専業ライトノベル作家の収入について
2025年03月13日(木)晴れ
ライトノベル作家の収入について
フリーランスの専業ラノベ作家をやっていると、色々な質問を受けるが、その中でも訊きにくそうに、しかし一番の関心を持って尋ねられるのは、やはりというかなんというか、懐事情のことである。
様々なところで色々な人が解説されているので私ごときが何か付け足すことはないと思うが、2020年代を生きる一人の専業作家として、ここに書き残すことに何らかの意味があるかもしれない。
印税とは
作家といえば印税である。元は税とついているが、税ではない。通称である。昔々は実際に印紙を貼ってそこに作家が検印を押していた時代もあるので、古本屋で古い古い本を見たら奥付を確認して頂きたい。
印税には大まかに三種類あり、
①刷り部数印税
②実売印税
③電子書籍印税
の三つがそれになる。
①刷り部数印税
書籍の印税としては一般に刷り部数印税と、実売印税の二つがある。
その中で、多くの人が「印税」と聞いて思い浮かべるのは①刷り部数印税だ。
よく「定価の10%が印税として~」と言われているアレである(最近は10%出ないことも多くなった。5%から10%の間、と思った方がいい。ライトノベルの場合、中央値は8%くらいだろうか?)。
これは出版社(版元)が著者に
「印刷部数×印税率×定価」
で支払う。
しばしば「著者が書かないと本はできないのに出版社は9割も持っていく!」という指摘があるが、これは誤解だ。
刷り部数印税は売れた部数とは関係なく、印刷した冊数を基準に計算されるからである。
仮に初版1万部を刷って10冊しか売れなくても、1万部分の印税が支払われる。つまり、著者には売上に関係なく収入が入る仕組みなのだ。
一般に私のデビューした頃のライトノベルの世界では「消化率が6割を超えたらそれなりに成功したと見做され」ていたようだ。
1万部刷って6500部(65%)売れれば成功だが、2万部刷って1万部(50%)しか売れなければ厳しい、ということだ。
著者は刷った部数でお金が貰えるが、出版社には(取次を通した複雑な取引を通じて)書店その他で売れた部数に応じて、収益が振り込まれる。
つまり、著者に刷り部数×印税率×定価を支払った残りの全てが出版社の取り分になるわけではない。
例えば、ここに分かりやすく初版1万部で印税率10%、定価1000円の本があったとする。この場合、著者が手にするお金は
(1万×10%×1000)-税金=97万9千円
となる。
この本が60%売れたとする。6000部×1000円で、600万円だ。
書店の取り分は18%から20%ほどだというから、キリよく20%引こう。480万円のお金が残る。取次は8%から10%くらいを持っていく。10%として、60万なので、420万円。
ここから更に「本の製作と印刷にかかった経費」が引かれる。
この経費はもちろん、売れた冊数とは関係なく引かれるものだ。
・イラスト原稿料
・デザイン料
・編集人件費、校正人件費、DTP人件費(社内、社外のケース在り)
・印刷費
・製本費(多くの場合は印刷費と合わせる)
・販促費
・広告費
昔から「書籍の発行額の1/3は直接生産費、1/10は宣伝広告費」というので、このケースの場合、1000万の発行額の33%(330万)が直接生産費で10%(100万)が宣伝広告(および販促費)という極めてアバウトな仮定になるだろうか。もちろん、この辺りは常識が時代によって大きく変わるし、K社のように自前で少部数印刷できる版元のケースはまた異なるだろう。
先ほどの計算で残っていた420万から330万と100万を引くと、見事に10万円の赤字となった。つまり、この仮定では刷った部数の60%しか売れなかった場合、出版社の手元には何も残らないどころか、赤字になってしまった、ということだ。(もちろん、それぞれの数字は仮定であるので、実際にはもう少し利益を残すようにするだろう)
「著者に10%しか渡さず、9割を搾取している」というのが誤解であることは理解頂けるだろうか。
②実売印税
これに対して、実売印税という仕組みが近年、増加してきた。
これも「著者の印税は10%」と謳うのだが、実際の取り分は大きく異なることに注意が必要である。
つまり、実際に売れた部数×印税率×定価が著者の取り分となるのである。
先ほどの例をそのまま使うと、
初版1万部で実売印税率10%、定価1000円の書籍が60%の消化率だった時、著者の手元に入るのは、
(6000部×10%×1000円)ー税金=52万7400円
となる。
著者の取り分は少ないが出版社の負担は相対的に少なくなるため、出版自体は容易になるので、原稿さえあれば連続刊行も可能となる。
メリット、デメリットはよく考えて契約前に確認することが必要となる。
③電子書籍印税
電子書籍にはそもそも刷り部数が存在しない。
多くのプラットフォームで販売しているのは閲覧権であり、データそのものでないこともあり、著者に支払われる構造は実売印税と同じように、
(売れた部数×定価×(プラットフォーマーから出版社に支払われる金額の内、契約に定める%))ー税金
となる。
電子書籍にはセールが多く、これも「版元が申し出たセール」と「プラットフォーマー施策のセール」によって、値引き率が著者に振り込まれる金額に関係するかどうかが左右される。
また、プラットフォーマー間の競争が激しいため、出版社も秘密保持契約によってどの程度の金額を受け取っているかを明かせないようで、著者が全容を知ることが極めて難しい。
振込も三か月に一回や半年に一回なので、これを当てにしていると資金繰りに困ることになるので、注意が必要である。
原稿料とは
・ライトノベル作家と縁の薄い原稿料
先日、ドラゴンマガジンが惜しまれながら休刊を発表した。唯一の月間ラノベ雑誌として銘打った当誌の休刊はライトノベル史を語る上で一つの重要な転機となる、とされている。
