嫉妬の冒険譚


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作:凪 瀬
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8話 料理と女主人と正義と嫉妬と


 『豊饒の女主人』

 ドワーフの女主人が切り盛りする店であり、昼はカフェ、夜は酒場と二足のわらじで活動している。

 多少値ははるが、店主の作る料理は味も量も申し分なく、夜には腹を空かせた探索帰りの冒険者達が魔物の如き様相で飯を食い酒を飲む。

 ウェイトレスを数人雇っており、その誰もが美しい容姿と一介の冒険者では手も足も出ないほどの戦闘力を有しているらしい。

 そして、そんな彼女らをして手も足も出ず、そこいらの冒険者を料理の片手間にノしてしまう強さをもっているのが店主らしい。何それ怖い。

 ハシャーナさんからの情報を頼りに店へ向かえば、一際賑やかな喧騒と美味しそうな匂いが漂ってくる。

 入口では猫人の女性がほうきをフラフラさせながら立っており、店へ向かう俺に気づくとダルそうな雰囲気を見せてから接客し始めた。

 一回ダルそうにする理由はあったのだろうか……いや、多分この人が自分の感情に素直すぎるだけだな、この感じは。

 

「何名にゃ?」

「一名です」

「にゃらカウンターだにゃ。一名様ご案内にゃ!」

「あいよぉ!」

 

 店の中は冒険者でごった返し、そこら中から話し声や笑い声など人の熱気で満ちていた。

 大柄なドワーフの店主が手際よく料理を作っている目の前のカウンター、そこに一席空いていた為、着席する。

 

「注文は?」

「えっと……じゃあ、エールとオススメでお願いします」

「あいよ」

 

 ドワーフ特有のガタイの良さに加え、威圧感と存在感がある店主。しかし、料理をするその手先は見た目にそぐわぬ丁寧さと繊細さだった。

 目の前で料理を作られているからこそ、過程の匂いを直に感じることができる。

 肉を焼ける匂いに野菜スープの柔らかな匂い、香辛料を使った空腹に響く強い匂いは口内で無意識にヨダレを出してしまうほどだ。

 なるほど、ハシャーナさんが太鼓判を押すのもわかる。

 未だ料理を食べていなくても、その美味しさは想像に難くない。

 

「はい、一先ずエールお待ち」

「ありがとうございます」

 

 常温のエールを飲む。

 氷を入れて冷えたエールの方が圧倒的に美味しいとは聞くのだが、やはりその値段を見てしり後のみしてしまう。いつか今以上にお金に余裕ができた時は頼んでみてもいいかもしれない。

 

「シルちゃーん、注文いい〜?」

「はーい、今向かいまぁす」

「店員さん、これ頼んでないんだけど」

「すいませーん!多分隣のやつなんで渡しといてください!」

「クロエ、早くそちらの机を片付けてください」

「リューの方こそ、早く掃除済ませろにゃ!」

 

 働くウェイトレスさん達と客の喧騒を肴に、エールを飲み干す。

 一人で静かに飲むのもいいが、やはりエールは賑やかな中で飲むのがいい。一体感というか、溶け込んでいるような気がして心地よいのだ。

 

「はいよ、今日のオススメの焼き魚とナポリタンだよ!」

「おぉ……!」

 

 目の前に置かれた大皿目一杯の大きさをした見事な魚。鼻にガツンと効く程の香辛料で味付けしたそれをじっくりと火で炙り、漏れ出た油で一気に火力を上げて焼き上げる。その工程を見たが故に、見た目以上に手の込んだ料理であることを俺は知っている。

 ホカホカと湯気を出した魚の豪勢さは一皿の上で完結する一つの芸術作品のようだ……

 そして、ナポリタン。山盛りに盛られたナポリタンは真っ赤な威容をして、フォークを握る手を振るえさせる。

 しかし、同時に口内から溢れ出るヨダレがナポリタンから香る匂いの芳醇(ほうじゅん)さと威力を感じさせる。

 両者、見た目だけでお腹を満たしてしまいそうなほどの大盛り。食い切れるかの心配と早く食いたいという欲望のせめぎ合い。

 勝ったのは、やはり欲望だった。

 

「いただきます」

 

 ではまずは、ナポリタンを一口

 

「あむ……」

 

 舌、鼻を通って旨みが脳を貫く。

 トマトの微かな酸味と確かな甘み、そして細かく刻まれながらも焼く過程で移された肉の旨み!

