ACT1−2 アクシデントは旅の醍醐味

 手にしているライフルはコイルガンと呼ばれる類のものだ。ライフリングが施されていないライフルという意味では、コイルマスケットという方が適しているのかもしれないが、通りがいい呼び名を使わせてもらう。


 これは俺がマタキチと出会った際、武器商人を襲っていた山賊が盗んだものをいくつか取り返したものだ。そのときの一丁を格安で売ってもらった。

 その商人は自らを「変顔商店のファニーフェイス」と呼んでいたが、自虐的な名称だな、と思った。なんせその女性の顔には大きな縫い傷と、右目には眼帯に火傷痕、というものがあったからだ。

 彼女なりの生き方で、世渡りなのだと、後になって納得できた。


 アイラが嗅覚センサーを働かせ、工場の敷地に近づいていく。

 時折こうした場所は盗賊などがたむろし、地雷を設置することがある。アイラがいれば、地雷から放出される爆薬などの気化物質を探知でき、それによって俺は危険を事前に対処できる。


「ユラ、問題発生だ」

「盗賊か?」

「いえ、ゼノシスがいる」


 ゼノシス。変異生物。宇宙からもたらされた未知の元素が巻き起こした、生物の変異現象ゼノフォーミング

 功罪、というか、その元素が結晶した鉱石はエネルギー資源や、新鉱石・金属資源としても用いられているが——。


「数は?」

「七、八体。まだいるかも。蔑犬べっけん・コンテプコボルね。男好きのイカれ雌犬どもだ」

「淫獣どもめが。……やるしかない、いくぞ」

「上から奇襲を仕掛けましょうか。高低差は戦術的な優位性だしね」

「知ってるっての」


 俺は八年を戦場で過ごしたのだ。言われなくたって知ってるし、忘れてない。

 左腕に装着しているグラップルアンカーを工場の屋根に引っ掛けた。八メートルほどを一気に巻き上げられ、屋根の上に着地。俺はアンカーを収納する。

 アイラも尻尾からアンカーを伸ばして飛翔、上がってきた。


 屋根の一部が砕け、崩落しているところがあった。

 下から何かで撃ち破られた——以前ここで、何か争いがあったのか、それとも金属が弾け飛ぶような事故でも起きたというのか。

 それは知らないが、ちょうどいいポイントだ。


「この穴から狙えそうだな。おあつらえ向きに一体いる」

「いつ見ても気色悪い」


 人間の乳房が三対ついた、二足歩行の犬。コンテプコボルの外見を端的に表現するならそれだ。毛皮は灰色、メスケモ——というかは、完全なクリーチャー。

 よほどの倒錯的趣味を持った者ならば、あるいは奴らの繁殖に使われていいと自ら飛び込んでいくだろうが、その後の末路はコボル共の子供の餌である。

 俺はアンスロ——変異人類である連中を美しいと思うし、かっこいいと思うが、ゼノシスを性的なものとして見ることはできない。


 奴らの恐ろしさを知っているからだ。


 俺はコイルライフルを構えた。セレクターを弾いて安全状態を示す赤い点から、セミ射撃のモードへ切り替える。セレクターはセミ、バースト、そしてチャージの三つから選べた。

