ダンジョンにひたすら潜るのは間違っているだろうか?


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作:宮枝嘉助
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第3話 竜退治(ドラゴンクエスト)


 

 

 

 

 まず第一に、双頭竜(アンフィス・バエナ)は『マーメイドの生き血』の効力でほぼ全快してしまった。

 それはまだいい。先程までの戦いではほぼ完璧と言って良いペースで攻略出来ていたのだ。それを再現するだけで事足りるのであれば、彼等ならば決して不可能ではない。

 

 

 

 

 何よりも問題なのは、『マーメイド』を含む複数のモンスターの魔石を取り込み、『迷宮の孤王(モンスターレックス)』の『強化種』と化してしまった事だ。

 それに拠って見た目も変化している。二〇(メドル)を超えていた威容は更に一回り巨大化し、三〇(メドル)に達してしまいそうだ。

 そして、双頭の白竜と呼ばれていたハズの身体は変色し、胴体は変化していないが、双首(くび)の色がそれぞれの眼の色と同じ色になっている。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 先程よりも威圧感が増した咆哮。

 アルゴ達の身に怖気(おぞけ)が走るが、彼等に『撤退』の二文字は無い。

 自分達が追い込んだ所為で『強化種』に成ってしまった。

 ならばその責任は自分達の手で取ってみせる──!

 

「これ以上更に『強化』されちゃ困るからね! ──【グレンノマイ】!」

 

 雫の火属性魔法が放たれた。

 その魔法に拠って発生した炎の渦は、雫の手足の動きに合わせるようにうねり、モンスターの大群を瞬く間に灼き尽くして行く。

 

『オオオオオオオオオオッ!』

「くうっ、熱──ッ!?」

 

 餌を奪われた怒りなのか、蒼眼の竜頭の口腔から焼夷蒼炎(ブルーナパーム)が雫に向かって放たれる。

 先刻よりも威力も速度も増した蒼炎が一瞬にして雫が居た場所を灼き尽くす。咄嗟に『逃走』を発動させた雫は、蒼炎自体はどうにか回避に成功したのだが、蒼炎が持つ先刻以上の超高温に炙られて全身に火傷を負ってしまう。

 

「雫っ!? くそっ、キャンセルする訳には──! 【しかし願いの手は唯一つ。万物には届かず、万物を護れず】」

 

 可愛い妹分の火傷を一刻も早く治してやりたい。しかしここでキャンセルして精神力(マインド)を無駄にしてしまう訳にも行かない。

 アルゴは【デイン】の畜力(チャージ)を進めながらもう1つの『魔法』の詠唱を進める事しか出来ない事に歯噛みする。

 

「【これを射損じる事あらば、我が敬愛する神の眷族に非ず。此度の一射、我が神の御前に捧げ奉る。努々外す事勿れ】──【オウギウチ】」

 

 その時、多数の矢を放ってモンスターの数を減らしながら詠唱していた与一の魔法が完成した。

 これより数分間、与一が放つ矢には全て必中能力と不壊属性が付与され、更に力と器用の能力値(アビリティ)に極大補正が掛かる。

 

「たあああああああああああっ!!」

 

 与一が雄叫びを上げながら矢継ぎ早に超威力の矢を乱れ射つ。一本一本の矢が音速の壁を撃ち破り、衝撃波(ソニックブーム)を起こしながらモンスターの大群を壊滅させていく。

 与一の攻撃はそれだけでは終わらない。矢に付与された『必中能力』は更に精神力(マインド)を注ぎ込む事で()()()()()()()事が出来る。

 つまり、与一が放った矢はある程度操作が可能という事だ。

 モンスターの大群を貫いた矢はその向きを変えて双頭竜に狙いを定めて飛来する。

 

『オオオオオオオオッ!』

 

 矢を躱すのが難しいと判断したのか、蒼眼の竜頭が焼夷蒼炎(ブルーナパーム)を放って与一の矢を灼き落とそうとする。

 それが普通の矢であったなら最善手だっただろう。ところがその矢に付与されているのは『必中能力』だけではない。

 