 モチモチとしつつも口の中に残らない麺の硬さと、少ない材料ながらも複雑に絡み合った旨みが口内を蹂躙し、美味い以外の感情を全て破壊する!

 ふぅ……あまりの美味しさに半分ほどかき込んでしまった……少し下品だったかもしれないが、それだけの美味さだということで目を瞑って欲しい。

 では、次は魚といこう。

 

「はむ……」

 

 瞬間、落雷が全身を襲った。

 香辛料によって濃い味付けがされ、魚特有の淡白な美味しさが掻き消されていると思っていたが、とんでもない!

 寧ろ、濃い味付けだからこそ素材の魚が持つ淡白な美味しさが際立っている!

 初めに香辛料の香りが突き抜け、舌の上で魚の溢れ出した旨味と踊る。そして、香辛料を味わい尽くした後は、二の矢として放たれた魚の旨味だけが後味として残る!

 香辛料の濃さ、薄れた頃に来るアッサリとした魚の旨み、たった一口、それだけで複数の味を楽しめてしまう傑作!

 魚自体も骨の処理がされており小骨はなく食べやすい、更に身はホロホロと簡単に崩れながらも食感を楽しめる程度の硬さがしっかりと残っている!

 あまりの美味さにこちらも半分食べてしまった……

 アッサリしているとはいえ、魚にも当然油がある。半分を食えば。口の中が少しギトギトとくどくなってくるのも必定……しかし、その油をエールで流し込む、この快感っ!

 

「っぷはぁぁ!!美味いっ!!」

 

 最高だっ!!

 

「ははは、なんだい坊主、随分美味そうに食ってくれるじゃないか!こっちとしてもそんだけ美味そうに食ってくれるなら有難いもんさ!ほら、こいつはサービスだよ!」

 

 ごとりと目の前に置かれたのは目に優しい色合いのサラダだった。

 ここに来てサラダ?と、侮ることはしない。

 この魚とナポリタンを作った店主の出したサラダだ、普通のサラダであるはずがない!

 よく見れば、サラダにかかったソースの中に刻まれた肉が見える。

 つまり、サラダでありながら肉料理であるとも言える……オールラウンダーのような器用さを持ったサラダだったのだ!

 ふ、先に分かってしまえば問題は無い。どれほど美味かろうと、脳天を貫かれ、落雷に打たれたような感覚はなかろう……

 では、早速一口

 

「あぐ……」

 

 パンッと、脳が弾けた。

 野菜のシャキシャキとした食感は勿論の事ながら、ソースに紛れた肉の柔らかな食感、そして俺をして気づかなかった潰されたゆで卵の食感!?

 野菜嫌いであろうとも食べやすいであろう野菜の苦味を感じさせない甘く濃いソースは、肉と卵を使ったあまりに贅沢なものだった。

 ソース自体が美味しにも関わらず、野菜の鮮度が素晴らしい!

 葉野菜は鮮明な緑をしてトマトは宝玉のような赤、下から盛り上げるポテトは細かくマッシュされソースと複雑に絡み合うことで自身の旨味を最大限押し広げる!

 一心不乱に食べ続け、半分を切ったところで我に返りフォークを置く。

 危ない危ない……危うく食べきってしまうところだった。

 俺の目の前にはナポリタン、魚、サラダと3つの至高が置かれ俺に食われるのを今か今かと待ち侘びている。

 俺の手が、口が、内蔵が、早く食わせろと叫んでいるのを感じる。

 だが、獣のように貪っては行けない。俺は人間であり、獣では無いのだ。

 店主も人間である俺のために、これほどの逸品を作ってくれた。で、あるならば……俺は全力の理性を持って、この料理と向き合おうでは無いか!

 

 そこからの記憶は少し曖昧だが、只管に美味しかったということだけは、鮮烈なまでに覚えている。

 

「ふぅ……ご馳走様でした」

 

 手を合わせ、お冷を飲む。

 エールを一気に飲み干すのもいいが、飯を食って火照った体を少しずつ水で落ち着かせるというのも乙なものだ。

 

「いい食べっぷりだったじゃないか。気に入ったよ」

「いえいえ、店主……ミアさんの作った料理が全て美味しかったからですよ」

「ははは!嬉しいこと言ってくれるねぇ!」

 

 手元でフライパンを華麗に操りながらも、こちらへ話しかけ、会話を楽しむミアさん。

 肝っ玉母ちゃんのような、逞しく安心感をあたえてくれる存在感があって、ついつい頼ってしまいたくなる雰囲気を持っている人だ。

 さて、食べ終わったのに長居するのも迷惑だろう。

 夜も更けてきたとはいえ、酒盛りはこれからが本番だ。

 酒場の稼ぎ時に席をひとつ占領するのは店も客もあまり快く思わないだろうし、さっさと退散するとしよう。

 

