嫉妬の冒険譚


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作:凪 瀬
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9話 ダンジョンと鍛錬と限界と


今回は戦闘回です。
拙い表現で分かりずらいこともあるかともいますが、温かく見守っていただけると幸いです!


 ダンジョン上層6階。

 3日ぶりとなるダンジョン探索は、全く同じ経路を使っていたとしても新鮮さと不気味さをもって俺を出迎えた。

 3日前より2割……いや、1割……5分増しくらいで恐ろしく見えるモンスターの数々、それらを一人、泥色の片手剣や槍を使って薙ぎ払い、打ち払いながら深く潜った今現在。

 エィラさんからも正式に許可を得て探索が認められた6階層は、俺の知らない未知の恐怖と異様をもって、先の見通し切れない闇という顎を開いていた。

 息を潜め、足元の小さな石にさえ気を配って進む。

 ステイタスの基準値は乗り越えることが出来たが、冒険者としては未だ初心者な俺では一瞬でも気を抜けば簡単に殺されてしまうだろう。まして、俺は独り(ソロ)だ。

 一瞬の油断、慢心、無茶な行動が死に直結する。

 上層1〜4ならば多少緊張を弛めても問題は無い。それが許せるくらいには地形が頭に入っているし、奇襲にも反応できるからだ。

 だが、5、6階層は違う。

 ギルドでの地図情報でしか知らない、未知の階層。駆け出し冒険者である俺にとっては深層と同じ程に不安と恐怖、そして期待に燃える階層なのである。

 

「……敵、3、二足……」

 

 泥色に染まった短剣を構えて、曲がり角に備える。

 二足歩行の魔物が3体。時折キキキという鳴き声がすることからウォーシャドウと仮定。

 爪と腕のリーチの長さから踏み込むのは危険だが、俺の槍の技術では恐らく一体倒して終わり。

 だったら、一番慣れた武器にするのがいいだろう。

 

「『深く望むは我が理想 未だ見えぬ羨望の果て 嫉妬に汚れた泥の理想 変われ、変われ、変われ 嫉妬を満たせ 羨望の道を駆けろ 不出来な理想(プロミコス・イデア)』」

 

 詠唱し、泥の形を変える。

 短剣に纏っていた泥が形を変えて刃渡り90cm程度の両刃の剣へと姿を変えていく。

 洞窟状のダンジョン上層では多対一という戦闘が起こり得る。

 パーティーで潜っているなら問題は無い。仲間と分断して各個撃破すればいいからだ。

 だが、ソロの俺に仲間はいない。じゃあ、どうするか。

 答え、無理やり一対一を作り出す。

 ウォーシャドウの1体目が曲がり角から姿を現した瞬間、腕を切り落とし、返す刀で首を落とす。

 1体目が突然魔石に変わり、後ろに控えていた残りの2体は俺の存在を感知して襲いかかってくる。

 飛びかかり、左右から振り下ろされる爪を前に転がることで回避する。

 立ち上がった時には相手は攻撃のモーションに入っていたため剣を投げることで相手全体の意識を剣に向けさせ、投げられた個体には無理やり防御させる。

 投げた剣を追いかけるように駆け、その長く強靭な爪で投擲された剣を防御した個体の頭部に膝を叩き込む。

 加速とステイタスの合わせ技によって頭部が陥没し、魔石を残して灰となった。

 足元に転がる剣を拾いあげ、直ぐに前転することで動揺から復帰した個体の攻撃を回避。

 

「キシャァー!」

 

 鳴きながら距離を詰めて突きを放つウォーシャドウ。

 魔物の強靭な肉体から放たれる突きは俺の目では捉えられない速度とリーチを持って俺の体を貫こうとするが、それは悪手だろう。

 ウォーシャドウの予備動作のタイミングで腰よりも低く体を折り曲げ、全力でウォーシャドウの体に向かって体当たりをする。

 攻撃の起こり、半歩片足を下げ地に足をつけていたウォーシャドウでは、俺の体当たりを回避できず、慌てて放った突きは速度も威力も大したことはなく、体を少し捻って回避する。

