ノクスはアルテミスに起こされると
そう〝自室〟にだ。普通に寝室と自室は同じではないのか?と思われるだろうが先程までノクスが寝ていたのはアルテミスとノクス共用の寝室なのだ。勿論同じベッドで寝ているというわけではないが二つのベッドを並べて寝ているのだ。
理由は〝あの日〟以来からアルテミス一人で寝るとよくうなされるようになってしまったからだ。勿論ノクスも例外ではないのだが度合いがアルテミスのほうが酷いのだ。どちらにせよお互いに傷を負ったのを慰めあうように夜だけは二人は離れられなくなっていた。
ノクスは自室で着替えると階段を降り、一回の居間に向かうとそこにはアルテミスが朝食を並べ終えるところだった
主食のパンに目玉焼き、ソーセージ、新鮮な野菜のサラダに白い湯気を上げる玉ねぎを使ったスープとどれも一般的ではあるもののとても美味しそうで心が温かくなるような食事だった
「今日は準備してくれてありがとうアルテミス」
「気にするな。いつもはノクスが準備してくれているんだからこれくらいはさせてくれ」
そう言って二人は席に座ると手を合わせ食事の挨拶を済ませると朝食を食べ始める
「うん、やっぱりアルテミスのご飯美味しいよ」
ノクスはスープを飲みながらそう感想を伝える
「そうか....よかったよ。ありがとうノクス」
それからも二人は穏やかな雰囲気の中食べ続けると量はそれほどないためすぐに食べ終わる。
ノクスは少しアルテミスと軽く今日の予定など話した後、食器の片づけを済ませると自室に戻りダンジョンへ向かう準備をする。と言っても小さいバックパックの中に魔石をいれる用の小袋や回復薬の類や投げナイフのストックなどの確認だけすませば濃紺のロングコートとポーチなどを身に着け愛剣である干将莫邪を腰に吊れば準備は完了する。
金属鎧などの防具は付けず、一般的にはかなり珍しい軽装備なのがノクスのスタイルだ。それもあって担当アドバイザーは何度か少しでも金属装備を取り入れないかと提案されたりするほどだ。
ノクスが装備を整えると一回に降りて玄関に向かい、ダンジョン探索用の厚底のブーツを履いていると後ろからアルテミスが来る
「ノクス、今日はどれくらいの階層に向かうつもりだ?」
「ん~25階層くらいで軽めに潜ろうと思う」
「そうか..........大丈夫だとは思うが怪我には気を付けて油断しないようにな?」
ノクスはダンジョンに向かう前のこの時間は心苦しくもある。なぜなら自分を送り出そうとする彼女の笑顔の下にある彼女の不安、恐怖をわかっているからだ。
「.......うん!大丈夫だよ、俺は絶対にアルテミスを一人にしない」
だから俺は必ずダンジョンに行くときにアルテミスに............自分に〝一人にはしない〟と約束する
「..........あぁ、信じてるノクス」
「うん........じゃあ、行ってくる。そんなに遅くならないうちにもどるよ」
「いってらっしゃいノクス」
こうして二人のダンジョンに行く前のある種儀式的なやり取りを終えるとノクスは今日も生活のため、強くなるために走り出すのであった
25階層、そこは下層の始まりだ
この階層から地形そのものがやっかいになってくる
ここから先をオラリオができる前から「新世界」と呼ばれており、水晶で覆われた洞窟から繋がる最初の下層域
水中系モンスターが多く生息する中飛行系モンスターの数も多く、頭上の注意も怠れない危険な階層にノクスは一人で来ていた。
最もノクスのレベルは5だ。一般的に第一級冒険者と呼ばれるくらいには強いためこの階層でもソロで挑むことができる。そんなノクスが挑めるソロの限界は37階層までだ。それ以降はどうしてもソロでは対処が苦しくなる。
「さて、水に落ちるのは厄介だし早速準備を済ませておきますか」
25階層は水源タイプのの階層であり、「潜水」の発展アビリティでもなければ落ちたらひとたまりもない。そのためノクスは《太陰道》のスキルを使い水を吸収する。
水を吸収すれば《付加魔法》で水の属性を得ることができ、水の操作が可能となるためにノクスは必ず25階層に来たら欠かさずに行う準備だ。これで「潜水」なしでも水中戦ができるようにもなる。
「さて..........準備も済んだしさっさと始めますか」
ノクスはそのままモンスターの気配の感じるほう歩み始めるのであった
「フッ!.....シッ!!」
ノクスは移動後に
「
ノクスは付加魔法を自分を中心として展開し周囲を取り囲むモンスターたちに
「
ノクスの保持している属性の一つである雷の付加魔法。これは《
ノクスは雷を剣に付与することで剣による切断力が強化され、耐久を下げたモンスターたちをまるで豆腐の様に切り裂き続け気づけば大量にいたモンスターが残り一体にまでなっていた
「ラストっと........」
最後に残ったブルークラブの大きなハサミを振り下ろしを軽やかに躱し、ノクスは右手に握った剣による突きにより風穴を開ける。するとブルークラブは塵となり魔石とドロップアイテムの『ブルークラブの鋼殻』だけを残し消え去った。
「それにしても結構多かったな.......だけど、こりゃ拾うのが面倒だ」
ノクスは先程まで相手したモンスターの数が多かったという感想をこぼしながら足元に転がる相当量の魔石といくつかのドロップアイテムを見て辟易としていた。
「こんだけあれば今日はもういいかもな。これ以上は持ち運びが面倒だし」
ノクスはその魔石の量を見てこれくらいでいいかと考え集めようとしていると..........
