まず第一に、
それはまだいい。先程までの戦いではほぼ完璧と言って良いペースで攻略出来ていたのだ。それを再現するだけで事足りるのであれば、彼等ならば決して不可能ではない。
何よりも問題なのは、『マーメイド』を含む複数のモンスターの魔石を取り込み、『
それに拠って見た目も変化している。二〇
そして、双頭の白竜と呼ばれていたハズの身体は変色し、胴体は変化していないが、
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
先程よりも威圧感が増した咆哮。
アルゴ達の身に
自分達が追い込んだ所為で『強化種』に成ってしまった。
ならばその責任は自分達の手で取ってみせる──!
「これ以上更に『強化』されちゃ困るからね! ──【グレンノマイ】!」
雫の火属性魔法が放たれた。
その魔法に拠って発生した炎の渦は、雫の手足の動きに合わせるようにうねり、モンスターの大群を瞬く間に灼き尽くして行く。
『オオオオオオオオオオッ!』
「くうっ、熱──ッ!?」
餌を奪われた怒りなのか、蒼眼の竜頭の口腔から
先刻よりも威力も速度も増した蒼炎が一瞬にして雫が居た場所を灼き尽くす。咄嗟に『逃走』を発動させた雫は、蒼炎自体はどうにか回避に成功したのだが、蒼炎が持つ先刻以上の超高温に炙られて全身に火傷を負ってしまう。
「雫っ!? くそっ、キャンセルする訳には──! 【しかし願いの手は唯一つ。万物には届かず、万物を護れず】」
可愛い妹分の火傷を一刻も早く治してやりたい。しかしここでキャンセルして
アルゴは【デイン】の
「【これを射損じる事あらば、我が敬愛する神の眷族に非ず。此度の一射、我が神の御前に捧げ奉る。努々外す事勿れ】──【オウギウチ】」
その時、多数の矢を放ってモンスターの数を減らしながら詠唱していた与一の魔法が完成した。
これより数分間、与一が放つ矢には全て必中能力と不壊属性が付与され、更に力と器用の
「たあああああああああああっ!!」
与一が雄叫びを上げながら矢継ぎ早に超威力の矢を乱れ射つ。一本一本の矢が音速の壁を撃ち破り、
与一の攻撃はそれだけでは終わらない。矢に付与された『必中能力』は更に
つまり、与一が放った矢はある程度操作が可能という事だ。
モンスターの大群を貫いた矢はその向きを変えて双頭竜に狙いを定めて飛来する。
『オオオオオオオオッ!』
矢を躱すのが難しいと判断したのか、蒼眼の竜頭が
それが普通の矢であったなら最善手だっただろう。ところがその矢に付与されているのは『必中能力』だけではない。
『ギャアアアアアアアッ!』
「チィッ──曲射で当たった矢じゃ大したダメージにならねえか!」
矢に付与されていたもう1つの能力である『不壊属性』が『強化種』の
しかし、敵を複数貫いた上に飛ぶ向きを変えて飛んだ矢の威力は、直接射ったモノに比べれば遥かに劣る。『強化種』と化した階層主に痛手を負わせる程ではなかった。
「【故に、真に希うは我が願いの手が万物の苦難に須く届かん事を】──【マルチプル・ブースト】」
次いで、
とは言っても、
突如、帯電している右手の音がチリチリ……という音からパチパチ……という音に変わる。魔法が
(さて、普通ならモンスターを全滅させる方向で撃ちたいが、
「──
先程よりも威力が
その内の五条がモンスターの群れの残りを薙ぎ払い、残りの五条は
『ガアアアアアアアアアアッ!』
『アンフィス・バエナ』の全身を覆っていた
「今だ! ……くそっ、さっきよりも堅え!」
「なら、一撃の威力を上げた方が良さそうね!」
「じゃあ1本ずつ気合を入れて射ちますか!」
「【我は希う。傷付き、疲れ、蝕まれし遍く全ての人々に癒やしの光を】」
その隙にと言わんばかりに尊と静と与一が攻撃を集中させる。
