最終章開始。
本日から最終話まで毎日更新です。
一週間ちょっとお付き合いください。
九一話:プロローグ/Welcome_to_World_End
これよりご覧頂くのは、一人の少年の結末。
とある
『世界を終わらせるのは──────俺だ』
六道伊吹は決意した。
この世界を終わらせる、と。
難しい話ではない。
産まれるだけで世界を滅ぼす童女と。
たった一人の誕生にも耐えきれない世界。
少年は後者に憤り、拳を握った。
ただ、それだけのお話。
理不尽を破壊する、そのために。
少年は童女よりも早く世界を終わらせる。
その手段はただ一つ。
《
粒子一つ一つが異能と化したこの世界全ての異能を否定する事で、世界を構成する何もかもを消し飛ばす。
しかし、忘れてはならない。
世界の破壊者たる少年に対する
いつだって彼女は少年と対立する宿命にあった。
『力を貸してくれよ、世界の代弁者。六道伊吹の当たり前の
折手メア。
その少女もまた決意した。
この世界を終わらせやしない、と。
少女にとって重要なのはたった一人。
世界なんてどうでもいい。
それでも、六道伊吹のために世界を救う。
あの少年にだって罪悪感はある。
世界を滅ぼせば、きっと少年は苦しむ。
だから、少女は動いた。
少年が苦しむ最期を否定するために、どうでも良い世界を守ると決めた。
その手段はただ一つ。
《
世界自体を主人公と見做すことで、滅びかけの世界を癒して延命する。
それが世界に収まる
六〇分の経過で童女が目覚め、世界は終わる。
少年と少女。
六道伊吹と折手メア。
原作主人公とオリ主。
世界の破壊者と世界の救済者。
相反する二人が求める物は互いに同じ。
制限時間内にその『椅子』を手にした者が、この世界の結末を決める。
『そんな
『そんな
故に、これより始まるのは単純な
即ち────
日本・
アダマス達との戦いで、瓦礫と死体に埋もれた終末の街。
そこに四人の少女がいた。
「よく集まってくれたね。おやおや、みんな顔が暗いなぁ。雑談でもして緊張を解そうか?」
自分達以外の全人類が死んだのかと錯覚するくらい静まり返った世界で、少女の甲高い声が響く。
世界が終わる一時間前とはまるで思えないその話し方。残る三人の少女は、立場も関係なく一斉に顔を歪めた。
「アンタの雑談とか興味ないわよ。反吐が出るわ。司会を気取るなら、さっさと進めてくれないかしら?」
少女の内の一人──
現地人の十歳程度の幼女であるエヴァとも、少女に憑依したリィンとも異なる、しかし確かに聞き覚えのある口調で少女は話す。
「……そうですね。私も興味ありませんし、何よりこの世界には時間がありません。さっさと本題に入ってください」
青みがかった暗い髪色の少女──現代最強と謳われた天使、ブレンダも少女の意見に同意する。
満身創痍。その言葉が誰よりも似合う見た目であり、五体満足と言うより五体
肉体の所々が
「…………」
そして、最後の一人。
千切れた肉体をツキハギに繋げ直したような歪な肉体の少女──栗栖椎菜は目を瞑って何も答えない。
その姿はまるで、余熱が残っているだけの死体にも見えた。幾重にも走るフランケンシュタインの怪物のような縫合跡が、その印象を助長する。
「おっと、残念。ま、正直助かるよ。実のところ、緊張してるのはボクの方だからね。こんな風にふざけた口調でもないと平静を保てないくらいにね。逆に世界が終わる直前でも普通でいられるキミ達って相当イカれて────いや、ごめん」
軽口を咎めるような三者の視線を受けて、折手メアは失言を謝る。これも緊張のせいだと自身の性格の悪さを責任転嫁しつつ、少女は深呼吸をして心臓を落ち着かせる。
じゃあ、と少女は満を持して本題に入った。
「
沈黙。
生命の死に絶えた街に、少女の声だけが響く。
当たり前と言えば当たり前の反応。
ほんの数時間前まではみんなで力を合わせて
元々
「ボクじゃ彼には勝てない。他ならぬボク自身がそう定義付けてしまっている。むしろボクの異能はいぶきの味方をする。ボクは戦いの邪魔になる。全盛期のボクでさえ、簡単に負けたからね」
「…………」
「だから、ボクは『椅子』探しに注力する。その間、いぶきが『椅子』を探せないように、いぶきが第一位の殺害を邪魔しないように、彼と戦ってくれる人が必要なんだ。倒せなくても、せめて足止めしてくれる人が。そして、残念だけど、この街で生き残っているのはキミ達だけだ。ボクはキミ達にしか頼めない」
三人の少女は息を呑む。
それほどまでに、目の前の光景が信じられなかった。
