アルゴノゥトIF短編集


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作:真黒 空
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『道化』VS『静寂』



7年前の『悪派閥』(イヴィルス)との大抗争。
最強の眷属『静寂』のアルフィアとの18階層での戦い。
その渦中にベル・クラネルが前世であるアルゴノゥトの記憶を持って参戦していたら。
そこだけを切り取った短編です。

以下設定
・ベルはアルゴノゥトの生まれ変わりで、性格・記憶共に引き継いでいる。
・暗黒期時代ではあるが、ベルは既に14歳でオラリオで活動している。
・ベルはLv.3
・装備は偉大冒険譚の最終ミノタウロス戦と同じ雷霆の剣と炎の魔剣。
・ベルの主神、ファミリア不明。
・雷霆の加護は魔法の発現か精霊の奇跡かはご想像にお任せ。

※アルゴノゥトとアルフィアの戦いがメインなので、原作で活躍したアストレアファミリアの出番は殆どありません。


 

「そのために、もう一度『英雄の時代』を取り戻す」

 

 かつての英雄が、そう告げた。

 いつか世界を滅ぼすであろう黒龍を討ち取るためには、それしかないのだと。

 血の雨を降らせ、死体の山を築き、億の犠牲を払い、その果てに人類を救う『最後の英雄』を生み出すしかないのだと。

 

 彼女の魔法を前にボロボロになって地面に伏しているアストレアファミリアの面々は、その宣言を驚愕と恐怖と共に聞く。

 圧倒的な力を持つLv.7の怪物、静寂のアルフィアが語る黒龍の脅威、そしてそれを討ち果たすための狂気の手段、彼女が『絶対悪』を為す理由の全てを。

 

「あなたの考えは……良く分かった」

 

 誰もが言葉を失い地面に伏す中、たった一人立ち上がる者がいた。

 真っ白な髪に深紅(ルベライト)の瞳。アストレアファミリアと共にアルフィアと戦っていたベル・クラネルは、瀕死の身体を奮い立たせ、再度彼女の前に立つ。

 

「世界は英雄を欲している。私もその意見には全面的に賛成だ。人類が真の平和を取り戻すために、この世界は英雄を求めている」

 

 絶対悪を名乗るアルフィアの考えに賛同を示すベル。

 アストレアファミリアは彼の言葉にギョッと目を見開き、アルフィアは感心したように頷いた。

 

「ほぅ。少しは話の分かる奴がいるようだな」

 

 目の前の美人から初めて好意的な言葉を貰ったベルは笑みを浮かべる。

 だがその口から放たれた言葉は彼女の意に沿うものではなかった。

 

「しかし、それを踏まえた上であえて言わせていただこう。あなたの考えは間違っていると」

「なに?」

「なぜなら、あなたの描く未来には笑顔がない」

 

 持っていた剣を目の前に突き刺し、その柄に両手を添えて身体を支えながら、ベルは堂々と言い切った。

 

「かつて、神々が下界に降り立ってはいなかった古代。人類は絶望の危機に瀕していた。世界の果てより無限に生まれるモンスターに誰もが怯え、嘆きと絶望が世界を満たしていた」

 

 唐突にベルは語り出す。

 そのあまりの脈絡のなさに誰もが訝し気に表情を険しくした。

 

「家族を、友人を、恋人をモンスターに奪われたものなど珍しくはなかった。エルフの森は焼き払われ、ドワーフの山は蹂躙され、狼牙の里は魔物が席巻する土地となった」

 

 英雄の時代が到来するより前の、希望のなかった世界をまるで見て来たかのようにベルは語る。

 しかし伝承された歴史はベルの言葉を肯定するものであり、そこに否定の余地はない。

 

「そうだ。その絶望を糧に、かつての英雄達は生まれた。恐怖と絶望、その先で手に入れる事のできる至高の力。それこそが黒龍に届きうる唯一の刃だ」

 

 アルフィアもベルの意見を肯定し、その先にこそ希望があると語る。

 アストレアファミリアは二人の話にはついて行けず、しかし彼女が出した結論を忌避し顔を顰める。

 

「確かに英雄達の胸の内には絶望があっただろう。骨髄を燃やし尽くすほどの怨嗟をその胸中に秘めていたかもしれない。しかし彼らが立ち上がったのは決して、その恨みを晴らすためでも、憎しみをぶつけるためでもないはずだ」

「なに?」

 

 再び自身の意見を否定されたアルフィアは不快気に眉根を寄せるが、それに臆する事なくベルは笑む。

 

「なぜなら彼らの英雄譚には笑顔が溢れている。ドワーフの大英雄ガルムーザも、狼帝ユーリスも、争姫エルシャナも、戦いの後には彼らの偉業を讃え、賛美する民衆の笑顔が描かれている」

「それがなんだと言うのだ」

 

 要領を得ないベルの発言に、アルフィアの声に明確な苛立ちが宿る。

 それは彼女が絶望を語ったにも関わらず、少年が絶えず能天気な笑みを浮かべている事も理由の一つだったかもしれない。

 そんなアルフィアの心境を理解する事なく、ベルは胸を張って持論を展開した。

 

「英雄はみな、人々の笑顔のために戦った。モンスターに怯え、嘆く人々の心からの悲しみと恐怖を取り除くために。隣にいる人の涙を止めるために。そして何より大切なものを守るために。しかしあなたのやり方では、戦いの後に残るのは悲しみと空っぽの虚無感だけだ。それでは誰も救われない。本物の英雄は決して生まれない」

 

 吹けば倒れてしまいそうなボロボロの身体で尚、ベルは力強く断言する。

 確信を持って、まるでそんな光景を見て来たかのように。

 

「英雄とは、強大な敵を打ち倒すだけではない。人々の希望となり、その心を奮い立たせ、笑顔にする者を指すのだ。あなたの言う方法で生み出せるのは、英雄ではなくただの復讐者だけだ」

 

 絶望の果てに『最後の英雄』を生むと言ったアルフィアに対し、それは『本物の英雄』ではないとベルは真っ向から否定する。

 

「あなたの考えは根本的な部分をはき違えている。絶望が英雄を作ったのではない。絶望に負けず立ち上がった強き者が英雄と呼ばれたのだ。その勇姿を見て天上の神々もこの下界に降り立った。英雄達が繋いだのだ。未来への希望を、私達が生きるこの時代へと! ならば世界が欲する英雄とは、昔日の過去になどいない。これから私達が歩む未来で生まれるものだ!」

 

 決然とした眼差しで、アルフィアの瞳を真っ直ぐ見据えながらベルは言い切った。

 これまで紡がれてきた『英雄神話』、それはまだ終わってはいないのだと。

 彼らの偉業は、自分達が受け継ぎ、繋ぎ、そしてその果てにこそ『最後の英雄』を生み出すのだと。

 しかし――

 

「戯言だな」

 

 アルフィアはそんなベルの主張を一言で切り捨てた。

 

「貴様の言葉はただの言葉遊びに過ぎん。もしくは理想論、妄言の類だ。もし貴様の言が全て正しかったとしても、黒龍はどうするつもりだ? あの黒き災厄はいずれ必ず人類を呑み込む。それまでに『最後の英雄』が生まれる保証があるというのか?」

