ノクスと離れた場所で少女の玉声が響き渡る
「【雨のの如く降り注ぎ、蛮族どもを焼き払え】!」
目型に変化したモンスター相手にリヴェリア達が選択した策はレフィーヤとリヴェリアの強力な魔導士二枚構えの囮攻撃
このモンスターの強力な魔力に引き寄せられる特性を利用したもので、これは極彩色の新種のモンスターに対応するために2人が練習をしていた技である。リヴェリアの抜きんでた魔力を隠れ蓑にしてレフィーヤの魔法を味方の援護なしにモンスターの意識外から構築し放つ連携技。
「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!」
『---------アァァァ!?』
膨大な炎の雨はおよそ十秒ほどモンスターに集中して降り注がれた。魔法の威力は絶大でモンスターだけでなくその周囲をも炎の海に変え黒煙を上げていた。モンスターもその攻撃を前に劈かんばかりの絶叫を上げる。
「一気に畳みかけるぞ!」
フィンはよく響く声でティオネ達に指示すると指揮官でもある自身も獲物を持って瀕死の魔物に襲い掛かる。
こうなればもう勝敗は決したようなもの。最後にティオナの
討伐に成功した様子を冒険者たちが歓喜していた瞬間だった............
〝〝ドガッアアァァァァァァァランン!!!!!!〟〟
遠くでレフィーヤの放った魔法以上の轟音と階層全体を揺らす様な振動が響き渡る。その源を見ると巨大な黒炎の柱が確認できる
(あの炎はノクスの.........そっか、自分に勝ったんだ)
ボールスをはじめとした多くの冒険者たちは初めて見る黒い炎に畏怖を抱いているがレフィーヤは真逆で嬉しさと尊敬の念で一杯だった
そしてレフィーヤの眼には黒い炎は前に見たものと違い、完全な闇ではなくまるで夜のように優しく包み込むようなそんなある種の温かさを感じていた。
(やっぱりかっこいいな........)
レフィーヤはどこか熱に浮かされたような顔でその黒炎の柱が消えていくのを見届けているのであった
************
轟音が鳴り響いて暫く、アイズはと言うと.............
キンッ!キンッ!ギャリィンン!!
(この人強い!)
アイズは赤髪の女と一人で斬り結び鍔迫り合いとなっていた。
始めはノクスとの共闘だったため一人で戦うことで余計に彼女の強さに驚愕を覚える。
「便利な風だな」
「『アリア』.....どこでその名を!?」
アイズの魔法【エアリアル】は剣の切れ味と速さを上昇させるそれを彼女は涼しい顔でそう感想を零した。それに対してアイズは珍しく鬼気迫る表情で大きな声を出してまで問いかける。彼女にしては非常に珍しい感情の発露。この光景を彼女をよく知る者が見れば驚くだろう
「さぁな」
「ッ!」
まともに取り合う気のない赤髪の女に鍔迫り合いからアイズはさらに苛烈に攻め立てる。瞬きする間に10を優に超える攻撃が乱舞し、互いの肌に細い血の一線を刻んでいく。
「人形のような顔をしていると思ったが.........」
そして
激しい心の動きにより、前のめりになっているアイズの剣筋を赤髪の剣士は見逃さなかった。大振りになったその隙を突きアイズの剣をかいくぐると風を引きちぎる一撃を見舞った。すくい上げるような拳による一撃が気流の如く鎧ごと殴打し、細身のアイズの体を後退させる。
「っ!!!」
ゾクッと、背筋を悪寒に震わせるアイズ。敵は自身めがけて長剣を一気に振り下ろさんとするその攻撃を前にアイズはあらん限りに目を見開き
瞬間
「------!?」
轟音が爆発した。超速の袈裟斬り。左斜めに振り下ろされた長剣はデスぺレートと風の防御を突き抜け、アイズの身に衝撃を貫通させる。それによりアイズはたまらず吹き飛ばされ、気づけば瓦礫に打ち付けられていた