「頼む、お願いだ。頭を下げるくらいしか、今のボクにはできないけれど。でも、約束する。絶対にこの世界を救ってみせる。キミ達が幸せな結末に導いてみせる。だから、だからっっ‼︎‼︎」
「────分かりました」
折手メアは思わず顔を上げる。
天使のブレンダが、宿敵であるはずの折手メアの手を両手で優しく握り締めていた。
「私が、彼を止めます」
「……ボクを、信じてくれるのかい……?」
「貴方を信じたのではありません。貴方を変えた、六道君を信じたのですよ。今の貴方はきっと、六道伊吹に対する想いだけは絶対に裏切らない」
「……そこを信頼してくれるのは、ボク自身を信頼してくれる事よりもずっと嬉しいよ」
鼻をすする音が響く。
そんなお涙頂戴を、別の少女は鼻で笑った。
「断ります」
栗栖椎菜は折手メアの言葉を切り捨てる。
世界が終わる直前でも、その行動原理は変わらない。
「わたしは伊吹さんの味方です。わたしは彼の背中を押します。わたしの愛は、揺らがない」
「……その選択の果てに、いぶきが苦しむのだとしても?」
「たとえ伊吹さんが苦しむのだとしても、わたしはあの人の選択を尊重します。その苦しみは伊吹さんが選んだ事だから」
「…………っ」
「苦しみを分かち合うのが愛であって、苦しみを一方的に奪うのは自分勝手なお節介じゃないですか? あなたの善意とやらは、自分が苦しんでいる伊吹さんを見たくないだけのワガママなんじゃないですか?」
世界なんてモノよりも六道伊吹を優先する、折手メアと同じ思考回路。
しかし、栗栖椎菜のそれは折手メアのよりも更に先鋭化されていた。
六道伊吹の全てを受け入れる。
それが愚行であっても、悪行であっても。
自分ごと世界が滅ぼされたとしても、その結末に六道伊吹自身が苦しんだとしても、栗栖椎菜だけは六道伊吹の全てを肯定する。
世界よりも重い、そんな
折手メアにも頷ける部分はあった。
どうも飲み込めない部分もあった。
そんな栗栖椎菜の意見に対し、折手メアは誠実に応えた。
「
「──────っ」
真っ直ぐな瞳で。
折手メアは栗栖椎菜を見つめる。
「いぶきはこんな事望んじゃいないさ。ぜんぶ、ボクの独りよがり。ボクがいぶきの苦しむ
「そん、なの……イヤに決まってるじゃないですか。なんで、わたしが……」
「だって、キミも同じだろう?」
「っっ‼︎」
「いぶきの意志を尊重したい気持ちと、いぶきに苦しんでほしくない気持ちは両立する。だから、きっとキミも思っているはずだ。いぶきがこれ以上苦しむ必要はないんだって」
「……………………………………………………………………………………………………………………………、」
栗栖椎菜は唇を噛み締める。
悩んで、悩んで、悩んで、しばらくして口を開く。
「断り、ます」
「…………、」
「わたしは、伊吹さんの意志を優先します。わたしの感情なんか、どうだっていい」
返答は変わらなかった。
それでも、変化はあった。
「……ただ、あなたの邪魔はしません」
「っ!」
「伊吹さんにも、あなたにも力を貸さず、ただその行く末を見守ります」
「……ありがとう」
「べつに……あなたのためじゃ、ありません」
これで、二人の少女の行動は決まった。
ブレンダは折手メアに協力。
栗栖椎菜は折手メアとは不干渉。
ならば、と。
この場の視線が残る一人の少女に集まる。
「……キミは、どうする?」
「アタシ、は────」
そして、少女は答えた。
力強く大地を踏み締める重音と、重さを感じさせない羽虫のような軽音。
一面の瓦礫と死体を見渡して。
片割れの童女は呟いた。
「
「…………………………、」
なんか白っぽく光ってる長髪の童女、アリス・アウターランドはそんな事を口走った。
絶賛瓦礫をめくって『椅子』を探していた俺に
アリス・アウターランドを連れて『白』の世界から飛び出してから、既に数秒から数十分は経過していた。
ちなみに時間経過が曖昧なのは、アリス・アウターランドとの無限戦闘によって体内時計がブッ壊れたからである。世界が終わってないなら一時間は経っていないだろうという判断なのだった。
「アリスって全知全能じゃなかったっけ? お前の力で見つけられねぇのか?」
「バカね、リクドウイブキ。そのゼンチゼンノウのタマシイをけずりころしたのはダレだったかしら? アリスがもとからもってたムゲンのチカラは、もうソンザイしないわ」
「…………マジで? でも最終周の戦いでもなんか色々異能使ってなかったか???」
「アレはアリスのイノウじゃなくて、このセカイのイノウ。ワールドエンドのおうよう。どんなイノウがあるかなんて、アリスだってしらないわ」
