2025.02.19
アルペンの“店舗の現場”までデータドリブンを浸透させる試み 生成AI×kintone活用の3つのポイント
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小笠原圭吾氏(以下、小笠原):次のこちらを表示していただければと思うんですけれども、セルシスさんが運営する「マンナビ」さんが公開した漫画編集者実態調査アンケートというものです。出版社さんとか編集プロダクションに所属されている方、フリーの編集者の方を含めた182名の方に、「漫画編集者は持ち込みに来た漫画家の何を見ているのか」を回答いただいたものです。
今回は持ち込みではくスカウトというかたちで、ちょっとケースとしての違いもありますけれども。「持ち込みに来た漫画家と会う際に重視している点」ということで、上から「画力」「アイデア」「読者の目を意識しているか」と進んでいきます。
今回で言うと、「自分との感性が合うか」とか、「ちゃんとコミュニケーションが取れるか」という部分を重視したほうが実はいいんじゃないかということを、私自身お話を聞いた上で思ったんですけれども。千代田さんはこの結果を見ていかがでしょうか。
千代田修平氏(以下、千代田):そうですね。持ち込みだったらけっこう順当なアンケートかなと思いますけど、本当に重視するのは、話していて広義の意味でおもしろいかということですかね。
小笠原:なるほど。
千代田:画力は練習すれば何とでもなるし、読者の目を意識するのも教えれば何とかなる。「将来性」が一番重視していることかもしれないですね。
小笠原:第4位のところですね。将来性とか、いわゆる言い方があれなんですけど「人間性」のような部分も見ているということですね。
千代田:「この人あるかもな」みたいな。
小笠原:魚豊さんは、このアンケートの結果を見ていかがですか?
魚豊氏(以下、魚豊):確かに持ち込みだったらこうなるかなと。画力が一番客観的に評価できるポイントというか、物語のおもしろさって最終的にその人の趣味なので、一番信頼できる指標として「画力」は下がらないだろうということで、見るに越したことはないということで、こういうアンケート結果になったのかなと思いますね。
小笠原:なるほど。実際に編集者さんとお会いして、やはりこういう部分見られているなと感じますか?
魚豊:うーん。僕も持ち込みがあまりなかったというか、持ち込みを1回もしたことがない。投稿しかしたことなかったんで。
小笠原:なるほど。
魚豊:担当さんが付いてからしか会ったことがなかったので、どういうところを対面で見られているかはよくわからなかった。『ひゃくえむ。』があるので、その後はだいたい画力とか物語の感じとかを知った上で会ってくれていたので、その上で感性がどんなものなのかなと、しゃべって一致させていく。これが僕の打ち合わせのパターンでは多かったかなと思いますね。
小笠原:ありがとうございます。では次のテーマに行かせていただきます。次のテーマが「二人の打ち合わせ風景」となっておりまして、実際にどういう打ち合わせをされていて、どんな話をされているのかというのを、けっこうざっくばらんにお聞かせ願いたいなと思うんですが。お二人の打ち合わせはオンラインでやられてますか? オフラインでやられていますか?
千代田:ほぼ全部対面でやっていましたね。週1で対面でやってて、ネームの直しとかプラスアルファであったら、電話とかでやる感じでしたね。
小笠原:週1の打ち合わせはだいたいどれぐらいの時間をかけるんですか?
千代田:けっこう長かった気がする。3~4時間はやってた気がしますね。
小笠原:最初のお話も聞いていますと、もしかしたら音楽の話とかでめちゃくちゃ長く……。
千代田:雑談は半分くらいですね。
小笠原:(笑)。
魚豊:一時期とか普通に「ネームはOKです。ところで」みたいに(笑)。
小笠原:最短でどれくらいで終わるんですか。
魚豊:2分ぐらい?
小笠原:(笑)。
魚豊:最後らへんは「ここのセリフはこうしてこうして」という感じではありました。最後らへんというか今はもう展開が決まっていくのでそういう感じでしたね。でもやっぱり、最初の方向性を決める時はすごく長かったですけどね。
千代田:最初はちゃんとした打ち合わせをしてました。
小笠原:(笑)。
千代田:最後のほうはこっちも準備して行っているので、そこを伝えて魚豊さんが「OKです。じゃあここ、直します」で、はい終わりという感じだったのかな。
小笠原:それはもう認識の共有ができた上だからということですよね。
千代田:そうだと思いますね。
小笠原:例えば2分とか5分で終わったとしても、そこから雑談の時間はけっこう長く取られるんですか。
魚豊:そうですね。マジで「どこで帰るんだろう」みたいな。
小笠原:(笑)。
魚豊:無限に話していましたよね。まだ小学館に行かせてもらっている場合は、千代田さんにケツがあるので次の打ち合わせの前に終わるのが大抵だったんですけど、一番ヤバいのは電話とか、マジで朝までずっと話すんです。
小笠原:朝までですか!
