嫉妬の冒険譚


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作:凪 瀬
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24話 激戦の後と感情と


遅くなってごめんなさぁぁぁい!!!
納得のいく文章が出来ず頭を悩ませ、別の作品に熱中していたりモチベが上がらなかったりで投稿が遅くなりましたァ!!ごめんなさいっ!!
繋ぎ回にするつもりが、かなり重要な回になってしまった…これも物書きあるあるですよね。

感想、評価、誤字脱字報告、お待ちしておりますっ!


ミノタウロスとの激戦を終えてから数日。

 【ディアンケト・ファミア】による丁寧な治療によって、一時的な退院を許可された。

 

「良いですかグリスアさん。貴方は重傷患者だったんです。左腕粉砕骨折、左肋骨8本、右肋骨6本の複雑骨折、折れた骨によって内蔵の一部が損傷。さらに精神力欠乏まで起こっていて、生きていることが奇跡な状態だったのです。本来なら、こうして一時退院させることも許可せず、今すぐにベッドの上で固定しておきたいのですよ」

 

「えっと、はい。すいません……?」

 

「謝るくらいなら隠れて筋トレしようとするのを止めなさい」

 

「はい……すいません……」

 

 退院するための最終診断のため案内された診断室にて、【ディアンケト・ファミリア】に所属するLv2にして【聖女】の二つ名を持つ都市最高の治療師、アミッド・テアサナーレに触診と共に注意叱責をいただいていた。

 ミノタウロスとの戦いによって意識を失っていた俺とベル君は、到着していた【ロキ・ファミリア】によって治療院まで運ばれたらしい。

 ベル君の傷は打撲と貫かれた腕が主であり、精神力欠乏と過度な疲労が原因で倒れたらしい。【ディアンケト・ファミリア】としても経験のある症状や傷ばかりで、重傷ではあれどそれほど問題ではなかったらしい。

 だが、俺は違った。

 全身に傷があり、特に左半身の骨折と内蔵の損傷が酷かった。内蔵の損傷によって血を吐き出し続けた結果、貧血を通り抜けて失血の域に突入。そこに疲労と精神力欠乏が重なり一瞬の猶予もない今際の際だったらしい。

 さらに間の悪いことにテアサナーレさんは不在だったため、治療院は阿鼻叫喚。

 ありったけのポーションと輸血によってギリギリ一命を取り留めたらしい。

 その後、俺が丸一日眠っている間にテアサナーレさんが診察したところ、悲惨な折れ方をしていた肋骨は左1本が折れていたが他はヒビが入っている程度。傷ついた内蔵はほとんど修復済み。粉々だった左腕も骨折しているだけという、異常な回復力を見せつけて、テレサーレさんの頭を悩ませたらしい。

 

「何故これ程早く回復するのですか……いえ、素晴らしいことだとは思いますが、だとしても理解できません。ポーションの効きが良かった?自己の修復能力が異常に高かった?……今は重要では無いですね。兎に角、貴方が元重傷者であることは変わりありません。激しい運動、ましてダンジョン探索などは決して(・・・)行わないように」

 

「は、はい」

 

 圧を放ちながら注意するテレサーレさん。言葉の節々に怒りが含まれており、破ったらベッドに拘束されて自由に動くことも叶わなくなりそうな重みがあった。

 居たんだろうか。重傷者だったのに一時退院でダンジョン探索に行った人が……。

 正直、少し行こうと考えていたので絶対に行くまいと決めました。

 

「では、次は3日後にいらしてください。処方した薬を飲むことを忘れずに」

 

「はい。ありがとうございました」

 

「お大事に」

 

 触診も終わり、固定された左腕と時々痛む胸元を抑えながら診断室から出る。

 他の治療師の人々から若干ヒソヒソと話されるも、そこに悪感情はないため無視する。だったら何でヒソヒソ話すのだろうかと思わなくもないが、気にしたら負けだろう。

 外に出れば太陽は天頂で輝き、人々は活気づいて賑やかだった。数日病室にいただけだと言うのに、その様子に妙な懐かしさを感じてしまうのは、数日が濃かったからだろうか……。

 

