反AIと反反AIの対立を今すぐ自粛してほしい理由~SNS法案施行前に伝えたい、私の実体験と著名人たちの悲劇
こんにちは、榊正宗です。わたしは2019年に起きた、いわゆる「けもフレ騒動」に巻き込まれ、SNS上の対立や炎上が現実の生活にどれほど深刻な影響を及ぼすのか、身をもって経験しました。この記事を書くにあたり、まずわたし自身の体験からお話をさせてください。
2019年4月、わたしが運営していたFacebookページから住所情報が漏洩しました。同じ頃、SNSでは「榊正宗が殺害された」という悪質なデマが5chを中心に広がりました。そのデマを信じ込んだ人々が実際にわたしの自宅を訪れるという事態が発生し、短期間に多くの人が押しかけました。深夜に玄関を叩く者、心配そうに何度もインターフォンを押す者、あるいは興味本位で様子を見に来る若者たちまで様々で、その状況はまさに異常でした。
当時、一人暮らしだったため、こうした突然の訪問者が次々と押し寄せる状況に精神的に追い詰められました。誰が敵で誰が味方なのか分からず、SNSで広がる噂やデマは止まらずにどんどん拡大していきました。匿名アカウントが次々に新たなデマを作り、それを信じた別の匿名アカウントがさらに情報を拡散するという悪循環が起こり、完全に収拾がつかなくなっていました。
この事件によって重度のうつ病を患い、日常生活を送ることさえ困難になりました。結局わたしは住み慣れた家を引き払い、引っ越すことを決めました。引っ越し後は入院を余儀なくされ、閉鎖病棟で約5ヶ月間を過ごしました。その時の経験は、いま思い返しても非常に苦しいものでした。
当時の制度では、Twitterなどで拡散されたデマを削除するための手続きである開示請求のハードルが高く、さらにアカウントが削除された後では、開示請求そのものが不可能という状況でした。わたし自身も開示請求を試みましたが、加害者のアカウントは既に削除されており、Twitter社からは「該当するアカウントが存在しない」という回答がありました。こうした現状ではデマ拡散の被害者は救済されにくく、わたしは完全に追い詰められていました。開示手続きは実際に弁護士に依頼し、開示には失敗しましたが30万円ほどを支払いました。
現在、SNS上では反AI派と反反AI派の対立が激しくなっています。わたし自身が実際に経験したように、SNSでの対立はいつ現実世界に深刻な影響を及ぼすか分かりません。その怖さを理解してほしいという思いから、この文章を書いています。
現在、SNSでは「反AI派」と「反反AI派」の対立が激化しています。AI技術の発展に伴い、AIの活用に反対する人々と、そうした反対意見に対抗してAIの利点を強く訴える人々との間で激しい論争が日々繰り返されています。このような論争自体は、新しい技術や社会の変化を考える上で必要な議論の一つだとは思います。しかし問題は、匿名アカウントが介入することで議論が歪み、深刻な被害や現実の事件を引き起こしかねない状況が生まれていることです。
わたし自身が経験した「けもフレ騒動」では、匿名掲示板にいわゆる「専スレ」と呼ばれる、個人攻撃のための専用のスレッドが立ちました。この専スレというものは、一見すると無害なようにも思えるかもしれませんが、実際には数人のアンチが匿名で攻撃的な内容を書き込み続けることで、デマの温床となります。そして、こうした専スレでの書き込みは匿名の特性上、誰が書いたかが分からないため、同一人物が何人分もの匿名アカウントを作り、自作自演で議論を誘導することも容易になります。結果として、本来の議論とは関係なく、炎上を楽しむかのようにデマや中傷が拡散されます。
反AIと反反AIの対立でも同じ構図が見られます。AIの導入に反対する人々の意見にも、賛成する人々の意見にもそれぞれ理性的で正当な部分があります。議論自体は社会にとって健全なプロセスです。しかし、そこに匿名の攻撃者が入ることで状況は一変します。匿名のアカウントは相手を挑発し、議論を過熱させ、やがて個人への誹謗中傷や脅迫といった攻撃へとエスカレートさせます。
実際、現在の反AI・反反AI論争でも、「◯◯派がAIを使って不正をしている」や「△△はAIを悪用して利益を得ている」といった根拠のないデマが拡散されることがあります。そのようなデマを信じてしまった人々が攻撃に加担し、匿名の攻撃がますますエスカレートする悪循環が生じます。こうした状況では、本来有意義であるはずの議論が、相手を攻撃するためだけの「レスバトル」となってしまいます。これは議論の本来の目的とは大きくかけ離れた、極めて危険な状態です。
わたしが経験したように、匿名のデマが現実の世界で実際に被害を生むことを理解し、これ以上対立が深刻化する前に、今すぐ自粛が必要だということを改めて訴えたいと思います。
SNSでの対立が生み出す危険性を理解するために、実際に起こった著名人の被害事例をいくつか挙げて紹介したいと思います。SNSでの炎上や匿名の誹謗中傷は、たとえ有名人であっても精神的・社会的に重大な被害をもたらすことを知っていただきたいからです。
