超凡夫に転生するのは間違っているだろうか


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作:タルタル山賊焼
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6.不合格のその後


超凡夫に愚者が入った結果


 太陽が落ちてきて夕日が差す時間帯の中で、俺は予想外過ぎる事の顛末に驚愕から立ち直れなかった。

 

「は?は……?はあ……??」

 

 オラリオのどことも知れない裏路地で、足をフラフラさせながら一人歩く。酔っ払いの千鳥足のようにも思えるが、アルコールなんて一滴も呑んじゃいない。

 ただただショックだったというだけのこと。

 

「な……んで?落ちた……?俺が?どうして……?ラウルよりも努力して結果も出した筈なのにどうして……?」

 

 全くもって理解ができない。指揮官としてのアピールもしたし面接での受け答えも、特にダメな点があったわけじゃない。それなのにどうして落ちた?わけが分からない。

 

 そして一番ショックを与えたのは不合格になったことではない。

 

「なん、で俺は落ちたのに…………アキは受かってるんだ……?」

 

 そう、俺が落ちたのならばアキも同じ様に落ちなければおかしい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「原作が……捻曲がった……?俺、の……せいで…………だとするなら、もうこの世界は……もう……」

 

 モブでしかないラウル・ノールドだがその役割は重要なものばかり。ラウルがそこに居なければどれだけの人間が死ぬのかも分からない。

 フラッと眩暈がして建物の壁に手を置いて寄り掛かる。足場が失くなってしまったかのような喪失感だ。

 そして、次に沸き上がってくる感情は怒りだった。

 

「俺が劣ってたって言うのか……あのラウル・ノールドにッ!?あんな普通の極致みたいなモブに俺が劣ってるっていうのかよッ!!」

 

 努力でいえば俺の方が(まさ)っていた筈だ。自分の可能性を高く見積もらずに分相応の戦い方を示し、身の丈にあった努力をらうよりもちゃんとしていたのに……どうして!?

 

「ラウルが俺みたいな戦い方を初めからできたってのかよっ。俺みたいに強くなろうと努力を初めからしてたのか……?

 そんなわけないだろ……だってあのラウル・ノールドだぜ……?」

 

 作中でパッとせず弄られる不憫なキャラ。そんなラウルがランニングだとか反射神経を育てるために、ミット打ちなんかをしているわけがない。

 だから、俺の方が努力をしている筈なのに。どうして俺はラウルに負けた?

 

 ぐるぐると焦りと不安と悔しさ、そして怒り。それが胸の内側から溢れて止まらない。

 ドンッ!と強く握った拳で壁を打ち付けると、感情をそのまま吐き出した。

 

「ああ、クソぉッ!俺が居ないと死ぬんだぞ!?分からないのか!?ああ……ああッ、分からないんだろうなッ!!クソがッ!そんなに死にたいのかよッ!?」

 

 いつの間にか不満の対象はラウルではなく、ロキ・ファミリアの団長にして合否を発表したフィン・ディムナに向かっていた。澄ました顔で不合格を言われたことを思い出して怒りが爆発する。

 そもそも、将来でアンタを助けるためにロキ・ファミリアに入ろうというのに、何でこんな目に遭わないといけないか。

 

「意味が分からない意味が分からない意味が分からない……」

 

 どこかで見下していたラウルよりも劣っていたという事実。受かることを確信していたというのに、落とされた屈辱と余りの惨めさ。これから破滅に向かう世界の行く末。

 今までしていたことがナルシストそのものであったという無様さに、死にたくなってくる。

 

 あのラウルよりも劣っているという事実と、未来が分かっているからこその絶望によって、俺はその場でズルズルと崩れ落ちる。

 このまま膝を抱えたままでいたい。だが、ヘスティアのような善神が通り掛かって手を差しのべられることはない。

 

 なぜなら、俺はベル・クラネル(主人公)ではなくラウル・ノールド(モブキャラ)なのだから。

 

 近寄ってくるのは不満をぶつけてくる荒くれ者か、こちらを馬鹿にしてくる神々とかだろう。このままでは余計に惨めなことになる。

 だが、立ち上がる気力がまるで湧いてこない。そのまま10分近く三角座りをしていると、とある仮説が思い浮かんだ。

 

「……いや、同期の定義なんか他でもないラウルとアキ次第だ。それこそ、ラウルがギリギリまで落ちてる可能性だってある。そうだ、まだ充分に挽回は利く筈だ……そうに決まってる…………」

 

 俺はヨロヨロと立ち上がり借りている宿まで歩いていく。この仮説は間違っていないのだと信じて足を進めた。それがどれだけ無様であろうともここで折れれば、本当に何もかもが無駄になってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイオイ、あいつってまさか……」

 

「ああ、ロキ・ファミリアの入団試験に落ち続けてる奴だ」

 

 とある寂れた酒場のテーブルから、そんなことを囁き合うオッサン達の声が聞こえる。

 アルコールで赤くなった顔をしている万年『Lv.1』の男達は、良い酒の肴が見付かったかのように下品な笑みを浮かべながら、こちらを見てくる。

 モブもモブの冒険者。名前さえ考えられていない落伍者共だ。目に……いや、耳でその声を聞き取る価値もない程度の存在がアイツらだ。

 原作で出てくるモルドやボールス以下の中年冒険者でしかない。どうせ『聖邪決戦』で死ぬような奴らなのだろう。覚えておく価値もない。

 