「ご馳走様でした。代金は……」

「悪いけど今手が離せなくてねぇ、そこのエルフに渡しといてくれるかい?」

「エルフ……」

 

 店内を見回すと、薄緑の髪を肩ほどまでの長さに揃えたエルフの女性がジョッキを片付けているのが目に入る。

 この店には他にエルフと思われるウェイトレスさんは居ないようだし、彼女で間違いないだろう。

 彼女の手が空いたのを確認してから、代金を渡すために声をかける。

 

「失礼、代金の受け取りを頼みたいのですが……」

「はい。かしこまりました。少々お待ちください」

 

 ……何処かで、見たことがある気がする?

 俺に背を向けて店の奥へ向かう彼女の後ろ姿に、強い既視感を覚える。

 初めてここに訪れたというのに、初めてあったはずだと言うのに、見た事のある、鮮明に焼き付いている背中と重なる。

 周囲の怒号と悲鳴、燃え盛る建物の崩れる音、子供の泣き声。

 地獄の中で、夜闇に翳りながらも鮮烈なまでに輝いていた『正義』の背中を思い出す。

 

「リオン……」

「はい?何故、私の名前を?」

「ふぁっつ!?!?」

 

 いつの間にか戻ってきたらしいエルフさんが不思議なものを見る目をしながら目の前に立っていた。

 名前……名前?リオンが?それは、それはあの人の名前で……つまり、彼女が?

 

「えっと……リオンさん、ですか……?」

「えぇ、私がリュー・リオンですが……貴方は一体何者ですか?」

 

 刹那、俺に向ける目付きと雰囲気が鋭くなる。集中すれば、他のウェイトレスさん達もこちらを見据え、各々の威圧感が膨れ上がっているのを感じる。

 めっっっちゃ怖い。シャクティさん4人に囲まれたのかって思うくらい怖い。

 

「答えろ、何処で私の名を知った」

 

 答えない俺に業を煮やしたのか目を一層鋭くさせ、有無を言わせぬ濃密な戦意を叩きつけてくるリオンさん。

 

「えっと、俺が子供の頃、殺されそうになってたのを助けてくれた人の名前で……仲間の人が『リオン』って呼んでたので、よく覚えてて、いや!貴女のことを最初から知ってた訳ではなく、その後ろ姿が、助けてくれた彼女に似てたから名前を呟いちゃっただけって言うか……その、とにかくストーカーとかではないんです!」

 

 苦しいかぁ…!?

 いやでも事実だし、こうとしか説明できないし、でもこれ聞いてる側胡散臭いよなあ……!まずい、下げた頭上げられない。あの人に汚物を見るような冷たい目で見られたら軽く死ねるかもしれない!

 

「はぁ……リュー、坊主連れて奥でやんな。入ってくる客の邪魔だよ」

「ミア母さん……」

「坊主も、さっさと頭上げてしっかり話しといで。そんで終わったら帰んな。代金はそこのサボってる黒猫が回収しとくから」

「にゃ!?なんでにゃーが!?というか、サボってないにゃ!休憩してただけにゃ!」

 

 抗議する黒い猫人を一睨みで黙らせ、俺達へシッシッと手を払う仕草をするミアさん。

 この店での圧倒的な階級というのを実感しました……はい。

 ミアさんの言葉に従って、俺とリオンさんは店の奥から人気の全くない路地へ出る。

 夜の路地裏は暗く、足元も見えないほどだったが、月明かりが差し込み、互いに顔だけは見えていた。

 

「……改めて、最初から説明させてもらいます」

 

 8年前。闇派閥(イヴィルス)の活動が活発になった頃に、白装束の奴らが家の周辺を襲った。

 両親は俺を家の戸棚に無理やり押し込んで隠し、隠れる俺の目の前で殺された。

 白装束の奴らはナイフを使って、両親の手や足を貫き笑いながら傷つけていた。

 当時8歳だった俺は何も出来ず、ただ見ていることしかできなかった。

 両親は俺から奴らを遠ざけるために、助けを呼ぶために少しでも外へ出ようともがいていた。

 貫かれた手を庇って走る母に魔法の炎が飛んでいった。

 足から大量の血を流し痛みに悶えながらも、壊された扉から外へ駆け出す父をナイフで滅多刺しにした。

 焼かれながらも、死ぬ直前だと言うのに、2人はひたすら前に進み続けていた。

 俺には、何も出来なかった。

 父と母を助けることも、白装束の奴らを殺すことも、自分の足で逃げることも。

 今考えたら当然の事なんですけどね?でも、今思っても無力な自分が許せない。

 2人を殺し終えた後、白装束の奴らは家を漁り始めた。ただ壊すためだったのか、金目の物が欲しかったのかは定かじゃないが、家を漁り、子供用の玩具があることに気づくと、フードの下から見える口元が裂けるほど笑って、俺の事を探し出した。

