嫉妬の冒険譚


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作:凪 瀬
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11話 祭りと猿と弱さ『後編』


何とか書き上げた後編、個人的には納得の出来です。
感想、評価、誤字脱字報告、お待ちしております!


 屋根の上を駆ける。

 所々に大きな生物の足跡が残っており、シルバーバックが向かった方向を示してくれている。

 ベル君を助けるためとはいえ、これは完全に職務外かつ無謀な行動だ。

 避難誘導を指示され、接敵時は自分と周囲の人命を優先するよう言われているのに、俺は自分の意思で命を賭けようとしている。

 エィラさんや神様に知られたら怒られるんだろうなぁ……背中ゾワッとした。

 

「──ァ!」

「……近いな。そろそろ姿が見えるか?」

 

 魔法によって槍を槍を準備する。

 剣では切れない、ナイフは短い、槌では弱い、弓では柔い、ならば急所を槍で貫くしか方法は無い。

 魔物の絶対的急所、魔石。

 冒険者にとっての収入源であり魔物にとっての弱点であり、格上殺し(ジャイアント・キリング)のための活路。

 一際高い建物を飛び越え、開けた視界でシルバーバックを探す。

 屋根の上にはいない様子だった。正確には、俺の立つ屋根と同じ高さの場所には、か。

 耳を澄ませると、下道の方向から軽い足音がする。屋根から下を覗き込めば、何かの包みを抱えて駆けるツインテールの女神様が居た。

 逃げ遅れ?いや、この方向はシルバーバックのいる方だし、迷ったという感じでもない。何かを探している?この状況で何を?

 いや、考えるのは後か、まずは保護と避難。シルバーバックはそれからか。

 

「そこの女神様!早く避難を!その方向には魔物がいます!」

 

 俺の声に肩を弾ませた女神様はキョロキョロと周囲を見回し、屋根の上に立つ俺に気づく。

 

「ごめんよ!どうしてもこれをベルく……ボクの眷属()に渡さなきゃならないんだ!あの大猿に追われていて……君!どっちに行けばいいか教えてくれないかい?!」

「ベル……女神様!その眷属とはベル・クラネルでしょうか!」

「ベル君の知り合いかい?!それなら話が早い!ボクをベル君の元へ連れて行ってくれ!あの子は今あいつを倒すための武器がないんだ!」

 

 空のような青い瞳を大きく見開きながら頼んでくる女神様。

 武器がない、ボクを連れて行って……つまり包の中身は武器。だが、『倒すための』?ベル君にシルバーバックを打ち倒すだけの能力があると?

 ありえない。俺よりも後に冒険者になり、ミノタウロスから逃げている時のベル君には光るものはあっても急成長するほどの才能は感じなかった。

 仮に才能があっても、この短期間で急成長するはずがない。

 とはいえ、神がこの状況で嘘をつくか?自分から危険な場所に向かうほど?

 確かに神は死なない。だが、下界から天界に送還され、帰ってくることは無い。故に、神は危険な戦場に自分から飛び込むことはない。

 では、ベル君のことに対して贔屓目で見ている?

 可能性はあるだろう。だが、神は眷属のステイタスを更新している。

 つまり、眷属の強さを誰よりも知っていると言える。

 女神様は子供っぽく見えるが、目には確信と理性を感じる……信じるのも、一つの手か……。

 俺では確実に倒せない。力も知識も技能も足りない。

 ベル君はどうだ?女神様の話を信じるなら倒せるだけのステイタス、あるいは技術がある。

 包みの中にある武器があれば、シルバーバックを倒すことが出来るのか……

 

「……ベル君か俺が死んだら恨みますからね女神様」

「あぁ!好きなだけ恨んでくれていい!だけど安心してくれ、ベル君は負けないからさ」

 

 女神様の前に(かが)み背を向ける。

 

「乗ってください。最速でベル君の所へ向かいます」

「……あぁ!頼んだぜ!冒険者くん!」

「ズィーヤです。女神様は?」

「ボクはヘスティア!ベル君の主神にしてベル君のよm」

「じゃあヘスティア様、行きますよ!」

 

 ステイタスをフル活用し屋根へ飛び上がり一直線に駆ける。

 屋根をかける俺とヘスティア様にの耳に、大猿の咆哮が聞こえた。

 

