人文系大学院生の生態

「人文系大学院生の生態」と銘打っていますが、これはぼくの個人的な回想録です。

ぼくは竹下涼といいます。はじめまして。

ここでは大学院受験から2年間の修士課程でぼくが経験したことを綴っていこうと思います。読者のみなさんがこの記事に期待している事柄はさまざまあると推測します。

①単純に人文系大学院がどういう世界なのか知りたい。
②大学院受験に関するヒントを得たい。
③大学院での研究をどうやって進めていったらいいか知りたい。
等々
あとは奨学金関係のこととか、留学とか。

そういったことについて、ぼくの経験をもとに話せたらいいな思ってます。
とはいえ、これはあくまでサンプルの一つです。ぼくはつねづね人文系の大学院進学についてのサンプルが少ないなと思ってきました。
この記事が同じ思いをしている方の助けになれば嬉しいです。

目次は以下の通り。

1.大学院を受験する

準備:学部4年(夏休み前まで)

情報を集めましょう。

大学院入試(以下:院試)は大学ごとに時期や回数が異なりますが、ぼくが受験した京都大学大学院  人間・環境学研究科(以下:人環)は年に2回院試があります。9月と1月です。

人環の試験は外国語科目と専門科目から構成されています。外国語は英語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・ロシア語・アラビア語等々から二つ。専門科目は、主に論述問題です。

ぼくは学部時代はずっと哲学の勉強をしていました。フランス現代思想をやるつもりで文学部に入学して、紆余曲折あり、いまはイタリア現代思想や美学・芸術学を専門にしています。

大学院を受験しようと思ったとき、選択肢は二つありました。
一つは内部受験。もう一つは外部受験です。
ぼくの場合、イタリア現代思想だったり美学・芸術学に関心があったので、外部受験をすることに決めました。

内部受験の場合だと、学部のときの指導教官にそのまま師事することになると思うので、たいてい面接試験だけでスッと通ると思います(これは大学にもよると思いますが、ぼくの居た大学ではそうでした)。

外部受験の場合だと、自分で新たに指導教官を決めてあらかじめメールを送ったり、ゼミを見学したり、院試を通過したり、いろいろとやることが出てきます。

ぼくはまず大学院説明会に参加しました。受験先の研究科がどういう組織構造になっているのかとか、入試に関する情報なんかが手に入ります。
それから、実際にメールで希望先の研究室の先生にアプローチして、ゼミ見学をしました。

ゼミ見学では、その研究室の院生さんたちの雰囲気をみてみるといいと思います。ゼミの出席率が悪かったり、活気がなかったり、風通しが悪そうだなとか、見学しないとみえてこないことがたくさんあります。できるだけ良い環境に身をおきましょう。
指導教官の質ももちろん大事ですが、強い学生がいっぱい居ることの方がどちらかというと大事な気がします。

勝負:院試と卒論(夏休み以後)

さて、そんなこんなで院試が9月にやってきます。
語学の試験はフランス語とイタリア語。
専門科目は現代美術にまつわるものでした。
次の日に面接試験もあります。

結果はもちろん不合格。まるでダメでした。
まず筆記試験が難しかった。そもそも哲学ばかりやってきたので現代美術に関する知識が圧倒的に足りてなかった。これが主な敗因だと思います。
あとは運。他の年の試験と比べると問題が難しかったと思います。
フランス語もイタリア語も振るわず。語学は得意だと思っていただけに心的なダメージが凄まじかったです。
次の日の面接試験でトドメを刺されました。
「もっと勉強されたほうがよろしいかと思います」。

そういうわけで、不/合格通知が公開される前に不合格を確信したので、さっそく院試の勉強をはじめることにしました。
まずやったことは大学のシラバスを調べることです。ぼくは美術史の講義をしっかり取ったことがなかったので、シラバスに掲載されている参考文献を手当たり次第読むことに決めました。というのも当時は学部4年の後半ということもあり、今から講義を受けることもできなかったので、自分でやるしかなかったのです。
これを反面教師として、受験は計画的にやりましょう。

それと並行して、卒業論文を書きます。
学部の卒論なので、字数さえ足りていれば大丈夫です。書きたいことを理路整然と書きましょう。
ぼくはドイツの思想家ヴァルター・ベンヤミンの初期の言語論と「暴力批判論」という法・政治・社会論を接続して読み込むという内容の卒論を書きました。