 

 冷静に、冷淡に、アルフィアは現実だけを見据えてその確実性を問う。

 そんな小さな可能性に人類の命運は託せないと、ベルの理想を嘲笑う。

 

「お前が語る英雄など、所詮は物語の中にしか存在しない。小人族の英雄(フィアナ)のような弱き者が生み出した架空の英雄そのものだ。夢や理想ではなく、現実を見ろ。たとえ復讐者であろうと、黒龍を倒す力を得られるのならば、それが世界の欲している英雄だ」

 

 そう言ってアルフィアはある方向を指差した。

 そこでは黒き風を纏った幼いロキファミリアの少女が、破滅的な力を振るう『神獣の触手』(デルピュネ)と戦っていた。

 

「あの娘を見てみろ。お前にあれ以上の力を示せるか? あれを見て尚、私が間違っていると証明できるか? 黒龍を打ち倒せるだけの希望を提示できるというのか?」

 

 あふれんばかりの憎しみを絶叫と力に変えて戦う少女は、鬼神そのものだった。

『神の力』(アルカナム)によって呼び出されたダンジョンが生み出し化け物を、彼女は単身で相手取る。

 幼い身体のどこにそんな力があったのか、第一級冒険者ですら止められない彼女の暴走は、アルフィアが語る絶望の果てにある力というものをこれ以上ないほど物語る。

 しかしベルはそれを見て、初めてその顔から笑みを引っ込めた。

 

「あなたには、彼女の姿が希望に見えるのか?」

「どういう意味だ?」

「私にはただ、少女が泣いているようにしか見えないよ」

 

 アルフィアの魔法を食らった時よりもずっとつらそうな表情で、ベルは悲しげに首を振った。

 

「あんなにも小さな子供が、泣き喚き身に余る力に振り回されている姿が希望だろうか? あなたはあんなものを至高の力と讃えるのか? あれがあなたの求める英雄の姿か?」

 

 心臓に手を当て、苦しそうに表情を歪めながら言い募るベル。

 いまも風を纏い剣を振るう彼女を、心底憐れむように。

 

「彼女という『一』を切り捨て、『百』を救う道が私には正しいとは思えない。あのような悲痛な叫びの果てに手に入るものが、素晴らしいものであるはずがない」

 

 オラリオすら滅ぼしかねない怪物と拮抗するほどの力。そんな力を得るのに一体どれほどの絶望に耐えたのか。それを想像するだけでベルの胸は破裂しそうなほどの痛みを訴える。アルフィアの望む未来は、下界に生きる全ての人々に彼女と同じだけの絶望を与える。それは正しく、嘆きと絶望が世界を支配した古代の再来であった。

 そしてベルは、そのような未来を決して許容できない。かつてそうであったように。

 

「アルフィア。一人の女の子の笑顔を奪ってまで果たされる平和など、虚しいものだ。本物の英雄ならば彼女を笑顔にした上で、世界をも救ってみせる。私はそう信じている」

 

 あの時代、滑稽な道化が王女を救ったことに奮い立った英雄達がモンスターを大穴へと押し返したように。

 その果てに、一人の英雄が黒龍の片目を奪ったように。

 絶望ではなく希望が世界を救うのだと、ベルはそう訴える。

 

「くだらん」

 

 しかし返ってきたのはそんな一言だった。

 

「いまを持ってお前は何一つ私の問いに答えられてはいない。ただ煙に巻いてはぐらかしているだけだ」

 

 結局は黒龍を打倒できる証を提示できないベルに対し、失望と共にアルフィアは告げる。

 

「私は言ったぞ。否定したいなら黒龍をも倒し得る力を示せと。元よりここまで来て言葉で解決するとは貴様も考えてはいまい」

 

 両手を開き、その指先をベルへと向けるアルフィア。

 

「来い、小童。言葉ではなく剣を持って、己の正しさを証明してみせろ」

 

 かつての最強が立ちはだかる。

 絶望的なまでのLvの差。遥か高みに君臨し未だ超える者のいない頂点が、理想を語るなら己を超えてからにしろと障害となって道を塞ぐ。

 それに対してベルは――

 

「ああ、分かった」

 

 まるで友人として食事に誘われたかのような気安さで頷いた。

 集団でぶつかりながら完膚なきまでに実力の差を思い知らされ完敗した相手に、臆する気配すらなくその顔に笑みまで湛えて。

 

「それしかないのならば、もはや否やはない。私の全霊を持って、あなたの意志を否定しよう」

 

 地面に突き刺していた剣を抜き、ベルも二刀を構え前傾姿勢を取る。

 そして宣言する。身に余る大言を。堂々と。満面の笑みで。

 

「私はベル・クラネル! 人々を笑顔にし、いずれ黒龍をも討つ英雄となる男だ!」

「よく言う。口だけの貴様は、英雄などではない。ただの道化だという事をその身に刻んでやろう」

 

 ベルの宣言をアルフィアは嘲り、否定する。

 それに答えるは、やはり笑顔。

 

「行くぞ! アルフィア!」

「来い! ベル・クラネル!」

 

 そして2度目の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 加速する。

 動きが、剣速が、想いが、一瞬を経る度に限界を超える。

 ベルが振るう剣をアルフィアは紙一重で回避し、当たれば容易く命を奪い取る反撃の手刀を今度はベルがなんとか身を反らして躱す。

 アストレアファミリアと連携してようやく追い縋っていたアルフィアの攻撃に、ベルは単独でついて行く。

 

「張り合ってる、あのアルフィアと……」

「なんだよあいつ、さっきまでとは動きが全然ちげぇぞ」

「あれは……付与魔法(エンチャント)か? 彼の身体から稲妻が迸っている……」

 

 アリーゼ、ライラ、リューの3人が2人の戦いを見て信じられないとばかりに呟きを零す。

 彼女達もできる事なら加勢に入りたかったが、格段に向上したベルの動きに中途半端な助太刀は逆に邪魔にしかならない。同じファミリアであるなら連携のしようもあるが、今回の件で急造パーティーを組んだだけの彼女達ではなす術もなく2人の戦いを見守るしかなかった。

 

【福音】(ゴスペル)――」

「魔剣よ!」

 

 間合いが開き、アルフィアが超短文詠唱で魔法を放とうとするのをベルは炎の魔剣を振るう事で防ぐ。

 そして自らが放った炎に躊躇わず飛び込んで再びアルフィアとの接近戦を演じた。

 一瞬の判断ミスが即死につながりかねない攻防。

 そんな極限状態での戦いの中で、ベルは緊張や恐怖などまるで感じさせない笑みを浮かべ最強へと立ち向かう。

 

「戦いの最中に何をヘラヘラ笑っている」

 

 死を隣人に戦いに臨みながら、笑みを絶やそうとしないベルにアルフィアは眉を顰める。

 彼女を前に笑みを浮かべて向かって来る者など、過去の冒険者時代に遡っても存在しない。

 幾多の死線を潜り抜けてきた経験が、その不可解さ、精神性に不気味な何かを感じ取る。

 