『ギャアアアアアアアッ!』

「チィッ──曲射で当たった矢じゃ大したダメージにならねえか!」

 

 矢に付与されていたもう1つの能力である『不壊属性』が『強化種』の焼夷蒼炎(ブルーナパーム)にすら耐え、双頭竜(アンフィス・バエナ)双首(くび)に突き刺さる。

 しかし、敵を複数貫いた上に飛ぶ向きを変えて飛んだ矢の威力は、直接射ったモノに比べれば遥かに劣る。『強化種』と化した階層主に痛手を負わせる程ではなかった。

 

「【故に、真に希うは我が願いの手が万物の苦難に須く届かん事を】──【マルチプル・ブースト】」

 

 次いで、自称“勇者(アルゴ・ロート)”の魔法が発動した。

 とは言っても、畜力(チャージ)の為に帯電していた右手に朱い光が纏わりつくだけだ。

 突如、帯電している右手の音がチリチリ……という音からパチパチ……という音に変わる。魔法が()()()()()()()合図だ。

 

(さて、普通ならモンスターを全滅させる方向で撃ちたいが、双竜(あいつ)紅霧(ミスト)を吹き飛ばしておきたい)

 

「──標的(ターゲット)設定(セット)! 喰らえ強化種(バケモノ)! ──【ライデイン】!!」

 

 先程よりも威力が()()()()雷撃魔法が、先程のもう1つの『魔法』で増幅され、発生した稲妻は()()

 その内の五条がモンスターの群れの残りを薙ぎ払い、残りの五条は双頭竜(アンフィス・バエナ)のそれぞれの頭と首、そして胴体へと殺到する。

 

『ガアアアアアアアアアアッ!』

 

 『アンフィス・バエナ』の全身を覆っていた紅霧(ミスト)が雷撃魔法を減衰させる。しかし、減衰されて尚、アルゴの魔法は階層主に痛打と感電の効果を与えた。

 

「今だ! ……くそっ、さっきよりも堅え!」

「なら、一撃の威力を上げた方が良さそうね!」

「じゃあ1本ずつ気合を入れて射ちますか!」

 

「【我は希う。傷付き、疲れ、蝕まれし遍く全ての人々に癒やしの光を】」

 

 その隙にと言わんばかりに尊と静と与一が攻撃を集中させる。

 アルゴは、自らが放った魔法の成果の確認をする事も無く雫を癒やす為に詠唱を開始しつつ駆け出した。

 

「【其は治癒の光。其は快癒の輝き。其は復活の煌めき】」

 

 『並行詠唱』を駆使しながら駆けつつ、アルゴは背中の大型の両刃剣(バスタードソード)を振るい、雫への道を塞ぐモンスター共を倒して行く。

 

「【我が願いの丈に応え、万物を癒やせ】」

 

 魔法で雫を癒やすだけなら元いた位置からでも可能だったが、先程の【ライデイン】で倒し切れなかった群れを自らの剣で倒しながらアルゴは進む。

 そして、雫の元に辿り着くと同時に詠唱が完成する。

 

「【スペリオル・ヒール】」

 

 蒼炎を避けて、その余熱だけで受けた火傷のハズなのにも関わらず、雫の火傷は全身が爛れる程の酷いモノになっていた。

 雫の全身を深緑の煌めきが包み込み、瞬く間に身体の組織が復元し、全快してゆく。

 【スペリオル・ヒール】は()()()()()の魔法だ。範囲回復が出来ない代わりに、指定した対象を治癒するのに必要な精神力(マインド)が少なめなのが特徴である。

 

「…………あ、りがと、アルゴ、お兄、ちゃん。…………うんっ、完治っ! ゴメン、ありがとう、アルゴお兄ちゃん!」

「べっ、別に雫だからすぐに治した訳じゃないんだからねっ!」

「当たり前だよ!? むしろそうじゃなかったら怒るよ!?」

「あはは、そりゃそうだ! ……行けるか、雫?」

「勿論っ! 今度はもう喰らわないよっ!」

 

 大火傷が完治した雫は飛び起きて両肩を順番に回しながらアルゴに全快をアピールする。

 アルゴと軽口を叩き合いながら雫は階層主との戦いに復帰して行った。

 

