──時は、神暦982年。
この世界を救う救世主がとある都市のスラム街で産声をあげた。
生後五年間を母と過ごし、病により死別。その後孤児院で暮らし、三年後にその孤児院を経営している主神のファミリアに入団する。
それから十年が経った
救世主は大きく成長していた。
神の眷族として鍛え上げられた175
燃え盛る太陽のように紅い乱れ髪に透き通るような蒼い瞳。
紅を基調とした
十年で
その名は──!
「──人呼んで、【クシナダ・ファミリア】の
「………………」
──空気が死んだ。
初対面の人にいきなりテキトーな暦まででっち上げた濃ゆ〜い自己紹介をぶちかまされて、白髪の少年は困惑していた。兎の瞳のように美しい
……と、そこへ──
「おい、あいつもしかして
「うぐぅっ!?」
「えっ?
「……あ、ああ、そうだとも!
「だったらどうして……?」
──民衆の容赦無いツッコミがアルゴを襲う!
何故なら、第二級冒険者を示すLv.4という数値は決して弱者の数値ではない。勿論それ以上を誇る
それなのに、一体どういう事なの? 訳が分からないよ、と
「ああ、それはな、そいつのファミリアの連中はそいつ以外全員
「いやそれ単にファミリアが凄過ぎるだけですよね!?」
「そうそう。だから俺達もからかってるだけだよ」
「ふ、ふんだ! 悔しくなんかないもんね! ふ、ふんだ……ふん……うぅ……ぐすん」
「いや、アルゴさん滅茶苦茶ヘコんじゃってますけどぉ!?」
ベル・クラネルの鋭いツッコミが冴え渡る。
門をくぐって速攻で絡んで来た赤髪の青年は目の前で四つん這いになっている。一体何しに来たんだこの人。
「あははは、ただの持ち芸だから気にすんなよ。大体そいつ
「オイコラ、俺は
「突然立ち上がったかと思ったら何か変な
「またまた。二つ名だって【
「ちくしょおおおおお【
「本人全く認めてないみたいですけど!? というかその発言は危険過ぎる気がするので止めて下さい!?」
ベル・クラネルがオラリオの門をくぐってまだ数十分しか経っていない。にも関わらず、ベルは早くもツッコミに疲れそうになっていた。
これが
「──さて、ベル君。キミは冒険者志望なんだよね?」
「あ、はい、そうです!」
「なら是非【
「他の仲間とのレベルが違い過ぎるから、ですか?」
「その通り。勿論上のレベルの人が引率するような形で比較的安全に『冒険』してレベルを上げているファミリアもあるけれど、その方法は安全な分時間が掛かるし、何より引率の人のレベルが上げられなくなってしまう」
「はぁ……そうなんですね」
「ただ日銭を稼ぐだけの冒険者でいいならそれでもいい。もしベル君がただの冒険者なんかじゃなく『英雄』を目指すというなら──俺が勧めるのは皆で『冒険』して皆でレベルが上げられる……そんな少人数の新興勢力のファミリアだ。何だったらベル君が最初の1人目になっちゃうぐらいでもいい」
「『英雄』を目指すなら、皆で『冒険』出来るファミリアに……」
「──それに、大手に入って成長していくより、自分の力でファミリアをデカくしていく方がわくわくしないかい?」
「はい! 何だかその方がわくわく出来そうな気がします!」
「後、もしそれでも【ロキ・ファミリア】とか【フレイヤ・ファミリア】みたいな大手に入りたいなら、主神を街中で直接狙え」
「何か言い方が物騒なんですけど!?」
「ロキの
「成程、神様に直談判した方がいいんですね!」
「まあ、それでもどうしても見つからなければ【
「分かりました! 色々ありがとうございました、アルゴさん!」
俺としては出来ればヘスティアルートに行って欲しいけど、とアルゴは小声で付け足す。まだ神の眷族になっていない
アルゴは応援してるよ、とだけベルに伝えて去って行った。
──♤──♧──♢──♡──
そう、前世の記憶がある。
前世の名前も憶えている。
だけどこの世界に産まれたからには俺はアルゴ・ロートとして生きていく。そういうモノだろう?
物心が付くのと同時ぐらいに、俺は前世を思い出した。
そして地名やら神やら色んな情報を聞いた結果、ここがダンまちの世界である事を確信した。
同時に失望もした。何故なら俺の前世は
この世界にも竜は居るし、何なら『隻眼の竜』とかいうヤバいのが居るのも知っているが、この世界に『英雄』は居ても『勇者』は存在しない。
他のファンタジーみたいに
だったら俺が“勇者”を名乗ってやる! と思ってももう“
二つ名としてフィン・ディムナが名乗っている【
そこで俺は、“
だから別に、そこはもう妥協したんだ。
──嘘である。
この男、フィン・ディムナのレベルや知名度、名声も上回ればワンチャン“勇者”の字を奪って自分が【
──
そこで俺の新たな楽しみというと、ベル君だ。
前世でも彼の物語は楽しませてもらっていた。普段の『道化』のような物語も『英雄』のような物語も大好きだ。
この世界に転生を自覚してから十数年。彼が
今年の春頃に来るとしか知らなかったから、間違い無く最近の俺は門の近くを
オラリオの治療師を頼りに来た人を速攻で治したりしてたおかげで何とか
ああっ!
