誰もいない、静謐の守られた1人部屋。
ほど前、僕は憧れの冒険者になるため、
だけど、
魔法を使えるエルフや怪力自慢のドワーフならいざ知らず、背丈も低く見るからに弱そうな見た目をした
それはそれまでの人生で1番辛い期間だったけど、幼少期よりおじいちゃんから理由もなく天才だと褒めそやされて生きてきた僕が、自らの井の中の蛙っぷりを自覚するには、ちょうど良い期間だったと思う。
そうしていよいよ、
僕の前に、女神様が現れた。
比喩表現じゃなく、本当の意味の女神だ。
彼女は
都市最大派閥にして、おじいちゃんに生前「絶対にここには関わるな」と忠告されていたファミリア。
だからこそ、手当たり次第あらゆるファミリアに声をかけてまくっていた僕も、フレイヤ・ファミリアにだけは近寄らなかった。
故に、普段の僕であれば、
だけど、その時は多分、普段の僕ではなかった。
絶望という地獄の中にいた僕にとって、その誘いは神の垂らした一筋の糸に見えた。
何より目の前に現れ、手を差し伸べてくれたこの
そして僕は、フレイヤ・ファミリアに入った。
……自分が
あの時のベルは、本当に普段のベルではなかった。
普段のベルであれば、あの祖父が「絶対にここには関わるな」と言ったからには、何か理由があるに違いない、と推察するぐらいはできた筈だ。
今なら祖父がああ言った理由も分かる。
ここは、死地だ。
ベルは先ほどの回想の中で、
だが、それはあくまで
それから2週間が経過した今、その順番は、1〜10まで全部
それほどまでに、ここでの日々は過酷だった。
(1日が始まるのが辛い……ずっと寝ていたい……)
そんな考えが頭をよぎる。しかし、どうせ寝ていても彼の
脳が半分寝たままの状態でいつもの服に着替え、窓から外気を吸って少しずつ、意識を覚醒させていく。
眠気が発散された所で、また今日も憂鬱な1日を開始すべく、扉の取っ手に手をかけようとしたその時。
凄絶な轟音を掻き鳴らし、上級冒険者をも吹き飛ばす勢いで、扉が開いた。
当然、扉の取っ手に手を伸ばしていた
「いつまで寝ているつもりだ。
同時に修理が確定した扉から、1人の男が入ってくる。
この世のものとは思えない端正な顔立ちに、金の長髪。
雪の如く白き肌と性格を暗喩するように尖った耳は、彼の属する種族の最大の特徴。
【
Lv.6の第一級冒険者にして、フレイヤ・ファミリア幹部。
そして、入ったばかりで右も左も分からないベルの面倒を見てくれている
兎にスパルタ指導を施す高潔な
「貴様、寝巻きも着ずにどこで寝ている?
いつから
事情を知る者が見ればあまりにも理不尽な批判の言葉を浴びせかけながら、ゲシゲシとベルを踏みつける。
「……ッガッ⁉︎痛いっ!
「朝だ
ヘディンの
この場合、
ベルは言われた通り急いで立ち上がり、ヘディンに付いて
そもそも寝てなかったとはいえ壁を蹴破ってまで起こしに来たぐらいだし、やはり
「寝坊したのか」
「下っ端の癖に胆力すげぇな」
「舐め腐っているな、兎」
「ちょっと自分がフレイヤ様に気に入られているからって調子に乗っているな、兎」
座った席の前の席には4つ子の
酷い言われようだけど、寝坊はしてきた手前反論できない。
【
僕の席は僕の教育係である
「クク、遅参の慙愧に堪えぬか白兎……」
右斜め前の席から話しかけてきたのは、【
「恥に囚われ、朝餉を摂らぬのは自ら生の隘路に飛び込むと同じ、此れもまた鍛錬の一環なればこそ……我が赤茄子を授けん……」
この人は、おじいちゃんの言うところのチューニ病ってやつらしい。
難解な言葉なので解読には少し時間がかかるけど、おおよそ
(朝ごはん食べないの?食べなかったら今日一日辛いよ。僕の赤茄子あげるね)
的な事を言っているんだと思う。多分。
「おい狡いぞ雑魚
「寝坊の罰だ。食え」
「野菜好きだろう?兎」
「デザートと交換してやる」
「惰眠を貪った欲深き
ヘグニさんの行動に呼応するように、アルフリッグさん達と
大量の赤茄子を押し付けられた結果、僕の朝食の表面積の半分を赤茄子が占めてしまった。
僕は別に赤茄子は嫌いではないので、拒む理由なんてないのだけれど、どうして赤茄子はこんなにも嫌われているんだろう。赤茄子が何をしたと言うのだろうか。
____その後、積もりに積もった赤茄子を食べ切るのに時間がかかってしまい、師匠に蹴られながら中身を吐き出さず完食すると言う罰ゲーム
僕はもう2度と赤茄子を口に入れまいと、心に誓った。