「アルテミス!俺だ、結婚してくれー!」
二メートルを越え三メートルに届こうかという大男。
ずっしりとした肉体は縦にも横にも長く、その全てが筋肉の塊であるという表しか、巨大な丸太と鮭のような大魚を軽々と持ち上げる彼はニカリと笑っていつものように右手を上げる。
「死に腐れ筋肉ダルマ!!!!」
すると、銀色の軌跡が弧をかいて男へと迫る。一体なるなるや、男がそれを注視すれば―――穿たれた矢であった。
「――危ねぇ!?」
男は寸前の所で丸太を突き出し、矢はその上に突き立つ。
「何も、弓で射ることねぇだろ!」
「天界の遊楽の神々にも匹敵する下劣な男が、またしても我が水浴びを覗こうとしたのだ。もはや一度二度、殺しただけでは飽きたらぬ!貴様を我が弓で針鼠にし、じわりじわりと火炙りにしてくれるわ!」
水を滴らせる蒼髪の婦人だ。
弓と拳を握りしめ、薄い羽織を纏って般若の化身がごとき怒りで顔を歪めた女は男へと暴言を吐き捨てる。
「べ、別にわざとじゃねぇんだよぉ!?
俺がお前に会いに行くと何故かお前が毎回水浴びしてるのがいけねんだろうがぁ!」
思いもよらぬ襲撃に息を乱した大男はあんまりな理不尽に負けじと叫んだ。
今日だってこの女の為に油ののった鮮魚とそれを焼く薪まで用意してきたのだ。……まぁ、男として彼女の裸体には素直に御馳走様ですと鼻の下をだらしなく垂れ伸ばすが、あくまで偶然なので勘弁して貰いたい。
「これが天界ならば全盲の呪いでも掛けてやろうものを…!」
びくびくと追撃に怯える大男は丸太の影からアルテミスを覗き、既に着替えた後であったのか、髪を払って水気を取るその様に少しばかり残念に思う。
「へ、女神アルテミスとあろうものも下界に降りたとなっては多少弓の腕が立つ長生きだ」
大男は負け惜しみのように呟いた。
――ここは、バベルから少しだけ離れた森の園。
たった一柱の女神が降り立った誰も知らないその場所にある日、熊なような…熊よりもずっと大きい大男が立ち寄った。
天界でも大の男嫌いであるとされる彼女は、あろうことかその大男に水浴び姿を覗かれてしまい、そして大男はその泉に自らの排泄を行うべく陰部を宙ぶらりんとお披露目していたから、あら大変。
出会いは最悪、相性も最悪……けれど、大男はたった一柱ぼっちのその女神を哀れに思って、事あるごとに食糧や土産話をもって訪れた。
「――悔しいが美味い」
「そりゃあ良かった」
これはダンジョンに夢を掲げる物語ではない。
女神とその眷属との物語でも、きっと世に散々と輝く英雄譚とはかけ離れた縁も所縁もないものだろう。
この物語はきっと――――。
「しかし、これら獲物は貴様が弓で仕留めたのだったな……ふむ、伊達に“
「……嫌味かぁそれ?」
「……?」
女神アルテミスとオリオンが出会った、ただそれだけの話だ。