う荒れ狂う風が一気に食人花の波に着弾すると同時に細々に斬り刻み包囲網に穴をあける
「今だッ!!」
「ッ!!『タラリア』!」
ノクスは自分単身で調教師を狙いに行くのは不可能と判断し、隙を作ることを選択した。隙を作りさえできれば、アスフィさん...........彼の【
アスフィがくるぶしに手を添え唱えた瞬間、彼女は宙を翔る。
一息にアスフィは調教師の男との間合いを詰めにかかるが、数多の食人花がまたも生え、そしてアスフィに殺到する。
「させるかよ」
再びノクスは風を纏わせた突きをアスフィに向けて放つ。但し、敵を穿つそれではなくアスフィを守るための風の通り道を作る。
(もらった)
アスフィはノクスの援護を受け丸腰の男に短剣を振りかざす。確実に獲ったとアスフィは確信した。そしてそれはノクスも同じ。
しかし──────
「.........」
「!?」
(素手で掴んだ!?)
男はなんと刀身を素手で掴んだ。しかも、刀身を掴んだにもかかわらず掌が切れた様子もない。いやそれ以上に、彼女はレベル4だ。その速さによって放たれた突きを片手一本、それも微動だにせず受け取めた男の膂力に不気味さを覚える。
「ふんッ!!」
すると男は空いた片手をアスフィの細い首を掴み、その体を地面に投げつけ叩きつける。そのまま転がりながら吹き飛ばされたアスフィは体勢を翻し、地面にしっかり踏みとどまろうと踏ん張る。
「くっ..........」
直ぐに迎撃姿勢を整えるアスフィ。だが、男は恐ろしい速さで──────
「フッ!!」
「...........流石に速いな【
瞬時にノクスは包囲網を潜り抜けアスフィを咄嗟に抱きかかえ距離を取る。男は信じられない速さでアスフィの背を取り短剣を構えていた。
「........読み通りの癖に」
ノクスはそう言って脇腹に突き刺さった短剣を勢いよく引き抜いた
「ノクスさん!?」
「大丈夫。かすり傷です」
男はノクスが助けにくるのを読んだうえで、ノクスにその刃を振るった。アスフィを助けに入ってくると読んで尚且つ、ノクスの迅雷の速度を
(痛いけど俺は分身体...........それに傷は浅い。けど、見切られた。俺の速さが見切られた)
確かに約一歩.........たった一歩分だけ遅い。けれど、見切られているとは思わなかった。それだけ実像分身のリスクを実感させられる。基本ソロのノクスにとって非常に便利な能力である反面そのデメリットを実戦で実際に痛感できたことは今感じる痛み以上に大きな財産だ。
「ヒュゼレイド・ファラーリカ」
その瞬間だった。美しい声と共に大量の火の矢がモンスター共に突き刺さり爆ぜる。
「来たか」
「ノクス!!」
振り返るとそこには
そして...........
「何やられてんだ」
「うっせ」
もう一人の俺だった
*************
「ザマないな」
俺は俺に誹られるといった不思議な体験をしていた。とは言ってもこの様では無理はない。己を少しばかり過信............いや、焦っていたのだろう。アイズに追い越されたことが自分を知らず知らずのうちに焦らせていたとは
「わかってる。早く解け」
分身体の俺が本体に告げると靄のように消えた
「..............体が軽い」
分身が消えた瞬間、身体の違和感が消え軽く感じる。たった一人の分身でも違和感を覚えるのだから複数出せばどうなるか............この魔剣を使っていく上でしっかり考えないと命取りになると改めて認識する
「ノクス大丈夫ですか?怪我をしていたようですけど...........」
「説明した通りあれは分身、問題ないよ」
「おい、アイズはどこにいる」
「アイズはあの赤髪の調教師に分断されたみたいだ」
ノクスの様子を伺うレフィーヤに問題ないと告げ、ベートの問いに対し分身の記憶から事の背景を理解し、この場にいないアイズの事を伝えると男を睨みつける
「ここは何ですか?貴方は一体何者ですか?」
一息空いたところでアスフィの問いに男は応える
「ここは
モンスターがモンスターを生む。聞いたこともない事象をさも当然の理のように男は告げた。しかしそれ以上に男の言葉から察するに目的は.......
