眷属と仮定の物語


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作:ひょえあー
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酒場


区切りがいいと短くなると言ったな。あれは本当だ


ロキ・ファミリア恒例の宴会。

 

遠征に出向いた俺達眷属の労をねぎらうという名目のもと、無類の酒好きであるロキが率先して準備を進め、大いに騒ぐ。

 

ノアール達の後に"二人"のところに行って墓地を出る頃には、もう日が傾こうとしていた。

 

集合場所は『豊穣の女主人』。ちなみに集合時間はとっくに過ぎている。

 

「やべぇ、乗り遅れたなぁ」

 

今頃盛り上がっているだろうロキ達に申し訳なさを覚えるが、過ぎてしまったものは仕方ない。

 

急ぐこともなく、ブラブラ歩きながら向かう。

 

もう酒場では探索帰りの冒険者が飲んだくれている。

 

吟遊詩人が楽器片手に弾き語りをしているのを聞き入る市民達。

 

ごちゃ混ぜの喧騒。だが、オラリオらしい。

 

十分くらい歩けばそこに着いた。

 

店の前に立つだけでロキの馬鹿笑いが聞こえてくる。

 

「もうできあがってんのかぁ?」

 

ロキのうざ絡みを覚悟しながら木製の扉を開く。

 

「いらっしゃいませにゃ~~!!!」

 

猫人の店員が迎え入れてくれる。

 

「にゃ? お前ロキ・ファミリアの『超越者』にゃ?」

 

「あぁ、ファーティ・ニーベルだ」

 

そう答えると、もう始まってるにゃ、と俺を先導して案内する。

 

「あああぁぁぁぁぁ!!!!! ファーティ遅いやんかぁーーー!!!」

 

ロキが俺に気付く。

 

「悪かったよ。用事済ませてたんだ」

 

「今日の主役がおらんと盛り上がらんやろーー!!??」

 

「ハッ? 主役ってなに…」

 

ロキが俺の腕を持ち上げて大声で言う。

 

「ファーティ!! Lv.5到達おめでとぉー!!」

 

途端、周りから喧騒が消える。

 

他の客も全員がぎょっとしており、目が点になっている。

 

「「「えええぇぇえええええ!!??」」」

 

「うるせぇーー!?!?」

 

本気でうるさいわ! 鼓膜がぁ…っ!?

 

「そーなのー!? 早く行ってよー! おめでとー!」

 

「おめでと、ようやくね」

 

「けっ」

 

「スゴいですファーティさん!」

 

ティオナ、ティオネ、レフィーヤが誉めてくれて、狼はデレル。

 

「おめでとう、ファーティ」

 

アイズがこちらを真っ直ぐに見て、微笑みながら言ってくれた。

 

やっぱり嬉しいものだ、と思う。

 

みんなに誉められるのは。

 

流石に恥ずかしさもあるが。

 

「よくやったね、ファーティ」

 

拍手をしながら称えてくれるフィンさん。

 

「ハッハッハッ! 遂にか! 長かったのぅ!」

 

ジョッキを持って笑うガレスさん。

 

「ファーティ…おめでとう」

 

静かな笑みを向けてくれるリヴェリアさん。

 

俺は照れて赤く染まりかける顔を必死に我慢する。

 

「先越されたッスーー!?」

 

「これでラウルの勝ってるとこは地味さだけだな!」

 

「バカにするなッス!」

 

俺の預かり知らないところで勝負が行われていたようだが、知らない振りしてリヴェリアさんの隣に座る。

 

他の客も俺達と同じ様に元の状態へと戻っていく。

 

アリシアも、今ばかりは俺がリヴェリアさんの隣に座ることを何も言ってこない。

 

「…ファーティ、墓地に行っていたのか」

 

リヴェリアさんが、少し暗い表情で聞いてくる。

 

「はい。最近は行けてなかったので」

 

そう答えると、そうか…と呟く。

 

けど次にはいつもの顔に戻っていて、俺にジョッキ並々に注がれた果実水を渡してくれる。

 

「ファーティ、お前昼食も摂っていないな? しっかり食わないとお前はすぐに体調を崩す」

 

