マッチングアプリ悪用ロマンス詐欺急増 記者が登録してみると

恋愛感情を抱かせて金銭をだまし取る「ロマンス詐欺」の被害が急増し、去年1年間の被害額が397億円と、前の年の倍以上にのぼったことが、警察庁のまとめでわかりました。

特に、結婚相手との出会いの場としても利用者が拡大している「マッチングアプリ」を悪用して接触してくるケースが多くなっているということです。

30代女性記者の私は、実際にマッチングアプリに登録。3人とマッチングし10日間にわたってやり取りを重ねました。すると最終的に3人から怪しい投資話を持ちかけられました。

やり取りを重ねる中で私が気づいた怪しかったポイントを警察庁にも取材した上で、まとめてみました。

(社会部記者 安藤文音)

30代女性記者がマッチングアプリに登録

30代女性記者の私は去年9月、マッチングアプリに登録してみました。

するとアプリ上で「自称韓国人の38歳の男性」「自称日本人の42歳の男性」「自称日本人の44歳の男性」の3人とマッチングしました。

1 知り合ってすぐにLINE移行

3人とマッチングしたあと、アプリ内のメッセージ機能でやり取りが始まりました。

趣味などの話をして互いに何通かのメッセージを交わすと、その日のうちにLINEでのやり取りを求められました。

理由は「お互いの理解を深めたい」「コミュニケーションがスムーズになる」といったものでした。

警察庁のまとめによりますと、「ロマンス詐欺」の被害に遭った人の94%は、やり取りの場をLINEに移行させられたあと、被害に遭ったということです。

捜査関係者は犯人側がLINEに誘導しようとする思惑について、日本人になじみのある通信手段であること、マッチングアプリの中にはメッセージのやり取りに料金が必要なものがあること、そしてLINEは複数の端末で使うことができるため多くの被害者を相手にするのに都合がよいことなどを指摘します。

2 不自然な日本語

3人のうち、1人は韓国人、2人は日本人と自称していました。

やり取りはすべて日本語で行っていましたが、相手から送られてくる文章には不自然な日本語が多くみられ、翻訳機能を使っていると思われました。

また時々、中国語のメッセージが送られてきて、すぐに取り消されることもありました。

自称日本人の2人になぜ日本語が流ちょうではないのか尋ねてみると、「5歳の時に海外に移住し、3年前に戻ってきた」とか「アメリカにいて、最近日本に戻ってきた」と説明してきました。

3 規則性

やりとりを重ねるうちに、メッセージが送られてくる時間帯には一定の規則性があることもわかりました。

3人とも、朝に「おはよう」というメッセージと朝食の写真を送ってきました。

しかしその後、こちらが返信しても午前中は絶対に「既読」にはなりませんでした。

正午を過ぎると夕方にかけてメッセージが送られてきますが午後5時から午後7時までの1時間から2時間ほどは連絡がつかなくなりました。

そしてその後、再びメッセージが送られてきて、やり取りは深夜まで続きました。

毎日同じような時間帯なので、最初は規則正しい毎日を送っている人なのかとも思いましたが、しばらくして「シフト制」で複数の人物がメッセージを送ってきているのではないかと疑うようになりました。

4 突然変わる口調

複数の人物の関与をうかがわせる特徴はほかにもありました。

たとえば、絵文字やスタンプの使い方です。

3人の中には、絵文字を多用していたのに突然、使わなくなる時間帯があったり、それまで翻訳機能を使っているような不自然な日本語だったのに突然、流ちょうになる時間帯があったりして、違和感を感じました。

複数の人物が同じアカウントを使い回して、メッセージを送ってきているのではないかと疑いました。

5 絶対に会えない

3人とも知り合ってまだ間もないのに「私たちが結婚したら」とか「僕たちの愛は永遠だ」などと、歯の浮くようなメッセージを送ってきました。

ところが「会いましょう」と働きかけてもそのつど会えない理由を告げられました。

そして「来月のプロジェクトが無事に終わったら」とか「来月旅行に行きましょう」などと先延ばしにされ、会うことはできませんでした。

6 謎の投資話

そして、私が一番怪しいと感じたのは投資話です。

やり取りを始めて3日目を過ぎたあたりから、甘い言葉の合間に、投資やお金にまつわる話題が持ち出されるようになりました。

1人は、暗号資産の貯蓄で毎日10万円以上の利息を稼ぐことができるという話、

もう1人は、金融アナリストの兄と一緒に円相場を予測することで、毎日20%の収益を得られるという話、そしてもう1人はネットショップを経営して収益を上げているという話でした。

