フレイヤ・ファミリアに入ったのは間違っていた


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作:Iron iron
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地獄の日々part1


 

誰もいない、静謐の守られた1人部屋。

ほど前、僕は憧れの冒険者になるため、迷宮都市(オラリオ)にやってきた。

だけど、迷宮都市(オラリオ)に来れば冒険者になれるなどという考えは、甘かった。

 

魔法を使えるエルフや怪力自慢のドワーフならいざ知らず、背丈も低く見るからに弱そうな見た目をした(ヒューマン)を歓迎するファミリアなど、ある筈もなく……

迷宮都市(オラリオ)に来てから最初の3日間は、道行く神に頼み込んでは丁重にお断りされる、地獄の日々が続いた。

それはそれまでの人生で1番辛い期間だったけど、幼少期よりおじいちゃんから理由もなく天才だと褒めそやされて生きてきた僕が、自らの井の中の蛙っぷりを自覚するには、ちょうど良い期間だったと思う。

 

そうしていよいよ、迷宮都市(オラリオ)での滞在費の預金が気になってきた頃。

僕の前に、女神様が現れた。

比喩表現じゃなく、本当の意味の女神だ。

彼女は美の神(フレイヤ)と名乗り、自分のファミリアに入れてくれると言った。

 

美神の眷属(フレイヤ・ファミリア)

 

都市最大派閥にして、おじいちゃんに生前「絶対にここには関わるな」と忠告されていたファミリア。

だからこそ、手当たり次第あらゆるファミリアに声をかけてまくっていた僕も、フレイヤ・ファミリアにだけは近寄らなかった。

故に、普段の僕であれば、誘いに応じる(おじいちゃんの教えに反する)事などあり得なかっただろう。

 

だけど、その時は多分、普段の僕ではなかった。

絶望という地獄の中にいた僕にとって、その誘いは神の垂らした一筋の糸に見えた。

何より目の前に現れ、手を差し伸べてくれたこの女神(ひと)が、僕には悪い(ひと)のようには見えなかった。

そして僕は、フレイヤ・ファミリアに入った。

 

 

……自分が美神の眷属になった(フレイヤ・ファミリアに入った)時のことを思い返し、ベル・クラネルは今、猛烈に後悔していた。

あの時のベルは、本当に普段のベルではなかった。

普段のベルであれば、あの祖父が「絶対にここには関わるな」と言ったからには、何か理由があるに違いない、と推察するぐらいはできた筈だ。

 

今なら祖父がああ言った理由も分かる。

ここは、死地だ。

ベルは先ほどの回想の中で、迷宮都市(オラリオ)に来て最初の3日間が、それまでの人生で1番辛い期間だったと形容した。

 

だが、それはあくまで()()()()の話。

それから2週間が経過した今、その順番は、1〜10まで全部フレイヤ・ファミリア(ここ)での体験が占めている。

それほどまでに、ここでの日々は過酷だった。

 

 

(1日が始まるのが辛い……ずっと寝ていたい……)

そんな考えが頭をよぎる。しかし、どうせ寝ていても彼の師匠(マスター)にもっと辛い手法で叩き起こされることは目に見えているので、大人しく布団から起き上がる。

脳が半分寝たままの状態でいつもの服に着替え、窓から外気を吸って少しずつ、意識を覚醒させていく。

眠気が発散された所で、また今日も憂鬱な1日を開始すべく、扉の取っ手に手をかけようとしたその時。

 

凄絶な轟音を掻き鳴らし、上級冒険者をも吹き飛ばす勢いで、扉が開いた。

 

()()()のドアが、()()()

 

当然、扉の取っ手に手を伸ばしていた下級冒険者(ベル)はひとたまりもなく吹き飛ばされ、先ほど覚醒した意識を再び天界の彼方へと飛ばす。

 

「いつまで寝ているつもりだ。愚兎(ぐさぎ)。」

 

同時に修理が確定した扉から、1人の男が入ってくる。

この世のものとは思えない端正な顔立ちに、金の長髪。

雪の如く白き肌と性格を暗喩するように尖った耳は、彼の属する種族の最大の特徴。

 

白妖の魔杖(ヒルドスレイブ)】ヘディン・セルランド

 

Lv.6の第一級冒険者にして、フレイヤ・ファミリア幹部。

そして、入ったばかりで右も左も分からないベルの面倒を見てくれている師匠(マスター)でもある。

兎にスパルタ指導を施す高潔な白妖精(ホワイトエルフ)は、先程の強襲により床に突っ伏したまま気絶しているベルを発見し、眦を吊り上げる。

 

「貴様、寝巻きも着ずにどこで寝ている?