そう言えば、と。
この周か、別の周か、遠い記憶の彼方にある誰かの言葉を思い出す。
真の異能者とはただ一人。
アリス・アウターランドのみである。
転生者が異能を持つのは第一摂理の影響である。この世界には前世の記憶を持つ者は異能を手にするという
つまり、林檎が重力に従って地面に落ちるのも、転生者が異能を手にするのも、実は大差ない事なのだ。
一方で、アリス・アウターランドは違う。
第一摂理の存在しない世界に転生し、自らが持つ無限の力で世界を滅ぼし、逆説的に第一摂理をこの世界に刻んだ。
つまり、重力に逆らった林檎。世界の法則を無視した本物の異能者。それこそが、アリス・アウターランド。
アリス・アウターランドが有する無数の異能とやらは第一摂理に従って生み出された偽りの異能であり、彼女が持つ全知全能の無限の力こそがこの世界で唯一の本物の異能。
本物の異能は莫大な質量を持った魂と紐付いていたが故に、魂の破壊に伴って失われた。目の前の彼女は、もはや単なる童女に過ぎないという訳か。
「……うん? あれ?」
そこで俺は首を傾げた。
今の話を信じるのなら。
「
ぽかん……と、童女は大きく口を開ける。
思ってもいなかった、という所だろうか。
だが、話を纏めるとそうなる。
「お前が世界を滅ぼしていたのは、お前の持つ無限の力に有限の世界が耐えきれなかったからだろ? お前がその力を失ったってんなら、次の世界はお前の転生にも耐えられる。
残念ながら、それはこの世界には適用されないが。
何故ならば、この世界は既に第一摂理が存在する。アリス・アウターランドが目覚めれば世界が終わるという
無限の力がどうとか、世界の許容量がどうとか、そんな細かい理屈はとっくに関係がなくなっているのだ。アリス・アウターランドの完全なる覚醒と共に世界は問答無用で終わる。この世界はそういう形でできている。
第一摂理を破壊しない限り、この世界は救えない。
第一摂理を除く全ての
この世界が延命しない限り、全ての
第一摂理とアリス・アウターランドがいる限り、この世界は延命されない。
この世界は、どうしても一人の女の子を犠牲にしたいようだった。
「………………そう、なの? もう、アリスはなにもこわさなくてもイイの……?」
「そうさ。この世界を終わらせるのは俺だ。次の世界じゃお前はただ赤ん坊だ。だから、もうお前が嘆く事なんか何もねぇ」
そうだ。これ以上、この女の子に世界を滅ぼした責任を背負わせる訳にはいかない。だから、俺が世界を──なんて。それは単なる後付けに過ぎないが。
たとえアリス・アウターランドが世界を滅ぼしたがったとしても、それよりも早く俺が世界を終わらせる。
「さて。
「────
かつん、と。
何かが切り替わった。
日常パートの終わり。
作風が変わるような感覚。
即ち────
「イヴ、リン……?」
目の前に立つのは水色の髪の幼女。
見覚えのある顔立ちに、聞き覚えのある声。
なのに、その問いかけは自分でも半信半疑だった。
明らかに、違う。
エヴァでも、リィンでもない。
口調も、表情も、立ち方も、何もかもが違和感だらけ。
いや。本当は分かっていた。
分かっていて、分からないフリをした。
分かりたくない。分からない訳がない。
だって、今も────
──
「アタシは、アンタみたいに成りたかった。アンタの強さに憧れたから。だから、アンタのために死ぬ事なんか怖くなかった。脳が熱量で破壊されようが、全身の血液が沸騰しようが構わなかった」
「…………っ?」
「けどさ、そんなアタシを助けようとした人もいたのよ。破壊される脳細胞から人格情報を電子化して抜き取り、自分の脊椎に上書きする形で保存するような馬鹿がね。……弱いのに、怖がりなのに、アタシみたいなのを友達だからって理由で助けるような
つまり、それが目の前の少女の正体。
イヴリンの人格を上書きする形でこの世界にしがみつく亡霊。
「ま、さか……」
「みんな、世界を救おうとしてるのよ。善人も、悪人も。強者も、弱者も。傷付きながら、踏ん張っているの。なのに、アンタはそこで何してんの? 世界を終わらせるのは俺だ? フザケんのも大概にしろっつーの‼︎‼︎‼︎」
世界が軋む。
世界全てを支配する幻想の鎖が視界にチラつく。
異能感知を働かせなくても肌で分かる。俺は既に死地にいる……‼︎
「妥協してんじゃないわよ!
「アドレイド・アブソリュートっ⁉︎」
第一ラウンド。
世界を征服した魔王が君臨する。
残り50分
次回→「九二話:第一ラウンド/vsヒロインA」