「あなたこそ、折角美しいというのにそのような仏頂面では美人が台無しだぞ。笑えばきっと花も恥じらうほどの美しさだろうに!」

 

 彼女の手刀をなんとか往なして攻勢に転じながら、ベルは一層笑みを深くして答える。

 そのふざけた返答にアルフィアは舌打ちした。

 

「ふざけた事を……」

「何を言う! 私は大真面目だ。あなたのような美しき人に微笑んでもらいたいが故に、私のような(おのこ)は英雄を目指すのだ!」

 

 不快を隠さず表情を歪めるアルフィアとは対照的に、ベルは満面の笑みで剣を振るう。

 命のやり取りをしていながらどこか滑稽にも見えるその光景を、アストレアファミリアは呆れとも感心ともつかない表情で見ていた。

 

「……おいあいつ、戦いながらあの化け物を口説いてるぞ」

「な、なんと不埒な。戦闘の最中に、あのような軽口を……」

「面白い人ね! 私はああいう人、大好きだわ!」

 

 ライラが戦慄し、リューが怒りに顔を赤くし、アリーゼがベルへの好感を叫ぶ。

 すると戦闘中でありながら、己の賞賛の言葉をベルは耳聡く拾った。

 

「むっ! 何やら美人が私を賛美する声が聞こえた気が!」

「何を集中を削いでいる」

 

 一瞬の気の緩みも許さないとばかりの攻撃に、しかしふざけた事を宣いながらその実、全神経を総動員してアルフィアと対峙するベルはいままででは考えられない反射速度でそれを躱す。

 

「これは失礼した! レディを前にして他の事に気を取られるなど、このベル・クラネル一生の不覚!」

「喚くな。喧しい雑音を発するその口をいますぐ閉じろ!」

 

 尚も軽口を叩くベルに、鬱陶しさを隠そうともせずアルフィアが怒気をぶつける。

 静謐こそを好む彼女にとって、自分の回りを駆け回り軽口を絶やさないベルは心底煩わしい存在だった。

 その苛立ちを攻防の中でわずかにできた空白、互いの攻撃が相手に届かなくなる一瞬に解き放つ。

 

【福音】(ゴスペル)

 

 一撃必殺の魔法の発動。それを寸前で予期したベルは、魔法の発動阻止が不可能だと判断し、強引な加速で持って間一髪魔法の範囲外まで逃れた。

 開いた距離を埋めるように魔剣の一撃を放ち、視線をアルフィアへと向けたまま叫ぶ。

 

「麗しきアストレアファミリアの方々!」

 

 まさか戦闘中に話し掛けられるとは思っていなかったアストレアファミリアは、突然の呼び掛けに目を白黒させる。

 

「えっ、私達? な、何かしら! ベル坊や」

「彼女のデートの相手はこのベル・クラネルに任せていただきたい!」

 

 デート、という単語にライラを始めとした面々が脱力するが、続く言葉は緩んだ気を一瞬で締め直すものだった。

 

「だからあなた達は、いまも変わらず泣いている少女の涙を拭ってあげてほしい!」

 

 ハッと、アリーゼ達は少し離れた場所でモンスターと戦うアイズとロキファミリアの面々を見る。

 アイズの黒い風によって戦況は保たれているが、それがか細い綱を渡るが如く危ういものである事は、目に見えて明らかなものだった。

 

「どうか頼む! 私の代わりに、あの少女に笑顔の花を咲かせてあげてくれ!」

 

 懇願というには悲壮感が足りず、苦渋というには悩みの色がない、どこまでも明るい声でそう頼み込むベル。

 その響きには大事を他人に任せる事への不安など欠片も存在しない。あるのは正義の眷属への真っ直ぐな信頼だけだった。

 一方そんな無責任とも言える頼み事をされた少女達のリーダーは、一瞬面食らって呆けたものの、すぐに笑顔になって自身の胸を力強く叩いた。

 

「任せておいて! 私達があのちびっ子もモンスターもなんとかしてあげる! 正義の剣と翼に誓って、ね!」

「おいアリーゼ、またテメェはそんな安請け合いを……!」

「何言ってるのよライラ。ベル坊やが一番大変なところを1人で受け持ってくれるのよ。なら私達だってそれくらいしなきゃ正義の眷属の名折れじゃない」

「っ……!」

 

 アリーゼの軽率な返事をライラは咎めるが、逆に言い負かされて反論に窮する。

 そんな小人族の少女に正義の眷属の団長は胸を張って己の考えを語る。

 

「前に言ったでしょ。私達が取るべき行動は、悲しみの涙を拭い、みんなの笑顔を守る事! これはそのための戦いなのよ!」

「…………くそっ、仕方ねぇ。わかっ――」

「それに……」

「?」

 

 言いくるめられているのを自覚しながら、既に納得の方向に流されていたライラは、まだあるのかと小首をかしげる。

 それに対しアリーゼはとびっきりの笑顔で嬉しそうに叫んだ。

 

「麗しいなんて言われたらどんなお願いだって聞いてあげたくなるじゃない!」

「ッざけんなよ! テメェそれが本音だろ!」

「アリーゼ! いくらなんでも浅慮が過ぎる!」

「ふっふーん! 清く正しく美しい私に掛かれば、子供をあやすのなんてちょちょいのチョイよ。ほら、行くわよみんな!」

「こんっの、バカ団長がああああぁぁぁ!」

 

 ライラの叫びも虚しく、アリーゼに引っ張られるようにしてアストレアファミリアの面々はロキファミリアへの加勢に向かう。

 それを気配で察し、ベルは笑みを深める。

 

「これで私の憂いは絶たれた。全力であなたとのデートに集中できる」

 

 魔剣の炎も土煙も消え、姿が見えるようになった無傷のアルフィアに向けてそんな事を宣うベル。

 

「口と逃げ足だけは本当に良く回る」

 

 ベルとアストレアファミリアが会話している間、一切の攻撃を仕掛けなかったアルフィアはその軽口に嘆息した。

 

「不愉快だ。すぐに終わらせてやる」

「そんな勿体ない! 折角のデートなのに!?」

「消えろ」

 

 会話を終えた直後に、もう戦闘は始まっていた。

 数瞬の内に距離を詰めたベルが剣を振るい、それを迎撃するアルフィアの手刀が走る。

 片方は無表情に。もう片方は不敵な笑みを浮かべて。

 先程よりもさらに速くなった攻防が、超至近距離で展開される。

 

(強い――だが、ついて行けないほどではない)

 

 高速戦闘を繰り広げながら、ベルの脳は現状を冷静に分析する。

 

雷霆(らいてい)の加護があるとはいえ、本来ならLv.7相手に互角の戦いができるわけがない。おそらく戦闘開始直後であれば、瞬殺は必至だったはずだ)

 

 アストレアファミリアやロキファミリアとの連携すら容易くあしらっていたアルフィアを、いくら能力が上がったとはいえベル一人で抑えられる道理はない。

 しかし実際は紙一重とはいえベルは彼女に追い縋る事ができている。

 それが示す事実は一つしかない。

 

(フィン・ディムナの予測は当たっていたようだな。反応速度を始めとした、全能力(ステイタス)が落ちている。つまり彼女が苦手とするところは、持久戦――!)

