英雄(ベル・クラネル)を嫌いになるのは間違っているだろうか


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作:カゲムチャ(虎馬チキン)
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17 強化中


「ハァアア!!」

「━━━!?」

 

 羊の骨のようなモンスターに対して、怪人となったスピネルが天然武器のナイフを振るう。

 モンスターもどきとなったためか、わざわざモンスターから奪わなくとも、迷宮はスピネルに天然武器を与えてくれるようになった。

 

 それを使って羊骨モンスター『スカルシープ』に斬りかかる。

 数度の攻防の末に首を跳ねて打倒し……抉り出したスカルシープの魔石を食べた。

 ガリガリと砕いて飲み込む。

 それによって、体感できるほどに力が増した感覚があった。

 

「コホッ……」

 

 モンスターは他のモンスターの魔石を食らうことで強くなり『強化種』と呼ばれるようになる。

 怪人も同じ芸当ができるので、最近のスピネルは魔石を食らって地力を上げることを優先していた。

 あの赤髪の女性怪人『レヴィス』のように、穢れた精霊の生み出したモンスターの魔石を食べていれば、別に戦わなくても強くなれるし、実際提供される魔石も食べている。

 だが、スピネルは戦闘経験を蓄えるためにも、自力調達を積極的に行っている。

 本人曰く『錆びついている』そうだが、それでも歴戦の戦闘経験を持つレヴィスと違って、スピネルは技術的な積み重ねが圧倒的に足りていない。

 スペックだけ高くて技量の伴っていない木偶の坊にはなりたくないのだ。

 

「『ファイアボルト』!!」

「「「グキャアアアア!?」」」

 

 続いて集団で纏まっていたリザードマン・エリートを、魔法モドキで砲撃。

 強烈な火炎放射で弱って怯んだところに、接近してナイフで首筋を斬り裂く。

 絶命したら魔石を抉り出して食らった。

 

「コホッ、コホッ」

 

 魔石を食らうことによる強化は、冒険者が経験値によって恩恵を育てるよりも遥かに効率が良い。

 あれだけ頑張ってもレベル1の中堅にしかなれなかったスピネルが、今ではレベル3ほどの強さに至っている。

 闇に墜ち、怪人としての強化をし始めてから、まだ一ヶ月ほどしか経っていないのにだ。

 なるほど、これがズルをして強くなる感覚かと、スピネルはようやくベルの見ていた世界を垣間見た気分だった。

 

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ」

「どうやら、あまり調子は良くないようだな」

「あ、レヴィスさん」

 

 自己強化に励むスピネルのところに、赤髪の先輩怪人レヴィスが現れた。

 なお、現在地は選ばれたひと握りの強者しか足を踏み入ることのできないダンジョンの『深層』の入り口、37階層である。

 こんな人外魔境で気安く会えるのも、こちらから仕掛けない限りは怪物が積極的に襲ってくることのない人外側になったからこそだ。

 

「相変わらず無茶をしているようだな。悲願とやらを達成する前に死ぬつもりか?」

「大丈夫ですよ。生殺与奪の権は彼女(・・)に握られてるんです。死ぬほどの無茶は物理的にできませんから」

「……奴の呪縛をセーフティーネットに使う奴は初めて見た」

 

 レヴィスは呆れたような目でスピネルを見た。

 おかしな後輩だ。

 まあ、もう一人の怪人のように陰気になられるよりは良いが。

 

「見ていたぞ。それなりに強くなったな」

「後先を考えなければ、もっと行けますよ」

「命を削るような戦法は、ここぞという時にしか使わせてもらえないだろう。そんなものを勘定に含めるな」

 

 スピネルの怪人としての適性はそう高くはない。

 身の丈に合わない外付けの力に体がついてきておらず、桁違いの再生力を誇る怪人のくせに、魔石をドカ食いした後は苦しげに咳をする。

 力を全解放なんてしたら、あっという間に死にかねない。

 それどころか普通に生きているだけでも命をすり減らし、レヴィスのように寿命を超越して永遠を生きるどころか、人間(ヒューマン)の寿命を全うすることすら叶わないだろう。