 最初に意識を取り戻し、神様へ強くなりたいと意志を示してから丸1日眠り続けた。

 ミノタウロス戦の2日後に目覚めて、ヘスティア様とリリに感謝と少しの説教をされた。とはいえ、一刻を争う状況かつ指示自体は的確だったことはリリが認めているため、感謝9割説教1割くらいの比率だったが……。

 説教の間、常に神様が見守っていたから微妙に気恥しかった……なんか、親の前で先生に説教されるってこんな感じなのかなって思ったよね……。

 目が覚め、説教を受けた後のベル君は俺への感謝と自分の不甲斐なさを謝罪していた。俺からすればミノタウロスを撃破したベル君に感謝こそすれ、謝られる理由はないんだが……それを言っても納得しなさそうだったので素直に受け取っておいた。

 彼を見る度に、攻撃的になってしまう。目障りだと、排除したいと八つ当たりとも言える無秩序の嫉妬が鎌首をもたげてくる。神様達がいなければ、過ちを犯していたかもしれない……。

 その後はエィラさんに見舞いに来てもらいダンジョンでの異変について聞いたり、隠れて筋トレしてたらテアサナーレさんに見つかってブチギレられたりして過ごした。

 何かしてないと落ち着かないから筋トレだったり魔法の訓練をしたりしてたんだが、やはり治療師的には許せないことだったのだろう。申し訳ない。反省はしてる。後悔は特にしてない。

 

「さて一先ずはギルドに行ってエィラさんへ一時退院の報告するか」

 

 人々の喧騒をすり抜けながらギルドへ向けて足を進める。道中、冒険者とすれ違う度にダンジョンへ行きたくなるが、鋼の意思とテアサナーレさんへの申し訳なさ、ついでに若干の恐怖を持って押さえつける。美人は怒っても美人だけど、それはそれとして怖い。

 ジクジクと痛む胸と固定された左腕を疎ましく思いながらも、焦りは禁物。ここで無茶して余計に拘束されたら元も子もない。我慢我慢っと。

 相変わらず冒険者でごった返しているとはいえ、多くの冒険者は探索に出ているのか忙しい時間に比べれば落ち着いたものだった。

 カウンターの方を見ればエィラさんが手と目を忙しなく動かしている姿が見えた。熟練の受付嬢として相変わらず忙しいようだ。

 エィラさんのいるカウンターに向かって歩いていくと、隣のカウンターで見覚えのある白髪の少年が、これまた見覚えのあるハーフエルフの女性と楽しそうに話している姿が映る。

 ベル君の姿をみると、無理やり押さえ込んでいた嫉妬の炎が燃え上がり、心臓から全身を焼け焦がす。

 俺は未だ傷があるのに君は綺麗で元気で探索にも行けそうで、羨ましいな……ミノタウロスを1人で打ち倒すことができていいな、その強さが妬ましい。今、俺がこうして生きていられるのは君が成した偉業の成果ということが、俺を余計に惨めにさせるよ。羨ましい、妬ましい、落ち着け。

 

「すぅー……ふー……」

 

 熱くなった体と心に風を送り込んで冷却する。

 落ち着け、ここで爆発させてもいいことは無い。こういうのは胸に据えて、強くなるための原動力にするんだ。誰かに当たるための言い訳に使うな。

 神様の顔に泥を塗るな。彼女の眷属たる誇りを持て、ズィーヤ・グリスア

 

「……よし。もう大丈夫」

 

 未だ嫉妬の炎は燻っているが、この程度なら問題ない。

 よし、これも何かの縁だしミノタウロス戦の感謝と次の共同探索の誘いでもしておこう。あの戦いを経て、俺も彼も強くなったはずだし、中層手前まで進んでみるのもいいだろう。

 会話が一区切り着いたのか、静かになったベル君へ近づいて声をかける。

 

「やぁ、ベ──」

 

「1ヶ月半でLv2ぅ〜〜!?!?!?!」

 

 燻っていた炎が、爆発する音がした。

 

 

「……ん?」

 

 些細な違和感に、忙しなく動かしていた手を止めて顔を上げる。

 眼前には普段と変わらず賑やかな冒険者たちの姿と、出入りのために揺れる扉があるのみ。

 だが、衝撃のままに寂しく揺れて、別の冒険者に手をかけられたその扉の先に見覚えのある背中が駆けて行ったように見えた。

 