 

 絶望的な実力差の中にあってようやく見つけた光明。

 近接戦も遠距離戦もこなすアルフィアの唯一の弱点。

 それを確信するベルだが、笑みを浮かべる顔の下で大量の冷や汗を搔きながら唾を呑み込む。

 

(しかしそれは、私とて同じ事……)

 

 雷霆の加護により強引に身体能力を底上げしているベルの身体は、いまこの瞬間も内側から壊され続けている。

 昔の戦いを思い返せば、この先に何が待つかは簡単に想像できる。

 ベルの身体を強化する雷霆の加護はその身を焼き尽くし、やがては命すら燃やし尽くすだろう。

 つまりこのまま戦い続ければ、ベルかアルフィア、どちらかの身体が限界を迎え崩れ落ちる。

 

(そんな決着は、私が望むところではない!)

 

 限界の果てにどちらかが力尽きて倒れるような、そんな誰も救われない決着などベルは求めていない。

 彼女の未来を否定するためにも、己の意志を証明するためにも、命を削る我慢比べのような戦いをするつもりなどベルには毛頭なかった。

 

「はあああぁぁぁぁあああぁぁああぁぁぁぁぁ!」

 

 渾身の力を込めて振るった剣は、彼女のドレスの裾を切り裂くだけでその身体には届かない。

 戦闘が開始してからいまに至るまで、ベルの剣は一度も彼女の肌に触れる事すら叶わず空振りするだけだった。

 だがその程度で臆するベルではない。

 彼女の手刀に身に纏う防具を吹き飛ばされながら、それでも尚、一歩も怯まず剣を振るい続ける。

 

 対するアルフィアは手刀を振るいながら、内心ベルの戦い方を怪訝に思っていた。

 これまでの戦闘から己の弱点が持久戦である事はおそらくバレている。

 だとすればベルが取るべき最善の行動は、無理して攻めず体力を削る事だ。

 攻め気がなさ過ぎれば魔法が撃ち込まれるため消極的な戦い方はできないだろうが、それでも致命打など狙わず牽制し続け、いつでも離脱して逃げられる距離感で戦うのが理に適っている。

 しかしベルは一切そんな様子を見せなかった。

 攻め気を失わず、牽制やフェイントも混ぜるが、それは全て己の渾身の一撃を当てるため。勝機と見れば果敢に攻め掛かり、そのせいで疎かになった守りは『敏捷』で持って補う。明らかに持久戦を狙っている戦い方ではない。力と技術で持ってこちらを打ち破ろうとする気迫が、剣を通して伝わってくる。

 

(考えられるとすれば、奴が纏う稲妻、付与魔法(エンチャント)の効果時間の問題か……)

 

 ベルの動きを格段に向上させた付与魔法(エンチャント)。あれがなければベルはアルフィアの相手にすらならない。

 しかしベルの戦い方は決着を焦る人間のものではない。怒涛の攻撃を放ちながらも、決して無茶な攻めはしてこない。

 

(私相手に短期決戦を挑む理由はなんだ? まさか私の弱点に気付いていないのか?)

 

 読めない戦法、ふざけた言動、放たれる気迫、噛み合わない人物像にアルフィアの困惑は深まるばかりだった。

 

(本当になんなのだ、この道化は……!)

 

 ベル・クラネルという人間の全体像がまるで掴めず、アルフィアは苛立ちから唇を噛む。

 一向に消える事のない彼の笑顔が、余計にアルフィアの怒りに拍車を掛けた。

 

 そして遂にアルフィアの手刀がベルを捉える。

 回避は不可能と悟ったベルは、咄嗟に雷霆の剣を盾にその一撃を防ぐ。

 Lv.7の膂力が生み出す衝撃。それは容易くベルを吹っ飛ばした。

 まるでボールでも蹴ったかのように飛ばされ地面を転がるベルは、それでもなんとか剣を持つ拳を地面に叩きつける事で立ち上がって勢いにブレーキを掛ける。だが結果的にそれは失策だった。

 こちらを見ながら両手を広げるアルフィアが何をしようとしているか悟り、しかし勢いを止めて立ち上がってしまったベルにそれを回避するだけの余裕はない。

 

「しまっ……!」

【福音】(ゴスペル)――っ!」

 

 先程は九魔姫(ナイン・ヘル)の防護魔法でなんとか耐え凌いだ魔法。まともに食らえばベルの身体など簡単に吹き飛ぶその一撃を覚悟して、意味がないと分かっていても防御姿勢を取るベル。

 しかし予想していた衝撃はやってこなかった。

 

「ごふっ……!」

 

 代わりに魔法を唱えたはずのアルフィアが口元を押さえ膝をつく。

 口元に当てた手からは、少なくない量の血が漏れ出ていた。

 

「なっ……アルフィア!」

 

 思わず敵だという事も忘れ、彼女に駆け寄るベル。

 吹っ飛ばされた距離を埋め、手の届くところまで行こうとしたところで、俯いていた彼女が顔を上げ殺気を放つをのを感じ取り足を止めた。

 

「……やはり事実だったのか、あなたが病に侵されているというのは」

「知って、いたか……」

 

 作戦前にロキファミリアから伝えられていたアルフィアの不治の病。

 才能に愛された怪物、『静寂』のアルフィアの力を持ってしても乗り越える事のできなかった、その身に宿る爆弾。

 

「ああ、恨めしい。同じ腹から生まれた妹さえ殺した死の病め、これさえなければ私は、黒龍を討てたのか?」

 

 吐き出した血で己の肌を汚し、顔を怨嗟と憎悪に歪めながらアルフィアは恨み言を零す。

 笑みを引っ込めたベルはその様子を険しい顔で見つめていた。

 

「一つ、問うてもいいだろうか」

 

 痛まし気に、しかし決して憐れむ事なくその姿を瞳に映しながら問いを投げ掛けるベル。

 

「あなたはこの戦いの先に何を見ている?」

 

 今更な問い掛けに、アルフィアは眉を顰めた。

 口元を着ているドレスで拭い、先程と同じ答えを口にする。

 

「先も言ったはずだ。『英雄の時代』、黒龍をも討つ絶対的な強者を生む、かの時代への逆行だ」

「それはあなたが命を(なげう)つほどに大事なものなのだろうか?」

 

 間髪入れずにベルは再び問うた。

 アルフィアはそれに沈黙を持って答える。

 

「私はあなたの絶望を知らない。黒龍に挑んだあなたがどれほどの力を目の当たりにし打ちのめされたのか、実際に対峙していない私が本当の意味で理解する事は叶わないだろう。しかし無知故の蛮勇だと謗られようとも、あえて言わせていただく。次代の英雄は現れる。あなたのような方がその身を捧げずとも、私達が必ず黒龍を打ち倒す英雄へと至ってみせる」

 

 病に侵されながら戦う彼女を見て、血を吐きながらも戦意を衰えさせない彼女を見て、ベルは悟ってしまった。

 彼女はここで、死ぬつもりなのだと。

 いずれ人類を滅ぼす黒き災厄。それを討伐する『最後の英雄』。彼女はそれを生み出すための人身御供になろうとしている。

 だがそれは彼女という『一』を犠牲にした未来。ベル・クラネルはその選択をどうしたって受け入れられない。

 

