嫉妬の冒険譚


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作:凪 瀬
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14話 後輩とサポーターと盗人と


先日は毎日更新出来なくて申し訳ないです……リリルカ編は何かと関わらせずらく、筆が進まない状況でした。多分、次か次の次くらいの話でサクッと終わります。
今後は不定期更新の予告が仕事をし始めるかと思いますが、気長に待っていただければ幸いです!


 シルバーバックの戦いから数日が経過した。

 都市は未だ完全に元通りとまではいかないが、日常を取り戻し穏やかな喧騒が響いている。

 魔物が現れ、家屋を破壊しても直し、強くし、備える。逞しい都市の住民には頭が下がる思いだ。

 

「ん、あれは……」

 

 ダンジョン探索の為にダンジョンへ向かっていると、見知った白髪の後ろ姿と、見覚えのない大きなバックパックを背負った小さな背中が歩いていた。

 

「やぁ、ベル君。おはよう」

「ズィーヤさん!おはようございます!」

 

 いやぁ、朝から元気でいいね。挨拶もしっかりできるのは良い事だ。

 シルバーバック戦の後からはあまり会ってなかったんだが、その間に随分と装備が変わっているな。

 体の急所を守る白の軽鎧に緑のプロテクター。腰にはヘスティア・ナイフと小さなポーチを携えて、一端の冒険者としての出で立ちになっていた。

 

「いい防具だね。【ヘファイストス・ファミリア】の新人作かな?」

「あ、はい!」

「ふーん……うん、ベル君のイメージとも合っているし性能も素人目には問題なさそうだ。いい買い物をしたね」

 

 へへっと嬉しそうに笑うベル君。

 余程この防具を気に入っていたのか、褒められてご満悦と言った表情だ。ん〜純粋。

 さて、俺達が話している間、ニコニコと薄っぺらい笑みを浮かべながら一言も話さない彼女にも挨拶しようか。

 

「おはようございます。挨拶が遅れて申し訳ありません。私は【メガイラ・ファミリア】のズィーヤ、ベル君の友人です」

「これはご丁寧にありがとうございます!私はベル様のサポーターをしています【ソーマ・ファミリア】のリリルカ・アーデと言います!ズィーヤ様、おはようございます!」

 

 ニコニコと人好きのする笑顔を浮かべて挨拶を返してくれるリリルカさん。低身長に見合った幼げで可愛らしい笑顔は見た人の心を穏やかにしてくれることだろう。

 そのにこやかに細められた瞳の奥で、俺の事を見極めるようで見下しているという事実がなければだが。

 何かと評判の悪い【ソーマ・ファミリア】、そして様々な評価に偏見、批判があるサポーターという立場。見た目相応な子供か小人族(パルゥム)か……成程、予想通りなら冒険者を見限るには十分すぎる要素だな。

 まぁ、ベル君のサポーターとして活動しているなら、今の俺がなにかする必要はなさそうだな。彼自身はサポーターへの偏見どころか、悪性という悪性すらない夢見がちなだけのお人好しだ。

 冒険者を見限り夢を見れない澱んだ彼女には、きっといい影響を与えるだろう。

 立ち上がり、リリルカさんに合わせていた目線をベル君へ合わせる。

 

「サポーターを雇ったということは、ベル君はより深い階層へ潜るのか?」

「はい!今は7階層を探索してます!」

「おぉ、既に俺よりも深く潜っているのか……とはいえ、油断するなよ。ダンジョンにおいて人を最も殺すのは魔物じゃなくて油断と慢心だからな」

「……はい。肝に銘じておきます」

 

 俺の忠告に真剣な表情で力強く頷くベル君。こういう素直さが彼が加速度的に強くなっていく所以なのかもしれない。

 ダンジョンのことは心配ないと思いつつ、人間関係……特に詐欺や盗みに対して、人を疑わないベル君の純粋無垢さは欠点になりうる。

 

「リリルカさん、ベル君はお人好しだから騙されないようにサポートしてやってくれると助かる」

「……はい!リリにできることなら何でもしますよ!」

 

 元気な返事を返すまでに微かな間があった。一体どんな感情が渦巻いていたのかは想像できないが、一先ずは信じることにしよう。

 

「ズィーヤ様、お願いという程のものでもないのですが……よろしいでしょうか?」

 