 

 

パキッ

「っっ!」

 

 シルバーバックとの何度目かの攻防。

 ベルの握る泥色のナイフが砕け、シルバーバックの攻撃が直撃する。

 

「ぐはっ!」

 

 紙屑のように瓦礫に吹き飛ばされ、僅かに吐血するベル。

 幾度かの戦闘、逃走を経て体力が削られ続けた中での攻撃の直撃は、ベルに生存を諦めさせるには十分だった。

 いや、ベル・クラネルにとって唯一の家族だったヘスティアを逃がせた時点で、ベルに生存意欲はなかったのかもしれない。

 

「うまく、逃げてくれたかな……神様……」

 

 背中から走る痛みに悶えそうになりながらも、路地から見える青空に主神との出会いを、生活を、笑顔を思い出し呟くベル。

 そこに死に対する恐怖はなく、諦めと満足感があった。

 

「……今度は、来てくれないよね、アイズさんも……もう一度会いたかったけど。良かったのかもな……。また、こんな姿見られずに済んで……」

 

 思い出すのは金色に煌めくその背中と、自身を見つめる妖精のような美貌。

 かつての命の恩人であり憧憬。

 過去、命の危機に駆けつけて助けてくれた彼女も、今回は助けに来ることは無い。ベルにとっても、分かっていたことだった。

 彼女と会いたいという未練。だが、それさえもベル・クラネルを生にしがみつかせるには足りなかった。

 

「さようなら、神様……」

 

 目と鼻の先に迫る魔物の恐ろしき容貌。

 最後に、自身の愛する主神が逃げ延び、生き残れたことを信じて諦めと共に目を閉じた。

 

「ベル君!!!」

「オラ!クソ猿!!こっち向けぇ!!」

「グオォォ!」

 

 自身を呼ぶ声と打撲音に目を見開く。

 聞きたかった声、聞きたくなかった声、何故、どうして

 ベルの脳内で様々な言葉が反響しては消えていく。もしかしたら、自分は死ぬ間際に夢でも見ているのではないかとすら疑ってしまう。

 ベルの体に抱きつくヘスティア、その熱と締め付ける腕の力によって、ようやく現実であると認識して思わず怒りが込み上げる。

 

「なんで来ちゃうですか、神様ぁ!」

「グゴガルォォ!!」

「テメェの相手は俺だよ猿野郎!!」

 

 ベルとヘスティアに殴りかかろうとするシルバーバックを泥色の槍が穿つ。

 無理矢理逸らされた腕は直撃こそしなかったが、傷ついたベルと零能であるヘスティアを纏めて後ろに転がすには十分だった。

 咄嗟にヘスティアを抱き抱え、後ろにあった階段を転げ落ちる。

 ベルの全身を鈍痛が襲うが、そんなことよりも主神の怪我の方が心配だった。

 と、そんな2人に階段上からシルバーバックと相対するズィーヤが声をかける。

 

「ベル君!ヘスティア様!俺がしばらくこの猿の相手しておきます!準備できたら決めてください!」

「すまない!頼んだよズィーヤくん!」

「そんな、危険すぎますズィーヤさん!」

「冒険者なら冒険してナンボだろ!覚えておけ、ベル君!!」

 

 ハハハハッ!という高笑いと共にシルバーバックへ駆けるズィーヤ。

 手にした槍を持って石突きや穂先で深く刺さないよう、ヒットアンドアウェイを意識しながら周囲を走りシルバーバックを混乱させる。

 振り回された剛腕を下に掻い潜ることで避け、両腕の振り下ろしは横に避け前に突っ込むことで回避と同時に連続した突きでダメージを与えていく。

 チョロチョロと周囲を走り、自分に痛みを与えるズィーヤを鬱陶しく思ったのか、本来の目的である女神(ヘスティア)を狙うべきと考えたのか、壁を伝い屋根へ飛び乗ろうとするシルバーバック。

 

「グゴァッ!!」

 

 飛ぶために力を加えた己の足に痛みが走る。

 予期せぬ痛みに思わず咆哮し、左足の甲を見る。

 甲には泥色の槍が突き刺さっており、貫通こそしていないものの、肉や皮の少ない骨の隙間を狙って突き刺さっている。

 泥色に染った槍は、確かな痛みをシルバーバックに与えた。

 