「だからどうか、考え直してはくれまいか。安らかな眠りを望もうにも、ここはあなたの嫌う雑音に溢れ過ぎている。『最後の英雄』が生まれたとて、分厚い地面に隔てられその勇姿すら見えやしない。何もこんな場所であなたのような美しい人が眠る必要はないはずだ」

 

 死ねば魂が天界へと帰る事が事実として確定しているこの『神時代』(しんじたい)において、ベルの説得は理に適っているとは言えない。

 しかし彼の言葉に宿る真っ直ぐな誠意だけは確かなものだった。

 

「アルフィア。どうか私に、あなたを助けるチャンスを与えてほしい」

 

 頭を下げて懇願するベル。

 敵対し、立ちはだかる相手に対し、助けさせてほしいと頼み込むベルの行いは他の者が見れば失笑ものの愚行だろう。

 だがベルは本気だった。

 たとえ世界を絶望に落とそうとしているのだとしても、そのために数多の命を手に掛けたのだとしても、彼女は彼女のやり方を持ってして人類を救おうともがいたのだ。

 己の家族(ファミリア)を殺され、圧倒的な暴虐に打ちのめされ、自身の無力に死んでしまいたくなるほどの失望と悔恨を味わいながらも、それでも絶望に押し潰される事なく彼女は人々を黒き災厄から救うために立ち上がったのだ。

 その気高い意志を、ベル・クラネルは心より尊敬する。

 彼女のような人こそが、英雄と呼ばれるべき絶望に屈さぬ者。

 だからこそ、その命をこんな場所で散らすような真似をしてほしくはなかった。

 

「つけ上がるなよ、道化」

 

 ベルの懇願に対し、底冷えするような絶対零度の言葉が返される。

 それは内容よりも如実に、拒絶の意をベルに伝えた。

 

「貴様の紡ぐ言葉の全てが、私の意志を、覚悟を、侮辱している事になぜ気付かない? 今更命を惜しむようなら、初めから私はこの場に立っていない。英雄になるだと? チャンスをくれだと? 何一つ力を証明できていない貴様がふざけた事をのうのうと――――片腹痛い!」

 

 戦闘中よりも遥かに激しい怒気を纏い、アルフィアは吐き捨てる。

 いっそ憎悪すら感じさせる彼女の姿にベルは知らず息を呑んだ。

 

「この身は既に原初の幽冥(エレボス)と取引し、『絶対悪』を名乗った身! ならば私の道は在りし日の英雄の時代にしか存在しない! たとえこの命を礎にしてでも、私は時の針を巻き戻してみせる!」

 

 凄絶な叫びがダンジョンに響き渡る。

 己の命すら賭して大事を成し遂げる覚悟の咆哮。

 病魔にその身を侵され、刻一刻と身体を蝕まれながら欠片も揺らがない強き信念。

 彼女の在り方は既に『絶対悪』として完成されていた。

 

「先程の言葉は取り消させていただく」

 

 胸に手を当て、ベルは静かに、敬意を持って目の前の女性に自らの不明を詫びる。

 

「『静寂』のアルフィア。誇り高き戦士にして、稀代の英雄よ。私はあなたの覚悟を侮った。許されざる愚行だ。謝罪させてほしい」

 

 本当にすまなかった、と頭を下げるベル。

 この時ばかりはいつものふざけた態度も鳴りを潜めていた。

 

「そして改めて宣言させていただこう。私は必ずや、あなたが求める英雄へと至ってみせる。それをこの一戦で証明しよう」

 

 再び剣を構え、ベルは決意と覚悟を持って宣言する。

 目の前の彼女にも劣らぬ意志のままに。

 

「あなたに勝ち、あなたを笑顔にする事で」

「笑顔……?」

「言ったはずだ。英雄とは人々の希望となり、その心を奮い立たせ、笑顔にする者だと。一人の女性も笑顔にできずして、何が英雄だ。あなたに巣食う絶望を取り除き、私は必ずやあなたを笑わせてみせよう」

 

 いままでずっと口にしてきた『英雄になりたい』という言葉。

 それはもう使うまいと、心の中でベルは決める。

 彼女の前で宣言したからには、夢を語るようにそれを口にする事はもはや許されない。

 才がない、素質がない、資格がないと諦めるのは、千年前で持って終わりだ。 

 ここにいるのはもはや『ただのアルゴノゥト』ではなく、『冒険者ベル・クラネル』なのだから。

 あの時には手の届かなかった『百』を。『一』を切り捨てる事のない『百』を救うために。

 ベル・クラネルは、全てを救う英雄へと至る道を歩む決意を固める。

 

「散々理由を口にしたが、これは私の我儘かもしれないな」

 

 英雄への誓いを新たに、ベルは口の端を吊り上げる。

 そして自らが目指す英雄をなぞるように、目の前の『一』にとびきりの笑みを向けた。

 

「アルフィア。私はあなたの笑顔を見たいんだ」

 

 その言葉を最後に、長い沈黙が訪れた。

 彼女が愛する静寂とまではいかないが、二人の間に言葉はなく、離れた場所で戦うロキファミリアやアストレアファミリアの戦闘音や裂帛の叫び、モンスターの咆哮だけが聞こえてくる。

 

「本当に、煩わしい雑音だ」

 

 しばらくしてアルフィアが感情を排した呟きを零す。

 しかしそれは徐々に明確な怒気を纏いベルへとぶつけられる。

 

「貴様の声、貴様の言葉、貴様の姿、全てが癪に障る」

 

 美しい顔を怒りに歪め、アルフィアは構えを取る。

 今度こそ決着をつけるために。

 

「消え去れ、道化。幕は私が手ずから引いてやる」

 

 病に侵されているとは思えない濃密で鋭利な殺気が放たれる。

 最強のLv.7の殺意は並の人間なら気絶してしまうほどの恐怖を喚起する。それはあたかも、強大なモンスターの咆哮のように。

 しかしそれを一身に受けるベルは怯む事なく、堂々と胸を張って答えた。

 

「ありがたい申し出だが、お断りする! 麗しい女性達が私の勇姿を信じ、私にはまだ笑顔にしなければならない人がいる! なのにどうして舞台を下りる事ができようか!」

 

 彼女の怒りも殺意も、全てを受け入れながらベルは笑う。

 無邪気に、陽気に、英雄譚に目を輝かせる子供のように。

 

「共に踊ろう、アルフィア! いまここには私とあなたしかいない。幕が下りるのは道化が舞台から叩き落とされた時ではない。道化がみんなを笑わせた時だ!」

 

 ここにきてふざけた事をこれ以上ないほど本気で語るベルにアルフィアはもう答えない。

 その答えの代わりに彼女が口にしたのは詠唱式。

 破壊の音を奏でる魔法の発動を契機に、3度目の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 それは死闘と呼ぶに相応しいものだった。

 互いに限界を超え、身体などとうに動かなくなってもおかしくないはずなのに、いままでよりもさらに激しく、速く、雄々しく、二人は剣を振るい、魔法を唱え、意志をぶつけ合う。