「さすがと言ううべきだな」
「ん?.......ってリヴェリアさんじゃないですか。こんなとこにどうして?」
そこに現れたのはレベル6リヴェリア・リヨス・アールヴ。オラリオでも一,二を争うほどに有名な派閥ロキ・ファミリア副団長であり、二つ名は
別に巨大派閥の副団長と言う幹部職だからと言ってダンジョンにいるのがおかしいわけではないが今は確かロキ・ファミリアは遠征中だと聞いているためこのような下層にいることが不思議だった
「不測の事態が起きて帰還するところで丁度近くの道を進んでいるときに戦闘しているものがいるのに気づき来てみたわけだ。まぁ、その戦闘しているものが知り合いだから見物させてもらったのだ」
リヴェリアだけではないがノクスはロキ・ファミリア幹部のメンバーと交流がある。下層で活動していれば当然だが偶に顔を合わせるのでそのまま成り行きでパーティーを組むこともあるのだ。
「不測の事態ですか?まぁ、深層ならそういうことはあるんでしょうけど大丈夫ですか?」
「なに、物資が少し心もとない程度だ。人員に大きな損害はないさ」
そうやって二人で話していると.........
「.....ノクス?」
「ん........アイズか、久しぶりだな」
リヴェリアの後ろから歩いてきたのはアイズ・ヴァレンシュタイン。レベルは5でノクスと同レベルなのだが恐るべきはまだノクスの二つ下の16歳であることだ。勿論ノクスの年齢でレベル5と言うのは凄まじいことでありオラリオ内でもそれなりに有名だ。だが、それ以上に彼女の才覚はすさまじくオラリオ1の剣士と名高い。
「うん、久しぶり。また模擬戦して」
「いいけど今度な?今からとかいうなよ?」
彼女のその儚く美しい容姿とは裏腹にオラリオ内でもトップクラスの戦闘狂と言える。詳しくは知らないが過去の確執が由縁とのことだが聞くつもりはない。惨い過去など誰にも言いたくないことは俺もわかるつもりだ。
「それでノクス提案なんだが......その前にこれから帰る予定か?」
「はい。自分はソロなんでこれだけの魔石とアイテムがあると今日のバックパックじゃ収まりきる気がしませんしね」
「そうか....なら私たちの前行部隊と上まで戻らないか?」
恐らく上層の混乱を避けるために分かれて行動してるのだろう。ならば別の部隊はフィンさんが指揮を執っているのことが推測される。
「自分はいいですけど.....いいんですか?他派閥の自分を?」
「あぁ、ノクスならば構わない。どうせ帰るのならば我々としても一人二人増えても問題ないしな」
「そうですか.....ならお言葉に甘えさせてもらいます。とりあえず魔石を拾うので少し時間貰っていいですか?」
大人数で帰るのであればそれだけ生存率が確保されるので願ったりかなったりだ
「あぁ、問題ない。なんなら我々も拾うのを手伝おう。これだけあると面倒だろ?」
「え?いや.........流石に迷惑だと思うのでいいですよ?」
流石に申し訳なく思い断ろうとすると.......
「手伝う」
そう短く言うとアイズが一足先に魔石を拾い始めていた
「あの子もやる気のようだ」
そう言って優しい微笑みを浮かべるリヴェリアさんはまるで我が子を見守る....「私はあの子の母親ではないぞ?」........なんでわかったんですか?
「それじゃあすいませんがお願いしてもいいですか?」
「フッ、そう申し訳なさそうにしなくていいさ。さぁ、早く拾ってしまおう」
こうして3人で回収しているとさすがにすぐに回収をすることができ、手早くアイテムを整理してバックパックに仕舞い込むと3人で他のロキ・ファミリアの面子が待つ場に向かった
「久しぶりだね!
ノクスはロキ・ファミリアの面々と合流し移動開始し、17階層に来たところで褐色の元気な少女が声をかけてきた
「あぁ、久しぶりティオナ。相変わらず元気そうだな」
彼女はアマゾネスのティオナ・ヒリュテ。2つ名は
「ま~ね!元気が取り柄だから!」
そうやってニカッと笑い胸を張るティオナ。ティオナとは気の合うためよく話すことも多く、しばらく二人で話していると、サポーター達の疲れたような表情が目に付く。
(やっぱ遠征は疲れんのかな........)