「どうした猿。その調子じゃ、俺でも殺せちまうぞ?」

 

 新たな槍を生み出しながら、感情の伺えない瞳で己を睥睨する人間(ズィーヤ)

 憤怒を宿す獣の眼光がズィーヤを見据え、迸る怒りのままに刺さった槍を砕き、泥に還す。

 神に与えられた願いこそあれど、それはこの矮小な存在を潰してからでも問題は無い。

 知性ではなく、本能と感情から「この人間を殺す」と決めた。

 

「グゴアァァァ!!」

「来いっ!!」

 

 一直線に突っ込んでくるシルバーバックと、地面を踏み締めて槍を構え、カウンターを狙うズィーヤ。

 圧倒的な体格差とステイタスの差がありながら、相対する気迫に一片の違いも無い。

 突進し勢いのまま振り下ろされる拳を全速力の突貫によってギリギリの間合いで回避し、シルバーバックの胸に向けて槍を突き出す。

 

「グルガァ!!」

「っチィ!!」

 

 泥色の槍は確かに肉を穿ち、シルバーバックに致命傷となる一撃を与えた。

 しかし、魔石にまでは届かず、筋肉の収縮をもって泥の槍は耐久値を超えて魔力の泥へと変わった。

 絶好の機会、そこで決めきることのできなかったズィーヤにはこの超近距離からトドメを刺す術がない。

 痛みがありながらも、自身を殺すことの出来なかったズィーヤへ確かな嘲笑を向けるシルバーバック。

 両手を組み、自身の足元で固まっているズィーヤへ最速で振り下ろす。

 地面を放射線状に砕き、周囲の家々を揺らすほどの力。

 Lv2であっても当たってしまえば死は免れない圧倒的な膂力と、油断も慢心もない全力の一撃は周囲に深い砂埃を巻き起こした。

 しかし、その中心にいたシルバーバックはまるで手応えがなかったことに言い知れぬ恐怖を感じ、体を固めてしまっていた。

 

「ちっ、殺せると思ったんだが……そりゃそんだけ筋肉があったら泥の槍じゃ無理か……」

 

 声の聞こえた方へ向けて腕を振り払う。

 巻き起こされた突風で砂埃が晴れる。

 砂埃の向こうには体を汚しながらも目立った傷を負っていないズィーヤが立っていた。

 

「できるなら殺してやりたかったんだが……精神力もないし、本来の道筋通りベル君に任せるとしよう。じゃあなクソ猿。テメェの最期はしっかり見届けてやるよ」

 

 そう言ってベル達の転がって行った階段を駆け下り、少し先で会話していた2人と合流する。

 暫し呆然とした様子だったシルバーバックは、誰もいなくなった路地で怒りのままに咆哮し、ヘスティアとベル、何よりズィーヤを追っていった。

 

 

 

「──というわけで、アイツの胸元に致命傷を与えたし、足にもある程度ダメージを与えてあるから、幾らかは弱体化してるだろう。だが、俺じゃトドメを刺せなかったし、精神力もすっからかんだ……だからベル君、後は任せたよ」

「……はいっ!」

 

 うん、いい顔をするようになった。

 神聖文字(ヒエログリフ)を刻んだ黒いナイフ──ヘスティア様曰く《ヘスティア・ナイフ》──を胸に抱き、不安げながら、小さな覚悟を決めた顔だ。

 手も足も出なかったシルバーバックに勝つため、この土壇場でステイタスを更新する。

 刻一刻と近づいてくる破壊音、時折聞こえる呻き声は俺の与えた痛みからかか、俺への怒りか……まぁ、ここから先は俺の出番は無い。

 ちゃんと見てるよ、ベル君。

 離れた戦場が一望できて、戦闘から離れた場所を陣取る。

 ベル君とヘスティア様は、広場の一番奥にある壁の後ろでステイタスを更新し、互いに一言二言交わしている様子だ。

 そこそこ離れたここでは、その全てが聞こえる訳では無い。だが、会話の節々から2人の良好な関係性と繋がりあった思いが伺える。

 

「……いい神様じゃないの」

 

 広場の壁が崩れる轟音が響く。

 シルバーバックは胸から血を流し、微かに足を引き摺りながら広場に足を踏み入れる。

 鼻息荒く周囲を見回し、屋根の上で見下ろす俺を見つけたのか怒りの籠った咆哮を上げる。

 いいのか?俺ばっかり見てて、お前にトドメを刺すのは俺じゃなくて……そこの兎少年だぞ?