『オオオオオオオオッ!』

『アアアアアアアアッ!』

 

「うおっと、危ねえ!」

「滅茶苦茶な暴れ方のくせに双首(くび)の動きが速い!」

「チィッ……動きが不規則過ぎて狙えない!」

 

 蒼い竜頭が焼夷蒼炎(ブルーナパーム)を乱射しながら暴れ回り、紅い竜頭も目眩まし代わりに紅霧(ミスト)を吐きながら暴れ回る。

 あまりにも滅茶苦茶な暴れっぷりに、尊と静は弾き飛ばされてしまうが、どうにか足場のある所に着地する事が出来た。

 そしてそのまま、双頭竜(アンフィス・バエナ)は水中へと姿を消してしまう。

 

「ああくそっ、(ミコト)の『スキル』が欲しいぜ全く──つっても、今回は俺の所だろうけどな!」

 

『オオオオオオオオッ!』

『アアアアアアアアッ!』

 

「そのパターンはまた俺の魔法の餌食だぜ──何ィ!?」

 

 またも冴えるアルゴの勘が的中し、自身がその場を離れてそのまま先程の様に雷撃魔法を撃ち込もうとするが、何と『アンフィス・バエナ』は水中から飛び出す瞬間から既に焼夷蒼炎(ブルーナパーム)紅霧(ミスト)を吐きながら飛び出して来た。

 

 その事に驚かされてしまったアルゴを、水中から飛び出した瞬間に露出した尻尾が襲い掛かる。

 

「しまっ──ぐがっ!?」

『オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 竜の尾に打ち据えられ、アルゴは砲弾のように吹き飛ばされて迷宮(ダンジョン)の壁に激突する。

 

 そこへ更に間髪入れずに双頭竜(アンフィス・バエナ)焼夷蒼炎(ブルーナパーム)を放って追撃をかける。

 強化種となった『アンフィス・バエナ』の蒼炎の足は非常に速く、アルゴが壁に激突したのとほぼ同時に壁に到達した。

 

 

 

 

「がはっ!? ──ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 

 

 

 

 まず最初に襲い掛かって来たのは、風圧だった。

 壁に叩き付けられたアルゴを更に押さえ付けるような風圧。その数瞬後に、刹那の間だけ熱を感じた後は、激痛。

 熱し、皮膚が剥がれ、爛れ、皮膚の下の肉が焼ける。身体中の皮という皮を削り取られながら火で炙られて行くような感覚と激痛は、本人に身体の現状を考える余地すら与えられない。

 余りの痛みにほんの数秒でしか無いハズの時間が永遠の地獄にも感じる程長い。ならばいっそ意識を失いたいぐらいだが、激痛がそれを許さない。

 

「アルゴ──ッ!?」

「あっ、ああっ、アルゴ……お兄ちゃん……!」

「尊! 雫ちゃん! アルゴは私が治すわ! だから2人は()()()()()()にするからアレ使って!  与一は『火消しの矢』を!」

「ああ、──ふっ!」

 

 蒼炎に包まれてしまったアルゴを想う叫び声。

 逸早く現状に対する行動を決断したのは静だった。

 尊と雫には『深層』に向かう為の温存を止めるように伝え、与一には『副団長』と『万能者(ペルセウス)』の合作の『消火剤を振り撒く矢』をアルゴに向かって射つように指示を出す。

 そして静自身は、アルゴの元へと駆ける。

 

「うぐっ、ぐうっ、あああああああああ!!」

 

 焼夷蒼炎(ブルーナパーム)の直撃を受けてしまったアルゴは、瞬く間に身体を灼き尽くされて行く激痛に耐えながら『副団長』と『万能者(ペルセウス)』特製の不壊属性(デュランダル)製の容器に入った『消火剤』をふりかけ、辛うじて即死は免れる。

 しかし、既に手足は炭化しかかっており、比較的無事な顔も焼け爛れる余り目は開かず、鼻と耳は塞がれ、口で辛うじて呼吸出来ているというだけの非常に危険な状態だ。

 