まず、女子プロレスラーの木村花さんのケースがあります。彼女はリアリティ番組『テラスハウス』への出演中、番組での言動をきっかけにSNS上で激しいバッシングを受けました。匿名の投稿者たちは、木村さんの人格を否定し、中傷の言葉を投げかけ続けました。その結果、2020年5月23日に木村さんは自ら命を絶ちました。この事件は社会に大きな衝撃を与え、法整備を求める声が高まるきっかけとなりました。SNSの匿名による誹謗中傷がいかに人の命を奪うほど深刻な問題であるかを示しています。
次に、お笑い芸人のスマイリーキクチさんのケースがあります。スマイリーキクチさんは20年以上にわたり、「女子高生コンクリート詰め殺人事件の犯人だ」という根拠のないデマがインターネット掲示板で拡散され続けました。このデマを信じた人々が、彼に対して殺害予告を行ったり、仕事の関係者に抗議をしたりするなどして、彼の芸能活動にも甚大な被害を及ぼしました。当初は警察も動かず、解決まで10年以上の時間を要し、キクチさんが受けた精神的苦痛は計り知れません。
また、タレントの中川翔子さんもSNSの誹謗中傷被害に苦しめられています。彼女は動物愛護の活動やSNSでの発言をきっかけにたびたび炎上し、その過程で事実無根のデマを流されることもありました。特に悪質なケースでは、「猫を虐待している」というデマが広がり、それを信じた人々による攻撃的な書き込みが大量に寄せられました。中川さんは毅然と対応し、警察への相談や弁護士を通じて法的措置を取ることを明言しています。
こうした著名人の事例に共通するのは、SNSで匿名が作り出した根拠のないデマや誹謗中傷が、個人の社会生活を破壊し、生命に関わる深刻な精神的苦痛を与えていることです。そして被害を受ける側が有名人であっても、完全な防御策はなく、むしろその知名度が攻撃を増幅させてしまう場合もあります。
これらの事件は、決して他人事ではありません。現在、反AI派と反反AI派の対立でも同じ構図がすでに見え隠れしています。匿名の誹謗中傷や根拠のないデマの拡散を放置することが、いかに危険かを改めて認識し、今すぐ対策を取らなければ、同じ悲劇が再び繰り返される可能性があるのです。
SNSにおける対立がエスカレートし深刻な被害を生むことは、ここまで十分お伝えしてきました。これらの対立を今すぐ自粛しなければならない理由は明白です。それは、このまま放置すれば次の被害者が出る可能性が高いからです。
2025年4月1日から「情報流通プラットフォーム対処法」が施行され、大規模なSNSプラットフォームは誹謗中傷やデマに対し、被害者からの申出があれば迅速に削除を行う義務が発生します。これまでは、被害者がSNS運営会社に削除依頼をしても対応されることが少なく、削除までに時間がかかることも珍しくありませんでした。しかし、この法案によって、削除の窓口が明確になり、削除の可否判断を迅速に行う仕組みが整備されます。デマの拡散が速やかに止められる可能性が高くなり、被害の連鎖を断ち切る効果が期待できます。
わたし自身も実際にユーザーウィキなどで、自分の写真が使われたデマ記事を削除申請した経験があります。削除されると再構築には労力がかかり、その後同じデマ記事が再び作られることはありませんでした。この経験からも、デマを削除することは攻撃者側にとって負担になり、嫌がらせを継続する心理的・時間的なコストを高め、抑止力が生まれることが分かっています。
匿名掲示板や専スレなどの匿名性を利用した攻撃にも、削除対応は非常に効果的です。匿名で他者を攻撃するアカウントが書いた投稿は、たとえ内容に一部正しい面があっても、同調することでさらに攻撃が増幅されます。匿名とは本来、自分の安全を守るためにあるのであって、決して他人を攻撃するための道具ではありません。
私がここで強調したいのは、SNS上での議論の本来の意義についてです。議論は相手を攻撃したり、レスバトルでねじ伏せるために行うものではありません。本来は相手を尊重し、異なる意見を交換し、建設的な結果を生み出すためのものです。攻撃や対立を楽しむための匿名アカウントが介入する限り、SNSでの議論は健全に行われません。
この4月以降、SNSの削除対応が本格的に機能することで、匿名を利用した誹謗中傷やデマは今より確実に減ると思います。しかし、この制度を効果的に使うためには、私たち一人ひとりが削除申請の重要性を理解し、実践することが必要です。デマや中傷の芽が小さいうちに摘むためにも、被害者本人だけでなく第三者も積極的に削除を申請し、SNS上の対立をこれ以上エスカレートさせないよう協力していくべきです。
私はこの記事を読んだ皆さんに、今すぐSNS上での無益な対立を自粛し、本来あるべき「健全な議論の場」としてのSNSを取り戻してほしいと願っています。最近、私がAIを活用しながらも「AI規制派」として意見を述べているのは、まさにその健全な議論を実現するためです。決して相手を言い負かすようなレスバトルをしたり、混乱を招くためではありません。この私のスタンスに共感していただける方からのリプライは大歓迎です。クリエイターが安心してAIを活用しつつ、同時に権利が守られるような適切な規制が生まれること、そしてAIツールがより良い方向へと進化する未来を心から期待しています。
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