 シルバーバックの咆哮を開戦の合図とし、ヘスティア様に背中を押されてベル君は駆け出した。

 ヘスティア・ナイフは『生きている』。所有者であり使用者であるベル・クラネルが成長するごとにナイフ自体も強くなり、ベル君以外が使えばなまくら以下の骨董品となる。

 正しく、『神のナイフ』眷属以外に使うことの出来ない神の持つ……いや、ヘスティア様の持つ強い愛ゆえに成立する武器だな。

 シルバーバックの薙ぎ払いによって振るわれる鎖を受け止めても傷付いた様子のないナイフ。

 その姿を見て、ベル君の瞳に一際強く光が差した。

 俺を超える速さで駆け、シルバーバックの装備を次々と切り裂いて行くベル君。

 

「信じるんだ、そのナイフをっ!」

 

 飛び回るベル君を捉えることも出来ずひたすら手を振り回し虚空を掴むに終わるシルバーバック、動く度に胸の穴から微かな血が漏れる。

 

「信じるんだ、ボクをっ!」

 

 空に張り巡らされた洗濯物を干している紐を掴み、勢いをつけ下降する。空へ伸ばした手はベル君を掴むことどころか、触れることすら出来ず、胸を切り裂かれる。

 俺の開けた穴からまた血が漏れた。

 

「そして……キミ自身を!!」

 

 構えたベル君と満身創痍なシルバーバック。

 どちらが優勢かを言うまでもないが、手負いの獣は何よりも恐ろしい。

 ナイフを構え直し、シルバーバックを見据えるベル君。同じく、眼帯を切り裂かれ、顕になった眼光でベル君を睨むシルバーバック。

 勝負は一瞬、シルバーバックの、胸から一滴の血が地面に落ちた時、両者は動いた。

 

「グオオオオオオオアアアオォオ!!」

「はァァァっ!」

 

 裂帛の気合と共に駆け出すベル君。

 聞いたものを恐怖させる咆哮を放ちながら腕を振り上げるシルバーバック。

 虚空を引き裂いたシルバーバックの拳。

 駆けた速度をそのままに、胸の穴にナイフを一直線に差し込むベル君。

 可視化された衝撃が、シルバーバックの背中から現れる。

 シルバーバックは胸にナイフを突き立てながら、ゆっくりと体を曲げ、倒れ込んだ瞬間に灰となった。

 

「──お見事」

 

 今まで避難せず、この戦いを観戦していた人々が歓喜の声を上げ、ヘスティア様が喜びの声と共にベル君へ抱きつく。

 周囲からの賛辞と歓声に慣れていない様子のベル君はアワアワとしつつも嬉しそうな顔を浮かべていた。

 さて、俺も労いの言葉をかけに行きま

 

「っっっ!!!」

 

 俺の座っていた屋根よりも尚高い屋根の上、遮蔽物が邪魔で見えにくいが誰か立っている。

 フードを被りっている……女?と背後にももう1人……こっちは確実に男だな。それもかなり体格がいい。

 背中に走った悪寒と不快感、ベル君と再会した時も感じたそれと同じ。

 つまり、アレがその原因……探るか?

 

「神様……?神様ァァ!!」

 

 ベル君の叫び声から下へと顔を向ける。

 見れば、ヘスティア様が意識を失いベル君にもたれかかっているようだ。

 何故、原因は?さっきのやつの仕業か?いや、今はヘスティア様が優先!