 ドンっ、という衝撃の後、体当たりの衝撃と衝突の瞬間突き出した剣がウォーシャドウを貫き断末魔と共に魔石に変わった。

 周囲を警戒し、魔物が居ないことを確認してから一息つく。散らばった魔石を回収して革袋に詰めてから探索を再開した。

 その後、特に特出することは何も無かった。

 程よく返り血に塗れ、魔力が帰還中になくならない程度に消費してから行きと同じように帰っていく。

 在り来りな、冒険者としての探索だった。

 

 

「おかえりズィーヤ。どうだった?久しぶりのダンジョンは」

「ただいま帰りました。そうですね……最初は新鮮でしたけど、2、3回戦闘すればなんて事ないいつも通りでしたよ」

 

 夕暮れ頃、ダンジョンから無事帰還し、ギルドで魔石を換金してから帰ってホームに帰ると、神様がソファで洗濯物を畳んでいた。

 今日の分の稼ぎをカウンター下にある金庫に入れ、神様と洗濯物を汚さないよう、離れた場所で軽鎧を外して手入れをする。

 元の色が分からないほどかかってしまった返り血を拭い、攻撃を防いだり受け流したりした箇所は砥石や簡易の手入れセットで整える。

 特に多用した篭手と膝当て、脛当ては入念に手入れと魔法による強化を施す。

 

「『深く望むは我が理想 未だ見えぬ羨望の果て 嫉妬に汚れた泥の理想 変われ、変われ、変われ 嫉妬を満たせ 羨望の道を駆けろ 不出来な理想(プロミコス・イデア)』」

 

 生み出された泥が篭手と膝当て、脛当てを覆い薄い膜を貼るように張り付いていく。

 ベル君のナイフに施した物と同じように、鉄色の防具を泥色に染めていく。

 

「……改めて見ても、貴方の魔法って反則よね」

「そうですね……流石に防具ともなると消費する精神力も多くなるんですが……逆に言えば、それだけで防具を半永久的に防御できますからね」

 

 泥色の防具は鉄の硬度ではなく、俺が望んだ通り鋼鉄の硬度を持っていた。鋼鉄との違いがあるとすれば、それが泥色であることぐらいだ。

 『不出来な理想(プロミコス・イデア)』泥による変化を現象としてカウントし、発動して変化した泥は耐久値が無くなるまで半永久に残り続ける。

 生成した物が全て泥色になったり、変えたい形や性質を強く想像したりする必要があるが、神さまの言うとおり反則気味の魔法だ。

 正直、冒険者じゃなくても防具に強化を施すだけで、金を稼ぐことは出来るのだ。

 ただ、それが俺の目指す生き方と著しく異なると言うだけで。

 

「『誇らしく生きろ』だったかしら?」

「あの無口な爺が耳にタコができるほど言ってた言葉ですよ。気がついたら、俺の生き方の目標になってましたけど」

 

 寡黙で客の接客も無骨。引き寄せられた眉といつも曲げられた口、シワだらけの顔だったせいで冒険者からも怖がられていた爺さんだった。

 俺も何考えてるか分かんなくて困ったもんだが、俺が悩んだり迷ったりした時は悩みを聞き出して、この言葉で締めくくっていた。

 刷り込みと言うべきか洗脳と言うべきか……いっそ呪いみたいに俺の心に刻まれた考えだ。

 

「とはいえ、誇らしくっていうのがよく分からないのでできてるかは不安ですけどね」

「ふふ、大丈夫よ。貴方が今のまま進んでいけば、きっとそれが誇らしい生き方になっていくわ」

「……ですかね」

「それじゃ、ご飯にしましょうか」

 

 今日はなんです……あ、じゃが丸くん。そりゃそうですよね。え?今日は味変なしのプレーン?そういえば6食分くらい味変してましたもんね。プレーンも久々に食べますね〜。

 

「「いただきます」」

 

 手を合わせて祈りを捧げる。

 今日のじゃが丸くんは神様の友神であるヘスティア様がバイトされている場所で買ったらしい。

 天界では必要に迫られなければ仕事しなかったらしいヘスティア様だが、下界に降りて可愛い眷属ができたらしく今は必死で働いているのだとか。

 

「案外、ヘスティアの眷属と貴方はもうあってたりしてね」

「どうでしょうね?世間は狭いとはいえ、そんな偶然ないでしょう」

 

 口についた油をペロリと舐め上げる神様、見せないように口元を手で隠していても隣に座っている俺には丸見えだ。なんだか、いけないものを見てしまったような……不敬っ!!!