 するとリリルカさんから俺に一歩近づいてきた。

 初対面の俺に一体何をお願いするというのか、多少疑問に思わなくもないが聞いてみないことには始まらないよな。

 

「なんだい?」

「リリの事はりりと呼んでください。敬語も不要です。リリルカさんだなんて、冒険者様に付けられると他の方から勘違いされてしまいます」

「……そうか、リリル……リリがそういうのならお言葉に甘えよう」

 

 他の方から、ね……具体的な立場を言っていないのは、意図的なのか俺ならわかるという信頼なのか……はたまた深読みか。

 感情の読めない瞳を隠した笑みは答えることは無かったが、それすらもリリの処世術なんだろう。

 気になるところもあるが、今日会ったばかりの俺が踏み込み過ぎるのは違うだろう。

 

「それじゃあ2人とも、お互い頑張って探索しよう」

「あ!あの、ズィーヤさん」

「ん?どうしたんだいベル君」

 

 2人から別れて一足先にダンジョンへ向かおうとした時、ベル君に呼び止められる。

 

「その、ズィーヤさんさえ良かったら何ですが……一緒に探索してくれませんか?」

 

 思ってもみなかった共同探索のお誘いに思わず目を瞬かせてしまう。

 リリも驚いていた様子だから、多分今思いついて突発的に相談したんだろうな……

 

「その、リリル……リリともついさっき会って雇ったばかりなので色々と不安で……どうでしょうか?」

「んん〜……」

 

 別に断る理由は無い。

 ベル君とは知らない中では無いし、シルバーバックの件で彼の強さもある程度理解している。

 リリのことも気になっていたところではあるから断る理由はないんだか……どうしようか。

 ポーションの類は持ってないし、俺はソロの経験しかない。リリと初めての探索なら数が多い方がいいか?いや、逆に互いを知るために2人っきりの方が……?

 

「……すまないベル君、誘ってくれたのは嬉しいんだが、今回は断らせてもらうよ」

「そうですか……」

 

 うわ、そんなあからさまに残念がらないでくれよ罪悪感で胸が痛い……

 

「勘違いして欲しくないんだが、ベル君と探索するのが嫌な訳じゃないんだ。ただ、7階層には行ったことがないし、俺は基本ソロだ。連携は勿論経験がないし、初めての階層だと足を引っ張ってしまう可能性もある。先ずは、パーティでの探索になれてるはずのリリからパーティ探索について教えて貰って見たらどうだ?」

 

 俺がそこまで説明すると、ベル君も感心したように惚けた様子で口を開けている。リリも納得したのか、しきりにふむふむと頷ずいていた。

 2人とも納得した様子だったので、改めて2人から別れてダンジョンへ向かう。

 断った理由は全て事実だが、実際は大した問題じゃない。連携なんて道中で確認すればいいし、7階層だった予定も6階層までにすれば問題はなかった。

 なんなら、調べる限り7階層でもパーティでなら俺は問題なく戦えるだろう。

 だが、やはり俺は1人で探索したい。ポーションの類を持ってきてなくて、準備不足な俺では、2人が不測の事態に巻き込まれた時に対処しきれないし、ベル君にはリリから様々なことを教えて貰って欲しいとも思っている。

 いや、やはり俺も行くべきだったか……?パーティはいつか経験しておかなきゃならないだろうし……いや、でも今回はベル君とリリなら2人だけの方がいいと思ったんだもんな……俺の直感を信じるとしようか。

 ダンジョンは今日も変わらず、先の見えない深淵に繋がっていた。

 

 

 

「断られちゃった……」

「ズィーヤ様の仰っていたことにも一理あります。次は事前にお誘いしてみましょう。きっとお受けしてくれますよ」

「……そうだね。突然誘っちゃって悪いことしたかなぁ……」

 

 ズィーヤに共同探索を断れたことに肩を落とすベル。そんなベルをリリは慰め、次の機会に活かそうと励ましていた。

 パシンと軽く両頬を張り、気分を入れ替えるベルの姿に、リリは安心したといった表情を浮かべる。

 

「……ベル様はズィーヤ様とお知り合いだったのですね」

 

 改めてダンジョンへ向かうための確認を行う中、ポツリとリリがベルに問う。

 先程までベルに見せていた溌剌な様子はなく、疑問と微かな畏怖を持って硬い声だった。

 幸いにと言うべきか、ベルに畏怖の念が伝わることなく、純粋な疑問として受け取っていた。

 