 そして、俺の隠れる戸棚まで来て、隠れている俺を見つけ出した。

 声も出せず涙を流すだけの俺を見て、邪悪に笑いながらナイフをチラつかせる白装束達。

 もうダメだと諦めて、せめて痛みが少ないまま死ねるようにと願いながら瞼を閉じた。

 

「やめなさい!!」

 

 凛とした声だった。芯のある声だった。力強く、力み過ぎのようにも思える声だった。

 よく通るその声に驚いて、思わず瞼を開いた時に目に入ったのはサラリと流れる金の流星だった。

 風を纏ったような速さで白装束達を打ち倒し、背中まで伸びる星を宿したような金髪をたなびかせるその後ろ姿に、子供の俺は救われたんだ。

 

「リオン!そっちは!?」

「子供を一人保護しました。主犯だと思われる闇派閥も無力化したので、恐らくこれで最後でしょう」

「そう……この子の両親は?」

「……」

「……とりあえず、この子を安全な場所まで連れていきましょう」

 

 燃える炎のような赤髪の女性に抱き抱えられて、俺は避難所まで連れていかれることになった。

 家を出る時、倒れ伏した両親を見たが、2人は笑みを浮かべているように見えた。

 

 

 

「……これが、俺が貴女の名前を知っている理由です」

「……」

 

 リオンさんは複雑な表情をしていた。

 喜びのような悲しみのような憤りのようなもどかしさのような、後悔のようなそんな顔。

 

「お礼が遅れてすいません。あの時、俺を助けてくれて、ありがとうございます」

 

 頭を下げる俺の頭上から、「ぁ……」という声が零れ落ちる。

 その一音にどんな感情が含まれているのか俺には想像もつかない。

 だが、漸く、漸く、彼女の『正義』に感謝を伝えることができた。それだけで、身勝手にも救われた気分なのだ。

 

「わ、私は………私は、貴方に感謝されるような人間では……」

「……知っています。貴女がブラックリストに乗った理由を」

「!!」

 

 目を見開き、ともすれば泣きそうなほど顔を顰める。

 5年前、彼女の所属していた【アストレア・ファミリア】が壊滅し、彼女を残して全滅した大事件。

 『正義』を唄い、暗黒期という希望のない時代を照らす一条の光だった彼女達の死亡は瞬く間に民衆へ広がった。

 当時11の子供だった俺も、勿体ないと思ったものだ。

 

「であるなら、私には関わらない方がいい……いや、私が関わって欲しくない……」

「何故?」

「……」

 

 俺から目を逸らし、痛ましい顔で自身の体を抱きしめるリオンさん。

 正義を掲げるファミリアの団員でありながら、復讐の道へ堕ちた自分を恥、正義が救った子供に堕ちた自分を見せたくない……といった所だろうか?

 彼女には申し訳ないが、笑ってしまいそうだった。

 正当な理由があり、民衆からの同情も理解も存在し、(おおよ)そ全てが彼女の復讐を肯定し「じゃあ、しょうがないね」と声を揃えて言うというだろう。

 だと言うのに、かつて正義を掲げ、自らそれを汚したという罪悪感と自意識でこれほど苦悩することができるとは……

 だから、彼女の正義は美しかったのだ。

 

「……俺は今、復讐を司る神の眷属として冒険者をしています」

「?」

「俺は復讐を肯定します。俺は復讐を受け入れます。俺は復讐を赦します。俺は復讐を好みます」

「な、何を……」

「リオンさん、貴女が復讐の道に堕ちていたとしても、俺にとっては些細なことなんです」

 

 驚いた表情を浮かべる彼女に一歩近寄る。

 本当なら手の一つでも握りたいところなんだが、エルフの彼女はそれを嫌うだろう。

 だから、瞳だけで、言葉だけで伝えなければならない。

 

「俺を、貴女と関わらせてください」

「なっ……!」

 