「うっっ!!」
肺から空気を引きずり出されたアイズの体は神経が途切れたように一瞬にして言う事を聞かなくなりアイズは指一本動かせなくなっていた
「やっと終わりだ」
赤髪の女は砕けた剣を捨てアイズの方へ一歩、また一歩と歩み寄る。アイズはその光景を自分に対する怒りと弱さに対する悔しさを抱きながらただ見ていることしかできなかった
アイズと赤髪の女の距離がもう僅かとなる直前だった
「ハァァァッ!!!」
「チッ......!」
一人の少年が飛び出し斬りかかると女は一度後ろに距離を取る
「ふぅ............無事か?アイズ」
「ノクス...............」
右手に剣を左手には鞘を握った歪な二刀流状態のノクスがそこにはいた
アイズが今戦っている場所は実はノクスがいた場所からそう離れていなかった。ノクスは休憩することを決め込んでいた時に戦闘音が聞こえたため疲れた体に鞭を撃ちここに来ていたのだった
ノクスが敵を油断なく睨みつける中その姿を見てアイズは劣等感を感じていた。
自分と限りなく近い戦闘スタイルに
(なんで.............なんでノクスは..........)
〝そんなに強いの?〟
と、アイズは問いただしたかった。だが喉元まで出かかっていたものはこぼれ出ることはなく、次の瞬間ノクスは.........
「あとは俺に任せてくれ」
ノクスはそう言うと滑るように駆け、女に迫っていく。まるでアイズを置いていくように
(立てないッ.......私は弱いッ!.........)
動こうとしない体に苛立ちとそして悔しさを感じながらただ同格なはずの剣士の戦いを見ることしかできなかった
***************
ノクスはアイズに任せろと言ったものの状況は最悪だ。先の戦闘で
(状況は最悪.......短期決着しかないな.............)
ノクスは詰め寄ると獲物を持たない相手に高速の連撃を打ち込む。最小限の動きで隙を突かせず、最速の連撃を繰り出していくノクスの剣戟。
その高速の連撃を赤髪の女は体を捻り、拳でいなしたりと冷静にさばいていく。そして同時に苛烈な拳打をノクスへ放っていく
(チッ.........
女から放たれる一撃がとてつもなく重い拳をノクスは本当にギリギリの所で捌いていく。だが、
「どうした?最初の時よりも鈍くなってるぞ?」
女は嘲る様にノクスへ囁きかける
「そうか?ならお望み通りにしてやるよ!」
ノクスは精一杯強がると無理に連撃のギアを上げていく。それに比例してノクスの視界の歪みはより大きなものとなっていく
(マジでそろそろ決めないとこっちがもたないな...........博打だがやるしかない)
視界が歪む中ノクスは賭けの要素が大きい策に出る
「【
ノクスは右手に残り僅かの魔力で可能な最大威力の雷と獄炎を纏わせ、後ろへと大きく距離を取ると同時に右手を後ろへと引き絞る。ノクスは意識が遠のきかけるが舌を噛んで意識を保つ
赤髪の女はそれを見てこの一合で決める気だと考え構える
「オオオォォォォ!!!」
野太い咆哮とともにノクスは力強く踏み込む
防御を捨て、ただ最大威力で敵を貫く流星の如くノクスは黒白の閃光を描く
「............」
幾戦の鳥がが囀るような雷の弾ける音、炎がうねりを上げる音と共に超速で詰め寄るノクスを女はただ冷静に見極め――
「甘いな」
そのノクスの派手な攻撃によりガラ空きの胴にカウンターの一撃を叩き込まんと拳を振るう
女は確実にノクスを始末できると胴を貫く自分の拳を思い描いた
だが...................
