「今日の夜から明日の朝まで少し空けるわね」
「はい?」
雑貨店盗人事件を解決して二日後の朝、突然神様が朝帰り予告をしてきた。
換気のために開け放たれた窓からは上がり始めた太陽の光が差し込み、鳥の鳴き声が朝を知らせる。
商業区も朝の賑わいを見せ始め、さぁ今日も頑張って【ガネーシャ・ファミリア】の手伝いをするぞと意気込んでいたのだが、それら全てが吹っ飛んでしまった。
黒髪を三つ編みにしながらなんでもない事のように報告する神様。一瞬俺の聞き間違いかと思った。いや、流石に聞き間違いか……そうだよな、神様から朝帰り予告されるなんてあるわけないよな。
「すいません、もう一回言って貰えますか?」
「今日の夜から明日の朝まで家を空けるわね」
「神は死んだァァァ!!!!」
「生きるわよ〜」
うわぁぃぁぁぁぁいやぁぁぁいぁぁ!!!!
だ、誰だ!何処のウェアがフーで誰なんだ!?!?!?
神様の交友関係……ポーションを買いに行くディアンケト様、手伝いなどで関わるガネーシャ様、偶に話すというタケミカヅチ様……いや、女神様の可能性もある。デメテル様と仲が良いと聞くし、フレイヤ様と交友もあるらしい……くっ!選択肢が多すぎる!!
「神様!!」
「はぁい?」
「何をウェアでフーとワッツなんですか!!!??」
「とりあえず落ち着いてちょうだい?」
ソファに座らされ説明される。
どうやら今日の夜にガネーシャ様の催した宴があるらしく、それにお呼ばれしたそうだ。そこには天界での旧友が来るらしく下界に降りてきたばかりの親友も来るらしい。
久々に友好を温める目的で参加するため、帰りが遅くなってしまうかもしれないということだった。
決して、俺の知らないところで知らない男とワンナイトでレッツパーティということではなかったらしい。良かった……流石に未だ神殺しは躊躇してしまうからな……
「そういう事でしたら、ゆっくり楽しんできてください」
「ありがとう。……と・こ・ろ・でぇ……」
三つ編みを作り終え、朝の支度を終えた神様がにじりよってくる。
細めた目には悪戯心と嗜虐心が灯っており、蕩けるような甘い声には揶揄してやろうという下心がありありと存在していた。
「ズィーヤはぁ、一体、ナニを……想像したのかしらぁ?」
「ちょ、な、か、ふぁ?」
エッッッッッヅッ!!!じゃねぇ!落ち着け、落ち着いてクールにナールんだ……これは揶揄ってるだけ、決して朝一番から一発ヤろうのお誘いではない!不敬っ!!!
落ち着いた。俺はクールだよ。
「なん、な、違、何も、ナニも考えてなっすよ?」
「本当かしらぁ?随分と私の事を見て考え込んでた様子だったけどぉ……」
言いながら、ソファに座る俺に覆いかぶさってくる。ステイタスがあるから簡単に押し退けられるはずなのに、柔らかに押されているだけなのに、全く勝てる未来も、有利な状況に持っていく想像もできない……
「もしかして、嫉妬しちゃった?」
全身が密着するほど近づかれ、耳元で囁かれる。
普段よりも甘く、静かに、軽やかに、可愛らしく、妖艶に……鼓膜を揺さぶられると同時に心の奥、魂の根幹まで揺さぶられたような衝撃と世界が歪むような感覚がする。
まさか、これが神の権能……?