卒論の提出が12月のクリスマスくらいだったと思います。それから1月中に口頭試問があって、卒業に必要な単位が取れていれば晴れて卒業確定。単位は多めに取っておきましょう。

さて、またまた院試がやってきます。1月です。
ぼくは正月休みに「大学院行くから就活しません」と親戚の集まりで啖呵を切っていたのでした。なので受からないとヤバいです。

結果はもちろん合格。完璧でした。
まず、9月のときより問題が明らかにカンタン。これはぼく自身がレベルアップしたというのもあるだろうけれど、間違いなく問題のレベルが下がっていました。というか、適切な難易度になっていました。9月の問題はほんとうにヤバかった。
語学試験はまったく問題なし。専門科目の方も本を暗記するレベルで勉強したので大丈夫。さすがにこの成績なら落とされないだろうと確信したので、翌日の面接試験も昼下がりのコーヒーブレイクのような穏やかさで迎えることができました。

というわけで、院試も無事通過。卒業とその後の進路が確定しました。

2.大学院1年目

お金の話

当たり前のことなんですが、大学院に進むにはお金がかかります。
まず入学金、それと授業料。一人暮らしをしているなら生活費も必要です。
お金の問題をクリアしないとどうにもなりません。

ぼくの場合だと、大学進学するときに家庭(あるいは行政上)の事情で世帯分離をする必要があったので、基本的に仕送りなしでアルバイトをして生計を立てていました。京都の家賃相場・物価だと、毎月8万円くらいあれば、ギリ生活できるくらいのイメージです。今は物価も高騰しているし、都内だともっと必要だと思います。

そんなギリギリの生活をしているので当然学費なんて払えるはずありません。そこで学費免除の申請をしました。ぼくは独立生計なので、年間108万円以上の収入があれば、免除申請も通るだろうと思っていました。実際、通りました。
ただ、入学金は払わないといけなかったので、なんとかして30万円くらい用意しました。死ぬかと思いました。
大学院進学にかかる費用はこれでクリア。

とはいえ、これから研究活動をしていく上でバイトだけで生計を立てるというのは本当に大変だと思ったので、奨学金を借りることにしました。日本学生支援機構(JASSO)が出している奨学金は貸与ですが、マックスで毎月8万8千円、2年間で200万円くらい借りることができます。

これは返す必要があるのでめちゃめちゃリスクを負うことになるんですが、JASSOには業績に応じた返還免除という救済措置があるので、修士のうちに学会発表したり論文を投稿したりして、免除を狙うことにしました。
ちなみに、免除には2種類あります。一つは半額免除。もう一つは全額免除です。半額免除の場合でも実質100万円はもらえることになります。

というわけで、修士2年間はバイト+奨学金で生活を維持し、ことあるごとに学会発表・論文投稿をすることで奨学金の返済をチャラにしようという戦略を取りました。

学会発表・論文投稿

結果から言うと、修士の1年目は学会発表と論文投稿をそれぞれ3つやりました。

最初の論文投稿。これは卒論の掲載でした。学部で書いた卒論が文学部の論集に載るというので、校正作業をすることになります。それがだいたい5月くらい。論集の出版は9月だったと思います。

そうして校正作業に追われているなか、学会発表のエントリーが始まります。ぼくが応募したのは、哲学若手研究者フォーラムと美学会若手研究者フォーラムです。エントリーにあたっては研究発表の要旨を提出しないといけません。とはいえ、まだ研究もはじめてない状態で要旨なんて書けるわけもないので、非常に大雑把なものを書いたと思います。それぞれ、イタリアの哲学者アガンベンの言語論と美学で発表することになりました。
ここまでが夏休み前です。

さて、最初の研究発表は哲学の若手フォーラム。7月の真ん中でした。
学会の会場は東京にあるので、交通費がかかります。ぼくは実家が関東の方にあったので宿泊費はかかりませんでしたが、学会の開催場所によってはそういうコストもかかってきます。
発表原稿はあらかじめ研究室の同期や先輩たちに見てもらって、ブラッシュアップしていきました。今にしてみればとても荒削りな内容だったと思います。