「っ、あああああっ! っ、っ、【我……は】……あああああっ!」

「アルゴ! ──ダメね、これじゃ足りない! 与一、万能薬(エリクサー)を!」

 

 蒼炎が消えても尚焼き尽くされているような激痛がアルゴを蝕む。それでもアルゴは自身を治す為の詠唱を始めようとするが、とてもじゃないが魔法を使える状態ではない。

 アルゴの元に到着した静がその容態を看て取ると、自身が持って来た上級回復薬(ハイ・ポーション)を振り掛けつつ、即座に与一に指示を出した。

 するとすぐさま、矢に括り付けられた万能薬(エリクサー)が飛んで来て、静がそれを難なくキャッチしてすぐにそれも全てアルゴの顔から胸の辺りに振り掛ける。

 

 それでようやく詠唱出来る程度には回復したアルゴが、自身に【スペリオル・ヒール】を掛けて全快する事が出来た。

 

「──助かったよ、静」

「ううん、無事ならいいわよ」

「ありがとう。……静、悪いけどここからは役割交代(スイッチ)させてくれないか?」

「いいけど、わたしの魔法だと貴方の魔法程の回復は出来ないわよ?」

「悪いな、このままあいつらに任せっ放しで居られる程、俺は大人しくないんでな! ──畜力(チャージ)開始(スタート)!」

「あっ、……もう、足場造りと回復役(ヒーラー)の兼役は忙しいなあ──!」

 

 全快した途端、アルゴは静に役割交代(コンバート)を頼んで駆け出す。静はその様子に溜め息を吐きつつも役割を果たす為にまずは与一が居る場所に戻る事にした。

 

 

 

 

「っし、じゃあ行くか──」

「本気で行くよ──」

「「【気功術(キコウジュツ)】!!」」

 

 静がアルゴの元へと駆け出した直後。

 尊と雫は示し合わせた様に同じ『スキル』を発動した。

 2人の全身から半透明の白い炎のようなモノが噴き出し、2人の全身を包み込む。もしこの光景を歓楽街の美神の眷族(イシュタル・ファミリア)の者達が見れば「あれはまさか!?」等と言い出すかもしれないが、この『スキル』は階位昇華(そういうの)ではない。

 【気功術】は生命が体内に持つとされる『気』を操り、表出させる。一言で言ってしまえばただそれだけの『スキル』である。

 

 だが、こういう言葉を聞いた事が無いだろうか?

 

 

 

 

 シンプルな(スキル)ほど、極めると強い──!

 

 

 

 

「はああああああああっ!」

「やああああああああっ!」

 

『ギャオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』

 

 尊は刀に『気』を纏わせ、雫は自らの拳に『気』を纏わせ、それぞれ全力で攻撃を加える。

 強化種と化してから『堅い』と言っていたのが嘘のように、双頭竜(アンフィス・バエナ)の身体中から血が噴き出してくる。

 

「──【爆烈拳】!!」

 

 『アンフィス・バエナ』の胴体に飛び込んだ雫が両拳に『気』を纏わせ、下から上に突き上げるように連打する。

 『気』という生命(いのち)を燃やすような力の出力は凄まじく、何と階層主の巨体が宙に浮き上がって行く。

 

『オオオオオオオオオオオッ!』

「【真空裂波】!!」

 

 そうはさせまいと蒼眼の竜頭が自分ごと燃やす勢いで焼夷蒼炎(ブルーナパーム)を放射する。

 その瞬間、雫は即座に右脚にも『気』を纏わせ鋭く振り抜いた。道中よりも遥かに強力な真空波が発生し、焼夷蒼炎(ブルーナパーム)を両断した上で蒼眼の竜頭にもダメージを与える。

 

『ガアアアアアアアアッ!?』

 

 

 

 

「『宙跳(そらはね)』」

 

 一方の尊は()()()()()()

 その理屈は、足元から『気』を放出してその反動を利用して空中で更に跳び上がるという【気功術】の使用中しか出来ない技である。

 尊は『宙跳』を繰り返し、階層の天井へと到達。その瞬間、尊は身体の上下を反転させ、天井に()()する。

 

「【踏鳴(フミナリ)】」

 

 ズドン! とまるで破城槌が城門を破壊したかのような轟音と共に尊が超高速で落下する。その先には蒼眼の竜頭が。しかし、雫の【真空裂波】の一撃のダメージによって反応が遅れ、それがそのまま致命的な隙となる──!