 六・八ミリの弾丸を超音速で射出でき、バースト時は毎分九〇〇発の速度で撃てるが、初速は落ちる。


 何はともあれ、そんなライフルの電力、その供給源はアストロンだ。星䨩元素せいれいげんそ星䨩素アストロン

 外宇宙から飛来した巨岩がもたらした、未知のエネルギー。あざなえる縄の如く、禍福を振りまいたもの。


 電力が生成され、コイルに通電。俺は寝そべって無駄な体力を使わないよう徹しているコンテプコボルに狙いを定めて、撃った。

 バウッ——ゥンと独特な銃声を響かせ、銃口初速マッハ二で撃ち出された弾丸がコンテプコボルの頭部を粉砕せしめ、あたりに混乱が振り撒かれた。


 すかさず第二射。セミオート時は、数秒のインターバルがある。電力のチャージ、そして射撃。

 二発目は別の相手の下半身を丸ごと消失させ、一発撃破。


「お見事」

「相手も馬鹿じゃない。死角に逃げられた。降りるしかないな」

「先に行く。撹乱しておくから」


 アイラが飛び降りた。ガシャ、と四つ足で綺麗に着地して、背中にマウントしているブレードを尾で掴むと、巧みにそれを構えた。

 俺も彼女にならって飛び降りる。常人が八メートルの高さから飛び降りた場合、大抵は悲惨なことになるのは明らかだ。

 だが俺は適応強化人間EA——エア、と呼ばれる特殊な手術を受けた人間である。多少の段差、なんてことない。


 着地と同時に屈伸し、衝撃を殺してさらに転がって無駄なエネルギーを逃す。伏せ撃ち姿勢を取り、アイラに当たらないよう、奥にいる個体を射殺。

 アイラはブレードを振るい、コンテプコボルの胸を貫いて頭を落とした。互いに、目算より多い、合計十五体にもなるコンテプコボルを倒し切る。


 あたりがしんと静まり返った。

 俺はライフルの電源をスリープモードにし、セーフティをかけてスリングで固定。いざという時のため拳銃を抜くと、倒したコボルどもから、その皮や爪を剥いだ。


 ゼノシスの生体素材は、服飾、装備、建材、装飾に使える。あるいは食べたり、薬にできる。要するに、自分らで使うにしろ換金するにしろ、集めておいて損はないのだ。

 毛皮と爪を集めた俺は、それを背中のバックパックにしまった。血と脂のついたマチェットをコートの裾で拭い、鞘にしまう。


「肝心のアメジリアン合金はどこだ……」


 アイラが事前に話した通り、あたりには旋盤機械やらレーザー溶接に使うようなものがあり、多分、何かしらの加工工場だったと思われる。

 置いてあるコンテナやケースを見る。金属の、いわゆる金属元素表の番号やアルファベットが並んでおり、何が何だかわからない。


 アイラが偵察に来た段階では、おそらくコンテプコボルはまだここには来ていなかったのだろう。

 奴らは群れで行動している最中に、ちょうどいい根城にここを選んだのだろうが、俺たちに駆除されたわけだ。


 不幸中の幸いなのは、盗賊ではなかったこと。もしも、アメジリアン合金を持ち逃げされていたらと思うと——。

 いや、まさかもう、持って行かれている可能性も。


「アイラ、わかるか?」

「まあ、ユラと違って賢いので。多分、あれじゃない? あのケース」


 俺はアイラが尻尾で示した、ラックに並んでいるケースを見た。

 まだ何か潜んでいるかも、と思いつつ警戒し、進む。


 ケースは一抱えはあるものだ。鈍色の、それ自体が金属でできている。

 開けてみると、グレーバイオレットの精製された金属がそこに並んでいた。


「これ……だろうな」

「そうね。アメジリアン合金と成分が一致してる」


 いわゆるキロバーインゴットだ。ずっしりと重い。多分、俺だから持てるが、余裕で二〇〇キロはある。


「こんなにいるか?」

「ならおいてく?」

「まさか。マタキチの足回りは俺らにとっても命だ。関節痛がきついのは、みんな同じさ。それに、お前だって無縁じゃないだろ」

「そりゃあ、まあ……」


 俺はケースを閉じ、持ち上げた。


「行くぞ。長居する必要なんてな——」


 そのとき、工場の屋根が剥ぎ取られた。

 ハッとして顔を上げる。半ば脊髄で動き、ケースを放してライフルを構える。

 そこには十メートル近い巨人型ゼノシス——キュクロティタンがおり、その赤い単眼でこちらを睨んでいた。


「銃声でバレたんでしょうね。つくづく運がいい」

「皮肉をいうな、なんで冷静なんだお前っ、……くそ、コイルライフルじゃあフルチャージでもぶち抜けるか……」

「目玉を狙えば、あるいは」

「簡単に言う」


 俺は一旦、セミオートで射撃した。マッハ二の弾丸は、しかしその頑丈すぎる岩のような外皮に阻まれ、引っ掻き傷程度しか与えられない。


「くそ」

「——! ユラ、伏せて」


 言われるがまま、俺は伏せた。こういう状況でアイラが嘘やくだらない冗談は言わないと知っている。信頼しているのだ、俺は。仲間たちを。

 突っ伏すように伏せた、その次の瞬間。


 鉄コンの外壁をぶち破って、マタキチが突進。キュクロティタンに体当たりを決めると、さらに粉砕用の鉄拳ユニットに置き換えている右の鋏でぶん殴った。

 取っ組み合う巨人と、巨大ガザミ。マタキチはその御者台にジゼルを乗せ、彼女が「いまです!」と言うと、マタキチは左の金属切断用の大鋏で、相手の右前腕を断ち切った。


 悲鳴が上がり、前腕が落下。

 無口な武人ガザミはさらに容赦なく、右の鉄拳鋏で顔面を殴った。

 凄まじいパワー。巨人の顔が変形する。

 俺はすぐさま、コイルライフルをチャージモードにし、フルチャージまでエネルギーを充填。


 キュクロティタンが立ち上がり、無事な方の左拳を振り上げた。マタキチが右の鉄拳鋏で受け止め、だが、足が——第三関節が、はっきりと聞こえる悲鳴あげた。

 マタキチが膝を折る。

 無言の苦鳴が、俺には聞こえていた。


「今助ける、兄弟!」


 俺はフルチャージを完了したコイルライフルを相手の目玉に照準、そして撃った。

 竜の雄叫びのような銃声と、強化人間エアをして殴りつけられたような強烈な反動が肩を蹴る。

 弾丸の初速は、マッハ七。キュクロティタンの眼窩に吸い込まれたそれが眼球を一瞬で蒸発させ、脳を破壊。後頭部に大穴をあけ、弾丸は空へと消えていった。


 巨人が後ろにひっくり返り、そして動かなくなった。


 ライフルから冷却ユニットが突き出した。オーバーヒートしたのだ。

 俺は熱々のライフルをスリングごと地面に置いて、マタキチとジゼルに、例のキロバーインゴットのケースを渡す。

 アイラは労るようにマタキチの背中に乗って、尻尾でその表面を撫でていた。「無茶しますね、あなたは」と声をかける。


「おお、これだけあれば充分ですよ!」

「ならよかった。マタキチ、今ジゼルが診てくれるからな」


 マタキチの目が明滅。「ナイススナイプ」と言っていた。

 彼が差し出した左の鋏に、俺は自分の拳をぶつける。そうして健闘を讃えあって、俺たちはマタキチの関節痛という問題を解決するのだった。


×


 ——さて、次はどんなトラブルとアクシデントが待っているのだろう。

 なんだかそれを楽しみにしている自分が、自分たちが、可笑しくて笑ってしまうのだった。



   ACT1 了

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