「……ズィーヤくん?」

 

 人の流れに飛び込み、影も見えなくなった後ろ姿に、見間違いだったのかと思い仕事を再開するエィラ。だが、彼女の心中は言い知れぬ不安と漠然とした焦燥感に満ちていた。

 

「(……大丈夫、ですよね?)」

 

 

 【メガイラ・ファミリア】のホームにて、入口の扉が大きな音を立てて開かれる。

 穏やかな静寂の中で紅茶を嗜んでいたメガイラは、突如として響く大きな音に肩を跳ねさせる。

 次いで、扉を荒々しく開いた下手人を睨めつけ、注意と忠告をしようとしたところで、下手人の正体に再び驚く。

 

「どうしたの、ズィーヤ!?」

 

 普段はヘラヘラと軽薄ながら穏やかな笑顔を浮かべるズィーヤが、息を切らし、垂れ落ちた前髪から覗く口元を歪ませながら開け放った扉に寄りかかっていた。

 未だ完治していない胸の傷が痛むのか、胸元を抑えながら肩を上下させる姿は実に痛々しい。

 

「何があった……いいえ、まずは座りましょう。ほら、肩を貸すから、動けるかしら?」

 

 ズィーヤを気遣う言葉をかけながら近づくメガイラ。そんな彼女の細い肩をズィーヤは傷ついていない右手でがっしりと掴む。

 ズィーヤの思わぬ反応に目を見張り、次いで肩を掴む手に込められた力の強さに思わず顔を顰める。

 

「神様……俺、俺っ!俺は……どうして、どうしたら……」

 

「ズィーヤ……」

 

 

 しかし、肩懺悔するように、縋るように悲痛な声を漏らすズィーヤの姿を目にして、肩の痛みなど気にもならなくなった。

 歯を食いしばる音を響かせ、身体を震わせるズィーヤを抱きしめ、その頭を撫でる。

 

「ズィーヤ、とにかく座りましょう。それから、いっぱいお話しましょう?」

 

「……はい」

 

 抱きしめられて少しは落ち着いたのか、メガイラを掴んでいた手を離し、メガイラに寄りかかりながら力なくソファへと歩く。

 普段とはかけ離れたその姿に改めて気を引きしめる。

 並んでソファに座り、肩に寄りかかるズィーヤの頭を撫でながらメガイラは問いかける。

 

「……それで、どうかしたの?」

 

「………ベル君、Lv2になってました。また、強くなってたんです」

 

 ポツリと零された言葉は小さく力が無かったが、右手は白くなるほど握りしめられ、前髪から見える瞳はドロドロと深く澱んでいた。

 

「……俺、嫉妬してたんです。ベル君の強さに、速さに……けど、それを彼に向けたくなかった!」

 

 言葉と共にポロポロと涙が零れる。

 鼻をすすり、嗚咽を交えながら、しかし、話すことを止めることはなかった。

 

「ベル君は、いいやづでっ、ぐっ……俺、友達だと思ってっ……でも、じがいに入る度に、嫉妬が抑えなきれなくて、制御出来なくて……でも、彼を傷つけたいわけじゃなくて、嫌いたくなくてっ!……俺、おれ、どうじたら……」

 

 痛ましいまでの感情の吐露を穏やかに受け止め、涙を流すズィーヤの頭を抱き寄せる。

 メガイラの豊満な胸の中で泣きじゃくるズィーヤの姿は、年端もいかない子供のようだった。

 

「いいのよ。大丈夫。一緒に考えましょう?大丈夫よ、私がついているわ」

 

 ポンポンと優しく背中を叩きながら、ズィーヤの耳元で安心させる言葉を続ける。

 徐々にズィーヤの体から震えが消え、呼吸も穏やかになっていく。

 

「……すいません、神様。落ち着きました」

 

 胸から顔を上げるズィーヤ。その顔はこれまでの醜態への羞恥からか、真っ赤に染まっていた。

 そんなズィーヤの姿を微笑ましく思い、普段から浮かべる柔らかな笑みを3割増しほど深めながらメガイラは頭を撫でる。

 

