精神医療を変える原動力に 全国の人権センターが取り組む「630調査」の情報公開請求 その現在地とは 

2025年3月17日 06時00分 有料会員限定記事
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 精神科病院に入院している人らの権利擁護などに取り組む「精神医療人権センター」が2020年以降、全国で相次いで結成されている。病院から地域への受け皿が成熟し始めた結果とも言えるが、各人権センターが力を入れる「630(ロクサンマル)調査」の情報公開の現状はどうなっているのか。昨秋立ち上がった千葉精神医療人権センターを例に改めて考えた。(木原育子)

◆「声を聴く」「とびらを開く」「社会を変える」

 「精神科病院にアクセスしていくことが大切。相談も面会活動も引き続き積極的にやっていきたい」。千葉精神医療人権センター代表の池澤直行さん(60)が現状を話した。

池澤さん(右)らを中心に精神医療の現状を話し合う千葉精神医療人権センターのメンバー=千葉県習志野市の地域活動支援センターで

 2月20日午後7時過ぎ、人権センターのメンバーがそれぞれの仕事を終えて、同県習志野市の地域活動支援センターの一室に集まった。精神保健福祉士や作業療法士、保健所の相談員、弁護士、精神医療ユーザーら20人近く。オンライン参加の人もいる。病院への面会活動や相談件数の推移を報告し合った。
 人権センターは昨年9月に結成された。活動内容は、相談を受け付ける「声を聴く」、精神科病院と地域社会との風通しをよくする「とびらを開く」、政策提言していく「社会を変える」の三つを軸に据える。

仲間らとともに千葉精神医療人権センターを立ち上げた池澤直行さん

 池澤さんは元同県市川市職員。精神科病院での作業療法士を経て、28歳で入庁した。市の福祉部門を中心に歩んできたが、「精神疾患のある人たちが生きやすい地域をつくっていきたい。地域も病院も両方変わらないと本当の改革はできない」と早期退職し、仲間らとともに人権センターを立ち上げた。

◆「行政と病院、お互いを尊重しながら」

 市民団体というと、時に行政や病院と対立することもあるが、池澤さんは「行政の立場もわかるし、病院と対立しても良いことはない。お互いを尊重しながら変えていきたい」と物腰はずいぶん柔らかだ。
 そんな千葉の人権センターが取り組むのが「630調査」の情報公開請求だ。全国的にも多くの人権センターが目を光らせる。
 改めて630調査とは、国が都道府県と政令市を通じ、毎年6月30日時点の全国の精神科医療機関の実態を把握する「精神保健福祉資料」のこと。患者数のほか、入院期間や形態、隔離や拘束の有無などが集計されており、患者や家族にとって重要な情報が盛り込まれる。

千葉県が公表した「630調査」の一部。拘束件数や入院形態は明かされていない

 池澤さんらが昨年10月以降に請求したのは千葉県と、その県境に当たる東京、埼玉、茨城の1都3県だ。

◆肝心な部分は黒塗り…「へこたれませんよ」

 結果はどうだったのか。千葉県は部分開示。病院名や病床数、職員数は開示されたが、入院形態や拘束件数など、人権に直結する肝心な部分は黒塗りだった。
 千葉県障害者福祉推進課の吉原憲子副課長は「公にすることで個人の権利、利益を害する恐れがある」とし、「例えば小規模な病院で拘束件数が明らかになると、その病院に関わる人は個人を特定できる可能性がある。慎重に判断されるべきだ」と説明する。
 池澤さんは「まずは地域の中の構造を見える化しないと始まらない。死亡退院が多いと悪い病院に思われがちだが、地域での役割分担もあるように思う。病院にとっても他の病院がどんな病院か知るきっかけにつながり、質の向上を図るチャンスにもなる」と話す。「多くの人権センターも最初は黒塗りで出てきて、不服を申し立てる審査請求で公開を勝ち取ってきたとも聞いている。こんな始めの一歩でへこたれませんよ」
  ◇  ◇

◆不開示に否定的だった埼玉県が…

 他の都県はどうだったか。東京都は全面開示で、...

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