アルゴは、自らが放った魔法の成果の確認をする事も無く雫を癒やす為に詠唱を開始しつつ駆け出した。
「【其は治癒の光。其は快癒の輝き。其は復活の煌めき】」
『並行詠唱』を駆使しながら駆けつつ、アルゴは背中の
「【我が願いの丈に応え、万物を癒やせ】」
魔法で雫を癒やすだけなら元いた位置からでも可能だったが、先程の【ライデイン】で倒し切れなかった群れを自らの剣で倒しながらアルゴは進む。
そして、雫の元に辿り着くと同時に詠唱が完成する。
「【スペリオル・ヒール】」
蒼炎を避けて、その余熱だけで受けた火傷のハズなのにも関わらず、雫の火傷は全身が爛れる程の酷いモノになっていた。
雫の全身を深緑の煌めきが包み込み、瞬く間に身体の組織が復元し、全快してゆく。
【スペリオル・ヒール】は
「…………あ、りがと、アルゴ、お兄、ちゃん。…………うんっ、完治っ! ゴメン、ありがとう、アルゴお兄ちゃん!」
「べっ、別に雫だからすぐに治した訳じゃないんだからねっ!」
「当たり前だよ!? むしろそうじゃなかったら怒るよ!?」
「あはは、そりゃそうだ! ……行けるか、雫?」
「勿論っ! 今度はもう喰らわないよっ!」
大火傷が完治した雫は飛び起きて両肩を順番に回しながらアルゴに全快をアピールする。
アルゴと軽口を叩き合いながら雫は階層主との戦いに復帰して行った。
『オオオオオオオオッ!』
『アアアアアアアアッ!』
「うおっと、危ねえ!」
「滅茶苦茶な暴れ方のくせに
「チィッ……動きが不規則過ぎて狙えない!」
蒼い竜頭が
あまりにも滅茶苦茶な暴れっぷりに、尊と静は弾き飛ばされてしまうが、どうにか足場のある所に着地する事が出来た。
そしてそのまま、
「ああくそっ、
『オオオオオオオオッ!』
『アアアアアアアアッ!』
「そのパターンはまた俺の魔法の餌食だぜ──何ィ!?」
またも冴えるアルゴの勘が的中し、自身がその場を離れてそのまま先程の様に雷撃魔法を撃ち込もうとするが、何と『アンフィス・バエナ』は水中から飛び出す瞬間から既に
その事に驚かされてしまったアルゴを、水中から飛び出した瞬間に露出した尻尾が襲い掛かる。
「しまっ──ぐがっ!?」
『オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
竜の尾に打ち据えられ、アルゴは砲弾のように吹き飛ばされて
そこへ更に間髪入れずに
強化種となった『アンフィス・バエナ』の蒼炎の足は非常に速く、アルゴが壁に激突したのとほぼ同時に壁に到達した。
「がはっ!? ──ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
まず最初に襲い掛かって来たのは、風圧だった。
壁に叩き付けられたアルゴを更に押さえ付けるような風圧。その数瞬後に、刹那の間だけ熱を感じた後は、激痛。
熱し、皮膚が剥がれ、爛れ、皮膚の下の肉が焼ける。身体中の皮という皮を削り取られながら火で炙られて行くような感覚と激痛は、本人に身体の現状を考える余地すら与えられない。
余りの痛みにほんの数秒でしか無いハズの時間が永遠の地獄にも感じる程長い。ならばいっそ意識を失いたいぐらいだが、激痛がそれを許さない。
「アルゴ──ッ!?」
「あっ、ああっ、アルゴ……お兄ちゃん……!」
「尊! 雫ちゃん! アルゴは私が治すわ! だから2人は
「ああ、──ふっ!」
蒼炎に包まれてしまったアルゴを想う叫び声。
逸早く現状に対する行動を決断したのは静だった。
尊と雫には『深層』に向かう為の温存を止めるように伝え、与一には『副団長』と『
そして静自身は、アルゴの元へと駆ける。
「うぐっ、ぐうっ、あああああああああ!!」