 それでも穢れた精霊にとっては貴重な駒の一つだ。

 そう簡単に使い潰してはくれない。

 

「それより、そろそろロキ・ファミリアがクノッソスに攻めてくるという話だ。お前もその戦いに参加しろ」

「わかりました。私も対人戦の経験が欲しかったので、渡りに船ですね」

 

 現在、穢れた精霊の眷族である怪人達は、オラリオを滅ぼすための計画を進めている。

 『エニュオ』と名乗る協力者の橋渡しで、かつてオラリオを恐怖のドン底に突き落とした『闇派閥(イヴィルス)』の残党と手を組んで。

 その闇派閥の拠点にロキ・ファミリアが攻め入ってくるらしいので、計画の邪魔になる彼らを、この機会に叩き潰せという命令。

 

(気合い入れていこうか)

 

 この計画は、スピネルにとって舞台作りだ。

 英雄を無惨に殺すための舞台。

 加えて、準備段階の間に対人戦の経験を積まなければならない。

 ベルを実績で追い抜くのではなく、直接的に打倒すると決めた以上、対人戦の経験は是が非でも欲しい。

 舞台作りと、自己強化。

 二つの目的を果たすためにスピネルは猛り、積極的に動いてくれる眷族の様子を察して、穢れた精霊はご機嫌になった。

 

「待っててね、ベル……!」

 

 憎悪が募り過ぎて、一周回って恋い焦がれるように頭から離れなくなった少年の顔を思い浮かべながら、スピネルは歪な笑みを浮かべた。

 彼の情報は逐一仕入れている。

 見た目は人間だった頃と変わらない姿を活かして、18階層の『リヴィラの街』で情報屋に依頼して。

 

 スピネルが怪人として強さを求めていた一ヶ月で、またベルはランクアップした。

 派閥同士の抗争で中堅ファミリアの『アポロン・ファミリア』を叩き潰し、その時の戦いが偉業認定されてレベル3に至ったらしい。

 その時に他派閥から改宗(コンバージョン)してまで助けてくれた仲間がいたらしく、彼らがそのままファミリアに入って、現在のヘスティア・ファミリアはベルを含めて四人。

 レベル3に至ったベルに、レベル2が二人、レベル1が一人。

 もしも、今もスピネルがヘスティア・ファミリアにいたのなら、一の眷族なのにワースト2の下っ端になっているところだった。

 本当に、あいつはスピネルの尊厳を破壊するのが上手い。

 

 で、抗争の勝利によってアポロン・ファミリアの立派なホームまでも接収し、ベルはそこで仲間達に囲まれて楽しくやっているそうだ。

 しかも、この世で唯一、スピネルの幸せな思い出が残るあの廃教会は、その抗争で破壊されてしまった。

 その情報を聞いた時、信じられない、信じたくないという気持ちで、顔を隠しながら廃教会に行ってみたが……誤情報ではなかった。

 ヘスティアと二人で笑い合えていた思い出の場所が、完全に崩れてただの廃墟になっていた。

 本当に、あいつはスピネルの尊厳を破壊するのが上手い。

 

(でも、それでいいよ。今は存分に、私を踏みつけにして得た幸せに浸ってると良い)

 

 どうか幸せになってくれ、ベル・クラネル。

 幸せであればあるほど、それが崩れた時の絶望は大きくなるから。

 そのことを、スピネルは誰よりもよく知っているから。

 だから、幸せに浸って待っていてほしい。

 スピネルがその全てを踏みにじり、君が泣き叫びながら生まれたことを後悔することになるだろう、その時を。

 

「うふふ」

 

 ダンジョンの奥底で、壊れてしまった少女が嗤う。

 悪意に満ちた悲願を果たす、その時を夢見て。

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