現在発行されているライトノベルのほとんど全ては書きおろしだ。
これは、雑誌に掲載されたものを書籍として編み直したわけではない、ということを意味する。
原稿料が発生するのは慣習的に雑誌掲載時であり、雑誌に掲載されない限り、十万字書こうが百万字書こうが、原稿料が発生することはない。
(余談であるが、原稿料は四百字詰め原稿用紙何枚分という計算がされる。これに対してゲームシナリオライターは何kb(キロバイト)単位で納品を計られ、Web出身作家は何文字単位で作品を数える。世代の違いが表れており、興味深い)
・原稿料が貰えるケース
本文としての原稿料とは無縁なライトノベル作家であるが、稀にライター的な仕事が回ってきた際に原稿料が支払われることがある。
例えば何かの作品の記念ムックが発売されることになり、そこに書評を寄せたり、自身の思いの丈を綴ったり、もっとも多いのは掌編を掲載したケースだろう。
このようなケースでは、原稿料としての収入が発生する場合があるが、その金額はまちまちである。
(著名な作家になると帯文の依頼などがあり、これも原稿料の一種か)
メディアミックスの収入
今や専業ライトノベル作家の多くはこれがないと生活できなくなってしまったと言われているのが、メディアミックスによる収入である。
コミカライズの収入
コミカライズは出版社や著者によって様々な契約がある。著者によっては「売れたら原作のイラストレーターさんにも還元したい」という人もいるそうである。
いずれにせよ、コミカライズからの収益のほとんどはコミックスの印税となる。
その場合、多くのケースでは原作者の印税は2%~3%(コミカライズ担当漫画家さんの取り分が7%~8%。間にネーム担当者が入るケースもある)となり、
(1万部×3%×700円)ー税金=18万4590円
というのはひとつのイメージだろうか。
これも出版社や編集部、あるいは作品個別の契約によってまちまちなので、契約書をしっかりと確認する必要がある。
アニメ化の収入
アニメ化の場合、原作使用料やメディア版権料などが発生するが、これも契約による。大きな契約になるので、不安であればクリエイティブ方面に詳しい弁護士に一度契約書を見て貰うのもいいかもしれない。
基本的にアニメ化によって得られる収入として大きなものは、アニメ化された際にかかる全巻大規模重版の印税収入となる。
また、一話だけでも脚本として携わっておくと、後々の仕事に役立つだけでなく、脚本印税が得られるケースもある。
ドラマ化の収入
ドラマ化の収入は原作使用料と重版の印税である。
ドラマや映画の原作使用料は契約によってまちまちであるが、『テルマエ・ロマエ』の原作使用料が100万円だったということで原作者が激怒した、というニュースを憶えておられる方もおられるかもしれない。
だが、それよりも大きいのは「知名度」である。
ライトノベルを書いていると言っても世間の人にはあまり理解されないが、ドラマ化されました、というとやっと「なんか凄いのかもしれない」と見て貰える。昔の作家も「映画になって銀幕にかかってやっと認められた」などと言っていたそうである。
メディアミックスの収入の最大の利点は、「自分が手を動かさなくても入ってくる収入」であるということである(もちろん、チェックバックなどは大切だが)。
専業フリーランスとは究極的には「時間×能力」を現金に換えていく仕事と言える。そのため、自分が手を動かさなくても得られる収入はサラリーマンの想像するよりも重要である(儲かって羨ましいと思われるかもしれないが、どちらかというと「これがないと生活が成り立たない」ケースが多い)。
講義・講演などその他の収入
ライトノベル作家としての歴が長くなると、講義や講演、あるいはトークライブなどに招かれることがある。この収入もまた、収入の一つである。
専門学校での特別講義や、母校や自治体に招かれての講演など、どこから声がかかるか分からないので、縁は大切にしていった方がいい。
報酬の多寡については、お気持ちからそれなりのものまで多種多様である。
また、ゲームのシナリオライターや自作のソシャゲコラボの監修などによる収入がある場合もある。
近年ではFANBOXやNOTE、あるいは各種小説投稿サイトから収益を得るケースもある。これについては筆者も現在試行錯誤中であるが、継続的に支援を得るためには、単に投稿するだけでなく、読者の期待を把握し、更新頻度やコンテンツ内容を調整する工夫が求められる。現金収入は必要であるが、全てはバランスだ。創作活動の時間を割き過ぎないように適切な運用が重要だろう(内容をまとめてKDPで電子書籍化できるなどの道があるのであれば、また話は変わってくるが)。
まとめ
専業、とは言え、小説を書いているだけで食べていくことは難しい時代となってきた。
1億2354万の日本人口はこれからますます減少していくし、ライトノベル以外に楽しいものも増えた。AI技術の発展もまた、未来を左右することになるだろう。
出版業界の市場規模も、1996年の2兆6600億円をピークに、現在はほぼ半分にまで減少しつつある。
その中でライトノベル作家がライトノベル作家として生涯を全うすることは、益々難しい時代になりつつある。
しかし、物語るという営みはギルガメッシュ叙事詩よりも昔から、人類と分かち難く続いてきたものであり、形を変えて生き残るはずだ。
これから迎える激動の時代。その変化を楽しみながら適応し、新しい物語を語るためにも、収入については知識を深め、多角化していくことが肝要だと思う。
……はたらけど はたらけど猶 わが生活 楽にならざり ぢつと手を見る(石川啄木)
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