魚豊:そう。1回……火球でしたっけ。隕石の小さいヤツが落ちた日があって。
千代田:ああ、ありましたね。
魚豊:バーンという音がして、深夜に「うわ! 火球が落ちた!」とか。マジ関係ない話。
(一同笑)
魚豊:何でこの話してるんだろうと。「マジですか」とか言って、「電話切れよ」みたいになっていましたけど。
小笠原:(笑)。すごいですね。
魚豊:でもたぶん千代田さんはけっこうそういうタイプというか、いろんな作家さん全員とそういう雑談で信頼関係を深めていくタイプなんだと思います。
小笠原:(Twitterの)スペースも大童先生とやっていますよね。
千代田:最近終わった『映像研には手を出すな!』という漫画の大童澄瞳先生とも、担当は1年前に外れたんですけど、そのあと半年くらいは毎週1回、一緒にラジオをやったりしていました。
『映像研には手を出すな!』 (1) (ビッグコミックス/小学館)
そもそも僕は作家さんとおしゃべりするのが好きで。編集者のトップの醍醐味って、「天才としゃべれること」だと思っているので、めっちゃ雑談させてもらえるという役得を存分に使わせてもらっています。
小笠原:すごいですね。今、Twitterに感想がちょっと何件か来ておりまして。まず「千代田さんイケボ」というのがけっこう来ているみたいです(笑)。
千代田:ああ、ありがとうございます。
(一同笑)
小笠原:さらに、村田雄介先生が感想をツイートしてくれているみたいで、「『チ。―地球の運動について―』の魚豊先生と担当さんのお話のおもしろさと、ナイスタッグっぷりがすごいです」と。
千代田:ああ、うれしいです。
魚豊:なんか身のある話をしていないですよね(笑)。雑談ばかり。すいません、ありがとうございます。
小笠原:すごいですね。本当に気が合うというかナイスタッグだなと思うんですけれども、そんな中でも打ち合わせをしていく上で、どうしても議論が巻き起こったりとか、意見がちょっと食い違ってしまうこともあるかもしれないんですが、そういう場合はそもそもございますか?
魚豊:ほとんどなかったと思います。もちろん「ここわかりにくいから直して」ということはめっちゃあったんですけど、大きな展開をAからBにしようみたいなことは1回もなかったと思いますね。
小笠原:なるほど。喧嘩のようなことも1回もない?
魚豊:なかったと思います。
魚豊:それはそもそも僕の作り方が、1巻分くらいの草案を一気に出して、そこをOKにしてもらってからネームに入っていく感じなので。草案の段階で「ここってどうなるんですか?」という展開の方向性を話し合うことはありましたけど、そこでまあまあ固めるので、週刊本編の毎週毎週の展開について話し合うことは起こらなかったのかなと。
小笠原:なるほど。1巻分の展開を決めるのは、他の作家さんでもわりとあることなんですか?
千代田:うーん。本当に作家さんによるとしか言いようがないです。担当してきた中でも、「来週のことはわかりませんので、来週のことをこの打ち合わせで何とか決めるぞ」「決めるまで帰れません」みたいなこともありますし。
魚豊さんみたいなタイプで1巻分の内容をふんわり詰めてはいて、毎回の打ち合わせで一応ガッツリ作るとかもありますし、本当にタイプによる感じですかね。
小笠原:でも編集者さんとしてはある程度巻数があるというか、先の展開がわかっているほうが、例え前の週でちょっと低空飛行したとしても、ここから上がっていくとわかっているからやりやすいという部分はあるんですかね。
千代田:そうですね、先がわかっているに越したことはないと思います。例えば『チ。』もそうですけど、ありえないほど先行していたので、「すごく先に行ってからここのこの話をするんだったら、10話前で振っておいたほうがいいですよね」みたいな話がすごくいっぱいあったので、それは先行しているほうが得だとは思いますね。
『チ。―地球の運動について― 』第1集(BIG SPIRITS COMICS/小学館)
小笠原:そういう意味でいうと、漫画家と編集者の幸せな環境を築く上で、やっぱり「ゴールイメージを共有できている」というのは、すごく大きいかもしれないですね。
魚豊:そうだと思います。
小笠原:でも作家さんによっては一緒に作り上げたいという方ももちろんいらっしゃるとは思うんですけれども。ちなみに『チ。―地球の運動について―』については、どのあたりまで共有されていらっしゃるんですか?
魚豊:最初から最後までの大まかな流れは全部言っていました。けっこう細かいところまで言っていたような気がしますね。
小笠原:じゃあお二人の中では、完結までのゴールがもう見えているわけですね。
千代田:大きな流れで見えていますね。大きな流れというか、魚豊さんが最初にプロットを作ったりして、そのプロットをもとに「これこれこういう話になります」とか、「ここってどうなるんですか」「あそこはこうなります」というプレゼンみたいな話をしてくれるんですけど。そこでの話がまずめちゃくちゃおもしろいんですよ。
めちゃくちゃおもしろくて、それで僕の中にここまで行くんだなという「おもしろさライン」みたいなものが引かれて。ネームとかはある種毎回、僕が魚豊さんの話を聞いて考えた「おもしろさライン」に到達しているかどうかを確認する感じでした。
小笠原:なるほど。
千代田:たまに到達していなかった時は、「あの時のあの感じがちょっとないんですけど、何でですかね」という話とかになる。打ち合わせの方向はそうなりますね。
小笠原:もしよろしければなんですけど、「具体的にちょっとここ到達してなかったな」とか、「ちょっとここわかりにくいかもな」みたいに直してたことって、『チ。』だと何がありますか?