「え?うん。困った時に何度も助けて貰ったんだよ!」

 

 ベルの純新無垢な笑顔に思わず目を細めてしまうリリ。

 冒険者は尽くサポーター(自分)を見下し、侮っていると考えているリリだが、ズィーヤと目が合った時には全くの逆だった。

 一切見下すことなく侮ることなく、寧ろ警戒して自分を見つめる青い瞳に、リリは恐怖した。

 【メガイラ・ファミリア】のズィーヤはちょっとした有名人だ。雑貨屋で起きた万引き事件を早期解決した立役者。悪事を許さない女神の眷属。

 しかし、それらの噂よりも、万引き犯に対する容赦の無さが有名となっている。

 分かっているだけでも鼻の粉砕と首の変形、血こそ流れていなかったものの後頭部を地面へ叩きつけられ意識不明の重症だったらしい。

 悪事に対して徹底的な制裁を下すその姿から、薄暗いことをしている冒険者や能力的弱者であるサポーターは彼のことを恐れている。

 当然、リリルカも噂を聞いていた時から恐ろしい冒険者だと危惧していた。だが、どこかで自分のことを侮って、舐めて、油断してくれるだろうと考えていた。

 実際は、全くもって楽観的で都合のいいリリの思い違いだったわけだが。

 

「(……もし、もし今までの盗みが彼にバレたら……私は、一体……)」

 

 自分を見つめる瞳を思い出して、ゾワリと背筋が泡立つ。

 侮らず、油断せず、容赦なく、無慈悲に。ボロ雑巾のように骨を砕かれ、裏路地に打ち捨てられる自分の姿を幻視する。

 そして、そんな自分を見つめる無機質な青い瞳を──

 ベルの前で震えだしそうになる体を必死に押さえつける。所詮、妄想。

 そもそも、盗みがバレた時点で誰であっても自分はそうなるのだ。ズィーヤだけが特別なわけじゃない。

 冒険者にバレた時点で終わり。今までと何も変わらない。

 なんなら、今回はこの人の悪意を知らなさそうな純朴な少年だ。盗まれたことや騙されたことにすら気づかないだろう。

 彼だって、どうせ自分のことを侮って、舐めて、下に見ている。どこにでもいる冒険者なのだ。

 リリの胸中をドス黒い憎悪とも呼ぶべき嫌悪が渦巻く。白髪の少年を見つめる瞳は光を返さず、無機質だった。

 

「じゃあ、僕たちも行こうか!」

「そうですね!ズィーヤ様から頼まれた通り、リリがベル様をしっかりサポートします!」

「うん!頼りにさせてもらうね!」

 

 ベルの様子に僅かに身動ぎする。

 純粋に頼りにされるというのは経験がない。いつだってサポーターとしてサポートするのが当然で、感謝なんてされたことも無いし、頼りにしているなんて言われたこともない。

 むず痒い信頼に顔を顰めたくなりながらも、リリは天真爛漫な笑顔を貼り付ける。

 

『ベル君が騙されないように──』

「(──それをリリ(サポーター)に頼むのですね。貴方は)」

 

 2人は並んでダンジョンへ潜って行く。

 それぞれの思惑と思考が巡る中で、ダンジョンは無表情に大口を開けていた。

 

 

 

「ん〜……今日もいい具合の稼ぎだったな」

 

 金の入った皮袋を手慰みに弄りながら歩く。

 1階層から5階層までをほぼ戦闘無しの最速で進み、6階層でひたすらウォーシャドウを相手に連戦を続けた結果、普段よりも3割ほど多い収入となった。

 ポーションを持った強行とは違い、避けること、受け流すことに重きを置いて連戦することで、耐久は伸びないがほぼ無傷での探索終了となった。

 強くなりつつ収入も増える……オマケにウォーシャドウは二足二腕な為人間との戦闘経験値も溜められる。これほど今の俺に相応しい魔物はいない。

 ただ、要求量が増えたな。

 1体、2体では戦いにならないし、逆に多すぎても対応しきれない。大体4体、5体くらいを同時に相手取ってなら適正だろうか?

