■「君のこと褒めていたよ」と言われるほうが嬉しい
会社員時代、マネジメント力に定評がある同僚のBくんがいました。彼の部署は生産性が高く、コミュニケーションも活発で、彼は上司からも高い評価を得ていました。「自分も見習いたい!」と思い、Bくんの行動を観察してみると、2つの特徴に気がつきました。
1つ目は、「とにかく褒め上手である」こと。「プレゼンの説明がわかりやすかったよ」「資料のつくり方がとても丁寧で使いやすいね」「後輩の面倒見がいいね」など、とにかく部署メンバーの行動や仕事ぶりをしっかり見ているのです。
そして2つ目は、見つけた「褒めポイント」を直接ではなく、「できるだけ第三者経由で伝えている」ことです。私自身も、ある上司から「Bくんが君のことを『チームメンバーへの気配りが素晴らしい』と褒めていたよ」という話を聞いて、なんだかすごく嬉しくなったことがあります。
逆パターンで、Bくんが私の部下について「○○さんは取引先としっかり信頼関係を築けていてすごいね」と褒めてくれたので、本人に伝えたところ、とても喜んでくれた、なんてこともありました。
Bくんは、さまざまなところでこのように上手に人を褒めて、やる気を引き出していたので部下から慕われ、上司からもマネジメント力を評価されていました。直接ではなく、「人づてで褒めたり好意を伝えたりする」というこのやり方、Bくんが意識していたかどうかはわかりませんが、実は行動経済学の心理テクニックなのです。
■第三者の情報は「信憑性がある」と感じる
私たちは当事者の発信よりも、利害関係のない第三者から発信された情報を、より強く信じてしまう傾向があります。この心理効果のことを「ウィンザー効果」と言います。
上司や同僚が直接褒めてくれた場合、もちろん嬉しさはありますが、「気を遣ってくれたのかな」「良く思われるためのお世辞かもしれない」などという疑念も生まれたりします。しかし、第三者経由で同じ話を聞くと、「自分以外の人にその話をした」ということは、気遣いやお世辞ではないだろうと思うため、その情報の信ぴょう性が向上するのです。
「ウィンザー効果」のウィンザーとは、アメリカ生まれの作家アーリーン・ロマノネスの小説『伯爵夫人はスパイ』(講談社)の作中に出てくる、ウィンザー伯爵夫人のセリフ「第三者の誉め言葉がどんなときにも一番効果があるのよ、忘れないでね」から取られています。まさにセリフどおりですね。
特に、第三者に当事者との利害関係がない(と思われる)ほど、そして第三者に親近感を覚えているほど、信ぴょう性が高まると言われています。この効果をそのまま活用しているのが、いわゆる「インフルエンサー」です。
自分がフォローしている(=好意や興味を持っている)インフルエンサーは、より身近に感じる第三者です。そのインフルエンサーが何かをおすすめすると、影響を受けてしまうのは言うまでもないでしょう。
■悪用したものが「ステマ」である
もしそのインフルエンサーに知名度や人気があった場合は、さらに「ハロー効果」が働き、より影響力が強まります。「ハロー効果」は評価する対象が持つ顕著な特徴に引きずられて他の特徴の評価が歪められる心理現象です。インフルエンサーの評価が高ければ、その発言までもが、真偽も検討されないままに正しいとされるのです。
もっとも最近は、この仕組みを悪用したいわゆる「ステルスマーケティング」が問題になっています。インフルエンサーが影響力を悪用して人々に商品を買わせ、こっそり裏で報酬を受け取っている……といった商法は許されなくなってきています。
インターネットでのマーケティングがメインとなっている昨今、「ウィンザー効果」という名前を知らなくても、知らず知らずのうちにこのバイアスを利用している企業は多いと思います。
今やネット上では、ほぼすべての商品やサービス、店舗に対する「お客様の声」や「レビュー」を見ることができます。本当にユーザーの声なのか、もしくはいわゆるサクラのコメントなのか怪しいものもあります。実際にユーザーの声であっても、良い意見だけを掲載している可能性もあります。
■効果は「良く」も「悪く」も作用する
それでも私たちは、選ぶかどうかの決め手にしてしまいますよね。売り手側の「これは良い商品です!」「すごくおいしいです!」という宣伝文句の裏には、より多くの利益を得たいという思惑があると誰もが気づきます。しかし、第三者の立場からの意見には利益が関わらないため、信用されやすいからです。
テレビ番組で、その町のタクシー運転手さんにおいしいお店を教えてもらうというものがありますが、あれも同じ理屈ですね。
こうしたユーザーによる「口コミ」の数が増えると、「バンドワゴン効果」(多くの人が持っているものだと、もともと興味がなかったとしても欲しくなる現象)が働きます。多くの人が注目する人気商品だと考え、自分も乗り遅れないようにしなければと、慌てて買ったりしてしまうのです。