「盛大な結婚式を挙げる費用にしよう」「2人の未来のために、一緒に資産管理をしよう」などと言って、暗号資産のアプリのインストールや投資プラットフォームへのアクセスを求めてきました。

投資や暗号資産には興味がなかったので、指示に従わなかったところ、「なぜこの話題から逃げるのか」「私を信用していないのか」、「早くしてよ」、「できないなら、私たちの未来を想像することができない」など、突然厳しい口調に変わりました。

そして連日、「アプリの登録方法を教える」などといったメッセージが届くようになったので、警察庁のホームページに掲載されている「直接会ったことないその人、本物ですか?」という、「ロマンス詐欺」に注意を呼びかける解説ページのリンクを相手に送ったところ、突然ブロックされ、やり取りは終わりました。

しばらくして、その3人がマッチングアプリの利用規約に違反した場合などに科される「強制退会」の処分となったことがわかりました。

被害額397億円 前年比2倍超 マッチングアプリが最多

警察庁によりますと、去年1年間に全国で確認された「ロマンス詐欺」の被害は3784件、被害額は397億円にのぼりました。

前の年と比べると2209件、219億円あまり多く、倍以上に急増しています。

被害に遭った人の内訳は男性が2384人、女性が1400人で、年代別では男女ともに40代から60代が半数以上を占める一方、若い世代にも被害が広がっているということです。

手口の特徴は犯人側が「マッチングアプリ」で接触してくるケースが1323件と最も多く、次いでインスタグラムが849件、Facebookが776件などとなっています。

こうしたアプリやSNSで知り合ったあと、LINEでのやり取りを求められ「結婚資金のために投資をしよう」などとうその投資話を持ちかけられて金銭をだまし取られるケースが多いということです。

警察庁はマッチングアプリで知り合ったあと、早い段階でLINEに誘導された場合や直接会ったことがないのに、投資や結婚費用の名目で金銭を要求された場合などは詐欺を疑って注意してほしいと呼びかけています。

「将来結婚しよう」「将来のために投資」は典型的な例

警察庁長官官房の石井啓介参事官に話を聞いたところ「ロマンス詐欺」の犯人側が被害者に接触してくるツールとしては「マッチングアプリ」が最も多くなっていると指摘した上で「犯人側は信頼関係を構築するために、さまざまなやり取りを重ねた上で、『将来結婚しよう』とか『2人の将来のために投資をしよう』などと誘いかけてくるのが、典型的な例だ。やり取りを長期間繰り返したとしても、会っていない人からお金を要求されたときは、詐欺かもしれないと思いとどまって誰かに相談してほしい」と話していました。

そのうえで、「ロマンス詐欺」の被害に遭わないための自衛手段として、マッチングアプリで知り合ったあと、直接会っていないのにすぐにLINEの連絡先を交換することは控え、自分の趣味や興味が犯人側に伝わらないよう、SNSの公開範囲を限定するなどして、十分注意してほしいとしています。

「ロマンス詐欺」対策強化のマッチングアプリ運営会社も

マッチングアプリを運営する会社の中には、「ロマンス詐欺」への対策を強化しているところもあります。

会員数およそ2000万人の「タップル」というマッチングアプリを運営する会社では、「ロマンス詐欺」の被害はほとんどないということですが、アプリを登録する際に求められる本人確認書類や登録された情報などを24時間、365日の体制で監視しているということです。

会社によりますと、監視しているなかで、本人確認書類として、外務省のホームページに掲載されているパスポートの見本の画像を使って申請しているケースが見つかったほか、本人確認書類の顔の画像と、アプリ内で自分の顔を撮影するよう求めた際の画像、それにプロフィールで使う顔の画像の3つがまったく異なる人物だったというケースもあったということです。

また、アプリ内でのやり取りの中でLINEなどの連絡先を交換することを禁止していて、連絡先を求めるメッセージを送ると、「トラブル防止のため、連絡先交換は禁止されています」という警告が出る仕組みになっています。

会社の経営管理本部長の伊香賀淳さんは「いま、4人に1人がマッチングアプリで結婚する「アプリ婚」をしていて、社会的にも期待されている業界だと思う。マッチングアプリという言葉自体が信頼を失わないために、業界全体として安全水準を上げていくことは重要だと思う」と話していました。

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