後は今後叫んでくれるだろう
……ゴホン。さて、彼はどのファミリアに入るかな? やっぱり原作通りに【ヘスティア・ファミリア】か、それとも他のファミリアに入るか。
『
一応本人の意志を尊重したかったから大手の狙い方も伝えたけど、果たして【ヘスティア・ファミリア】以外でも
これは俺個人の妄想だが、『
確か原作の表現だと『
ウチのファミリアが
それに、俺が
しかもどうも『
さあ、
──♤──♧──♢──♡──
「皆、ただいま〜」
俺は孤児院兼
今更ながら、【
その割にはウチのファミリアってマジで化け物揃いなんですが。だって街の人にネタにされてた通り、俺以外全員が
「あ、おかえりアルゴ。もうすぐご飯出来るよ〜」
「ん、了解〜」
今目の前を通りがかったツヤッツヤの黒髪ショートボブの
だけど、実際『俺、ロリコンになってもいいや』って思えてしまうぐらいのマジな美少女なんだよなあ……流石は神。
しかも話によると俺の為に下界に降りて来たんだそうで。
俺が
何でそんな話を? と思って訊いてみれば、俺が転生して来た時にもう1つ魂が下界に降りて来てたんだとか。つまり俺以外にもう1人転生者が居て、その魂がどうも
しかし、
その為、
ウチの基本方針が
そして何故か未開拓領域には
だから多分、
「あ、おかえりアルゴ」
「おう、ただいま
「ああ、えっと……
「はあ、桜さんはともかく皆忙しそうだな。にしても『
食堂には俺を含めて5人と一柱が揃っていた。
男女比は女神様を抜いて3:2。『先輩』達を加えると最終的には7:4である。
俺の質問に答えてくれたのは、無駄に艶のある黒髪に俺と同じ蒼い瞳のイケメンエルフ──ナスノ・与一。Lv.5。
俺と同い年の幼馴染の1人である。エルフだけど魔法は苦手で、だが【
「あらおかえり。今日は早かったのねアルゴ」
「ああ、ただいま
「ふうん……結局『用事』って何だったの?」
「ちょっと一目見たかった奴が居てな」
次に話し掛けて来たのは、腰まで届く長い黒髪に紫の瞳を持つヒューマン──ミナモトノ・静。Lv.5。
彼女も俺と同い年の幼馴染だ。あんまりオラリオでは見掛けない薙刀の使い手で、かつ『契約』こそしていないものの水の精霊との親和性がとても高く、【
「何だよアルゴ、ナンパか?」
「違わい、
「えっ? アルゴお兄ちゃん、男の人をナンパしに……!?」
「いや何でやねん、
続いて、黒髪に紺色の瞳の
尊は俺の幼馴染の中で1番のライバルだ。と言っても俺が全然負け越してるので俺の一方的なライバル認定だけど。『爺さん』を除けば1番居合が上手く、その戦闘スタイルは正直1番カッコいいと思っている。ちなみに二つ名は【
その妹の雫はファミリア1の天才少女だ。何せ
「ゴメン、遅くなっちゃった。あ、アルゴおかえり〜」
「ただいまです、桜さん。何か面白い
「ああ、うん。わざと刃の部分をギザギザにして、更に脂を染み込ませておく事で斬る時に摩擦熱で炎が「アウトォォォォオオオオ!! 桜さんちょっとストォォォップ!!」きゃああああああ!? な、何!?」
いや、大変可愛らしい声で「何!?」じゃあないんだよ。
でもアレって摩擦熱で炎が出るって事は、斬ってから刀身が燃える訳であって相手は燃えないのでは……いや深く考えるな、感じるんだ……!
──閑話休題。
鍛冶中はお団子ヘアー、
『先輩』達の中では唯一のLv.5なので、成長速度的な意味では勝手に親近感を感じているが、オラリオ内でも椿・コルブランドと桜さんの2人しか居ない鍛冶師のLv.5って考えるとこの人も間違い無くやべー奴である。しかも
いや、まあこのファミリアでは人数的な問題で桜さんも
「ヒメ様、何で
「いやぁ~私もヤバいとは思ったんだけど、アルゴの
「何、世界が俺のツッコミを欲している……だと……!?」
「
「おのれアルゴォ……毎度毎度クシナダヒメ様と仲睦まじくしおってぇ……!」
「オイ止めろ与一、箸を投げようとするな! Lv.5の投擲はシャレになら……うおっ、危ねえ!」
「ふっふっふ……よーし、いいぞ……よく避けた……チィッ」
「舌打ち!? 今、舌打ちしやがったな与一!?」
俺が孤児院で保護されてから前世ネタを隠さずに喋りまくってた所為で、現地人のハズなのにネタ台詞が飛び出す……そんなファミリアになってしまった。でも別に後悔はしていない。
「──で、『副団長』殿はどうせ【
「
「お兄ちゃん、それじゃわたししか分からないよ?」
「いやお前は分かるんかい! まあ3種類なら何となく予想は着くけども」
「『団長』だけの呼び出しだから、“
「いやだからどれだよ静!? ってかその言い方だと4種類目だな!?」
阿吽の呼吸が伝わり過ぎて訳の分からん会話になっとる。
まあ十年来の付き合いだし、それでも何となく分かってしまうんだが。
確かに『団長』の魔法は人探しに向いてるし、
「ああ、今日は
「「「「「「──────!!」」」」」」
現在の
まあ、俺達は先に進むよりも
と言っても、許可が出るのは
……しかし、【ロキ・ファミリア】より一足先に51階層に行くとしたら、もしかしたら
結局、58階層までの情報が“解禁”されたが、今からすぐに準備しても【ロキ・ファミリア】の『遠征』と被ってしまうのですぐに『遠征』に行く訳では無かった。
いや、別に仲悪い訳じゃないんだけどね。ホントだよ?
ただレベル的な意味で滅茶苦茶意識されてて、俺達と『遠征』すると自分達の実力で潜った気がしないらしいからね、しょうがないね。
確かこの時はまだベル君は