しかし、既に手足は炭化しかかっており、比較的無事な顔も焼け爛れる余り目は開かず、鼻と耳は塞がれ、口で辛うじて呼吸出来ているというだけの非常に危険な状態だ。
「っ、あああああっ! っ、っ、【我……は】……あああああっ!」
「アルゴ! ──ダメね、これじゃ足りない! 与一、
蒼炎が消えても尚焼き尽くされているような激痛がアルゴを蝕む。それでもアルゴは自身を治す為の詠唱を始めようとするが、とてもじゃないが魔法を使える状態ではない。
アルゴの元に到着した静がその容態を看て取ると、自身が持って来た
するとすぐさま、矢に括り付けられた
それでようやく詠唱出来る程度には回復したアルゴが、自身に【スペリオル・ヒール】を掛けて全快する事が出来た。
「──助かったよ、静」
「ううん、無事ならいいわよ」
「ありがとう。……静、悪いけどここからは
「いいけど、わたしの魔法だと貴方の魔法程の回復は出来ないわよ?」
「悪いな、このままあいつらに任せっ放しで居られる程、俺は大人しくないんでな! ──
「あっ、……もう、足場造りと
全快した途端、アルゴは静に
「っし、じゃあ行くか──」
「本気で行くよ──」
「「【
静がアルゴの元へと駆け出した直後。
尊と雫は示し合わせた様に同じ『スキル』を発動した。
2人の全身から半透明の白い炎のようなモノが噴き出し、2人の全身を包み込む。もしこの光景を
【気功術】は生命が体内に持つとされる『気』を操り、表出させる。一言で言ってしまえばただそれだけの『スキル』である。
だが、こういう言葉を聞いた事が無いだろうか?
シンプルな
「はああああああああっ!」
「やああああああああっ!」
『ギャオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』
尊は刀に『気』を纏わせ、雫は自らの拳に『気』を纏わせ、それぞれ全力で攻撃を加える。
強化種と化してから『堅い』と言っていたのが嘘のように、
「──【爆烈拳】!!」
『アンフィス・バエナ』の胴体に飛び込んだ雫が両拳に『気』を纏わせ、下から上に突き上げるように連打する。
『気』という
『オオオオオオオオオオオッ!』
「【真空裂波】!!」
そうはさせまいと蒼眼の竜頭が自分ごと燃やす勢いで
その瞬間、雫は即座に右脚にも『気』を纏わせ鋭く振り抜いた。道中よりも遥かに強力な真空波が発生し、
『ガアアアアアアアアッ!?』
「『
一方の尊は
その理屈は、足元から『気』を放出してその反動を利用して空中で更に跳び上がるという【気功術】の使用中しか出来ない技である。
尊は『宙跳』を繰り返し、階層の天井へと到達。その瞬間、尊は身体の上下を反転させ、天井に
「【
ズドン! とまるで破城槌が城門を破壊したかのような轟音と共に尊が超高速で落下する。その先には蒼眼の竜頭が。しかし、雫の【真空裂波】の一撃のダメージによって反応が遅れ、それがそのまま致命的な隙となる──!
「『輝閃』!!」
『ッ!? オオオオオオオオオオオオオッ!?』
技名は同じだが【気功術】中に放った超高速の抜刀術。その破壊力は先刻とは比べ物にならず、蒼眼の竜頭の首を一撃で刎ねた。
そしてその勢いのまま水に落ちてしまうかと思われたが、尊は『宙跳』の要領で水上に着水し、足場のある所まで水上を走って後退した。
と、そこへ近付く人物が1人。
「ナイス、尊!」
「後は頼むぞ、アルゴ!」
パァンッ! と破裂音を響かせながら尊とアルゴはハイタッチを交わす。アルゴは立ち止まる事無く
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
このままではマズいと感じた
そうすればまた『マーメイド』が産まれるまで待てばその生き血と魔石で回復と強化が出来る。
この冒険者共を皆殺しに出来る──!