 ベルが駆ければ岩盤は砕け、アルフィアが魔法を唱えれば辺りは吹き飛び、剣と手刀が飛び交うたびに砕けた装備や鮮血が舞う。

 環境すら変える凄まじい戦いの光景は、本来なら目を逸らしたくなるほどの壮絶さだ。

 しかしそれは同時に、見る者を惹きつけて止まない輝きがあった。

 命懸けの死闘でありながら、彼らの戦いはどこか美しく、見る者に悲壮さや悍ましさを感じさせない。

 それはきっと、戦う少年の表情が笑顔だったからだろう。

 一撃必殺の手刀に肌を切り裂かれても、自らの渾身の一撃が空を切ろうとも、かすった魔法の衝撃に吹き飛ばされようとも、少年は口の端を曲げて一瞬も怯まず戦場を駆けまわり剣を振るう。

 最強の女ももはやわずかな驚きすらなく、全力を持って少年を迎撃するため力を解放する。

 まるでそれは劇場のようであった。

 英雄を目指す少年が、かつての英雄を超えるための決戦。

 物語――英雄譚の一幕のような光景に、それを見ていた全ての者が言葉を失い、ただ凝視する。

 美しくも激しい、英雄同士のぶつかり合いを。

 

「はあああぁぁぁぁぁあああぁぁああぁぁあぁぁ!」

「っ――【福音】(ゴスペル)

 

 加速し続けるベルの動きに、余裕を失ったアルフィアが魔法で迎撃し無理やり距離を取る。

 しかしそれも一瞬の空白を作ったに過ぎず、即座にベルは距離を埋めて再び接近戦持ち込む。

 魔剣が付与魔法によって無効化されるベルにとって、距離を取る事は不利にしか働かない。それを理解しているベルには近距離で戦う以外に選択肢はなかった。

 だが相手は魔導士でありながら、見ただけで最強の剣士の太刀筋すら模倣する『才禍の怪物』。Lv.7の力を持って振るわれるその手刀は一撃でベルの身体を粉砕する威力を有し、その動きは第一級冒険者の前衛と比較しても遜色ない。

 接近戦を演じるという事は、彼女の手の届く範囲に常に身を置く事を意味する。

 それはまさしく命懸けの綱渡りだった。

 剣が走り、手刀が薙がれ、魔剣が吠え、魔法が炸裂する。

 稲妻が戦場を駆け巡り、破滅の音が炎をも呑み込んで、地形さえ変えながら男と女は互いの命を天秤に載せて渡り合う。

 己を賭して、自らの正しさを証明するために。

 

「はあっ!」

 

 自身の長所である敏捷をフルに活かした横薙ぎが空を切る。

 ただほんの数センチ身体を後方に反らすだけ。それだけでアルフィアはベルの一撃を躱してみせた。

 すぐさま剣の距離を埋めて放たれる手刀。それはベルが先程放ったのと同じ横薙ぎの一撃。

 体勢から飛び退いての回避は不可能と判断して、アルフィアと同様ベルは上体を反らした。

 しかし彼女の一見優雅にも見える回避とは違い、膝を曲げてリンボーダンスでもするかのように上半身を沈める。

 結果、アルフィアの手刀はベルの髪の毛を数本断ち切るだけに終わる。

 しかし回避のために無理な体勢となれば追撃に襲われるのは必定。

 それを防ぐどころか好機とみなし、ベルは上体をのけ反らせた勢いを利用して、そのまま地面に手を突き一回転して蹴りを放った。

 思わぬ反撃に、アルフィアはその蹴撃をもろに腹に食らう。

 

「ぐふっ……!」

 

 威力自体は大した事ないとはいえ、勢いの乗った蹴りを無防備な身体に受けアルフィアは小さな呻き声を上げる。

 その隙に体勢を整えたベルが追撃を放つが、一瞬で持ち直したアルフィアは無駄のない動作でそれを躱す。

 一瞬一瞬が、命を削る決死の攻防。

 そんな中で不意に響く鐘の音。

 リンリンと小さく微細な(チャイム)の音は、やがてゴォン、ゴォォンと響き渡る大鐘楼(グランドベル)の音色へと変化する。

 同時に少年の持つ魔剣に白い光が収束していった。

 

「【祝福の禍根、生誕の呪い。半身喰らいし我が身の原罪】」

 

 大鐘楼の音が鳴り響く中で、今度は歌声が紡がれる。

 

「【禊はなく。浄化はなく。救いはなく。鳴り響く天の音色こそ私の罪】」

 

 それは魔法の詠唱式。

 これまでのような短文詠唱の魔法ではなく、超長文の詠唱を必要とする極大魔法の準備。

 

「【神々の喇叭(ラッパ)、精霊の竪琴(たてごと)。光の旋律、すなわち罪過の烙印】」

 

 高速戦闘を繰り広げながら、淀みなく正確にアルフィアは詠唱式をなぞる。

 高まる魔力はこれまでの比ではなく、その魔法の強大さがこれまでベルが見た事もないほどの規模だと嫌でも理解させられる。

 

「【箱庭に愛されし我が運命よ――砕け散れ。私は貴様(おまえ)を憎んでいる】!」

 

 空を切るだけの剣に、ベルは彼女の並行詠唱を止める事を諦め後方へ飛び退いた。

 詠唱しながら眉を顰めるアルフィアに対し、ゆっくりと白く輝く魔剣を構える。

 

「【代償はここに。罪の証をもって万物(すべて)を滅す】」

 

 ベルの構える炎の魔剣に稲妻が走る。

 それは始めは小さなものだったが、すぐに魔剣を包む白い光にも負けないほどの雷となった。

 そしてアルフィアの詠唱が聞こえなくなるほど、ダンジョンの中に大鐘楼の音が響き渡る。

 

「【()け、聖鐘楼】!」

 

 アルフィアの詠唱が終わりを迎える。

 臨界を超えた魔力。

 かつて海の覇王(リヴァイアサン)をも屠った滅界の咆哮が解き放たれる。

 

「【ジェノス・アンジェラス】」

 

 その美しくも凄まじい破滅の音色にベルは笑みを浮かべ――

 雷を纏った白く輝く魔剣を振り下ろした。

 

「放て! ()()()()()!」

 

 これまでの魔剣とは文字通り桁違いの力が解放される。

 純白の極光と共に、全てを呑み込む極大の雷炎が階層ごと崩壊させようとしていた破滅の咆哮とぶつかり合う。

 不可視の音と視界を染め上げるほどの雷炎は互いを食い合い、呑み込み、暴れ回る。

 凄まじいエネルギーの奔流がダンジョンを駆け巡った。

 それは『神獣の触手』(デルピュネ)と戦っていたロキファミリアとアストレアファミリアが戦闘を中断せざる得ないほどの規模であり、二人の戦いを見守っていた神々が眷属に庇われなければあっさりと天界に送還されるほどの余波だった。

 そして数瞬後、荒れ狂った余波が収まり開けた視界には、滅界の咆哮も極大の雷炎も跡形もなく消え去っていた。

 相殺。

 かつての英雄、Lv.7が放った超長文詠唱から成る極大魔法は、ベルの魔剣の一撃によって消し飛んだ。

 

