嫉妬の冒険譚


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作:凪 瀬
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25 羞恥とステイタスと鍛錬と


ちょっと短めです。要するにズィーヤ君のミノタウロス戦エピローグとステイタス回です。


恥ずかしい……死にたい……今朝の俺に戻って殴り倒してやりたい……ギルドに行く前の俺をぶん殴って止めたい……でもそれだと嫉妬の輪郭も掴めないで致命的な失敗してただろうからやっぱりダメ。無理恥ずかしい死ぬ……。

 

「もう、そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない。年相応の貴方も可愛いかったわよ?」

 

「違うんです……!違うんですよ神様……!俺は、俺はァ……!はぁっ!恥ずかしいっ!」

 

 いや、神様の前で泣きじゃくったり胸で泣いたり撫でて貰ったり……おま、お前ぇ!いや俺なんだけどさぁっ!神様が気にしてないのは良かったんだが、可愛いって言われるのは何と言うか屈辱というか、そうじゃない感みたいなのが……!形容が難しいんだよなぁ!

 ソファの隙間に潜む暗闇も随分と見なれたもんだよ、冷静になってからずっと見つめあってるもんな。最早親友レベルだよ。

 

「そうか、ソファと俺って親友だったのか……」

 

「そんなに恥ずかしかったの……?もう、ズィーヤ、貴方の顔が見えないと寂しいわ……それとも、私の顔を見るのは、そんなに嫌?」

 

「その質問は卑怯だと思いますっ!」

 

 神様にそれ言われて顔をあげない奴は多分心がない。

 

「ふふ、やっと見えたわ」

 

「…………」

 

 優しい目で俺を見てくる神様に、照れくさいやら恥ずかしいやら気まずいやら、複雑な感情から顔を背けてしまう。

 いい加減にしておかないと失礼なのは分かってる。分かってるんだが……その可愛い子供を見る目やめてくださいっ!こう、なんか、悶えるっ!

 

「……神様、その目をやめてください。悶えますよ?」

 

「ん〜?ズィーヤは可愛いわね〜」

 

 神様に、勝てる未来が、見えないや。ずぃーや

 再びソファの隙間と友情を深めようとするが、いい加減にしなさいと神様に額をペチリとデコピンされた為やめることにする。

 

「ほら、ステイタスの更新しましょう?入院中はできなかったから、貴方も気になってるでしょう?」

 

「そうですね。……ミノタウロスの戦いは、得るものも多かった」

 

 ミノタウロスという圧倒的格上との戦い。

 俺は早々に退場となってしまったが、それまでに蓄積した経験値は確かなものだろう。

 それに

 

「それに、嫉妬も大切にできるようになったものね」

 

「……あの、心読まないで貰えませんか?驚いちゃうので」

 

「ふふ、貴方が分かりやすいのよ。胸元に手を当ててたら、何を考えてるかなんて簡単にわかるわよ?」

 

 俺の所作が原因だったのか……それ抜きにしても神様なら見抜いてきそうだと思うのは何故だろうか?信頼?

 

「それも1つの信頼の形よ。さ、ベッドにうつ伏せになってちょうだい?」

 

「やっぱり所作関係なく読んでるじゃないですかっ!?」

 

 怖いっ!俺の心か丸見えになってしまったら、あんなことやこんなことを考えることもできないじゃないかっ!あんまりしないから問題ないか……。

 上半身をはだけさせ、ベッドにうつ伏せになれば神様が背中に乗ってくる。

 素肌からもたらされる神様の柔肉の感触と体温。神様の身につけた服があるとはいえ、普段よりもいっそう直接的に感じるそれらに鼓動が速まる。

 ステイタスの更新をしている間に動かれると、俺の体によって形を変える臀部の肉を意識させられ……新手の拷問かと思う。

 ステイタス更新をされる度に意識を無にするようにしているが、そろそろ無我の境地に行けそうだ。

 

「……はい。終わったわよ」

 

「ふぅ……ありがとうございます」

 

ズィーヤ・グリスア Lv1

力 :D595→C636

耐久:C609→B713

器用:D587→C625

敏捷:D577→C623

魔力:B764→A850

【魔法】

不出来な理想(プロミコス・イデア)

・魔力によって不定形の泥を生成する

・泥の形を1度だけ変えることが出来る

【スキル】

歪曲理法(パラモフォシー・ロイギ)

・魔力によって生成された物質の形を変える。

深遠羨望(ヴァフィース・ジロフトニア)

・嫉妬の深さによって経験値に超域補正

・感情の昂りによって力と魔力に超域補正

・嫉妬対象がいる限り効果は持続する

 

「はぁ……?」

 

 熟練度トータル305と大きく高まったステイタスはこの際いい。ミノタウロスとの死闘と無理した事を考えれば妥当な成長と言えるだろう。

 問題は、新しく手に入ったスキル『深遠羨望』

 

「ぶっ壊れ過ぎてるだろ……」

 

「ふふ、それだけ貴方の嫉妬は強く、深かったのね」

 