「つまり、お前の目的は..........」
「フン..........あぁ、地上を滅ぼす。目的などこれの他ない」
「なっ........」
その場にいる者達はその一言に絶句した。ノクスも皆も想像していた内容だが、その様な暴挙をさも当然という男の態度に絶句したのだ。
「地中深くに眠る『彼女』が叫んでいるのだ!!地上に出たいッ!空が見たいッ!太陽の光を浴びたいとッッ!!!」
狂気的に男はわけもわからぬ事を叫ぶ。とは言え、要は食人花を地上に放ち蹂躙するという事だろう。まるで嘗てオラリオに混沌をもたらした
いや、もしかするとこの男──────
「お前、
「ほぅ..........貴様は疎いと思っていたがな」
間違いなくそれはノクスの予想に対して肯定的な言葉だ。とは言えノクスがオラリオに来たのは
故に、この瞬間。ついに男は仮面で隠したその素顔を晒したが、ノクスには正体はわからない
しかし、彼女は別だ
「オリヴァス・アクト..........」
フィルヴィス............彼女だけがまるで亡霊でも見たかのように眼前で狂気的な笑みを浮かべる男の名を零した。
「オリヴァス・アクトって確か...........!」
ルルネやアスフィ等、何人かはその名を聞いて戦慄したかのように顔をゆがませた。しかし、レフィーヤはどういう事かわからず周りを伺うとノクスが確かめるように言葉を紡いだ
「..............確か【
「知っているんですか?」
「フィンさんから名前とかは聞いたことがる。奴は...............『27階層の悪夢』の首謀者。当時、ギルド側に追い詰められモンスターに襲われ死亡。死体も確認済み、と聞いている」
レフィーヤの問いに嘗てフィンにきいたオラリオの暗黒期についての話を思い出しながら口に出した。だが、レフィーヤにとって死亡済みの情報よりも『27階層の悪夢』の言葉にレフィーヤは隣の彼女を見やった
「っ..........」
隣りの彼女は憎悪に満ちた表情でその男を睨みつけていた
「そうだ!貴方は『27階層の悪夢』で死んでいるはず!何故ここにいる!?生きていたというのか!?」
冷静なアスフィも大声を上げて眼前にいる亡霊に問う
「あぁ。私はあの時一度死んでいる。しかし、彼女によって私は蘇った!!」
そう言うとオリヴァス・アクトは纏っていた白いローブを脱ぎ捨てると、丁度心臓の位置する場所の皮膚から魔石のようなもの............否、まごうこと無き魔石がせり出した
「.............人とモンスターの混成体と言う事か」
「あぁ。私は彼女から第二の命を貰いうけたのだ!彼女に選ばれた私こそ、私こそがッ!彼女の願いを成就させるのだ!!彼女の為に!地上を一掃するッ!!!」
人を捨てたオリヴァス・アクトにノクスは何とも言えない不快感を覚えた。人を捨てること自体にではなく、常軌を逸した価値観と訳も分からない狂信は受け入れがたいものだった
「よくもあれだけの事をしてのうのうとッ」
そしてそれは当然、27階層の悪夢の生き残りであるフィルヴィスにとってはノクス以上に受け入れがたい事だ。
「あぁ....お前は
まるで道端の石ころでも見たかのようにフィルヴィスのことを見下した。それに激昂したフィルヴィスは瞬間詠唱を始めた
「一掃せよ、破邪の聖杖『ディオ・テュルソス』!」
フィルヴィスはノクスの付加魔法同様の超短文詠唱型の雷魔法を放つ。オリヴァスは避けるそぶりも見せず悠然と片手を魔法の射線上に掲げると、そのまま素手で受け止めた
そしてその魔法をただ手で押し返すだけ弾き返した。その弾き返した魔法はフィルヴィスの手前に突き刺さり土煙と共にフィルヴィスの身体は後ろへよろめき倒れ込んだ
「フィルヴィスさん!」
すぐさまレフィーヤが彼女の元に駆け寄る。
「フン、余興は終わりだ!」
それを見下していたオリヴァスはそう言うと食人花が大量に地中から伸びあがった
「各.....「【
瞬時にアスフィが全体に迎撃を指示しようとした所ノクスが短く詠唱した。
その直後、ノクスの姿は一瞬にして掻き消え──────
「神千斬り」
眼前に現れた食人花の悉くを瞬く間に黒い閃光が切り捨てた
「なッ!?」
「.............正直分身とはいえ見切られたままなのは気に食わないんだ。で、今の俺の動きは見えたか【