「バカな……」

 

 呆然とアルフィアは呟く。

 自身の最大魔法が防がれた事が信じられず、驚愕に我を忘れる。

 

「どうか許してほしい」

 

 そして間近で聞こえてきた声に自失から立ち直るも、もう遅い。

 極大魔法を放ったアルフィアの身体は、本人の意思に逆らい鋭敏な動作を拒絶する。

 

「あなたの願いを叶えるため、あなたのような美しき女性に拳を振るう私の蛮行を!」

 

 白く光輝く拳をベルは握る。

 連続畜力(チャージ)

 本来なら反動で動けなくなる身体を雷霆の加護で無理やり加速させ、ベルはかつての英雄を打ち砕く拳を振り上げる。

 

「はあああああぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁああ!」

 

 渾身のベルのアッパーが無防備なアルフィアの腹部に撃ち込まれる。

 動かない身体にまともに攻撃を食らったアルフィアは吹き飛び、盛大に宙を舞ってダンジョンの壁に激突する。

 

 同時に、膝をつきそうになったベルはなんとか雷霆の剣を地面に突き刺し身体を支えた。

 魔剣の方は振るった瞬間に身に余る力を注がれた代償を払うように砕け散ってしまっている。

 

「……はぁ…………はぁ……」

 

 息も絶え絶えに、しかし決して膝だけはつくまいと両手を剣の柄に当て全体重を支えながら、ベルはアルフィアを見る。

 彼女は力なく岩壁に凭れ掛かっていた。その姿にもはや戦う力は見られない。

 しかし不意に、身体を九の字に曲げて血を吐いた。

 病に蝕まれる彼女の身体は、ベルの全身全霊の一撃に耐えきれなかったのだ。

 よろよろと、身体を無理やり引きずり、ベルはアルフィアへと近付く。

 それに気付いたアルフィアが胸を押さえながらこちらを見上げた。

 

「決着だ。アルフィア」

 

 もはや戦える様子にないアルフィアに、ベルは告げる。

 そこには勝利に猛る熱も、強敵を打ち破った喜びもなかった。

 

「ああ、お前の勝ちだ……ベル・クラネル」

 

 血を吐きながら、アルフィアは敗北を認める。

 そしてわずかに怒りを滲ませながら、しかしどこか満足したように言葉を吐き出す。

 

「まったく、よくも…………()()()……私を、打ち破った」

「アルフィア……」

 

 悲しげに己を見つめるベルに、アルフィアは立ち上がって視線を合わせた。

 その身体はふらついていて、二本の足で立つ事すら無理をしているのが分かる。

 

「最後に、伝えておこう……」

 

 胸に手を当て、真っ直ぐとベルの瞳を見つめながらアルフィアは告げる。

 

「この姿を忘れるな」

「……!」

「いつかお前が辿るやもしれん末路だ……私達が、黒龍に敗れたように……」

 

 険が落ち、どこまでも穏やかに語るアルフィアの姿は、とても先程まで猛威を振るっていた女性とは思えないものだった。

 

「お前には、必要ない助言かもしれんがな」

 

 どれほど追い詰めようが笑顔を絶やす事のなかった少年に、呆れたように付け加えてアルフィアはベルがいる方向とは別の場所へ歩いて行く。

 その先にあるのは、モンスターが開けた大穴。

 

「アルフィア……何を……!」

「私の亡骸は、灰に還すと決めている……あの子と、同じように……」

 

 振り返ったアルフィアの顔はどこまでも穏やかで、まるで聖母のように美しかった。

 

「さらばだ。必ずや、『未来』を手に入れろ……」

 

 そう告げたアルフィアの身体がゆっくりと傾く。

 炎に吸い込まれるように、大穴の中へと。

 

「っ、ああぁぁぁぁぁあああああぁぁ動けえええぇぇ私の身体あぁぁぁ!」

 

 とっさに雷霆の剣を握りしめ、稲妻を纏ったベルは自身の身体の状態も忘れて地面を蹴った。

 一息に大穴までの距離を埋め、一切の躊躇を挟まずその中へと飛び込む。

 落ち行くアルフィアの身体を捉え、その手を掴んだと同時に雷霆の剣を壁に突き刺しぶら下がる。

 

「がぁっ!」

 

 勢いをつけた人二人分の重力に腕が悲鳴を上げるが、それを気力で抑え込んでなんとか耐え凌ぐ。

 

「……なんの真似だ…………」

 

 唇を噛んで必死に己を助けようとする少年に、アルフィアは無感情に問う。

 

「この身はもう持たない……助けたところで、意味は……ない……」

 

 限界を超え戦った事で自身の身体がどんな状態にあるか、アルフィアは正しく理解していた。

 ここで救われたとしても、その直後に命を落とすだろう。精々死期が数分伸びるかの違いしかない。

 ベルの行いはまるで無意味な行い、むしろ余計なお世話だった。

 

「だから、この手を…………離せ……」

 

 何もかもを置き去りにするアルフィアの命令に、しかし一秒も待たずベルは即答した。

 

「断る!」

「っ、貴様……!」

「私はまだ、()()()()()()()()()()()()!」

 

 相手の言い分を全て無視して、ベルは叫んだ。

 手前勝手な願いを。思いのままに。

 

「どうかそんな顔で死のうとしないでくれ。何もかも諦めて満足したような、そんな顔であなたを死なせるために、私は命を賭したのではない!」

 

 戦闘中は一度も浮かべなかった必死の形相でアルフィアを見つめながら、ベルは彼女の手を掴む腕に更なる力を込めて訴える。

 

「頼むから! 私を一人の女性も笑顔にできないような、そんな惨めな男にしないでくれ!」

「ベル……クラネル……」

 

 泣きそうな叫びがダンジョンに響き渡った。

 呆然とアルフィアは自身を助けようとする少年を見上げる。

 その後なんとかベルは渾身の力を持って彼女を引き上げた。

 もはや指一本も動かせない身体を、雷霆の加護を持って突き動かして。

 アルフィアは抵抗しなかった。その力ももはやなかった。

 大穴から出て互いに膝をつく中、ベルはアルフィアと向き直る。

 

「アルフィア。あなたの笑顔は、どこにあるのだろう?」

 

 微かに浮かべる笑みの中にどこまでも切実な思い込めて、ベルはまるで騎士が姫に忠誠を誓うように、あるいは泣いている子供に花を差し出し慰めるように、自らの意思を語る。

 

「もしあなたが笑ってくれるなら、私はどんな事でも成し遂げてみせよう。英雄への証明が足りないと言うなら、身命を賭していまも暴れ回るあのモンスターを打ち倒そう。病の痛苦で楽しい気持ちになれないと言うなら、愉快に踊って歌ってそんなものは忘れさせよう。あなたの笑顔のために、英雄でも道化でも、私は何者にでもなってみせる。だからどうか、教えてほしい」

 

 ボロボロの右手を差し出し、泥まみれの顔で笑いながらベルは己の願いを口にした。

 

「この愚かな道化に、あなたを笑顔にする方法を」

 

 その言葉を聞いたアルフィアは、驚いたように目を瞠り、やがて静かに瞑目した。

 