「何でも5()()()()()()()()()()()()()()()?よくそんな真似ができるもんだぜ。別のファミリア探した方がよほど利口だろうになぁ?」

 

「ッ!!」

 

 思わずテーブルを拭いていた布巾に力が入った。だが、すぐに仕事に戻りテーブルを拭いていく。

 しかし、その俺の反応から俺の耳に自分の声が届いていることを確信したのか、嘲笑を含みながら奴らは話し続ける。

 

「ああ、俺なら煙たがれてると思って行けて2回だわ。まあ、オラリオ二大派閥のネームバリューは魅力的なのは確かだがな」

 

「つーか、ロキ・ファミリアは顔採用だろ?あんな普通の顔で受かるわけねぇだろ。もしかして、アイツ自分がイケてるなんて思ってるのか?」

 

「ギャハハッ!それは傑作だな!あそこはエルフ並みの顔面が要求されんだってのになッ!それこそテメェの顔面を鏡で見たことがねぇのかもな!?」

 

「「「ガッハッハッハッハ!!」」」

 

 噛み締めた唇から血が出そうになるが何もできない。恩恵を貰っていない一般人では、たかが『Lv.1』の冒険者に手傷を負わせることもできないのだから。

 ……いや、そもそも暴力でどうこうしようと考える時点で負けだ。それはつまり、言葉で言い返すことができないと言っていることと同じなんだから。

 

「(このクソモブ共が。俺がロキ・ファミリアに入ることを諦めたらその時点でオラリオが滅亡するんだぞ!?それでもいいのかよ!お前らも死んじまうんだぞッ!?

 何だったら俺に感謝しろよ!毎日毎日、世界のためにこんなに頑張ってるだろうが……ッ!)」

 

 歯を噛み砕かんばかりに食い縛る。全て投げ出してやろうかとも思うほどだ。誰のためにこんな無様な姿を晒していると思っているのか。

 ふと、机を睨み付けながらくだらないことを思い出す。

 

「(ああ……そうか、奇しくもシチュエーションで言えばベル・クラネルと同じか)」

 

 ベート・ローガによって公衆の面前で笑い者にされて、周囲の人間も釣られたように笑い出すあのシーン。あれでベル・クラネルは英雄になる道を歩み始めるが……俺は違う。

 

 なぜなら英雄どころか冒険者になる権利すら、俺には与えられていないのだから。

 

「(でも違うところは冒険者になってるかどうかだけじゃない。ベル・クラネルにはアイズが居て、その弱者を嘲笑う空間を終わらせた。

 でも、この場で俺に味方してくれる存在なんていやしない。ハハッ、これが主人公とモブキャラの差なのか……)」

 

 ロキが面食いであることも相まって俺に対してのネタは事欠かない。俺だって普通の顔したフツメンが、アイドルや俳優並みの美男美女しかいない空間に、必死こいて混ざろうとしていれば鼻で笑う。

 自己評価を見つめ直せと思うのは自然なことだ。それが例え本当に実力派のファミリアであっても、人の憶測を止めることなどできはしない。

 その嘲笑う声を取り繕った愛想笑いで受け流しながら給仕をしていき、その日の勤務時間を終えた。

 読者のときに見下していた冒険者に見下され嗤われる毎日。バーの店主も俺を嗤いにきた客でいつもより出入りが多くなるからと、上機嫌でありミア母さんとは天も地も離れたクソ親父だ。

 逃げるように素早く支度をして金だけ貰い退勤をする。

 

「お疲れ様でした……」

 

 ガチャリと酒場の裏手の扉から出た。時間は夜の9時だろうか。月明かりと星々が照らす闇夜を一人で帰っていく。何故9時かといえば、オラリオは現代と違い夜遅くまでランプを付けておくことはない。

 電気が通っていないのはもちろん、テレビもスマホも無いため夜遅くまで起きていることに意味がないのだ。

 そして冬の時期は特にそうであり、家の中にある暖炉しか火を付けてはおらず、星空を隠す光源としては余りにも少ない。

 

「未成年……いや、この世界で未成年もクソもないか。ベル君の歳で酒が呑めるんだから」

 

 一人孤独に歩いているとそんな独り言を口にしてしまう。だが、これくらいは許して欲しいと思う。──もう、これくらいしかすることがないんだから。

 

「ロキ・ファミリアの入団試験で……5回……そう、5回挑戦して5回も落ちた。そして次の入団試験で6回目。()()()()()()1()()()()()()()()()()

 

 1年も経てば言い訳もできなくなる。もう、明確にアキとは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(ああ、……これは間違いなく原作崩壊だ)」

 

 あの時と同じ──10ヶ月前と同じ様に建物の壁に寄り掛かる。ロキ・ファミリアの入団試験は1年で5回。6回目はちょうど1年後。

 もう、アキと無理やり同期と呼べる期間はこれで完全に尽きた。

 

 アキとの繋がりは薄くなり、彼女の相棒となることは無い。他の眷属の誰かがそこに入ることだろう。

 

 ラウル・ノールドを構成する大切な要素がこれで消え去ってしまったのだ。

 

「ハハッ、どうすんだよこれ……」

 

 髪を掴むように右手で顔を覆う。言い訳のしようもない原作崩壊を俺は引き起こしたのだった。




鬱々としてます。まだまだ傲慢さが抜けきらない男です
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