「ちょっ…! なんで知って…!?」

 

山盛りに料理が盛られた皿が目の前にドンッ! と置かれる。

 

「ホームに財布を置いていっただろう? 一度も戻っても来なかったからな」

 

なんという洞察力…! 俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

「ブハハハ!!! ママがおるー! ママがおるー!」

 

「誰がママだ!!!」

 

説得力ないです、リヴェリアさん。

 

 

「リヴェリアしゃ~ん、これ美味しいれすよ!」

 

「飲み過ぎだ、ファーティ」

 

頭を抱えるリヴェリア。こうなるからジョッキ並々のジュースを先んじて渡していたというのに。

 

「のんれません!」

 

「はぁ…飲み過ぎるなと何度言えばいいんだ」

 

実際にはコップ二杯程度しか呑んでいないのだが、ファーティはアイズのような酒癖がない代わりに…絶望的なまでに酒に弱かった。

 

笑いが絶えない、愉快な一時が過ぎていた。

 

「そうだ、アイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

遠征の話題で盛り上がっていたとき、ベートが声をあげる。

 

「…?」

 

ファーティはあの話とやらを知らない。後発部隊にいたからだ。リヴェリアに引き剥がされそうなのを抵抗しながら話を聞く。

 

アイズは小首を傾げていたが、ベートが話を切り出す。

 

「あれだって、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス!最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ!? そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」

 

「ミノタウロスって、17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、すぐ集団で逃げ出していった?」

 

「それそれ! 奇跡みてぇにどんどん上層に上っていきやがってよっ、俺達が泡食って追いかけていったやつ!こっちは帰りの途中で疲れていたってのによ~」

 

余程面白かったのだろう。ベートは機嫌良く舌を回す。

 

「それでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなひょろくせぇ冒険者が!」

 

「抱腹もんだったぜ、兎みたいに壁際においこまれちまってよぉ!可哀想なくらい震え上がっちまって、顔をひきつらせてやんの!」

 

「ふむぅ? それで、その冒険者どうしたん? 助かったん?」

 

「アイズが間一髪ってところでミノを細切れにしてやったんだよ、なっ?」

 

「え~それでどうなったんだよ、別によくあることじゃんかよぉ」

 

ファーティの不満にベートが返す。

 

「こっからだっつの! それでそいつ、あのくっせー牛の血を浴びて……あの白髪のガキ、真っ赤なトマトになっちまったんだよ! くくくっ、ひーっ、腹痛えぇ…!」

 

「うわぁ…」

 

「それにだぜ? そのトマト野郎、叫びながらどっか行っちまってっ…ぷくくっ! うちのお姫様、助けた相手に逃げられてやんのおっ!」

 

「アハハハハッ! そりゃ傑作やぁー!冒険者怖がらせてしまうアイズたんマジ萌えー!」

 

どっと笑いが起こる。

 

またベートの初心者罵倒か、とファーティがつまらなそうにする。

 

そこで、気付く。アイズの顔が暗くなっていることに。

 

「アイズ…?」

 

「ああいうやつがいるから俺達の品位が下がるっていうかよ、勘弁して欲しいぜ」

 

ベートが不満を口にすると、アイズと同じく不快感を募らせていたリヴェリアが言う。

 

「いい加減そのうるさい口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利などない。恥を知れ」

 

ティオナ達は気まずそうにするが

 

「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。でもよ、そんな救えねぇヤツを擁護して何になるってんだ? それはてめぇの失敗をてめぇで誤魔化すための、ただの自己満足だろ? ゴミをゴミと言って何が悪い」

 

ベートは引かない。

 

…あぁ? なんだこのクソ狼…殺すぞ?