意識が、きゅぅ……
「あら、やりすぎちゃったかしら?」
ソファで白目を向いて意識を失ってしまったズィーヤ。
普段から巫山戯たり軽薄な様子を見せることで冷静さを保つ彼だが、主神にとっては未だ初心な少年でしかないのだ。
白目を向いて固まってしまった瞼をゆっくりと閉じさせ、流れるように膝枕をする。
そして、髪を梳きながら目が覚めるのを待つ。
窓の縁に止まった鳥が意志の介さない瞳でその光景を眺める。
朝日が差す窓を背に、黒髪の女神が少年の頭を撫でるその光景は、絵として残してしまいたくなるほど神聖で、えも言えぬ淫靡さがあった。
それから数時間、太陽が完全に昇り切って世界がより活発に活動を始めるまで、ズィーヤは眠り続ける事となった。
余談であるが、神メガイラに魅力の権能は無い。
さらに余談だが、ズィーヤは布面積の小さい服を着たメガイラに迫られながら滝行をするという夢を見ていた。
「じゃあ、俺は出ますね」
「えぇ、気をつけて行ってらっしゃい」
神様に見送られてから家を出る。
何故か数時間分の記憶が無いが……神様曰く二度寝してしまったらしい。2日ダンジョンに向かわなかっただけでこれだけ生活が訛ってしまうのか……明日から探索を再開するかな。
神様は今夜、友神と会うための準備があるらしく、俺一人で【ガネーシャ・ファミリア】の手伝いへ行くことになった。
ごった返す人混みの波を抜け、『アイアム・ガネーシャ』へと向かう。
屋台から声を張り上げ客寄せをする女神様やひたすらにじゃが丸くんを揚げ続ける男神、女性に囲まれ困ったような引きつったような笑みを浮かべる神など、人の生活に溶け込んでいても神様と分かってしまうのは抑え込んでいたとしても漏れ出る神威の影響だろうか。
全能を捨て、全知零能という不便と不自由に塗れてまで下界におりてきた神々。
彼らは未知を好み、人の可能性を愛する。
ふと歩みを止めて、考えてしまう。
俺は……
神様達は人類を愛してくれるだろう、見守ってくれるだろう、労ってくれるだろう……だが、値しているだろうか?
神の
……いや、やめよう。
それは神様たちが判断することで、未来の誰かが確認することだ。
今の俺にできることは、神様達との生活に敬意と感謝、そして自分の生き方を貫くことだけだ。
微かに残った憂いを振り払い、改めて駆け出す。
空は快晴、雲ひとつない青空がひたすらに広がっていた。今日は何か、いい事がある気がする。
「どっぶあっ!」
「ひでぶぅ!」
そんなことを思っていた矢先に、脇道から出てきた人とぶつかってしまった。
俺の顎あたりに丁度額が入ってしまったようだ……いったぁ……あ、ちょっと口の中切っちゃった、血の味がする……って、それどころじゃない!
ぶつかったのが一般人の、まして子供や女性だったら、冒険者の俺とぶつかって大怪我してる可能性もある。必要なら直ぐに手当しないと!
「すみません!怪我してないですか!?」
「は、はい……すいません、こっちこそ飛び出しちゃって……あ」
新雪のような白髪に
「兎少年じゃないか!」
「う、兎……?」
先日、俺と一緒にミノタウロスに追われていた幸運なんだか不運なんだか分からない少年だった。
「その節はどうも……」
「まさかこんな所で会うなんてな……そうだ、あの時も今もだが、怪我はしてないか?」
「あ、はい!ミノタウロスの時はありがとうございました!今も怪我は平気です!」
立ち上がりながら勢いよく頭を下げる少年。
正直で汚れを知らなさそうな純朴さと可愛らしい容姿はそういう人には人気があるんじゃないだろうか?
こういうことを考えるから、この少年が少し眩しくなってきたな……
「そういえば、名前を聞いてなかったな。俺はズィーヤ、ズィーヤ・グリスアだ。よろしく」
「はい!僕はベル・クラネルです!よろしくお願いします、ズィーヤさん!」
ニパリと笑みを浮かべて俺の差し出した手を握り返すベル君。
そのうち悪い大人か神様にでも騙されそうで不安だ……まぁ、その辺は彼の主神や仲間達が何とかしてくれるだろう……してくれるよね?
「ベル君は今からダンジョンか?」
「はい!」
「そうか、頑張れよ……と言いたいところなんだが、君、防具はないのか?」
「えっと……お金が無くて……」
私服同然の軽装にささやかな肘当て、腰に刺されたナイフはギルドから支給される低質なもの。
これで探索するには相当のステイタスがなければ危険だと思うんだが……
仕方ない、本来ならこういうことはしない方がいいんだが、せっかく顔も名前も知った後輩が死ぬのは寝覚めが悪いからな。
「ベル君、少しだけついてきてもらっていいか?」
「?はい。わかりました」
やっぱりベル君は人をもう少し疑った方がいいと思う。俺が金を奪うつもりのチンピラや詐欺師ならどうするつもりなんだ……
まぁ、今回は都合がいいな……後でそれとなくファミリアを聞いて主神に注意の一つでもしておくべきか?
