アルテミスとオリオンが出会うのは間違っているだろうか?


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作:尿道結石
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初めての眷属 中編


失踪すると思った?
残念!ただカタツムリ並みに執筆速度が遅いだけでした!


ヒュと掠れた声が漏れた。

 

「もうダメだ。私死ぬんだ」

 

少女の顔は血の気が引いていた。

女がてらに力仕事で鍛えられた四肢に決して逃がさぬようにと組伏せるのは、黒い体毛とありえないほど巨大な口が特徴的な魔獣(モンスター)

自身の数倍もの巨体に押さえつけられているというのは、肉体的苦痛で、生殺与奪の権利を握られていると実感させられるので精神的にも悪い。

 

育ち柄、浅学なことに劣等感を持つ少女にはその魔獣(モンスター)の名称は分からなかったが、半壊した馬車から魔獣(モンスター)避けとして人気の香が無惨な姿になっているのを見て、少なくとも魔獣(モンスター)避けの香をものともしない大物なのだろうと思った。

 

 

 

少女、ソフィーは新米の行商人だった。

 

「ソフィーちゃんは可愛いねぇ」

 

「ありがとうございます!」

 

そして少し前まで小人族(パルゥム)のように小柄ながら笑顔と元気だけは誰にも負けず、剣や魔法を使って悪いモンスターと戦う外の世界を夢見ていたどこにでもいる街娘だった。

 

ソフィーは両親が祖父の代から受け継ぐ定食屋の看板娘としての日々を過ごして、常連客などによく可愛がられていた。

決して神々を魅了するような美しさはなかったが、ある偶然訪れた女神曰く、魂が陽日のように温かな色をしていて、近くにいると日だまりにいるような安らかな気持ちになるのだそうだ。

 

『もし、オラリオに来ることがあって面倒ごとに巻き込まれそうになったらフレイヤ・ファミリアを頼りなさい』

妖艶に微笑む美の女神にぽっと顔を赤くする。

 

そんなソフィーだが、最近になって長年貯めたお小遣いが目標としている金額に届き、常連客の一人である老人から古い馬車と初老の馬を格安で仕入れると、両親に外の世界を見て回りたいという胸の内を打ち明けたのである。

 

「う~ん。やっぱり行商人になるなら天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)様の眷属になるのが一番いいんじゃない?」

 

「いいや、どうせならオラリオに居られるヘルメス様がいいに決まってる」

 

彼女の両親は私が外の世界に憧れていたのを知っていて、特に反対されることもなく行商人になればいいのではないかと提案してきた。

取り敢えず中央の巨大なダンジョンから街を形成し、名だたる神々が集う迷宮都市オラリオにいけばどうにかなると漠然的に考えていた彼女はその案に頷いた。

 

彼女は人と話すのが好きだったし、そんな彼女を老若男女隔てなく受け入れてきた。

きっとソフィーには大衆に向けた仕事に才能があるだろうと両親は気づいていたのだ。

 

続けて両親は神の眷属になることを進めたが、確かに商会の神の眷属になれば少しは融通してくれるが、それでも信頼と実績を得るまでは元手とするには少し足りない。

せいぜい今の環境に傭兵のような仕事をする眷属を追加出来る程度。当然無条件で貸してくれる訳もなく返済義務はあり利子もついた。

よって、あまり眷属になるメリットが感じられずにモンスター避けのお香だけを買って一人で街を出たものだが、魔獣(モンスター)に襲われて初めて行商人が眷属を雇う重要性を思い知る。

 

――あぁ、魔獣(モンスター)避けの香と道中で腕利きの神を雇う予定だから準備は万全だと慢心していた自分が恨めしい。

 

ソフィーは数刻前の愚かな自分を呪った。

 

「ガルルルルルルルル」

 

血に飢えた魔獣は今から御馳走にありつけるからか嬉しそうに喉を鳴らす。

 

 

 

 

 

アルテミスは走り出して三十分も経たない内に黒い狼煙らしきものを地平線の彼方から発見した。

 

「――予想通りという訳か!」

 

出来れば外れていて欲しかったが、どうやら件の商人はモンスターに襲われているらしい。

耳を澄ませば獣の怒号とそれに伴う腐乱臭が鼻孔を擽り、豆粒ほどの大きさでありながら馬車とモンスターのようなシルエットが確認出来た。

 

アルテミスは洗練された動作で弓と矢筒から三本の矢を取り出しそれを引き絞る。

 

 

―――下界に降りた神々は神としての権能の殆どを封印し、単純な肉体の性能(スペック)で言えば下界の人間とそう変わらない。

だが、極例外として武や芸を司る神々等は、あくまで人間の体で再現出来るという条件こそあれど、至高の領域にある『巧み』を再現することが出来た――

 

狩猟を司るアルテミスもその例外に漏れず、下界に降りた今でもナイフの扱いや獲物の捌き方は勿論のこと、弓の腕はかなり上手い。

必中の加護や千里を見通す瞳こそなかれど、推定距離は150といった所――この距離ならばまず外さないだろう。

 

――シイッ

 

一本ずつ放たれ、ほぼ同速を維持する規格外の射出速度。

それらは先頭にいたモンスターの頭部を射抜く。

 