 

「ベル君!ヘスティア!は!?」

「ズィーヤさん、神様が、僕はどうしたら……!」

「落ち着け、まずは冷静に確認するんだ。呼吸は安定しているか?」

「……はい」

「よし、外傷がある様子は?」

「……無さそうです」

「苦しんでる様子も……無さそうだな。どんな感じで倒れたんだ?」

「えっと……僕に抱きついて、徐々に意識をなくして行った感じです」

 

 寝ている様子に徐々に意識を失う……睡眠不足、いやこの場合は過労か?だが、素人目じゃなんとも言えないな……。

 ともかく、今はヘスティア様を休ませる必要がある。

 

「ベル君、ヘスティア様を俺のホームへ連れて行ってもいいかい?」

「え、ズィーヤさんの……?」

「あぁ、兎に角今はヘスティア様を落ち着いた場所で安静にしたい。俺のホームなら空き部屋も清潔な布団も揃っている……どうだろうか?」

「お願いしますっ!」

 

 食い気味に頭を下げるベル君、余程ヘスティア様のことを大切にしているみたいだな。

 綻びそうになる顔を引き締めて、ヘスティア様を抱えたベル君を先導する。

 すいません神様、迎えに行くのは少し遅くなりそうです。

 

 

 

「あらあら……ヘスティアには少し悪いことをしちゃったかしら?」

 

 屋根の上から事の顛末を眺めていたフード姿の女──美神フレイヤ

 ベルの魂をより輝かせるため、今回の騒動を引き起こした張本人。

 背後に控えるは【フレイヤ・ファミリア】の団長にして都市最強のLv7【猛者(おうじゃ)】オッタル。巌の如き肉体と威圧感、睥睨する眼光は鋭く、厳かな光を湛えていた。

 

「……メガイラの所の眷属()は、私の視線に敏感ね……それも、凄く嫌がってる」

「……」

 

 フレイヤの言葉に目を閉じることで応じるオッタル。自分から意見を言うことはなく、女神の願いを叶えるために行動する。

 フレイヤが一つ『お願い』をするだけで、それを完遂する為に全力を尽くし、それまではひたすら控え、仕える。

 蠱惑的に微笑む美神は、嫌悪と不信の目を向けたズィーヤを思い出し、笑みを深める。

 

「……ズィーヤ……少し、欲しくなってきちゃ」

 

 ゾワリっっ

 フレイヤの背筋が泡立つ。

 控えたオッタルが目を見開き、虚空に向けて背負った大剣を構える程の殺気。

 美神フレイヤが向けられたことがないほどの濃密な殺気、その恐ろしさに冷や汗を流しながらも、出処の見当はついているため笑みを浮かべるフレイヤ。

 

「ごめんなさいね。貴女の忠告を無視することは無いわ……ちょっとした、冗談みたいなものよ」

 

 瞬間、殺気は解かれ元の静寂が戻る。

 神威と殺気の混じった圧。最強たるオッタルをして、冷や汗を垂らさずには居られない程の"重さ"

 

「……怖いわねぇ……女神の嫉妬は」

 

 青空を仰ぎ見て、フレイヤは零す。

 神界で1、2を争うほどに嫉妬深い女神の顔を思い浮かべ、その愛を一身に受けるズィーヤに少しだけ同情した。

 一陣の風が吹いた時、神と最強の居た場所には何一つ痕跡となるものは残っていなかった。

 

 

 

「……まぁ、いいでしょう」

 

 人々の声が飛び交う喧騒の中で、1人ベンチに座り窓から空を見上げるメガイラ。

 その場面は穏やかな美しさがありながら、メガイラの瞳は泥よりもなお深く濁っていた。

 瞬きを1つすれば元の美しい紫の瞳が周囲の喧騒を視界に収める。

 

「……ズィーヤは無事かしら」

 

 冷めた紅茶を飲みながら、メガイラは呟く。

 自身の無茶しがちな眷属のことだから、誰かを助けるために格上の魔物と戦い、ステイタスに関わらない技術だけで倒して「なんだ、意外といけるじゃん」とか言って帰ってきそうで……その姿がありありと浮かび、思わず重いため息をひとつ。

 理性的で冷静に見えて、感情的で頑固者な眷属は、誰かの為なら軽率に死にかけるためメガイラにとって心配の種であり、同時に誇らしい存在であった。

 

「……怪我なく帰ってきてちょうだいね」

 

 なお、その眷属はメガイラのことを後回しにして先に家へ戻り、他の女神の看病をしていることは……余談である。

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