この場において個人の満足ははっきり言ってくだらない。この男を捕らえて背後関係を吐かせる、或いは排除することこそがこの場にいる者としての責任だ。
でも、くだらないとしても今は...........アイズに遂にレベルを追い越されてしまったこの悔しさと仕方ない事とはいえ自信のあるスピードを見極められたことの報復をぶつけることはどうしても我慢できなかった
「黒い炎............」
「ケッ.........まだ隠してやがったかクソッたれ」
そして切り捨てられた食人花を焼く黒い炎にヘルメス・ファミリアの面々は恐れ慄くように言葉を零し、一人の冒険者は差を見せつけられたかのようにイラつきを顕わにした。
──────『神千斬り』
まだ嘗てアルテミス・ファミリアがアンタレス討伐の任より以前の事。当時、まだ炎が紅かった頃にファミリアの家族とアルテミスによって名付けられたノクスの必殺の剣技。
神速の域に達する斬撃と強力な炎の火力。獄炎しか使えなくなってしまった今、人前では今の今まで一度も使わなかった封印された技。
ノクス自身に自覚はないが自身の魔法において最も適性のある属性が『炎』だ。証拠に迅雷の加速よりも獄炎による爆発的加速の方が遥かに速かった。分身の影響による一歩分遅れを、本来の速度に戻すどころか軽く超えてしまった。
つまり、当時の技は今本当の意味で必殺技と成ったのだ
「おのれッ!
食糧庫の柱に取りついている四匹がノクスを叩き潰そうとその甚大な質量を誇る巨体をしならせ、振り下ろす。が──────
「無駄だ」
獄炎を纏ったロストヴェインで再び振るうと、オリヴァスやヘルメス・ファミリアらその場にいる面々の目にはただの一太刀で四匹はバラバラに切り裂かれ黒炎に焼かれ痛み藻搔く様にしながらただの灰となる
「なんて早業............これが
アスフィはアイズの剣にもない、ノクス特有の凄み............まさしく天に愛されたとしか思えないその天賦の才に感嘆する。そしてロストヴェイン程の.............それも神器とさえ言える業物を扱うにふさわしい剣士なのだと再認識する。
獄炎と言うノクスの誇る最高の勝ち札を切った以上、もうこの場においてノクスを止められる存在はいない。いや、ノクスが獄炎による副次的影響を完全に克服した今ノクスのその歩みは止まらない。
(レフィーヤには感謝しないとな............これで俺はまだ強くなれる)
こうして精神的影響を克服して獄炎を受け入れることの出来たのは紛れもなく彼女のおかげだ。
「黒い炎..........この炎は一体........」
「ノクスの後悔と覚悟ですよ。..........そして私は優しさでもあると思うんです」
「レフィーヤ?」
ノクスの黒炎の異常性は明らかだ。それ故にヘルメス・ファミリアの面々の一部などはまるで恐れを抱いているように見えるし、フィルヴィスも異常な光景を見るような反応だ。
「..........今はもう憎悪と後悔で染められてしまった黒い炎じゃないんです。過去を受け入れ今この瞬間にも大切なものを守る為にただ純粋に強く優しくあろうとしたノクスの答えがあの炎なんです」
レフィーヤの目にはもう、最初に見た奈落の様な深く昏い闇の炎には見えない。この黒い炎はまるで夜のようで、ノクスの優しい心と強くなると望んだものだと勝手ながらそう思えた。
「おのれッ.....!」
その瞬間だった
この食糧庫の大広間の壁を突き破って二人の剣士が現れた。
「アイズさん!」
そう、アイズと赤髪の女調教師だ。だが、そんなことよりも目を惹くのはアイズのその戦いぶりだ。嘗て辛酸のなめさせられた相手に互角以上に、それも風を使わずに渡り合っていた。
「風を使わずに.............」
「まぁ、心配ないとは思ったけど.............ここまで変わるのかよ」
レフィーヤの憧憬に焦がれた視線とノクスの一剣士としての自身とアイズとの差にそれぞれの感情を覚え、同時に頼もしく感じた。もっともアイズの方はノクスとの差は未だに大きく開いてると考えてる辺りよく似た二人なのかもしれない。
「.......この娘が『アリア』か..........やれ!