人のごった返すメインストリートから離れ、人気のない裏路地で立ち止まる。
「いいか、これから見ることとやることは他言無用だよ?約束できるか?」
「は、はい……」
脅しすぎただろうか?いや、このくらい言っておかないと、人の口に戸は立てられないからな。
「それじゃあ、悪いんだがナイフを貸して貰えないか?」
「え、えっと……わかりました」
多少困惑しながらもベル君は素直に唯一の武器を俺に渡してくる。
うん。わかった。この子一人にしちゃダメだ。絶対にカモられるし、最悪死ぬ。
強さがあればそれでも問題なかったが、初心者にそんな力はないし知恵があるという風にも見えない……こ、この少年……冒険者に向いて無さすぎる!?
純粋な眼でナイフを持つ俺を見つめるベル君。
どうやったらこんなに擦れていない少年になれるのか……親の育て方が良かったのか悪かったのか……ベル君の将来については今は目を瞑り、本来の目的を果たす。
「『深く望むは我が理想 未だ見えぬ羨望の果て 嫉妬に汚れた泥の理想 変われ、変われ、変われ 嫉妬を満たせ 羨望の道を駆けろ
俺の手から溢れ出した泥がベル君のナイフを覆っていく。
魔法を初めて見たのか、自分のナイフが泥に覆われていくことにショックを受けたのか、目を見開いて口をパクパクさせている。
ナイフ全体を覆った泥は刃先に向かって流動し形を変える。脆いナイフの刃を補強するかのように泥が重なり、光沢のない泥色のナイフとなった。
「よし、こんなもんだな」
「な、まほっ、ナイっ!な、ふぁ、何やってるんですかっ!?」
完成した頃に漸く発声を思い出したようで、俺に詰め寄ってくる。
「落ち着け落ち着け。あのナイフだと探索中に折れそうだったから俺の魔法で補強しただけだ。弱くなるどころか、切れ味も耐久も上がって強くなってるはずだ」
「え、えぇ……?でも、何で?」
「まぁ、顔も名前も知ってる後輩が死んだら寝覚めが悪いだろ?それだけだよ。よし!ほら行ってこいベル君、冒険が君を待ってるぞ」
泥色のナイフを持って固まったままの背中を押してメインストリートへ放り出す。
純朴で純粋な少年が生き残り、上質な冒険ができるよう願っておこう。
「っっっ!!」
ベル君と離れた瞬間、ゾワリとした感覚が背筋を撫でる。
誰かに腹の底の底まで無遠慮に触られ、息を吹き掛けられたような不快感。
思わず腰の短剣を握り構えるが、周囲の人達に異変は無い。
「……なんだってんだ。一体……」
恐る恐る構えを解くが、何も起きる様子は無い。
背筋を撫でた不快感もなりを潜め、快晴の空に見守られた活気ある【オラリオ】があるだけだった。
その後の【ガネーシャ・ファミリア】の手伝いについては特別語ることもない。
巡回と準備の手伝い、一昨日の事件解決で近隣の住人からお礼やら感謝やらを多少された程度だ。
普段なら神様と一緒にホームに帰るか、神様の待っているホームへ駆け足で帰る所なんだが、神様が今夜は居ないと考えると帰ろうという気力が湧かない。
「……飯でも食いに行くか」
確か、ハシャーナさんが美味しい酒場があるって言ってたな。
たしか、名前は……
「『豊饒の女主人』だったか?」
「懐かしい顔ぶれねぇ……」
美しい黒のドレスと表情を隠す黒のヴェール。
地面につきかねないほど伸ばされた美しい黒髪は纏められ、トレードマークである三つ編みを肩から前に垂らしている。
肌を一切見せない姿は貞淑さと威厳の現れだろう。しかし、見せないことこそが女神の姿をより魅力的に蠱惑的に魅せる。
ガネーシャの眷属が運ぶシャンパンを受け取り、こくりと飲む。
髪とヴェールに隠された首が、飲むために首を傾けた瞬間チラリと見える。
たったそれだけの事であるのに、周囲の男神を色めき立たせるほどの色気。
「何を見ている。殺すぞクソ野郎ども」
だが、そんな男神をヴェール越しに見つめるメガイラの瞳は冷たい。いっそ絶対零度の方が暖かいと感じてしまうほどの冷気を発しながら睨む。
一斉に目を逸らし、そそくさと散っていく男神達。その様は実に滑稽かつ無様であり、メガイラの退屈を多少は慰めた。
「君は相変わらずだね……メガイラ」
「あら、ヘスティアじゃない。聞いてはいたけど本当に降りてきていたのね。また会えて嬉しいわ」