学会発表の良いところは、出会いがあることです。自分の発表を聞きにきてくれた人と連絡先を交換したりして、そうやって繋がった関係が研究会に発展していったりします。なので、内容の出来は気にせず、とにかく学会発表をやってみるのがいいと思います。発表の出来が良くなければ批判してもらえるし、良ければ面白いと思ってもらえる。そういうコミュニケーションを生み出していくことが一番大事です。

最初の学会発表を終えて、次は9月の美学会です。
こちらも会場は東京でした。
この頃からTwitterをちゃんと使うようになります。つまり、この学会で発表しますとTwitterで宣伝するわけです。
効果アリでした。嬉しいことに、ぼくの研究対象アガンベンの翻訳を20年以上も手がけている先生が発表を聞きにきてくれました。
先生に話を聞けば、Twitterで見かけて来てみたとの事で、やっぱり宣伝とか大事です。

哲学と美学の若手フォーラムでの発表はそのまま論文として掲載することになりました。美学会の方は査読があるので、これで晴れて査読付き論文を世に出したことになります。どちらも3月に掲載されました。
ちなみに、査読というのは、論文の品質を保証するもので、博士論文を提出するときには少なくとも3本以上(大学や研究科によってまちまち)の査読付き論文がないと学位がもらえません。

最後の学会発表は3月の日仏哲学会です。またもや会場は東京。
ここではぼくと同じ哲学者を研究している方が発表に来てくれたり、同世代の研究者と仲良くなれました。

学会発表・論文投稿については以上です。

海外遠征

3月にイタリアに行きました。ローマとナポリです。
ローマ第二大学というところでシンポジウムがあり、そこで指導教官の先生が発表するということだったので、行ってみました。
渡航は自費です。死ぬかと思いました。

ぼくは先生たちとは別に単独でホテルを取って、少し早くローマに入っていました。宿泊先がローマの中央駅の近くでめちゃめちゃ治安が悪かったです。夜中にはヤバそうな人がたむろしていて、信号待ちのときに絡まれたりもしました。

シンポジウムでは学部の頃にお世話になったイタリア人の先生と再開できたり、他にもベルガモ大学でAIの研究をしている先生と知り合ったり、いろんなイベントがありました。

シンポジウムが終わって数日後に今度はナポリへ向かいました。ナポリの著名な哲学者ロベルト・エスポジトと会うためです。彼の自宅にお邪魔できたのはラッキーでした。

初めてのイタリアはとても楽しい時間だったんですが、帰国後すぐに学会発表が控えていたので、宿に帰ってからは発表原稿を書いたり書かなかったりしました。

こうして大学院の1年目が終わります。

3.大学院2年目

学振

学振というのがあります。奨学金です。
研究計画書を書いてそれが審査を通れば、博士課程の1年目から3年間、毎月20万円と年間で100万円くらい(?)の研究費がもらえます。返還する必要がないので応募しない手はありません。

ぼくの場合、多いときには週3〜4日くらいバイトに時間をもっていかれていたので、研究時間の確保のためにも学振の奨学金が必要でした。

結果から言うと、採用内定をもらったので来年もなんとか研究を続けていけそうです。見方を変えれば、ぼくの経済状況では学振が通らなかったら博士課程進学は難しかったと思います。
とはいえ、修士卒業が学振の条件なので、採用内定後もまったく油断できません。最悪の場合、内定取り消しになってしまうので修士卒業が確定するまで不安が続きます。

学振の募集要項は1月くらいに出ます。そこから研究計画書を書き上げて5月末くらいに提出という流れになっています。

研究計画書、これが曲者です。博士課程の3年間で行う研究をこの時点で書かないといけません。ふつうできません。修士の2年目なんて修論をどうするかで頭がてんやわんやしているものなので、博論でなにするかなんてほとんど見えていません。
自分の頭だけで研究計画書を書き上げるのは難しいので、情報を集めましょう。

まず、研究室の先輩方の申請書をできる限り集めました。学振の審査を通過した書類なのでとてつもなく出来がいいです。この過程で、なんとなくこういう書類は通る/通らないという感覚を身につけましょう。これがめちゃめちゃ大事です。