 不純な感情を流し込むようにじゃが丸くんを頬張る。どんなときもじゃが丸くんの美味しさは変わらないな……ちょっと飽きてきたけど

 

「そういえば、ポーションが幾つか危なそうだから、明日使ってくれないかしら?」

「もうそんなに経ってましたか……分かりました。明日はちょっと長く潜ってきますね」

「えぇ、くれぐれも気をつけてね。ポーションなんかより貴方の方がずっと大切なんだから」

 

 心配そうな顔でこちらを見る神様、思わず抱きしめたくなるような可憐な表情なのだが、右手にじゃが丸くんを握っているせいで台無し気味だった。

 

「大丈夫ですよ。無茶をするつもりは無いですから」

「……それなら良いのだけど」

 

 少ししんなりとした油を纏うじゃが丸くんを2人隣あってモシャモシャと食べる。

 大皿に乗せられていた十数個のじゃが丸くんも2人がかりなら十数分で無くなり、油のカスが少し残った空の大皿となった。

 

「「ご馳走様でした」」

 

 今日の片付け当番は俺だったので、大皿を洗い乾かすための棚に置いておく。

 油物を乗せた皿は早めに洗わないと油のぬめりか取れない気がするから食べ終わったら直ぐに洗いたくなっちゃうよな。

 

「じゃあ、俺は鍛錬してきますね」

「それじゃあ私は先にお風呂貰うわね」

 

 短剣を握り、日課の鍛錬を行う。

 

「『深く望むは我が理想 未だ見えぬ羨望の果て 嫉妬に汚れた泥の理想 変われ、変われ、変われ 嫉妬を満たせ 羨望の道を駆けろ 不出来な理想(プロミコス・イデア)』」

 

 休み、飯を食べて回復した精神力を活動できる程度だけ残して魔法を行使する。イメージするのはリーチの長い槍。

 仮想敵は今日戦ったウォーシャドウ。

 明日の目標は、多対一でも同時撃破できるようになること。

 仮想敵の爪による突きと薙ぎ払いを槍によって弾き受け流す、右を石突きで頭部を打ち付け、反動をイメージして穂先を左に突き刺す。

 この程度ではウォーシャドウは倒せない。体勢が崩れたところで穂に近いところを持ち、穂先で付いた方にとどめを刺す。

 短剣のように突きを主体として首元、胴体に2撃ずつ叩き込み、背後に向けて石突きを薙ぎ払うことで攻撃をキャンセルさせる。

 薙ぎ払った時の勢いで持ち手を石突き間近まで引き伸ばし刃で胴体を一閃する。

 

「……長すぎた」

 

 勢いよく持ち手を動かしたせいか、刃ではなく柄の部分で殴ることになってしまった。威力と入り方から吹き飛ばすことは出来るが、理想としていた勝ち方は出来なかった。

 

「もっかいだな」

 

 その後何度もウォーシャドウと戦い、体力が無くなり槍も泥になった頃に鍛錬を切りあげ風呂に入る。

 神様はもう寝ているようだし、ステイタスの更新は明日でいいか……。

 

 

 

 ダンジョン6階層

 昨日と同じ装備、違うのは腰に取り付けたカバンに入れられたポーション6つ。

 昨日設定した目標である多対一で同時撃破を達成するため、6階層の広場の一つに向かう。

 道中にも魔物は現れるが殆どは一体。だが、これから向かう広場は魔物が産まれやすいのか集まるのか分からないが、多くの魔物が跋扈している危険な場所らしい。

 

「おあつらえ向きって訳だ……」

 