「おい!」
「貴様の手におえないから代わりに始末してやるのだ。別に死体でも構うまい」
また5匹地面から巨大な新種がせり出し、内3匹はアイズに殺到し残りはすべてノクスに向かって放たれる。恐らくアイズの支援に入らせない為、通用しないと分かっていてもノクスにも攻撃させているのだろうがはっきり言って彼女を舐め過ぎだ。
「...........馬鹿め」
女の方はそれが理解できているのか心底呆れたように呟いた
「いくよ..........【
彼女の周囲の大気が廻り、風が剣に纏われる。その剣を掲げ一閃すると迫りくるモンスターは容易く切り捨てられる。
「焼き尽くせ」
ノクスの方も剣に付加された獄炎がうねりを上げるや否や閃光の如く煌めき、アイズ同様モンスターを細切れに斬り捨て焼き尽くす。
「.........ノクスその炎何?」
以前赤髪の女に辛酸をなめさせられたあの日に一度だけ見た黒い炎。アイズにとってノクスとの付き合いの中で始めた火の付加魔法に視線をやった
「何って付加魔法だが?」
「私と戦うとき使ってなかった」
「ん?そうだな。危ないし」
(ずっと手加減されてた.........)
アイズの目からしても黒炎を使うノクスは雷や風のそれと遥かに速く、強く見えた。それ故に今まで模擬戦であきらかに手を抜かれ続けたのかとランクアップした筈なのにまるで追いつけていないという想いに駆られる。
とは言え、勿論ノクスに手加減の意味で使用を禁止していたわけではないのでそう言えば黒炎の事言ってなかったくらいの気持ちだ
「...........今度はそれ有りで戦って」
「いや危ないっていったろ?対人で使うモンじゃないし」
「じゃあ使わせて見せる」
「ったく...............」
次手合わせするときは軽い怪我じゃお互いすまない気がする。とは言え今は眼前の敵だ。アイズが合流した今こちらの敗北は万に一つない。警戒すべきはどう詰めるか。
「アイズ。今はそんなことより」
「うん。仕留める」
「
また夥しい数が俺とアイズ、ベートたちをそれぞれ地中から生えあがり囲む。だがここに来たほどの脅威は覚えなかった。それはきっと獄炎を開放し、かつ獄炎が自分に馴染んでる。
「ベート!レフィーヤ!そっちは任せるぞ」
「うるせぇ!こんな雑魚軽く蹴散らしてやらぁ!!!」
「わかりました!」
向こうはベートがいる時点でおつりが出る。それにレフィーヤやフィルビスさんにアスフィさんもいる。だから俺は............いや俺達は──────
「アイズ。風で俺達を囲え」
「?わかった」
アイズは俺の意図がわからないようだが言われた通り風を周囲に強く巡らせる。食人花は当然魔法に反応を示し、こぞってその体を伸ばす。
「馬鹿なモンスター共だ」
炎の力を高める要素は燃料の質。そして〝空気〟だ
「唸れ
獄炎を纏わせた一太刀を風を打ち込み、獄炎を風に乗せる。そうすればさらに火力を跳ね上げ雷轟にも似た音を上げ燃え上がる。
「何て熱量.........まるでリヴェリア様の魔法みたい」
膨大な熱量はまるで遠巻きにいるベートや声を上げたレフィーヤの肌をひりつかせる程。アイズがいなくても自前でできた事だが魔力消耗も激しいので分担できるアイズがいる今使う事を選択した。
「凄い火力.......」
「なっ.........ふざけるな!なんだこれはッ!?」
オリヴァスが声を上げ呻く。
「風は炎に相性がいい。当然だろ?」
ただ、ノクスは内心想定内の燃え上がりで済んだことに安心していた。これ以上に火の手が上がってれば仲間の方がただではすまなかった。
(少し昔に戻った気分だ)
こんな派手な炎の使い方なんて森にいた頃以来だ。元より炎の付加魔法こそが代名詞だったんだと改めて自分を取り戻したように思える
「さて、もういいだろ?そろそろ──────
そろそろ観念してもらおとノクスが言いかけた瞬間だった。目を疑う光景がそこで行われた。どうして俺はその可能性を無視していたのか、と自分を責めるような光景がそこにはあった
「がはっ.........何のつもりだ.......レヴィスっ!?」
女調教師の抜き手がオリヴァスの胸を貫き、その女の手にはオリヴァスに埋め込まれていた魔石を握りしめていた。