魚豊:覚えていないんですけど、でも2巻は迷いながら作ったような気はするんですよね。全体の方向性はあってそれはブレなかったんですけど、伝え方というか、ここはこのくらいのコマの大きさで、こっちの描写はいらないんじゃないかとか。
千代田:そういうのありました。
魚豊:あまりに具体的過ぎるから覚えていないんですけど。
千代田:そうですよね。コマがうんぬんみたいな。
魚豊:千代田さんもコマレベルで自分で描いて「こうしたらどうですか?」みたいなのも言ってくれるので、こっちからしたらめっちゃありがたいです。
小笠原:実際に絵も?
魚豊:軽く絵も描くパターンも多かったので、もう超ありがたい。そればっかりに従っていたら、たぶん漫画家としての力はめっちゃ弱まっていくんですけど。
(一同笑)
千代田:当然嫌がる作家さんもめちゃくちゃいるので。別にそもそもの僕の基本ポリシーとして、めちゃくちゃ提案するけど最終的に作家さんが選べばいいと思っているので。選ぶためには、関係性がうまくないといけなくて。
作家さん的には「編集さんがこう言っているから、こうしなきゃダメなんだろうな」みたいに思われる方もいると思うんですけど、このテーマに則って言うとそれはちょっと「不幸せな関係」だと思うんです。
魚豊さんはたぶん僕が何かを言っても、ちゃんと主体的に選択してくれるだろうなと思ったので、僕が例えば「コマ割りはこっちのほうがいいんじゃないですか」と言っても、魚豊さんが「いや、それは違うと思うな」と思ったら、ちゃんと切ってくれるだろうと思っていました。そこの意味で遠慮せず、そういったレベルで提案ができたのはありますね。
小笠原:なるほど。
魚豊:提案が毎回あったんですが、それが単なる否定とかじゃなくて、ちゃんと対案を持って来てくれていたんです。そこにめっちゃ信頼感があったし、その対案をもとに「でもここはもっとこうしたほうがいいじゃないですか」というのもあったので、まあやりやすかったですね。
小笠原:なるほど。先ほどのお話にあった、「A案よりもB案よりもC案ができあがった」ということですね。
魚豊:そうですね。
小笠原:打ち合わせにおいて、千代田さんが心掛けているところみたいなものってございますか?
千代田:本当にこれは作家さんに対してケースバイケースではあるんですけど、一般的な、どの作家さんでも言えることで言うと、その作家さんのことを信じ続ける、または好きであり続けることですかね。そもそもまず「この人天才だな」と思って声をかけているので、そのあとも愛し続けることを心掛けるようにしていますね。
それって心掛けている時点で、本当にそうなのかというのは問題あるんですけど。暗示なのかはわかんないけど、でもそれがないと仕事している意味がまったく意味不明になるんですよね。ヒット作を飛ばしても給料は上がらないし、本当に好きだからやっているという、それしか根拠がないのでこの仕事をしている。そこは心掛けているようにしていますね。
小笠原:先ほども魚豊さんを「天才だ」とおっしゃっていましたよね。私も本当に大好きなので天才だと思っているんですけど、特に天才だと思った部分はどこになりますか?
千代田:単純に声をかけたきっかけは『ひゃくえむ。』を読んだからというのが大きかったんですけど、僕がネームとか作品を読む時に1つ基準にしているのが、さっきもちょっとあったんですけど、ラインを超えている瞬間があるかどうかで。
『「感情」から書く脚本術』という本があって、その序文のところに、「映画の脚本の下読みをする人がどういう気持ちで下読みをしているか。それは脚本を読んだ時に『うおっ!』という瞬間があるかどうかという1点だけだ」みたいな話があって、まさにそうだなと。
千代田:『ひゃくえむ。』の1話で「足が速ければ全部解決する」みたいな話があって、コマを読んだ時に「うわっ!」みたいに思ったので。その「うわっ!」が出せるかどうか、その瞬間を出せる人が僕の中では天才だなと思っていますね。
小笠原:なるほど。魚豊さん、いかがですか。
魚豊:いや、身に余る光栄です(笑)。
(一同笑)
魚豊:そう思ってもらえるように今後もやっていきたいですね。
小笠原:天才と思える人と一緒に仕事ができるって楽しいですし、それを信頼し続けることがすごく重要なんじゃないかなと思いました。なので2人の打ち合わせとしては、議論が巻き起こるというよりかは感覚がそもそも似ていてさらに天才だと信じているので、作家さんを信頼して、最後は作家さんにお任せできる関係性を今作っている。それがすごくいいことなんだなと思いました。
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