「笑顔にすると言いながら……その方法を……私に問うか……」

 

 呆れたように呟いて、再び開いた瞳でベルを見る。

 

「こっちに来い……ベル、クラネル……顔を見せろ」

 

 言われた通りに近付くベルの頬に手を添えて、アルフィアは慈しむようにその肌を撫でた。

 

「よく、似ている……その白い髪も、顔も、笑みも、メーテリアにそっくりだ」

「メーテリア……?」

 

 聞き覚えのない名前に思わずベルはその名を繰り返すが、それを問い質すような無粋な真似はせず、頬に添えられた手に自身の手を重ねる。

 

「アルフィア……私は証明できただろうか? あなたの闇を打ち払い、光を照らす英雄に、()はなれただろうか?」

 

 わずかな不安を滲ませながら、ベルは問う。

 そんなベルの不安を笑うように、息も絶え絶えにアルフィアは少年の言葉を否定する。

 

「小さい。私だけの、英雄など……そんな小さな英雄が、いるものか……」

 

 その時、不意にアルフィアの身体がぐらりと揺らぐ。

 

「アルフィア!」

 

 とっさにアルフィアの身体を支えるベル。

 もはやその命が尽きようとしている事は明らかだった。

 

「お前が……希望を繋ぐんだ……繋いだ希望は束となり……一つとなって…………必ずや……『最後の英雄』を、生む……」

 

 しかしアルフィアは自身の身体には頓着せず、ひたすらにベルを見つめ、言葉を吐き出す。

 その胸に震える手を添え、最後の願いを口にする。

 

「ベル……クラネル。お前が『英雄達の船』となって……いずれ……『最後の英雄』に……」

 

「約束しよう、アルフィア。私が必ずや、あなたの望む『最後の英雄』になる事を」

 

 添えられた手を強く握り締め、ベルは決意と共に宣言する。

 その言葉に安心したように、アルフィアは初めて口元を綻ばせた。

 

「『絶対悪』を……名乗ると……決めた時……」

 

 もはや見えているかも分からない瞳をベルに向け、譫言のようにアルフィアは言葉を紡ぐ。 

 

「まともな……最期は……迎え、られないと……覚悟したが……」

 

 そこにいるのはかつての英雄ではなかった。『才禍の怪物』と呼ばれた冒険者でも、ましてや『絶対悪』と呼ばれる存在でもない。

 ただの女に戻ったアルフィアが、優しい笑みを浮かべてそこにいた。

 

「まさか……あの()の子供の……腕の中で、眠れるとはな……」

「アルフィア……」

「さらばだ。ベル・クラネル…………メーテリアが残した、私達の英雄……」

 

 その言葉を最後に、アルフィアの瞳が閉じられる。

 どこまでも安らかに、どこまでも美しく、彼女は息を引き取った。

 

「ああ……やはり私が思っていた通り、あなたの笑顔はとても素敵だ……」

 

 ずっと見たかった笑顔を前に、万感の思いでベルは呟いた。

 彼女の手を静かに胸に置き、その頬を撫でながらベルは惜しむように別れの言葉を口にする。

 

「さようなら、アルフィア。美しくも強い、私の英雄」

 

 決して忘れまいと、彼女の笑顔をベルは心に焼き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

「ベル・クラネル」

 

 ベルが彼女の死を看取って少しして、その背中に声が掛けられる。

 振り返れば、二人の戦いをずっと見守っていた邪神エレボスが穏やかな顔をして立っていた。

 

「この魔剣でアルフィアを灰にしてやってはくれまいか」

 

 おそらくは護身用に持っていたのだろう、ベルが持っていた魔剣よりも一回りは小さい魔剣を差し出しながら、エレボスは少年に頼み込む。

 

「本人も言っていた通り、アルフィアは妹と同じように自身の亡骸を灰にする事を望んでいた。どうせ灰になるなら、ダンジョンの業火に焼かれるよりも、お前に焼かれる事をアルフィアは望むだろう」

 

 アルフィアの亡骸を視界に収める彼の瞳には、確かな慈しみがあった。

 およそ邪神と呼ばれるには相応しくない、神の慈愛を持ってエレボスは子供の願いを叶えようとする。

 

「申し訳ないが、その願いは断らせていただく。神エレボス」

 

 しかしベルははっきりとエレボスの頼みを拒否した。

 

「先も述べたが、彼女をこのような騒がしい場所で眠らせるのは忍びない。彼女の亡骸は地上へと連れ帰り、彼女の愛した静かな地で灰に帰そう」

 

 亡骸を焼くのであれば、それはダンジョンでなくてもいい。

 せめて地上で供養したいとベルは敬意を持って語った。

 しかしエレボスはそんなベルの思いに挑発で持って返す。

 

「随分と悠長な事を言うが、それが叶うと思っているのか? アルフィアを下しても、俺の計画は潰えていない。オラリオ崩壊の鎮魂歌(レクイエム)はいまも鳴り響いているぞ」

 

 そう言ってエレボスが指を差した先では、ロキファミリアとアストレアファミリアが『神獣の触手』(デルピュネ)相手に苦戦を強いられていた。

 

「俺は武神ではないが、お前の身体がとっくに限界だという事は分かる。そんな状態であれを止められると思うのか?」

 

 いまも暴れ回る『大最悪』(モンスター)

 それを止める事などできるわけがないとエレボスは邪悪に笑う。

 だがその嘲笑に対してベルもまた笑顔で答えた。

 

「愚問だな、神エレボス。アストレアファミリアのおかげで、少女の涙は既に拭われた。そしてアルフィアの笑顔を見る事のできたいまの私に、もはや不可能はない」

 

 ロキファミリアの少女が憎しみに囚われていない事を見て取り、理屈になってない根拠を語るベル。

 脱いだマントの上にアルフィアを丁重に横たえ、少年は立ち上がった。

 

「ならば後は紡ぐだけだ! 彼女が望んだ英雄譚を!」

 

 懐からエリクサーを取り出して一気に呷り、地面に突き刺していた雷霆の剣を引き抜く。

 装備もボロボロに、身体の至るところから血を流す酷い有様でありながら、その姿は雄々しく、見る者に活力を与えるほど力強い。

 

「悪しきモンスターを打ち倒し、人々を笑顔にする。それこそが古くから伝えられてきた英雄の務め。だからどうか、神エレボスと共にそこで見ていてくれ、アルフィア。あなたが認めてくれた英雄、このベル・クラネルの勇姿を!」

 

 雷霆の剣を肩に背負い、強大なモンスターを前に満面の笑みを浮かべ、ベルは高らかに宣言した。

 

「さぁ、冒険を始めよう! これが私の英雄譚の、最初の1頁だ!」

 

 英雄の威風を纏った少年が、モンスターに向かって疾走する。

 この日、オラリオに一人の英雄の産声が上がった。

 





アニメ3期完結記念。

アルゴノゥトが好き過ぎて衝動と共に書いたダンメモ2・3周年コラボ小説。

現在アルゴノゥト原作転生長編小説を書くか検討中なので、今作の評判次第でそちらにも着手します。
アルゴノゥト好きの同志は是非感想をお願いします。お待ちしております。
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