 手にした泥色の槍の具合を確かめる。

 普段の2倍以上の魔力を込めた槍、動きも戦い方も体に慣らした。この自由度の高いリーチと強度があれば多対一の連戦にも耐えられるだろう。

 目と鼻の先には件の広場。

 入る前から既に複数のウォーシャドウが歩き回っているのが見える。

 

「さて、やるか」

 

 一歩一歩、踏みしめて速度をつける。

 俺自身が一本の槍となることで開戦の狼煙となってやろう。

 槍を突き出し、目の前で背を向けていたウォーシャドウへ突貫する。

 穂先は容易にその肉体を貫通し先にいたもう1体のウォーシャドウも灰に変えた。

 コロリと落ちた魔石が1つだったことから、どちらかの魔石を砕いてしまったようだ。まぁ、今日は戦うことが主目的だ。気にせず行こう。

 俺に気づいたウォーシャドウが殺到する。

 俺を中心にして突き出される爪、薙ぎ払う腕、引き裂くため振るわれる爪、背後から突きを放とうとする個体。

 それらが届く前に、俺を中心として槍を一回転させる。

 腕を切り落とした個体や頭部を殴った個体、当たる前に避けた個体、様々な個体がいたがそれら全てに共通するのは、俺に攻撃が当たらなかったということだ。

 槍を深く構え直し、俺の周りを蠢く奴らに不敵に笑いかける。

 

「昨日の俺と今日の俺は、一味違うぞ?」

 

 目の前で飛び掛ろうとしていた個体に向けて槍を突き出し、何もさせずに灰に変える。

 こうして、長い長い戦闘が始まった。

 

 

 

「……た、だいま戻りました……」

「あぁ!おかえりなさい。疲れたでしょう。さ、ソファに座って!」

 

 日が沈みきり、月が地上を照らし始めた頃、ホームに帰ってきたズィーヤは疲労困憊の様子だった。

 青ざめた顔にフラフラとした体の動き、軽鎧は引っかき傷や穿たれた跡があったが、ズィーヤ自身には傷一つない。

 腰に下げられたカバンは微かに膨らんでいるが、朝よりも明らかに平たく変わっていた。

 ポーションを全て消費して体力が限界を迎えるほどの激戦。それを乗り越え、ホームに帰ってきた彼はメガイラによってソファに座らされた瞬間眠りに落ちた。

 メガイラは眠っているズィーヤから軽鎧を外し、服を脱がす。

 そして濡れた手拭いを持ってきて、少しでも快適に眠れるよう土埃や泥で汚れたズィーヤの体を拭う。

 ソファに座り背もたれに頭を乗せる形で眠るズィーヤを横に倒してやり、ブランケットを掛ける。勿論、膝枕することも忘れない。

 

「……また一段と強くなったのでしょうね」

 

 万全を期し、余裕を持って探索を終わらせるズィーヤが、活動の限界になるほどの戦いをする。

 月に一度、効力が減衰しそうになっているポーションを消費するためズィーヤはダンジョンで長く戦う。

 同時に彼自身が強くなる目的でも行われるそれの内容は、どれも駆け出しの冒険者が行うにはあまりに危険で無謀。

 時に魔物を呼び寄せるアイテムを使い致命傷を避けながらもわざと攻撃を受けて耐久を上げながら長期戦を行い。

 時に精神力がゼロになるギリギリまで魔法を行使してからダンジョンを探索し、自身の限界を見極め続ける。

 いっそ自殺志願者と言っても過言でもないそれらは、ズィーヤの才能と欠かさない鍛錬によって成り立っている。

 内容を聞いた時は失神するかと思ったが、疲労しながらもしっかりと傷一つない状態で帰ってくるからこそ、メガイラには何も言う事ができない。

 ソレは、彼女が未知を愛し子供の成長に喜ぶ神だからである。

 

「……明日はお休みね。ゆっくり眠りなさい、ズィーヤ」

 

 限界を超えた探索を行うため、安全を考えて翌日の探索は禁止している。

 明日は怪物祭、都市は祭り直前の浮き足立った雰囲気で楽しげだ。

 都市を淡く照らす月光は、祭りを控えた者達を見つめていた。

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