他神が近づくことの叶わない鋭利な雰囲気を見せていたメガイラへ話しかけた彼女の神友。
豊かな髪をツインテールに纏め、低身長に見合った可愛らしい容姿。しかし、それらと相反するほどたわわに実った胸をした炉と竈の神ヘスティア。
周囲からはロリ巨乳と言われ、怠け者ながら他の追随を許さぬほどの善性と優しさ、ゼウスやヘラに並ぶ格を持つ大伸として天界では尊敬されていた。
悪事とは縁遠く、処女神として男気もない。当然、浮気性など絶無なヘスティアはメガイラにとって愛すべき神友であった。
「ボクもまた会えて嬉しいよ。君の所の
「ズィーヤが有名になったようで、私も嬉しいわ」
うふふと母性的でありながら何処か妖艶な微笑みを見せるメガイラ。
そんなメガイラの姿にヘスティアはその大きな目をパチリと何度か瞬かせ、意外なものを見たということを如実に表していた。
「君が誰かに執着するなんて珍しいね?それも、噂通りならズィーヤ君って男の子だろう?ますます珍しい……」
「そう?私は別に男嫌いではないのよ?」
メガイラのその言葉にザワザワと騒ぎ出す男神達。
隠されていながらもわかってしまう神がかったそのプロポーションと隠されたそれを暴きたいという男の欲求をもつ男神達は男絶対殺すウーマンだと思っていたメガイラの男嫌いでは無いという発言に「ワンチャンあるのでは!?」と色めき立った。
「ただ……浮気するような男はぶち殺してすり潰して野犬の糞に混ぜ込んで焼却処分してやろうと思っているだけよ」
瞬間、男神の表情はすんっと抜け落ちて辺りは静寂に包まれた。
ヘスティアといえば、些細な話題の一つとして出したら驚く程に強い言葉が返ってきてビビり散らかしていた。
「お、おぅ……無粋な質問だったね……」
「ふふ、気にしないで?」
「……何やってるのよアンタ達は……」
周囲から人が居なくなり、広々とした広場の一角を占領しているかの様相を呈し始めたメガイラとヘスティアに話しかける赤髪の女神
「ヘファイストス!!」
「こんばんは、今日も綺麗な赤髪ね」
「こんばんは、ヘスティアにメガイラ。貴女に髪について褒められると悪い気はしないわね」
「あら、それこそ光栄だわ。ねぇ?【オラリオ】最大の鍛治ファミリアの主神さん?」
【オラリオ】の鍛治という分野において最大手と言われる【ヘファイストス・ファミリア】の主神。
【ヘファイストス・ファミリア】にて制作される武具の質の高さと所属する団員の多さから【オラリオ】の大ファミリアの一つである。
そして、価格の高さから、「ヘファイストス・ファミリアの武器を持つ」と言うことが冒険者にとっての一つのステータスとなっているほどである。
ヘファイストス自身も鍛治を司る神として有名であり、神の力を使わない単純な技術のみで下界を生きる鍛冶師を上回る、自他ともに認める最高の鍛冶師でもある。
そんな彼女はヘスティア、メガイラと同郷であり、神友と呼んで差し支えない気の置けない関係である。
「丁度良かった!ヘファイストス、君に頼みたいことがあったんだ!」
「……何よ、もう1ヴァリスだって貸して上げないわよ?」
「違うわい!君はボクのことを神友に金を集る卑しい神だと思っているのかい!?」
「ほーう、よく言うわね。家がない仕事がないって言って私に泣きついて金までせびってきたグーダラ女神はどこの誰だったかしら?」
「ヘスティア……その悪癖は治ってなかったのね」
グギギと唸りながらも事実であるが故に言い返せないヘスティア。そんなヘスティアを見て鼻を鳴らすヘファイストスと苦笑いを浮かべるメガイラ。
友好を温める彼女達の会話へ新たに混ざる女神が現れた。
「あら、お揃いのようね」
「あら、フレイヤ」
「げっ、フレイヤ……」
「フレイヤじゃない」
珍しい神を見たというヘファイストス、顔を顰めるヘスティア、微笑みながらも目が笑っていないメガイラと三者三様の反応を返す。
存在自体が遍く全てを魅力する美の化身。
美神という言葉を魂に刻みつける超越的な美を持った女神。
【オラリオ】二大派閥の片翼【フレイヤファミリア】の主神であるフレイヤがそこに立っていた。
「珍しいわね、アンタがこういうのに来るの」