「周りを見ろ」
女の視線の先にはその光景を見つめるアイズと冒険者たちがいる
「
「ッ......!フィルヴィスさん俺に短剣を投げろッ!早くッ!!」
「わ、わかった!受け取れ!」
瞬間ノクスは飛び出した。アイツが魔石をオリヴァスから奪った理由は唯一つ。オリヴァスがモンスターの混成体であればあの女も同じ混成体なはず。だとすればモンスターが強化種に至る条件と同じように魔石を喰らえば彼女は──────
「
「チッ.......!【
後ろ手でフィルビスさんの短剣を掴み、直ぐにその剣に雷を付与する。邪魔が入るのは想定内。もう魔石を食う事は止めるは無理だ。だから武器が二本いる。
「邪魔だ!!」
黒と白の剣閃が食人花の全てを切り払う。そのまま直進するノクスの目にはすでに女が魔石を口にする様子が映っていた
「貴様は本当に煩わしいな」
瞬間、霞むようなスピードで女の剣が迫る。アイズとの戦闘を見た時の比じゃない。これはまるでアイズと同じだ。つまりステイタスの面でこの女は俺の上になった
「そっちこそな!」
ステイタスでは到底勝てない。確かに自身の現状のステイタスは総数値だけであれば
「チィ.....小癪な!」
「すごい........」
アイズは目の前で繰り広げられる二人の剣士の戦いに........いや、ノクスの技に魅入られてていた。ステイタス、特に力ではレイルは圧倒的に劣っている。彼女の剛剣と言うべき剣技を、まるで荒波のようなその斬撃の波を全て無風の水面のように捌ききる
(一撃が必殺........けど攻撃は単調。捌ける)
二刀を巧みに操り斬撃をいなし、躱し、先を読んで相手の戦闘のリズムを支配する。剣を交えてわかった。技なら自身の方が格段に上だ
「死ね」
(よし、きた)
しびれを切らしたように女は我武者羅に突きを放つ。それは読んでいる........いや誘導通り
「フッ!」
突きを剣をクロスさせそのまま逸らす。そして女に飛びつき伸び切った女の腕を使い足で首を絞り上げる。所謂、飛び三角締めだ。
「きっ、貴様!?」
「お前の身体は随分と頑丈なできらしいな。このまま締め落としてやる!」
嘗てコイツの身体を殴った俺の指の方が折れた。つまりコイツはそれだけの耐久がある。勿論ロストヴェインなら何ら問題ないだろう。だが、高い耐久を誇る事を踏まえ確実に倒すなら体術で、それも締め技で意識を奪ってから止めを刺せばいい
「ふざ.......けるな!」
だが、当然力は上。振りほどかれそうになる。端から想定内。だから──────
「シッ!」
伸び切った腕を左手で固定し、空いてる右の剣で両腕の腱を切り払う。とは言えコイツの再生能力は織り込み済み。直ぐまた回復してしまう。
だからあくまで締め落としはサブ。メインの狙いは──────
(今だ!胸の位置にあるんだろ!?)
ここまで肉薄し、且つ腕の腱さえも切り裂いた今なら狙える。彼女達がモンスターとの混成体であるがゆえに絶対の急所を
「(コイツ......!)
「ッ..........」
だが、相手とてただではやられてくれない。寸前でモンスターが生えあがるのを見て反射でノクスは距離を取る。
(ロストヴェインの分身を使えば...............いや、この女は相手どれない.....か)
分身を使えば或いは..............ただ、本能がそれを不可能と告げていた。ただでさえ力で劣る自分が拘束しながら急所を貫くのは不可能だと。
まずはモンスターの処理をと考えていると大きな音が響き始める。モンスターの新たな出現じゃない。この音は食糧庫自体の限界だ。
「柱が崩れる!ここはもちません!!皆さん脱出を!!!」
アスフィの呼びかけに皆退避を開始する。ノクスは出現したモンスターを素早く一掃すると直ぐに撤退準備に入る。ここで女を仕留めてきたいところだが止む負えない
「アリア。59階層に来い。そこに来ればお前の知りたい事を知れるだろう」
(アリア?一体何のことだ?)
オリヴァスもだがアイズの事をアリアと呼ぶ。何のことかはわからないが何か引っ掛かりは覚える。けれども今はそんなことよりも撤退を進める必要がある。
「アイズ!早く!」
こうして俺達はどこか消化不良といった後味の悪い思いを抱えて24階層を後にするのであった