いつから人間(ヒューマン)は着替えすら放棄し地べたで寝るような惰性の権化に成り下がった」

 

事情を知る者が見ればあまりにも理不尽な批判の言葉を浴びせかけながら、ゲシゲシとベルを踏みつける。

 

「……ッガッ⁉︎痛いっ!師匠(マスター)⁉︎やめ…‼︎」

 

「朝だ愚兎(ぐさぎ)。可及的速やかに支度を済ませ、朝食を取れ」

 

ヘディンの効率的な目覚まし(ぼうりょく)により再び意識を覚醒させたベルは、何故か自分を踏みつける師匠(マスター)と後で幾人かに謝罪することになりそうな扉を見て、大体の状況を察した。

この場合、言い訳(べんめい)は更なる教育(ぼうりょく)を産むだけに過ぎないと、過去の学習データに散々インプットされている。

ベルは言われた通り急いで立ち上がり、ヘディンに付いて特大広間(セスルームニル)へと向かった。

 

 

 

 

特大広間(セスルームニル)に来ると、もう既に大半の人達は席に着いていた。

そもそも寝てなかったとはいえ壁を蹴破ってまで起こしに来たぐらいだし、やはり師匠(マスター)の言う通り、いつもより少し寝過ぎたらしい。というか、明らかに寝坊だ。

 

「寝坊したのか」

 

「下っ端の癖に胆力すげぇな」

 

「舐め腐っているな、兎」

 

「ちょっと自分がフレイヤ様に気に入られているからって調子に乗っているな、兎」

 

座った席の前の席には4つ子の小人族(パルゥム)がいて、僕を揶揄ってくる。

酷い言われようだけど、寝坊はしてきた手前反論できない。

 

炎金の四戦士(ブリンガル)】ガリバー兄弟

 

師匠(マスター)に並ぶ、フレイヤ・ファミリアの幹部。

僕の席は僕の教育係である幹部(マスター)の隣なので、必然的に近くの席には、幹部の人達が多くなる。

 

「クク、遅参の慙愧に堪えぬか白兎……」

 

右斜め前の席から話しかけてきたのは、【黒妖の魔剣(ダインスレイブ)】ヘグニ・ラグナールさん。

 

「恥に囚われ、朝餉を摂らぬのは自ら生の隘路に飛び込むと同じ、此れもまた鍛錬の一環なればこそ……我が赤茄子を授けん……」

 

この人は、おじいちゃんの言うところのチューニ病ってやつらしい。

難解な言葉なので解読には少し時間がかかるけど、おおよそ

(朝ごはん食べないの?食べなかったら今日一日辛いよ。僕の赤茄子あげるね)

的な事を言っているんだと思う。多分。

 

「おい狡いぞ雑魚精神(メンタル)エルフ。ベル、俺の分も食え」

 

「寝坊の罰だ。食え」

 

「野菜好きだろう?兎」

 

「デザートと交換してやる」

 

「惰眠を貪った欲深き愚兎(ぐさぎ)には、朝飯も質より量が重要だろう」

 

ヘグニさんの行動に呼応するように、アルフリッグさん達と師匠(マスター)が僕の皿に赤茄子を積んでいく。

大量の赤茄子を押し付けられた結果、僕の朝食の表面積の半分を赤茄子が占めてしまった。

僕は別に赤茄子は嫌いではないので、拒む理由なんてないのだけれど、どうして赤茄子はこんなにも嫌われているんだろう。赤茄子が何をしたと言うのだろうか。

 

 

____その後、積もりに積もった赤茄子を食べ切るのに時間がかかってしまい、師匠に蹴られながら中身を吐き出さず完食すると言う罰ゲーム

僕はもう2度と赤茄子を口に入れまいと、心に誓った。




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