「グガッ……ガララララ!!!!!!?」

 

だが、殺しきれなかった。天界にいた頃ならば貫通していたアルテミスの矢はモンスターの硬い頭蓋骨に防がれてしまっている。

 

巨大な獅子のようなモンスターだ。

ぱっくりと割れた額から血を流すモンスターは狂奔し、怒り狂ったような雄叫びを上げると、岩石を噛み砕いてそれを投げ付けてきた。

 

ならばと、アルテミスはその投石を横に転がって避けてモンスターの眼球目掛けて矢を射った。

 

「―――グガッ!?」

 

確かな手応えである。

正直これで倒れてくれなければアルテミスになす術はなく、尻尾を巻いて逃げる暇もなく追い付かれて喰われていただろう。

しかしながら、彼女の矢は眼球を貫いて脳まで届いたのか、巨山のごときモンスターは泡を噴いて地に付した。

 

「続けて往くぞ!」

 

アルテミスは弓を構えて疾走する。

 

 

「ガアアアアア!!!!!」

 

「――くっっ!?」

 

ナイフでモンスターの牙を払いのけて後ろに転がる。

黒い犬のようなモンスター。先ほどの獅子型よりも小ぶりだがアルテミスの数倍はあるそれが、次なる標的として彼女が狙い定めた敵だった。

アルテミスはまず、そのモンスターが押さえつける小柄な――恐らくは小人族(パルゥム)だと思われる、護衛の約束をした少女を助け出すと矢をモンスターの顔に射って軽く怯ませた。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「早く逃げろ!」

 

叱咤するように強く叫ぶ。

幸いにもモンスターはあの獅子型とこの黒犬以外存在しないようだが、今のアルテミスの力は恩恵のない人間とそう変わらない。

最悪死んでも天界に強制送還される自分とは違い、少女は死んだら終わりだ。

人徳の厚い、特に女には甘い定評のあるアルテミスからすれば、その攻めるような強い言葉は神友であるヘスティアが度肝抜かすほどのものであったが、それだけ余裕がないのも事実。

 

一発でもまともに食らえばアルテミスはその瞬間に終わる。

 

間に合ったことは嬉しかった。

後はその命を己が守るのだと義憤に燃えた彼女は矢筒から矢を取り出す。

残りの矢の数は五本。

 

―――シィッ

 

ニ連続の矢の流星が渦を描いてモンスターの両目に迫る。

モンスターはそれを少し顔を反らすことで厚い体毛で威力を殺し払い除ける。

モンスターは体当たりしようと前屈みになって、アルテミスはそれを悟ったようにモンスターの射程を外れようと横に走った。

 

ドンとモンスターは十メートルほど跳ぶ。

両手を広げたそれに包まれそうになって、ギリギリで回避仕切ったアルテミスは矢を射ってモンスターの後頭部に命中させるがやはり効いた様子はなかった。

 

残りの矢も一本。

この距離からだと、弓矢では仕留めきれない。

 

ならばその他の手段となるが、まず肉弾戦では部が悪い。

狩猟の神であるので、ナイフも使えはするが狐や兎ならまだしもモンスターを相手に出来るほどアルテミスは『巧く』ない。

罠を作れれば恐らくは足止めにはなるだろう。しかしこのような状況で見繕える訳がない。

アルテミスは軽く舌を打った。

 

(神威を解放するしかないか)

 

神威の解放=神の力(アルカナム)を使用する選択である。

これをすれば天界ヘ強制送還され二度と下界には降りれない。

まだ下界におりてから、友の一人にも再会出来ていないがこのままモンスターに食われて共倒れするぐらいなら少女一人は救ってやりたい。

 

それは女神アルテミスの神格の慈悲深さから導かれた苦渋の選択であり、弓矢を置いた彼女はモンスターに向けて両手を構えた。その時、彼女の背後で風を裂く音が聞こえた。

 

「グギャア」

 

「…貫いた、だと」

 

アルテミスは愕然として目の前の光景を疑う。

風を裂く音と共に飛来した矢があれだけ固かったモンスターの頭蓋骨を突き破って貫いたのだ。

 

モンスターは悲鳴をあげて倒れる。だが、アルテミスは自分のように柔らかい眼球を狙ったのではなく額を貫いたのが信じられずに後ろを振り向く。

 

「わ、私じゃありません!」

「だが、君以外に誰が。……まて、まさかこの方角は!」

 

ブンブンと首を振って否定の意を表す少女。

いっそのこと彼女が第一級冒険者というなら素直に信じていたかもしれないアルテミスは疑るように矢の射線を思い描いてハッとなった。

 

こちらは私が走ってきた方角ではないか。そして道中でオリオン以外の人間はいなかった。

 

「……オリオン、お前なのか」

 

神は人間の嘘が分かる。あの時待っていると言ったオリオンの言葉に嘘はなかったから、仮にあの場から一歩も動いてないとすると……ニ十キロメートルほど離れた位置から狙撃していたことになる。

 

やつは狩人だと言ったが、そんな遠距離から正確に矢を放つなんて芸当、今のアルテミスには不可能だった。




でも、射るより殴る方が断然得意なオリオン。
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