「ふふ、いいのよ。貴方がこんなに感情を爆発させるのは初めて見るから、少し嬉しいくらいよ」

 

 されるがままに撫でられ続けるズィーヤの顔は、最早爆発してしまうのではないかと思うほど赤かった。

 

「さて、それじゃあ、本題に入りましょうか」

 

「……そうしますか」

 

 温め直した紅茶を飲むことで、ようやく会話が成立する状態になった。

 穏やかな時間が流れる中で、固さの残る表情でズィーヤは語り始める。これまでの経緯と自身の感情についてを、赤裸々に。

 

「──話を纏めると、ズィーヤはベル君への嫉妬が制御できなくて、無理矢理押さえつけたけど、彼のレベルアップで爆発してしまった。ってことかしら?」

 

「……そうです」

 

 広げた足に肘をつき、深く項垂れる。

 嫉妬を制御出来ない自身への不甲斐なさ、助けて貰ったにもかかわらず攻撃的な感情を向けてしまうベルへの申し訳なさ。複雑に絡み合った感情は制御を離れ、今なおズィーヤの胸中で暴れ狂っている。

 ズィーヤの悩みを聞き、メガイラは頭を悩ませる。

 嫉妬の名を冠する彼女にとって嫉妬とは最も親和性が高く、扱いやすい感情だった。それこそ、他者の嫉妬を煽ることも容易いほどに。

 しかし、メガイラはズィーヤの心に直接介入することを望まない。それは、自身の手で愛する子を、愛する可能性を潰すことに他ならないからだ。

 だからこそ、メガイラには自身の想いを伝えることしかできないのだ。

 

「……ズィーヤは、嫉妬ってどんなものだと思う?」

 

「どんな……他人を羨んで、妬んで、傷つけてしまいたくなるようなドロドロとした熱を持った、そんな感情だと思います」

 

「そうね。私もそうだと思うわ。自分の持ち得ないものを持った人を羨んで、妬んで、許せない」

 

 項垂れるズィーヤの頭を優しく撫でながら彼の考えに同意する。嫉妬の名を冠する故か、その言葉には深い理解と実感が伴っていた。

 

「でもね、私はそれだけじゃないと思うの」

 

 項垂れたズィーヤの頭をゆっくりと持ち上げ、憔悴した顔に嵌め込まれた複雑な感情を含んだ瞳に目を合わせる。

 

「きっと、他人を羨むことができるのって、その人が素晴らしい人だって知っているから」

 

 泣き腫らした目元を優しく撫で、優しく撫で語りかけ続ける。

 

「妬むことが出来るのは、貴方が自分に足りないものを知っているから」

 

 互いの額を合わせ、キスができそうなほどの至近距離で目を合わせる。

 

「嫉妬って、きっと愛に似ているわ。だから、貴方の(嫉妬)を否定しないで、恐れないで、大切にしてあげてちょうだい」

 

「嫉妬は……愛に……」

 

 言葉と共にズィーヤは瞳を閉じて、その意味を噛み締める。

 胸中で無作為に暴れ回り、制御することも抑えることもできなかった感情の輪郭がゆっくりと掴めていく感覚。猛り狂った獣のように無秩序だった感情は、泣きわめく子供の癇癪に変わる。

 獣に子供に大人に神に親に恋人に自然に……様々な形に変わる嫉妬は、最後に篝火となった。

 自身の心の中で燃え続ける炎は、無秩序ではなく必要以上に攻撃的でもなかった。

 ただ、ズィーヤ自身が火へ薪を与え、火の粉に焼かれているだけだった。

 

「……ありがとうございます、神様。少しだけ分かった気がします」

 

 メガイラの手から離れ、顔を上げたズィーヤの表情は柔らかく、瞳はスッキリとした青色をしていた。

 

「いいのよ、私は貴方の神様だから」

 

 いつもと変わらず、メガイラは穏やかな微笑みを、神の美貌に湛えるのだった。




普段大人びたズィーヤ君もまだ10代。思春期真っ只中なので感情が爆発することもあります。今回は、彼の『子供っぽさ』を出せてたらいいなぁ……と思いながら書き上げました。

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