 復讐に堕ちようと、未だに燻る正義の炎があるのなら、俺はそれをもう一度見てみたい。

 背中に刻まれた正義がもう一度輝くというのなら、俺はその手伝いをしてやりたい。

 もう一度、目の前で彼女の正義を掲げた背中を見られるのなら、俺は命だってかけていい。

 

「貴女が復讐に堕ち、正義を語ることができないと言うのなら、復讐という汚れた道を受け入れる俺をどうか利用して欲しい。だから、俺が貴女と関わる事を許して欲しい」

 

 深く、頭を下げる。

 彼女の優しさを裏切り、彼女の嫌いながらも行かざるおえなかった道を肯定する俺が、彼女と関わることを許して欲しかった。

 脳裏に焼き付いて離れない、鮮烈な『正義』が、その名残がまだここにあるというのなら、見逃さないように関わっていたかった。

 リオンさんの顔は見えない。

 だが、戸惑い、迷い、悩んでいることは容易にわかった。

 

「あ、貴方が、私に関わろうとすることを禁止する権利も……貴方がそれを受け入れる義務もない」

「それでは……!」

「……貴方の好きにすればいい」

 

 やや赤くなった頬を隠すように顔を背けるリオンさん。

 その姿を見て、漸く自分の要求が通ったことを実感し、胸中に喜びが溢れてくる……!

 よし、よしよしよし!やった、やったぞ!!

 昔日の感謝も伝えられた!未来へのチャンスも与えられた!やった、やった!!

 

「そ、それほど喜ばれるとは……」

 

 リオンさんが何か言っているが、今の俺には全てが祝福しているように聞こえる!い〜い気分だ!歌でも歌い出したいほどになぁ!

 

「あら、ズィーヤ。こんなところで何をしているの?」

 

 背後から敬愛する神の声が聞こえた。

 瞬間、世界が極彩色になるほど爆発していたテンションが落ち着き、冷静な思考が動き始めるのを感じた。

 

「神様、今帰りですか?」

「えぇ、友達も用事があったみたいで、ちょっと早いけどお暇しちゃった」

 

 てへっと小さく舌を出してみせる神様。可愛い。

 黒く貞淑な印象を与える美しいドレスに、表情を隠しながらもその美貌を遮らないヴェール。そして、そんなヴェールの下で子供のような無邪気な笑顔で、照れたようにペロッと舌を出すなんて……可愛すぎて爆発しそう。

 

「あら、そちらの方は?」

「こちらはリュー・リオンさん、子供の頃、俺の命を救ってくれた恩人です!」

「こんばんは」

「あらあら、随分可愛い()ね」

 

 神様はヴェールの下で柔らかな微笑みを浮かべ、ヴェールがらなければキスしてしまいそうな距離でリオンさんの顔を見つめる。

 女性同士であり、女神であるからこそ許されるエルフとの超至近距離。

 近い距離に慣れていないのか、リオンさんは驚いた様子で2歩3歩と後ずさる。

 その姿を気にした様子もなく、神様は俺の方へ振り向く。

 

「晩御飯はここで済ましたのかしら?美味しかった?」

「それはもうすっっっごく!いやぁ、料理で脳を貫かれたり弾けたりする感覚と雷に撃たれる感覚を味わうことになるとは思いませんでしたよ!次は神様も御一緒しましょうね!」

「う〜ん、その説明で行きたくなる人は多分皆無よ」

 

 そうだろうか?

 …………そうだな。確かにそうだわ。

 怖すぎるだろ、脳が貫かれたり弾けたり雷に撃たれた感覚を味わう料理。俺が言われた側なら断固として拒否するね。

 

「さて、用事も済んだなら帰りましょうか」

「そうですね。これ以上リオンさんの時間を奪うのも申し訳ないですし……この辺りでお暇します!またご飯食べに来ますから、ミアさんにもよろしく伝えておいてください!」

 

 皮袋に詰め直しておいた今回の代金をリオンさんに渡し、別れの挨拶を交わす。

 

「えぇ、ミア母さんも貴方の食べっぷりには喜んでいたので、またいらしてください」

 

 そう言って微笑むリオンさんの顔は、月光に照らされてとても儚く美しかった。

 まるで、物語の妖精がそこに現れたような、そんな幻想的な……

 

「……はい!リオンさんにも逢いに来ますね!」

「なっ!」

「へぇ……」

 

 ん?何か神様凄い低い声出しませんでした?え?気のせい?それよりも疲れたから早く休みたい?ちょ、どうしたんですか。ぐぇっ、襟引っ張らないでくだ……おぐぅっ死ぬ、死にます神様!あ、リオンさんさようなら〜!