「──【ミズチノナギ】」
『ッ!? ア、アァッ!?』
しかし、水に潜る事は出来なかった。
会敵してからずっと氷を頻繁に張っていた冒険者が、今度は
水中への撤退を封じられた!? ならば『
「何逃げようとしてんだよ、竜のクセに」
『ア、ア? アアアアアアアアアアアアッ!!』
1人の冒険者に呼び止められた。先程ほぼ死にかけてたハズの、
激昂し、咆哮をあげながらも竜は冷静に周りを見る。
よくよく見れば、自分を傷付けていた2人組は消耗が激しそうだし、氷を張っていた冒険者も、流石に
飛び道具を射って来る冒険者も今は止まっている。もしかして弾切れだろうか。となれば後は目の前の冒険者のみ。
冒険者の右手から音がする。アレが放つ雷以外、この『最弱』に警戒すべき所は無い。雷を増やされればまた違うが、先程の朱い光が無いので雷は1つだけだろう。
ならば雷を
「行くぞ──!」
『ハアアアアアァァッ!!』
雷は速い。故に、先んじて
これでたった一条の雷撃など恐るるに足らず──!
『…………ァア?』
雷撃が来ない。無駄を悟ったからか?
ならば死ね──! と言わんばかりに紅眼の竜は顎を開きながら冒険者に襲い掛かる。
その冒険者は背中の
『アアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
跳躍。冒険者は
「──『
『オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』
もし、もし『次』があるならば、今度は『最弱』等と侮らず、尋常に──……。
──▲──▲──▼──▼──
──ここは深層、51階層。
『カドモスの泉』で有名な階層である。
そこで先刻、
しかし、その
「…………強ク、強キ竜ニ……」
その
──▶──◀──▶──◀──
アルゴ・ロート
Lv.4
力:SSS1750→SSS1802
耐久:SSS1497→SSS1863
器用:SSS1699→SSS1757
敏捷:SSS1788→SSS1831
魔力:SSS1614→SSS1726
治癒:G→F
耐異常:H→G
剣士:I→H
《魔法》
【スペリオル・ヒール】
・完全回復魔法。対象指定型。
・使用する精神力に応じて効果上昇。
・癒やす内容に応じて消費精神力変動。
・詠唱式【我は希う。傷付き、疲れ、蝕まれし遍く全ての人々に癒やしの光を。其は治癒の光。其は快癒の輝き。其は復活の煌めき。我が願いの丈に応え、万物を癒やせ】
【デイン】
・チャージ権付き速攻魔法。
・器に応じてチャージ可能時間も延長。
・一定時間のチャージ毎に昇華する。
【マルチプル・ブースト】
・付与魔法。
・消費精神力に応じて同時標的数増加。
・詠唱式【我は希う。万物の救済を。万物を蝕む邪なる者の破滅を。だが世界は非情也。世界は無情也。故に希う。我が救済の願いの手が届かん事を。しかし願いの手は唯一つ。万物には届かず、万物を護れず。故に、真に希うは我が願いの手が万物の苦難に須く届かん事を】
《スキル》
【
・揺らぎのある因果律に干渉する。
・想いの丈で干渉率上昇。
【
・晩成する。
・想いの丈で効果上昇。
・器の昇華条件を経験値が器の限界を超えた時のみとする。
【
・現在の器を遥かに上回る一撃を放つ。
・使用後2分間レベルダウンする。
「4泊5日って言ってたのに2泊3日で帰って来たから何があったのかと思ったら……どうしたのよ、コレ? 特に耐久の伸びがおかしな事になってるわよ?」
「ちょっと階層主様に派手に吹き飛ばされた上に丸焼きにされましてね……あっはっはっはっ!」
「いや全然笑い事じゃないよ!?」
クシナダヒメ様にステイタスの更新をしてもらいつつ、今回の冒険の報告をする。クシナダヒメ様からのツッコミが飛んで来るが、一応無事に帰って来ているのでそこまで厳しく説教はされなかった。
「それにしても……相変わらず物凄い数値になってるけど、レベル上げられないわね」
「最初に【
【
他の冒険者はD以上の
そういう意味ではむしろ、
「……実は後の4人は今回で【ランクアップ】可能になったけど全員保留してる」
「ちくしょぉぉぉぉぉぉおおおおおおおっ!!」
アルゴは思わず裏声で絶叫した。