 ベッドから降りて、ニコニコと笑顔で俺を見つめてくる神様。

 見るからにご機嫌なその姿にやや毒気を抜かれるが、スキルの内容がおかしい事に変わりはない。

 嫉妬の深さって何だよ。意味は分かるけど、どういう状態でどのくらい上がるのか分からないから判断がつかない。

 まぁ、嫉妬するだけ強くなれるってことは分かるからいいと言えばいいんだが……なんともスッキリしない。

 感情の昂りによって補正がかかるのは分かりやすくていい。要するに怒れば怒るだけ力が強く、魔法が強くなるってことだからな。

 ここまでの内容が強いのは勿論だが、それよりも問題なのはデメリットの無さだろう。

 なんだ、『嫉妬の対象がいる限り効果は持続する』って、嫉妬する対象がいなければ効果は無くなるが、逆に言えば嫉妬の対象さえいれば効果が続くってことだぞ。

 更にいえば、嫉妬しなければ経験値の補正は受けられないわけで……おかしいなデメリットがデメリットしてない……。

 

「これ、他人に知られたら殺されるんじゃないか……?」

 

「そこまででは無いと思うけど……でも、嫉妬と好奇の的になるでしょうね。神は皆、娯楽に飢えているから」

 

 言葉と共に神様から冷たい圧が放たれる。神界へいた頃からなのか、下界に降りてきてからなのかは知らないが神様は他大多数の神を嫌っている。

 優しく、慈悲深く、俺たち子供の事を愛してくれる神様のことなので下界の子供との関わり方で思うところがあるんだろう。

 

「とりあえず、このスキルについては誰にもバレないようにが基本ですかね」

 

「その方がいいでしょうね。成長速度が速まるくらいでしょうし、早々バレることもないでしょうから、あまり気にしなくていいと思うわよ?」

 

「……それもそうですね」

 

 家事を終わらせるため下に降りていく神様を尻目に、改めてステイタスの写しを、新たなスキルを眺める。

 神様の言う通り、目に見える放出系や強化系ならともかく、このスキルは成長速度を上げる代物だ。ステイタスをバラしたり超高速でレベルアップするならともかく……

 

「……もしかして、ベル君もか?」

 

 1ヶ月で俺を超え、ミノタウロスと正面から戦える高さのステイタス、1ヶ月半でのレベルアップ。

 俺と同じように、いや、俺よりも効果の高いスキルが発現していたのなら、筋が通る。

 

「……やめだな。他人のステイタスに思いを馳せるなんて無粋だ。今は、彼の方が格上。それが全てだ」

 

 一階へ降りて、庭へ向かう。

 日はまだ高いが、家に囲まれた裏庭には既に影ができていた。

 

「ダンジョン探索はダメって言われたが、魔法を使っちゃダメとは言われてないからな……」

 

 入院中も隠れて魔法を使っては精神疲弊で眠ったりしてたからな。多分、バレたらキレられるとかいう話じゃなくなるんだろうなとは思う。

 

「『深く望むは我が理想 未だ見えぬ羨望の果て 嫉妬に汚れた泥の理想 変われ、変われ、変われ 嫉妬を満たせ 羨望の道を駆けろ 不出来な理想(プロミコス・イデア)』」

 

 詠唱と共に溢れ出る泥を手の上で回し、掌に収まる小さな球体を作り上げる。

 そこそこ精神力を込めたからか見た目にそぐわない重みを持つ泥玉を空へ投げる。

 

「『歪め』」

 

 投げた泥が消え、周囲の窓を揺らすほどの風に変わる。屋根よりも高く投げたはずだが、地面に立つ俺にも風が届いたから余程強かったようだ。

 もう一度魔法を使い、今度は長剣の形に変える。

 上段に構え、無駄を削ぎ落とし空間を切り落とすイメージで振り下ろす。

 

「『歪め』」

 

 振り下ろしきった瞬間に槍へと変貌させ、勢いのまま体を回転させ槍による横薙ぎ。

 

「『歪め』」

 

 槍の重みと風を切る音を感じつつ、薙ぎきった残心と共に槍を爆発する風に変える。

 詠唱を用いない武器の換装、武器だけを注視した瞬間に風や炎に姿を変えて意表を突く。小さく圧縮した泥を相手のポケットや食べ物に混ぜてやれば、俺の望んだ瞬間にダメージを与えることが出来る。

 

「……強いけど、これはいっそう鍛錬しないとだな」

 

 衝撃で痛む左腕と胸を確認しつつ、自分の魔法とスキルに何処か辟易とした感情を持ってしまう。

 自由度の高さと選択肢の多さは最高級だが、前提として求められる並列思考と瞬間的な判断力が問題だ。

 一連の動きにラグを生まないようにしつつ、周囲に合わせた武器の選択や現象の選択。現象に変えてしまえばもう一度詠唱をする必要があるという点も難しいところだな……。

 まぁ、魔法自体が強いことに変わりないし、スキルによって詠唱が省略されて、より凶悪になっていることも変わりない。使いこなせれば、誰にも追いつけない変幻自在の戦闘スタイルを確立できる。

 

「そうすれば、俺はもっと強くなれる」

 

 早く傷を治して、ダンジョンに潜りたい。

 今なお暗い迷宮で極光の如く輝きながら、雷のような速さで駆けているベル君を幻視する。追いつきたい、置いていかれたくない、負けたくない。勝ちたい。

 だが、そのために焦ってはいけない。

 胸の奥で嫉妬の火が燃える音を感じつつ、室内へと戻る。魔法を使っただけとはいえ、一応怪我人だからな。神様に必要以上の心配をかける訳にもいかない。

 あ、神様。何か手伝えることありますか……なんで怒ってるんですか?え?さっき鍛錬してたでしょって?いや、ちょっと魔法使ってただけ……あっ。いや、違うんですよ、あれも魔法の鍛錬のためというか……正座?あ、はい。




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