 

 

 

「行ってしまった……」

 

 リューは夜闇に消えていった2人の背を眺める。

 復讐を司る女神と眷属の少年。

 かつて自身と仲間の救った小さな子供は、自身の背丈を越すほど大きく育った。それが喜ばしくて誇らしくて、同時に胸を掻きむしりたくなるほど苦しい。

 自分たちの掲げた『正義』の救った少年と、『正義』を汚し復讐に身をやつした自分、あまりにも大きなその差がリューを苦しめた。

 しかし、リューにとっての罪であり、恥じるべき過去の復讐を肯定し、告白染みた言い回しで関わりたいと言った少年。

 夜闇よりも暗い黒髪と月光を映す青い瞳、夜闇の中でこそ映えるその容姿はリューをして美しいと思わせた。

 表情は夜のように凪いでいたというのに、自分と関わりたいと言った時の瞳に宿った埒外の熱量、関わることができると知った時の異常な行動。

 それら含めて『不思議な少年』と言わざるおえなかった。

 だが……

 

「彼はいい人、なのでしょうね……」

 

 同時に、リューの耳に木霊する女神の言葉

 

『ズィーヤはダメよ。あの子は私のなの。貴女の席は無いわ』

 

 思い出しただけでも身が竦む。

 全身に纏わりつくような粘度を持った言葉。一言一言に嫉妬の激情が含まれていた。

 未だ言葉がこびりついた耳から全身を侵されるような恐怖がリューの体を震わせる。

 個人に向けて放たれた神威。

 全力では無い。ただ、嫉妬から思わず漏れてしまっただけの、神からすれば少し出しすぎた程度の神威。

 しかし、それが『嫉妬』の意味を持つ名の神が嫉妬という存在の根幹的な感情から個人に向けたのなら?

 前線から離れたとはいえ、第二級冒険者を恐怖させる神威。それは一般人にとって絶死の圧と言っても過言では無い。

 幸いだったことは、嫉妬がリューという強者個人に向けられていたことだろうか。

 

「……恐ろしい神だった」

 

 暗闇に溶けていく直前、振り向いた時に向けられた視線だけで殺されると感じた。

 

「……悪い神では、ないのだろうが……」

 

 愛が強い……強すぎる神。

 ズィーヤがリューと関わることを望んでいること、そしてミアの作った料理を気に入っているため、これから関わる機会が増えるだろう。

 その度にあの殺気を向けられるのかと考えると、少しだけ胃が痛くなったリュー。

 無意味に立ち尽くしたとしても何も解決しないと、兎に角仕事に戻ることにしたリュー。

 その後ろ姿を、無感情に月は照らしていた。

 

 

 

 ズィーヤが綺麗なエルフの女の子と話していた。

 ズィーヤ曰く、恩人に対してお礼を言えたこと、これから関わり続ければ誇り高く美しかったその『正義』をもう一度見れるかもしれない、自分はそれが楽しみで仕方がない。らしい。

 だが、メガイラにとって重要なのは、ズィーヤが自分以外の女の子と楽しそうに嬉しそうに幸せそうに話していたことだった。

 

「(私だけを見て、他の女なんて見ないで、私じゃ何か不満?あの女じゃないとダメなの?貴方からそんなに想いを向けてもらえるなんて……羨ましい、妬ましい……殺してやりたい)」

 

 身勝手な『嫉妬』の女神は、自身の愛する眷属(男の子)から大きな感情を向けられるリューに見開いた瞳が割れてしまいそうなほど嫉妬していた。

 しかし、彼女は人を愛していた。

 愛おしい可能性、いつだって不変の自分達へ未知を見せてくれる愛すべき子供達。

 どれだけ嫉妬しようと、どれだけ羨望したとしても、彼女の根幹には子供への愛があるからこそ、手を出すことも言葉にすることもなかった。

 ただ、溢れ出てしまったソレが怖がらせてしまった事は申し訳ないと思いつつ後悔はしていないため、神たる所以はそこにあるのだろう。

 眷属と並んで歩くメインストリートはささやかな喧騒の中で、地上の灯りと原初から地上を見つめる月に照らされていた。




今回の話は私の書きたかったのはシーンなので筆がノリに乗りました。その後は?うぅーん……

さて、ここまででストックは切れました!
毎日更新は難しいかもしれませんが、でき次第投稿しますのでお楽しみに!
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