 

ファーティ、キレる。

 

普段ならば笑い飛ばすところだが、酒に呑まれそれどころではない。

 

だが、すんでのところで思い留まる。

 

ここには…『小巨人』がいることを。

 

「アイズはどう思うよ? 自分の目の前で震え上がるだけの情けねぇ野郎を。あれが俺達と同じ冒険者を名乗ってるんだぜ?」

 

「あの状況じゃ、しょうがないと、思います…」

 

「何だよ、いい子ちゃんぶっちまって。…じゃあ質問を変えるぜ? あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

 

「……ベート、君、酔ってるの?」

 

「うるせぇ、ほら、アイズ…」

 

「天誅ぅぅぅぅ!!!」

 

「があぁぁ!!????」

 

(『小巨人』なんぞ知るか、狼シバク)

 

椿の工房からそのまま持ってきていた『レガリア』で鞘を着けたままベートの頭にぶつける。

 

「てんめぇっ……!? なにっ、しやがるっ…!?」

 

頭を抱えてうずくまるベート。

 

「お前…うちの天使に何ほざいとんじゃボケェ」

 

ベートの目の前にユラユラと、顔を酒で赤くしたファーティが立っていた。

 

「頭カチワルゾこのクソ狼ぃ…」

 

「もう割ってんだよこのクソ野郎ぉ…!?」

 

若干口調がロキに似ているファーティに、ベートは割りとマジで恐怖を覚える。

 

「……っ! ファーティ…」

 

アイズはしまったと思った。

 

自分がベートにもう少し言い返せていたらと、そうすればファーティにこんなことをさせる必要は無かったんじゃないかと。

 

「ちょっ…!? ファーティ、いっかい! いっかい剣離そう…っ!?」

 

「そ、そうよ。このクソ狼は私達で潰すから…」

 

ティオナとティオネが間に入るが、ファーティには届かない。

 

ファーティの『秩序破壊』は、制御が非常に難しい。

 

普段は完璧に制御しているファーティだが、酒が入っていれば歩く爆弾と化す。

 

…それもLvが同じならステイタスの差を無視して敵無しと言えるほどに。

 

リヴェリアがファーティが酒を呑むのをあまりよく思わないのはこういう側面もあるためだ。

 

「リヴェリア! ファーティを止めるんやぁ!」

 

「わかっている!」

 

再びベートをタコ殴りにしようとしていたファーティをすんでのところで後ろから首を締めて止めるリヴェリア。

 

するとファーティは… 

 

「…えへぇ。リヴェリアさ~ん、積極的だなぁもぉ。しょうがないなぁ~」

 

デレッデレッになっていた。

 

止めた本人であるリヴェリアはなんとも言えない表情をしながらもファーティの頭を撫で続ける。

 

「グオォォォ……っ!!! 頭がぁ…! 頭がぁ…!! くそったれぇ……!!」

 

「…まぁ、良い教訓になったんじゃないかい?」

 

「…そうじゃな」

 

蹲るベートを見て、首脳陣二人は遠い目をしていたという。

 

「…あの子」

 

そして、アイズの視界には騒動の最中店を飛び出していく白髪の少年が写っていた。

 

 

「ファーティィィ、自分で歩けっス~…!」

 

「センパァイ、いいじゃないすかたまにはぁ~」

 

ラウルは貧乏くじを引かされ、ファーティをおぶる羽目になっていた。

 

「いやぁ、それにしても、アイズ良かったなぁ? ファーティがベートにやり返してくれて?」

 

「よかった…のかな?」

 

ベートの悲痛な顔を見て、それはどうだろうと思うアイズ。彼女の中にも狼を気遣う心は残っていた。

 

「まったく、誰だファーティに酒を呑ませたのは…」

 

「はは…、一時はどうなるかと思ったよ…」

 

「ホントよ。ファーティを止められるのなんてもうリヴェリアくらいじゃないの?」

 

もうファーティを物理的に止めることできない。

 

「ハハハ…。まぁ、リヴェリアに任せておけば問題ないと思いたいね」

 

「まったくじゃ。本気で暴れられたら、儂らでも止められるかわからんからのぉ」

 

ロキ・ファミリア一行は、『小巨人』に怒られることなく無事『豊穣の女主人』から帰ることに成功していた。

 

「じゃあみんな! 明日からもよろしく頼むで! なんせ金欠やからな!」

 

「「高級酒に手を出したのはどこの神だ!!」」




キャラのわちゃわちゃ書くの楽しいんだぁ
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