 

「『輝閃』!!」

『ッ!? オオオオオオオオオオオオオッ!?』

 

 技名は同じだが【気功術】中に放った超高速の抜刀術。その破壊力は先刻とは比べ物にならず、蒼眼の竜頭の首を一撃で刎ねた。

 そしてその勢いのまま水に落ちてしまうかと思われたが、尊は『宙跳』の要領で水上に着水し、足場のある所まで水上を走って後退した。

 と、そこへ近付く人物が1人。

 

「ナイス、尊!」

「後は頼むぞ、アルゴ!」

 

 パァンッ! と破裂音を響かせながら尊とアルゴはハイタッチを交わす。アルゴは立ち止まる事無く階層主(アンフィス・バエナ)にトドメを刺す為に駆ける。

 

 

 

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 このままではマズいと感じた単頭竜(アンフィス・バエナ)の脳裏に撤退の文字が過ぎる。今は水中に逃れ、生存に専念するべきだと。

 そうすればまた『マーメイド』が産まれるまで待てばその生き血と魔石で回復と強化が出来る。

 この冒険者共を皆殺しに出来る──!

 

「──【ミズチノナギ】」

『ッ!? ア、アァッ!?』

 

 しかし、水に潜る事は出来なかった。

 会敵してからずっと氷を頻繁に張っていた冒険者が、今度は階層主(じぶん)すら支える程の分厚い氷を張ったのだ。

 水中への撤退を封じられた!? ならば『巨蒼の滝(グレート・フォール)』へと振り向こうとした瞬間。

 

「何逃げようとしてんだよ、竜のクセに」

『ア、ア? アアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 1人の冒険者に呼び止められた。先程ほぼ死にかけてたハズの、()()()()()()()()()()

 迷宮(はは)にこの場を任された階層主としての、否、()()()()()()()を貶された。

 激昂し、咆哮をあげながらも竜は冷静に周りを見る。

 よくよく見れば、自分を傷付けていた2人組は消耗が激しそうだし、氷を張っていた冒険者も、流石に(わたし)を支える程の氷を張るのは消耗が大きそうだ。

 飛び道具を射って来る冒険者も今は止まっている。もしかして弾切れだろうか。となれば後は目の前の冒険者のみ。

 

 冒険者の右手から音がする。アレが放つ雷以外、この『最弱』に警戒すべき所は無い。雷を増やされればまた違うが、先程の朱い光が無いので雷は1つだけだろう。

 ならば雷を紅霧(ミスト)で防ぎつつこの冒険者を噛み千切れば(わたし)の勝ちだ──!

 

「行くぞ──!」

『ハアアアアアァァッ!!』

 

 雷は速い。故に、先んじて紅霧(ミスト)を吐く。

 これでたった一条の雷撃など恐るるに足らず──!

 

『…………ァア?』

 

 雷撃が来ない。無駄を悟ったからか?

 ならば死ね──! と言わんばかりに紅眼の竜は顎を開きながら冒険者に襲い掛かる。

 その冒険者は背中の大型の両刃剣(バスタードソード)を抜いていた。右手の雷が剣に伝わり、剣そのものが帯電している。

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 跳躍。冒険者は(わたし)の頭を飛び越え、帯電している剣を振り被り、(わたし)に致命の一撃を振り下ろす。

 

 

 

 

「──『雷鳴剣(らいめいけん)』!!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』

 

 

 

 

 (わたし)の首は『最弱』と決め付けていた冒険者に刎ねられ、間も無く灰になるだろう。

 もし、もし『次』があるならば、今度は『最弱』等と侮らず、尋常に──……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──▲──▲──▼──▼──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ここは深層、51階層。

 『カドモスの泉』で有名な階層である。

 