「ここッ!」
「何ッ!?」
拳に触れたのはノクスの体ではなく超速で飛来した剣だった
ノクスは刺突に見せかけ剣を投擲したのだ。わざわざ自分から得物を捨てるわけないだろうという不意の一投。
勢いよく飛来した剣は女の拳を押し返し、僅かに体制を崩させる。その僅かな隙を突くべく左の鞘を上段に構え叩き落そうとするが..............
「舐めるな!」
崩れかけた体制を無理やり踏みとどまらせると鞘による攻撃に女は蹴りを合わせる。途轍もない威力をお誇る蹴りにぶつかった鞘は音を立てて割れる
「これで止めだ!」
女はそのまま流れるように拳を万策尽きたであろうノクスに向け放つ。女はノクスが策略通りいかなかったことに驚愕か或いは死を前にして絶望を感じているかと思いノクスの表情をちらりと見る
だが、ノクスは口角を上げ
「オオラアァッ!!」
「ッ!?しまっ.......グアッ!」
ノクスの右の拳には白雷と獄炎が纏われていた
その拳は女のそれよりも早く女の胴体に突き刺さり、まるで砲弾の如く女は吹き飛ばされた
ノクスは二段階で囮を備え相手が勝ちを確信して油断するであろうその瞬間を狙ったのだ。これはノクスが故郷で学んだ狩りの基本......〝手負いの獲物程警戒しろ〟その教訓から導き出された策、その応用だ。武器もない明らかな不調な自分に何もできないと油断するであろうその隙を狙ったのだ
失敗し武器もなくなり、倒れる寸前のノクスに抵抗する術がなくなる博打にノクスは見事成功すると限界からか膝を折り俯く
(ハァ.......ハァ.........これでだめならもう為す術ないな)
土煙で敵は確認できないが手応えはあった。不安があるとすればこちらの指が折れたことだが威力は弱まってるとはいえ付加魔法ありの攻撃だ流石に............
「ケホッ..........中々の威力だが残念だったな」
口元から流れ出る血をぬぐいながら女は土煙から出て歩いてくる。
(冗談だろ?まともに食らってまだ立つのか?いや........獄炎はまだ消えていない。これなら.............)
ノクスは驚愕するも獄炎が女を蝕み始めてるのを確認すると時間はかかるが女は確実に始末できると考えていると.............
「なんだこの炎は?消え無い炎か.........ふん、こんなもの」
「は?」
女はなんと何も躊躇いを見せずに獄炎が焼く皮膚を手で剥がしたのだ。あまりの光景にノクスは絶句してしまう。
だが女の行動もだが何より、その傷がすぐに〝塞がる〟のだ
(何だよこの再生能力...........俺のスキルなんか比じゃないぞ!?)
ノクスのスキルにも回復力を高めるものがあるが女のは明らかに異常だった
「さてお前は邪魔だ。すぐに殺してやる」
女はノクスにとどめを刺そうと歩み続ける。ノクスは必死にこの窮地を脱する術を模索する
(クソッ..........どうする?策はもうない.......いや、
兎に角立ち上がろうとまともに力の入らない脚に鞭を打っていると..........
「はぁッ!」
「!チッ..........」
突如二人の間に割って入った人影。その者によって女は一度大きく距離を取る
ノクスの窮地を救ったのは..........
「無事かい?ノクス」
「助かりましたフィンさん」
現れたのはフィンであったそして.............
「ノクス!」
「レフィーヤに皆も...........」
レフィーヤだけでなくティオネ達もいる。どうやら全員で援軍に来てくれたみたいだ。これで形勢は逆転し、女は忌々し気にこちらを睨みつける。
「さて、随分とウチのお姫様と友人がお世話になったみたいだね..........ついてはその返礼をさせてもらおうか」
「..........分が悪いか」
するとすぐに自身が不利と悟ったのか戦闘行為を起こさずにすぐさま逃走を開始した。フィンたちは一瞬追うべきかと悩んだが万が一に備え深追いは避けノクスや負傷したアイズに肩を貸して街へと帰るのであった。