先輩方の申請書を参考に自分で研究計画書をつくってみます。書きやすいところから書いていくのがいいと思います。ぼくは自己PRから書き始めました。これまでの研究活動の振り返りにもなるので、そこからの距離感で1年後、2年後、3年後の到達点がぼんやりとみえてきます。

書き上げたら信頼できる読み手にチェックしてもらいます。学振の研究計画書は専門外の先生たちにもジャッジされるので、難しく書いてしまうとそれだけで不利です。逆に、わかりやすく書こうと思って過剰に説明的になってしまうとそれもそれでマズい。この塩梅の難しさが学振の罠だと思います。
とにかく、信頼できる読み手に見てもらって、何度も何度も書き直す。これがいいと思います。

締切までにできる限りブラッシュアップして、提出したら学振にまつわる記憶を消しましょう。ずっと不安で眠れなくなります。

採用通知は9月末くらいに来ます。

修論

修士の2年目は学振の申請であたふたしてたので学会発表も論文投稿もできませんでした。しようと思ってたこともあるにはありましたが、品質に自信がなかったので諦めました。

そういうわけで、ここからは修士論文に全力を注ぐことになります。
研究室によって基準はさまざまですが、修論はだいたい4万字以上のところが多いと思います。ひとによっては10万字くらい書いてたりします。
ぼくは結局5万字くらいでした。

修論を一から書くといっても、本当に一から書くわけじゃありません。
これまでゼミで発表してきた内容とか学会発表、投稿した論文をベースに議論を組み立てていきます。なので、ひとによっては4日で修論を書くなんてことも可能です。

大学院に入って研究活動をしていく上で、たぶん一番重要なのは過去に発表したものや現在取り組んでいる研究が修論・博論のどこに位置づけられるかを俯瞰してみる能力だと思います。
あのときした発表の内容は今のこの研究につながっていて…とか、そういう見方ができれば長い文章を書くときの道標になります。

それから、当たり前ですが友人や先輩に話を聞いてもらうのも大事だと思います。自分が思っている自分の研究と他者から見える自分の研究には結構違いがあったりします。他者からの視点も取り込んで、自分の力にしちゃいましょう。

修論の勝負所は締切1ヶ月前くらいです。締切が差し迫ってようやくアイデアが降ってくることがあります。ぼくはそれまでに論文全体の骨格をつくっておいて、何度も内容のシミュレーションを繰り返しました。論の運び方とか、説明の塩梅とか、そういう部分を詰めていきます。

提出は正月休みが明けた頃。
修論の審査会は2月の初めにありました。
審査会では初めにぼくの方から20分程度つかって論文の内容をプレゼンテーションします。その後、審査員の先生とバトルです。
あらかじめツッコまれる場所を予測して対策を立てておきましょう。
このバトル、意外と楽しいです。

さて、こうして修論の審査会を終えてこの記事を書いているわけですが、学位の授与が確定するのはもう少し先になります。
合格していたら嬉しいんですが、どうでしょう。

4.まとめ

強いやつに会いにいくこと

とにかくこれです。
強い人に会いにいきましょう。
よくないのは「自分が最強」の環境に居ることです。

学会に入るにしても他の研究者からの紹介が必要だったりします。
できるだけ学会発表しに行ったり、他の人の研究発表を聴きに行ったりして、研究仲間を増やしましょう。

Twitterは意外と大事

情報収集にも使えるし、なにより研究者としての自分を知ってもらえるチャンスです。
本名で出来ればいいですが、リスクもあるので慎重に。

自分の研究内容についてツイートするのもいいと思うし、本当にくだらないことをつぶやいてもいいと思います。
大事なのは、自分はこういうやつなんだとアピールして、そのキャラクターを受け入れてもらうことです。


以上、ぼくの辿ってきた約2年間の道のりをもとに修士課程院生の生態を書きました。

最初に書きましたが、ぼくはつねづね人文系の大学院進学についてのサンプルが少ないなと思ってきました。
この記事をきっかけにサンプルの数が増えてくれたら嬉しいし、それによって情報格差がなくなってくれたらいいと思っています。

ぼくも他の方のサンプルを読むのを楽しみにしています。
それではまた。


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人文系大学院生の生態|竹下涼
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