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伊集院光さん語る「ラジオ100年」(前編)◇淘汰されない「オールドメディア」 #取材班インタビュー

2025年03月15日10時00分

 日本のラジオ放送開始から2025年3月22日で100周年。アーカイブ番組「伊集院光の百年ラヂオ」(NHK-FM、日曜午前11時。4月からラジオ第1、土曜午前10時5分でも放送)でパーソナリティーを務めるタレントの伊集院光さんは、往年の名番組を「アンティークやクラシック」と表現する。長年話し手として活躍する伊集院さんに、昔の音源の魅力やアーカイブへの思い、70年前の番組に登場した人物との「驚きの縁」について語ってもらった。(時事ドットコム取材班 斉藤大

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どこかに落としてきた「温かさ」

<関東大震災からの復興途上の1925(大正14)年3月22日、NHKの前身・社団法人東京放送局がラジオ放送を開始した。2023年4月スタートの「百年ラヂオ」は、NHKが保管する音源から選りすぐった番組を紹介。伊集院さんは収録のたびに気付かされることがあるという>

 きょうの収録で取り上げた70年ぐらい前の徳島局のクイズ番組では、出演する一般の方が長考している時にいい頃合いで、アナウンサーが(次々に)ヒントを出すんです。最初それにちょっと違和感があったんですけど、「そうか、(無音のままだと)放送事故になるからか」と気づきました。「なるほどそれで後に、悩んでいる時間も含めてショーアップするために『カッチカッチ』と音を流すシンキングタイムが開発されたんだなあ」と推測できたりします。

 今のテレビのクイズ番組は、東大や京大卒のタレントが次々と早く正解を答えていく面白さに特化しています。方や、そのラジオ番組は「生徒が観覧席にいるのに担任の先生が緊張して間違えてる」みたいなことの楽しさや温かさが中心です。「あ、これはどこかで振り落としてきちゃったクイズだな」って。

アンティークの「新鮮さ」

<ラジオは音声のみのメディア。ラジオドラマの作り手は、テレビや映画とはまた異なる表現を模索してきた>

 ラジオドラマ全盛期の脚本のすごさ。ストーリーだけでなくラジオの特性を良く考えて作られているんです。例えば「どうした、二日酔いか?」と言うところを「赤い目ぇして」と加えることで、視覚情報がさりげなく一発で(リスナーの頭の中に)入ってくる。今の僕はそういう意識がちょっと薄くなりつつあるかなと反省しました。

 寺山修司さんが20歳の吉永小百合さんに徹底的に取材して脚本を書いたラジオドラマも、吉永さんの一人語りという変わったスタイルなんですがとても良かったですね。

<寺山脚本ドラマは「二十歳(はたち)」のタイトルで1966年の成人の日に放送。吉永さんの誕生から20歳までを、詩の朗読と当時のニュース音声を交えて描く実験的な作品だ。2023年10月に「百年ラヂオ」で取り上げると、中高生から「今、聞いても新鮮で驚いた」といった感想が寄せられた。福山剛チーフプロデューサーは「10代にとっては全く聞いたことのないコンテンツ。音源を懐かしむだけでなく、現在や未来に繋がっているということを番組のテーマにしている」と話す>

 テレビのことを「オールドメディア」とちょっと揶揄するのがはやりみたいですけど、ラジオはオールドメディアのさらにオールドメディア。でも、すごく良い番組を聞いた時に「いや、アンティークであり、クラシックである」と感激しますね。僕もオールド人間にどんどんなってるけれど、古い番組でも品質の突き抜けているものは淘汰されないんだなと感じます。

利用されたラジオ

<ラジオは1930年代に安価な受信機が登場し、一気に主要メディアとなった。一方で、31年の満州事変を機に戦意高揚を狙ったプロパガンダ放送が増加。45年に敗戦を迎えると一転して、ラジオは「民主化」の役割を担うことになる>

 戦争に向かっていく時期や戦時下、その後のGHQ(連合国軍総司令部)による占領期の番組は、(体制側による)「こういう世の中にしたい」ということが色濃く出ています。例えば、戦後すぐの放送は、とにかく「アメリカは良い国なんだ」「手に入れた自由を良いものにするべきだ」「アメリカに復讐しようなんて考えないように」という色が感じられます。

 それを聞くと「ちゃんとしないとな」と思います。放送には影響力があるということを、体制側はよく分かっていて、良くも悪くもコントロールして来ることがあるのだなと。

 「百年ラヂオ」で初めて意識したのが農事番組。農業の「地味でもうからない」イメージを、みんながやりたくなるように変える意味を持った番組です。それには戦後の「食糧生産を上げたい」という体制側の目的があった訳です。こっちは良い方の演出かな。

感動は一期一会

<「百年ラヂオ」で紹介される番組ジャンルはドキュメンタリーから著名人インタビュー、「忠臣蔵」の架空実況中継の企画までと幅広いが、伊集院さんは事前には音源を聞かずに収録に臨むという>

 番組を引き受けたのは、もともと古い音源を聞くのは嫌いではないことと、Eテレ「100分de名著」に長く出て、インプットさせてもらうことが多く、すごく勉強になっているから。そういう期待をしましたね。歳を重ねるとアウトプットばかりでインプットが減りますから。

 事前に音源を聞かないのは、(初めて聞いた時の)感動をもう1回練り直してしゃべることが得意ではないからですかね。「名著」でも取り上げる本を事前には読みません。事前にチェックした人同士の会話だと「報告」のようになって、聞いている人はあまり面白くないんです。昔の音源を聞いて「今のところが聞こえにくかったけど、何なのだろう」という話がちゃんとできないと、リスナーを置いてけぼりにしてしまうんじゃないでしょうか。

<「音源を分かりやすく噛み砕きバランス良く表現できるのは伊集院さんしかいない」と福山CP。自身の記憶や経験談などを交えつつ、時代背景や出演者の思いまで推察する伊集院さんの語りは番組の聞きどころだ>

70年前の番組に登場したのは…

<番組にはリスナーからさまざまな思い出や感想が寄せられるが、2024年3月の放送では伊集院さんも驚くような縁のあるエピソードが紹介された>

斉藤大(時事ドットコム取材班)

 1984年、東京都生まれ。2010年入社。大阪支社、富山支局、本社内政部、社会部を経て23年10月から時事ドットコム取材班。これまで2度、都庁を担当し新型コロナや東京五輪で揺れる小池都政を取材してきました。

 趣味は映画やドラマを見ること、ラジオを聞くこと。写真を撮るのも好きです。

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