一方、当然ながらコメントにはネガティブな意見も存在します。「ウィンザー効果」は良いほうにも悪いほうにも働くので、第三者から聞いた「この商品は良くない」というマイナスのコメントにも大きな影響を受けてしまいます。
企業研修などで、外部の講師を招いて話をしてもらうケースがありますが、これも「ウィンザー効果」を利用していると言えるでしょう。
■“部下のやる気を引き出す”ことにも活用できる
普段から接している上司からの言葉だからといって、部下がいつも素直に従うとは限りません。それが褒め言葉であっても「部下を扱いやすいように持ち上げているのだろう」などと思われるかもしれません。また、日常の関係性がうまくいっていないと個人的な感情が入り、「この人の言うことは聞きたくない」と思われることもあります。
同じ内容であっても、日常で利害関係のない人から聞くほうが信用できると感じるのです。私も、部下が「研修で講師の方からすごくいい話を聞きました!」というので内容を聞いてみたところ、「それは普段から私もよく話していることなのになぁ……」と思ったことがありました。
ここまで見てきたように、「ウィンザー効果」は仕事や人間関係で大いに役立てることができます。先ほどのBくんの例のように、間接的に相手に好意や考えを伝えてもらう方法は、誰でも真似ができそうですね。
例えば、職場で部下や後輩を褒めて、やる気を引き出したいとき。
あなた(A係長とします)が直接「○○さんは、すごく頑張っているね。次のプレゼンも期待しているよ」と言うよりも、あなたの同僚などから「A係長が○○さんのことをすごく褒めていたよ。次のプレゼンも期待してるってさ」と言ってもらうほうが、部下や後輩は嬉しく感じるはずです。
■第三者は「コミュ力が高い」「話し好き」ほど効果的
逆に、自分について良い印象を持ってもらいたいと画策するのであれば、協力してくれる第三者から「○○さん(自分)は、やさしくていい人だ」などと話してもらうと効果的かもしれません。
伝えてもらう第三者の人選も重要です。コミュニケーション力が高く、話し好きな人、さらに「ウィンザー効果」を理解してくれている人であれば話が早いと思います。また確実に伝えてもらうためには、不自然にならない範囲で何度か同じ話をして印象に残すなども大事です。
同じ方法は夫婦やパートナー、親子関係などでも使えます。
「友だちのCさんがあなたのこと『いい旦那さんで羨ましい』って言ってたよ」
「先生が『○○くんは最近勉強を頑張ってるね』って褒めてたよ」
このように、「第三者から聞いた情報」として伝えると、相手はポジティブな気持ちになるでしょう。逆に、ネガティブな話が第三者から相手に伝わると、よりダメージが大きくなってしまいますので、噂話や怒りに任せた暴言や悪口には気をつけてください。
■口コミが与える影響は大きい
「A係長があなたのこと『なかなか成長しない』って言ってたよ」
「お父さんがあなたのこと『ちっとも勉強しない』って怒ってたよ」
自分が知らないところで悪く言われると、とても不快ですよね。良くも悪くも口コミが与える影響は大きいということを認識したうえで、相手を良い方向に動かしていける使い方を心がけましょう。
「ウィンザー効果」で第三者から好意を伝えてもらうことは、多くの場合プラスに働きますが、学生時代、友人から「近くの女子高の○○さんがお前のこと好きらしいよ」と言われたことがきっかけで、急に彼女のことが気になって勉強がまったく手につかなくなったことがあったなぁ……なんて懐かしいことを思い出しました。
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マーケティング&ブランディングディレクター
昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。東京工業大学工学部社会工学科卒業後、大手広告代理店を経て1995年、日本総合研究所入社。1998年、アサツーディ・ケイ入社後、戦略プランナーとして金融・不動産・環境エネルギー業界等多様な業界で顧客獲得業務を実施。2019年、独立。現在は行動経済学を活用したマーケティングやブランディング戦略のコンサルタント、企業研修や講演の講師、著述家として活動中。著書に『9割の人間は行動経済学のカモである 非合理な心をつかみ、合理的に顧客を動かす』『9割の損は行動経済学でサケられる 非合理な行動を避け、幸福な人間に変わる』(ともに経済界)、『世界最前線の研究でわかる! スゴい! 行動経済学』(総合法令出版)、『モノは感情に売れ!』(PHP研究所)などがある。
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(マーケティング&ブランディングディレクター 橋本 之克)