 そう考えると、早めに7階層へ降りるか?ベル君も降りているそうだし……いやいや、ベル君が大丈夫だから俺も大丈夫という保障はないし、俺では手数が足りない。

 7階層から出現するキラーアントは瀕死の時、フェロモンを出すことで仲間を呼ぶ習性がある。

 倒したキラーアントにトドメをさせておらず壊滅するなんて話は枚挙に暇がない。

 仮に降りるなら、不測の事態に備えて俺と同じか少し弱いくらいの仲間、あるいは放出系の魔法を使うことができる仲間がいるな。

 と、なると……やはりもう暫くは6階層で鍛錬兼探索だな。

 俺が今後の探索予定を考えていると、路地の方から破裂音が聞こえた。

 都市の中で、穏やかじゃないな……音のした方向に走っていくと、ベル君がリオンさんの手を握り締めて感謝している様子だった。

 

「ベル君にリオンさん、あと『豊饒の女主人』の……」

「シル・フローヴァと言います」

「ズィーヤ・グリスアと言います。皆さんはこんなところで何を……?」

 

 話を聞いてみるとベル君がヘスティア・ナイフを落としてしまい、それをリオンさんが見つけてベル君に渡したところらしい。ヘスティア様から貰った大切な武器を落とし、この世の終わりのような絶望をしていたベル君にとって、リオンさんは正しく救世主だったようだ。

 

「そういうズィーヤさんは、何故こちらに?」

「こっちから何かの炸裂する音がして、様子を見に来たらリオンさん達がいたって感じです」

 

 俺の説明を聞いて、チラリとベル君に視線を向けてから俺に耳うちをしてくるリオンさん、接触を嫌うエルフにとってこの距離はセーフなんだろうか?

 

「……クラネルさんのナイフは盗まれていたようです」

「なんですって」

「ナイフを持っている人物が逃走しようとした為、リンゴを投げつけてナイフを回収したのですが……炸裂音というのは恐らくその音です」

「成程……それで、その盗人は?」

「分かりません……犯人だと思っていた人物はクラネルさんのお仲間で、種族も違う。盗人とは別人のようですし……」

 

 ベル君の後ろを見てみればフードの外れたリリの姿があり、俺と目が合うと怯えたように隠れてしまった。俺、そんなに怖がられるような顔してた?

 とはいえ、ベル君のナイフが盗まれるとは……【ヘファイストス・ファミリア】の作品ともなれば高く売れるだろうが、ベル君のヘスティア・ナイフはベル君以外が持てば(なまくら)以下だ。それほど価値は無い。

 更にいえば、抜き身の状態で盗まれていたようだし、盗人はベル君が使うナイフの切れ味を知っていた可能性がある。

 となれば犯人は……思わずリリに向けようとした目を額を小突くことで阻止する。

 あまりにも早計な判断だ。そもそも腰に着いていた鞘が抜けなかった可能性やベル君とシルバーバックとの戦いを見て切れ味を知った第三者の可能性だってある。

 そもそも、リリと種族が違うのならば選択肢に入る余地がない。

 

「……分かりました。こっちでもその小人族(パルゥム)について探っておきます」

「えぇ、その方がいいでしょう。今後も、彼の武器が狙われないとも限らない」

「他の被害者がいる可能性もありますね……気休めにしかならないかも知れませんが【ガネーシャ・ファミリア】にも伝えておきます」

 

 俺とリオンさんが話している間に、どうやらベル君とリリの間で正式雇用の話が纏まっていたようだ。

 ベル君に仲間が増えることは喜ばしい。是非、これからも頑張ってダンジョン探索を頑張って欲しいものだ。

 

「では、私達も失礼します」

「本当に、ナイフの件ありがとうございました!」

「いえ、お気になさらず」

「またお店に来てくださいね、ベルさん」

 

 リオンさん達が去っていき、俺たちだけが夕焼けの都市で立ち尽くしていた。

 

「それじゃ、俺も帰るとするよ。帰り道には気をつけてなベル君、リリ」

「はい!ズィーヤさんも気をつけて」

「お心遣いありがとうございます!」

 

 2人に手を振って帰路に着く。

 さて、彼ら2人の冒険は吉と出るか凶と出るか……神のみぞ知ると言うやつかな。

 帰り道に眺める都市は変わらず、喧騒に満ちた日常を続けていた。




感想、評価、誤字脱字報告ありがとうございます!
評価が赤になって驚いておりました作者です。
ズィーヤ君の冒険や関わり、成長が多くの人から認めていただけているようで、誇らしく喜ばしい限りです!
これからも面白いものを書けるよう頑張っていきたいと思います!
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