フレイヤ・ファミリアに入ったのは間違っていた


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作:Iron iron
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地獄の日々part2と炎


夕焼けが薄れつつある酉の刻。

僕は生きていた。

 

戦いの野(フォールクヴァング)では、日の出から夕暮れまで、休みなく殺し合いが行われる。

 

剣、槍、ナイフ、弓、毒、魔法……etc

 

なんでもありの血で血を洗う闘争の庭は、いつ誰が死んだとしてもおかしくない危険な場だ。

そして、そんな闘いに身を投じる者たちの過半数は、上級冒険者。

中には、第一級冒険者への仲間入りを間近に控えるLv.4も少なくない。

 

夕焼けが見え始める頃には、僕のようなLv.1の冒険者は、全員脱落してしまうのが常だ。

けれども、僕は生きていた。

決して、それは僕が強いからではない。

むしろ、ついこの間恩恵を刻んだばかりの僕は、ステータスの更新すらまだ一回しかしておらず、Lv.1の中でもかなり弱い部類であると言える。

 

では、なぜ僕が生きているのか。

 

それはきっと、『女神』への執着が無いからに違いない。

フレイヤ・ファミリアに所属する団員は、女神(フレイヤさま)に救われ、女神(かのじょ)に陶酔している人が圧倒的多数を占める。

そんな彼らにとって何よりも重要なのは、「女神に貢献すること」。

一刻も早く強くならなければならない彼らは、自分に向かってこない格下の相手などしている場合ではない。

 

一方僕はといえば_______死にたくない。

別に、フレイヤ様への()()が無いわけではない。

入れてくれるファミリアがなくて途方に暮れていた僕を救いあげてくれたし、眷属になってからもかなりよくしてもらっている。

けど、彼らのような()()は無い。

深い理由があるわけではないけど、僕なんかが神様にそういう感情を抱く事自体畏れ多すぎて、持てない。

持てたとしても、命が惜しくなくなるほどでは無い。

 

恩恵を授かったばかりで元から小柄な僕の躰は、上級冒険者からしてみれば、脆い。

それはもう、彼らにナイフで一突きでもされれば、ひとたまりもなく即死してしまうんじゃないかと言うほどに。

大人と子供以上に隔絶した圧倒的なまでの差が、そこにはある。

 

だから、()()()()()

逃げて、隠れて、離れて。

偶にLv.1の人たち同士が争っているところに後ろから横槍を入れて、漁夫の利を得る。

どれだけ卑怯だと言われても、姑息だと言われても、ステータスの増減が無くとも、死んでしまっては意味がない。

 

自分の意思でフレイヤ・ファミリアに入り、自分の意思で戦いの野(フォールクヴァング)に来ているはずなのに______どうも矛盾している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、特大広間(セスルームニル)

 

結局今日最後まで生き残ったのは半小人族(ハーフパルゥム)のヴァンさんで、僕は他の人達を倒し終えたヴァンさんについでとばかりに小突かれて、失神させられた。

もう十分実感してきた筈なのに、Lv.4(かれら)の化け物っぷりにはどうしても畏敬の念を抱かずにはいられない。

今目の前でもぐもぐとご飯を頬張っている幹部(ひと)達がそれを更に凌駕するLv.5以上(ばけもの)であるという事実に感じる(おそれ)は、もはや言葉では表し難い。

 

どのくらいの時をかければ、この人達に追いつけるんだろうか。

少なくとも今の卑怯なやり方では、何十年かかるか分かったものではない。

 

僕が考え事をしていると、1人の人が僕の卓に料理を届けてくれた。

 

「どうぞ〜ベル。今洗い場が切羽詰まっているので、完食してから出してくださいね?」

 

女神の黄金(ヴァナ・マルデル)】ヘイズ・ベルベットさん。

 

フレイヤ・ファミリアの治療師(ヒーラー)集団、 満たす煤者達(アンドフリームニル)を率いる。

戦いの野(フォールクヴァング)で日々殺し合う団員達が死なないのは、殆どこの人の辣腕によるものと言っても良い。

 

薄紅色の長髪を2つに結わいて、赤いエプロンドレスを纏う美少女……なんだけど、日々の激務に疲れ果ててか、その目は完全に死んでいる。

 

まさか筆頭治療師(ヘイズさん)自ら料理を届けられるとは思っておらず、少し上擦った声で「あ、ありがとうございます」と言ったら、一瞬目を見開いて、死んだ目のまま驚愕の目を向けるという器用な技を披露された。そんなにお礼を言われることがないのかな……

 

「おい、ベル」

 

今度は、ヴァンさんが話しかけてきた。

手には、空の皿が載ったトレイ______夕餉を食べ終わったのだろう。

先程失神させられた相手の突然の来訪に、僕は声にならない挨拶を言う。

 