「私だって旧友と話したいと思う時くらいあるわよ。それに、少し気になることもあったしね……」
「な、なんだい?なんでこっちを見るんだい?」
ヘスティアの大きく青い瞳を覗き込むフレイヤ。女神であろうとも魅力されてしまうその美貌を視界いっぱいに収めても、ヘスティアはただアワアワと慌てるだけだった。
「……ふぅ、そんなに怖がらなくていいじゃない、私とヘスティアの仲でしょ?」
「うっ……いやぁ、ごめんよ。でも正直君のこと苦手でさ……」
「本当に正直ね……」
「まぁ、フレイヤ以上に嫌いな奴が居るんだけどね……!」
「おーーい!ファイたん!フレイヤー!メガイラー!ドチビー!!」
「出たなロキ!」
「こんばんは」
「えぇ、こんばんはロキ」
「あら、挨拶ありがとうロキ。そのままホームに帰って二度と出てこないでちょうだい?」
階段の方からドタドタと足音を響かせ、そこにいた各神の名を叫びながら迫ってくる女神。
糸目に明るめの赤髪、中性的に整った容姿、鎖骨を見せる大胆な黒いドレスを着こなす彼女こそが【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインの所属する【オラリオ】二大派閥の片翼【ロキ・ファミリア】の主神ロキである。
「酷いやんメガイラ!なんでそんなにウチのこと酷い扱いなん?」
「その貧相で無い胸に手を当てて考えてみなさい。天界でのあなたの所業を耳にした時から、舌を抜き目を潰し手足を切って腹を捌きたくて仕方なかったのよ?」
「こっっわ!?」
「まぁ、メガイラからすればロキはアウト中のアウトでしょうね……」
「寧ろ、この程度で済んでるのは温情かもしれないわね」
「あの時のメガイラ、ボクでも止めるの難しかったんだぞ……」
天界でのアレコレを思い出してゲンナリする面々。
下界に降りた今よりも厳格かつ無慈悲に容赦なく悪事への復讐を行っていたメガイラがロキの所業を知った時の憤怒は、想像に難くない。
「ま、まぁメガイラはえぇわ……今回はお前じゃドチビ!」
「なにぃ!?」
「おぉ、ヘスティアとロキがやるみたいだぞ!」
「ロリ巨乳とロキ無乳……今日はどっちが勝つか、見ものだな」
「俺、ロリ巨乳が勝つに1ペソな」
「じゃあ俺ロリ巨乳が勝つに1セン」
「お前らせめてヴァリスにしろよ……俺ロリ巨乳が勝つに1セント」
「「お前もじゃねぇか!」」
ヘスティアとロキが取っ組み合いを始め、周囲の神々が野次馬根性全開に騒ぎ立てる。
「アイツらは本当に……」
「ふふ、元気があっていいじゃない」
「そうね。ヘスティアも元気そうで良かったわ」
3人の女神は2人を眺めながら会話を続ける。
「そうそう、フレイヤに言っておきたかったことがあるのよ」
「あら、メガイラが私になんて、珍しい事ばっかり起こるのね?」
「そう?確かにそうかもね……」
黒いヴェールをチラリと持ち上げ、遮る物のない紫の瞳でフレイヤを見貫く。
「私の
「っ!」
傍から見ていただけのヘファイストスをして息を飲ませ、鳥肌を立たせるほどの殺気。
会食を楽しんでいた武神の一部も放たれた殺気から体を固めるもの、臨戦態勢を取ってしまう者など、武神をして反応せざる負えないほどの濃密さ。
それを直接向けられたフレイヤといえば、冷や汗こそ流すものの、余裕の表情を崩すことはなかった。
「ごめんなさいね。気になってる子に貴女の所の子が話しかけていたから少し見ちゃっただけなの」
「それなら構わないわ。ただ、ズィーヤを手に入れようなんて言うのなら容赦はしないわ」
話は終わったとばかりに帰路につこうとするメガイラ。
「あら、もう帰っちゃうの?」
「えぇ、ヘスティアとヘファイストスと話せたし、フレイヤに釘もさせたからお暇させてもらうわ。あ、そうだ、ヘファイストス」
「ん?どうしたの?」
「ヘスティアの頼み事、ちゃんと聞いてあげてね?」
「……それはアイツ次第よ」
ヘファイストスの返答に笑みを零し、悠々と帰るメガイラ。
誰一人として、その背を追う者は無く、声をかけるものもなかった。
「(さて、ズィーヤは今頃何をしてるかしらね?)」
月に照らされたメインストリートを軽やかな足取りで進む女神。
月光に照らされたその後ろ姿は、美しくもおぞましい何かが這っているようだった。