ノクスは遠征の経験はないためわからないが相当に大変なのだろうことが伺える
ノクスはティオナに断りをいれるとサポーターの方に向かう
「よそ者だけど少し手伝おうか?」
「えっ!........あっ、でも.......いえ、大丈夫です」
ヒューマンの少女が特に疲労の色が濃く手伝おうかと提案するが断られてしまった。恐らく第一級冒険者に持たせられないといったところだろう。そして後はどうやら俺のことを少し怯えてる様子だった。恐らくは1年前のある件が原因なのだろうか?
「やめろってのノクス。
彼はベート・ローガ。2つ名は
「てめぇは強えぇ。弱いやつなんざ構うだけ無駄だ。間違っても手を貸すんじゃねぇ」
「..........はぁ~不器用だな。もう少し素直になったらどうだ?」
彼は口が悪いが悪い奴ではない。ノクス自身彼のこういうところは少し苦手だが彼が雑魚と呼ぶのはあくまで踏み出せていないものを叱咤しているのだ。
「チッ........抜かしてんじゃねぇ」
機嫌悪そうにことらから顔をそらすと
「
「あぁん?くたばれよクソ女!テメェこそあいつらの雑用引き受けてろっての。手ぶらだろ、間抜け」
「うるさぁーーい!!」
2人が喧嘩を始めるのでノクスはため息をつきながら間には言って止めに入る。だが、それはできなかった。
『ヴヴオオォォォォォォォォォッ!!!』
目の前の通路から牛頭人体のミノタウロスの群れが現れる
「ホラー!ベートがうるさいからミノタウロスが来ちゃったじゃん!」
「関係ねぇだろ。チッ、馬鹿みたいに群れやがって...........」
「リヴェリア、私たちがやっちゃうよー?」
「リヴェリアさん俺も出ます。疲労度は皆無ですしね」
「あぁ、構わん。ラウル、後学のためお前が指揮を執れ」
「は、はい!」
(ラウル.....確か2つ名は
ノクスは今指揮を任された団員の情報を頭の中によぎらせつつも目の前の敵を見据える。ミノタウロス自体ここにいるメンバーから言えばステイタスに圧倒的差があるが数が数だ。アイズも戦闘準備が整ったところで戦闘を開始した
だが、その戦闘は思わぬ展開を迎えた。すぐに半分は掃討し終わり、残りを片付けようというときに戦力差に怖気づいたのか一体が背を向け逃げ出すとそれにつられ他の個体もそれに続くように奥の通路へ逃げ込んでいく。
「えぇぇ!?」
「お、おいッ!?お前らモンスターだろ!?」
驚愕する間もなく破竹の勢いで駆けていくミノタウロスにノクスはすぐさま動く
「すぐに追うぞ!」
ノクスが咄嗟に駆け出すとその行動も相まって冷静さを取り戻したリヴェリアの指示の下ロキ・ファミリアの面々もノクスに続いていく
1階層、1階層ごと上がるにつれミノタウロスたちは出鱈目に走り回り逃げていくためそれごとにロキ・ファミリアの面々が姿を消していく。そして5階層に来た時点で残ったのはアイズとノクスだけだった。
「クソッ!見失った.........ならッ!」
5階層にいるであろう冒険者はレベル1の
「代償は魔石、望は索敵魔法!」
ノクスは《
「見つけた!こっちだアイズ!」
「わかった」
ノクスを先頭に2人が優れた敏捷をフルに生かし移動していると..........
『ヴオォォォォォォォッ!!』
「ほぉああああああああっ!!!」
2人が駆ける先に今にも襲われそうになる如何にも
「間に合えッ!」
ノクスは間合いに入るのは確実ではないと判断するとすぐさま腰に吊ってる双剣を抜き投擲をする
『ヴモオォォッ!?』
ミノタウロスが丸太のように太い腕を振り下ろす直前に背中にノクスが投擲した剣が突き刺さり白髪の少年からこちらに視線を移した
「
ノクスは右腕に雷を纏わせ、多くの鳥が囀るような音と白雷を迸らせながら一瞬で距離を詰める
そして―――
「オラァッ!」
ノクスの雷を纏った渾身の抜き手はミノタウロスの分厚い筋肉を突き破るとその中にある魔石を突き穿つ
そしてそのまま血しぶきを上げミノタウロスは塵となってその場から消えた
「ふぅ~間に合った..........大丈夫か?」
ノクスは雷を放出していたおかげかほとんど返り血で汚れずに済んだが目の前の少年はそうはいかず真っ赤に染まっているため怪我をしているのかしていないのかわからなかった。
「え.................え、えっと助けてくださりありがとうございます.......」
これがノクスと英雄に憧れる少年との出会いだった