半小人族(ハーフパルゥム)であるこの人は、ヒューマンよりは低いが、小人族(パルゥム)にしては身長が高い。

そのため見た目は僕よりも年下に見えるのだが、実年齢は僕の倍以上。僕よりも色々な経験を積んできた、立派な大人だ。

 

「お前、もっと積極的に行け」

 

それだけ吐き捨てて、彼は去っていった。

 

核心だ。

本当にぐうの音もでない。

だけど、勇気も出ない。

 

迷宮(ダンジョン)に行けば、何か変わるだろうか。

ファミリアに入ると同時にフレイヤ様から禁止された迷宮(ダンジョン)だけど、本気で頼み込めば潜らせて貰えるんじゃないかという予感はある。

試してみようか。

 

「「「「ッチ、カッコつけやがって」」」」

 

「あれは天界に広く蔓衍せし病気(カルマ)、神々は其をチューニビョウと呼ばん」

 

「「「「それはお前な」」」」

 

「ひ、ひどい……」

 

そこそこ急に現れて即座にヴァンを揶揄う漫才の音も、とても豪華で美味しいはずの夕食の味も、考えに耽る僕の五感はまるで感知しない。

 

その日は疲れに抗えず、部屋に戻り服を着替えるやすぐに体を布団に埋め、泥のように眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

牛は、いつから二足歩行を採用したんだろうか。

ベルは目の前に現れた雄牛を前に、そんな感想を抱いた。

 

ダンジョン5階層。

夢にまでみたダンジョンに、ベルはいた。

 

彼の視線の先には、正体不明の二足歩行型雄牛。いや、生粋の英雄譚愛好家(マニア)であるベルには、それが『ミノタウロス』と呼ばれる種類のモンスターであるということは分かっている。

古今東西多種多様な英雄譚があれど、このモンスターが弱いモンスターとして描写されている作品は滅多にない。

 

一目見て勝算の無さを察したベルは、即座に躰を旋回し、元来た道を全力で走り出す。

ミノタウロスが黙ってベルの逃走を赦してくれれば良いのだが____

 

「ヴォオオオオオオオォォォォォォォォッ!!」

 

彼は、闘争を望んでいるらしい。いや、もしくは捕食か___いずれにせよ、その先にベルを待ち受けるのは死だろう。

 

理不尽だ。

あの庭で殺されるのを恐れて何も出来なくなってしまった自分を変えるために、このダンジョンに来たのに。結局、挑戦の先にあるのは死だけなんて。

ベルは、自らの服中に怒りの火が燃え上がるのを感じた。

誰かへの怒りではない。自分が悪い。自分の器量も弁えず過剰に冒険ばかりするから、こんな目に遭うのだ。

 

ベルの身体は、燃えた。烈しい憤怒と恨みとのために、火の如く燃え狂った。

彼は、その燃え狂う身体を、何物かに打ち突けたいような気持ちで走った。ダンジョンの中を、滅茶苦茶に走った。建物の中を、礫のように走った。

 

だが、彼の身体(ステータス)は、彼の炎についてきてはくれなかった。

段々と速度が落ちてくる。後ろから迫るミノタウロスの足音を感じる。

とうとう立つことすら出来なくなってしまったベルは、ミノタウロスの前にへたり込む。

彼の身体は、死を前にした後悔にいっそう激しく燃え上がった。

 

ダンジョンに潜るのを4階層まででやめておけば____そもそもダンジョンに来なければ____フレイヤ・ファミリアに入らなければ______

 

ここ数日の色々な選択への後悔が、幾重にも重なってのしかかる。

それも、今となっては遅すぎるが。

 

ちょこまかと逃げ回ってくれた獲物(ベル)を一撃で葬り去るべく、拳を振り上げるミノタウロス。

己の死を悟り、ゆっくりと目を瞑るベル。

 

そんな2体の間に、一陣の風が吹いた。

目を瞑っていたベルには、何が起きたのかは分からない。

ただ瞼を開くと、拳を振り上げていたはずのミノタウロスは灰と化していて、目の前には金髪を他靡かせる美少女が立っていた。

ベルは、彼の中にあれだけ燃え盛っていた炎が、完全に吹き消されてしまったのを感じた。




本当は恩恵確認するところまでやりたかったんですが、一回パソコンの前に座ったらそのまま最後まで書いてしまうという一筆書き的なスタイルなので、先に体力の限界が来ました。

是非感想、評価等頂ければ幸いです。
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【CV:丹下桜/初回3大特典】しょにおや!~いっしょにおやすみプロジェクト~ 藍葉と2人でもっとだら〜んって過ごそ?【年下アイドルとイチャイチャASMR】 [電撃G's magazine]
  丹下桜