 そこで先刻、怪人(ばけもの)によって『泉』の番人である強竜(カドモス)が屠られ、その後、迷宮(ダンジョン)によって後任の強竜(カドモス)が産まれ落ちた。

 

 しかし、その強竜(カドモス)は『泉』に()()()()()()()()()。本来、強竜(カドモス)は『泉』の水が大好物で、水を狙う冒険者を屠る番人であるにも関わらずだ。

 

「…………強ク、強キ竜ニ……」

 

 その強竜(カドモス)は、『泉』を放置して何処かへと去って行った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──▶──◀──▶──◀──

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルゴ・ロート

 Lv.4

 力:SSS1750→SSS1802

 耐久:SSS1497→SSS1863

 器用:SSS1699→SSS1757

 敏捷:SSS1788→SSS1831

 魔力:SSS1614→SSS1726

 治癒:G→F

 耐異常:H→G

 剣士:I→H

 

 《魔法》

 

 【スペリオル・ヒール】

 ・完全回復魔法。対象指定型。

 ・使用する精神力に応じて効果上昇。

 ・癒やす内容に応じて消費精神力変動。

 ・詠唱式【我は希う。傷付き、疲れ、蝕まれし遍く全ての人々に癒やしの光を。其は治癒の光。其は快癒の輝き。其は復活の煌めき。我が願いの丈に応え、万物を癒やせ】

 

 【デイン】

 ・チャージ権付き速攻魔法。

 ・器に応じてチャージ可能時間も延長。

 ・一定時間のチャージ毎に昇華する。

 

 【マルチプル・ブースト】

 ・付与魔法。

 ・消費精神力に応じて同時標的数増加。

 ・詠唱式【我は希う。万物の救済を。万物を蝕む邪なる者の破滅を。だが世界は非情也。世界は無情也。故に希う。我が救済の願いの手が届かん事を。しかし願いの手は唯一つ。万物には届かず、万物を護れず。故に、真に希うは我が願いの手が万物の苦難に須く届かん事を】

 

 《スキル》

 

 【救世願望(セイバーデザイア)

 ・揺らぎのある因果律に干渉する。

 ・想いの丈で干渉率上昇。

 

 【涓滴岩穿(ウィルアウェイ)

 ・晩成する。

 ・想いの丈で効果上昇。

 ・器の昇華条件を経験値が器の限界を超えた時のみとする。

 

 【会心一撃(ヒーローブロウ)

 ・現在の器を遥かに上回る一撃を放つ。

 ・使用後2分間レベルダウンする。

 

 

 

 

「4泊5日って言ってたのに2泊3日で帰って来たから何があったのかと思ったら……どうしたのよ、コレ? 特に耐久の伸びがおかしな事になってるわよ?」

「ちょっと階層主様に派手に吹き飛ばされた上に丸焼きにされましてね……あっはっはっはっ!」

「いや全然笑い事じゃないよ!?」

 

 クシナダヒメ様にステイタスの更新をしてもらいつつ、今回の冒険の報告をする。クシナダヒメ様からのツッコミが飛んで来るが、一応無事に帰って来ているのでそこまで厳しく説教はされなかった。

 

「それにしても……相変わらず物凄い数値になってるけど、レベル上げられないわね」

「最初に【涓滴岩穿(あのスキル)】が発現した時は、偉業無しでレベルが上げられるチートスキルかと思ってたのにね……」

 

 【涓滴岩穿(ウィルアウェイ)】は十中八九俺のドラクエ脳が生み出した『スキル』だ。

 他の冒険者はD以上の能力値(アビリティ)を持った上で『偉業』を成せば器が昇華するが、この『スキル』では『偉業』を必要とせず一定量の経験値、つまり能力値(アビリティ)が一定の数値を超えない限りレベルが上がらない。

 そういう意味ではむしろ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()バッドスキルかもしれない。

 

「……実は後の4人は今回で【ランクアップ】可能になったけど全員保留してる」

「ちくしょぉぉぉぉぉぉおおおおおおおっ!!」

 

 アルゴは思わず裏声で絶叫した。




 あれ? 異端児(ヒロイン)が増えた……?
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