英雄(ベル・クラネル)を嫌いになるのは間違っているだろうか


メニュー

お気に入り

しおり
作:カゲムチャ(虎馬チキン)
▼ページ最下部へ


4/36 

4 先輩冒険者


「う、うわぁあああああ!?」

「……はぁ。何やってるの」

「グギャ!?」

 

 ベルと出会った翌日、ダンジョン1階層にて。

 迷宮最弱と名高いザコモンスター『ゴブリン』相手に恐慌状態に陥ったベルにため息をつきながら、スピネルは彼を襲っていたゴブリンを冷静に背後から刺し殺した。

 その一撃でゴブリンは絶命し、スピネルは流れるように亡骸を解体して売れる部分を取り出していく。

 噴き出す鮮血。ベルは吐いた。

 

「おぇえええええ!?」

「…………はぁ」

 

 嘔吐する後輩の姿に、スピネルはまたしてもため息一つ。

 なんとも先が思いやられる。

 ヘスティアに頼まれたから、先輩冒険者としてこれの面倒を見ることを承諾したが、正直このまま見殺しにして、ヘスティアと二人きりの生活に戻りたい。

 まあ、眷族が死ねば絶対にヘスティアは悲しむので、実現不可能な話なのだが。

 スピネルは気持ちを押し殺して、面倒を見る立場としての仕事を再開した。

 

「見て。これが魔石。私達の稼ぎの大部分」

「ハァ……ハァ……。こ、これが……」

 

 吐き疲れて息切れしたベルに、スピネルはゴブリンの亡骸から取り出した小さな紫紺の結晶を見せた。

 魔石。

 ダンジョンにいるモンスターからだけ取れる、かなり万能に近いエネルギーの結晶体。

 照明、発火装置、冷凍器など、魔石のエネルギーは幅広い応用が可能であり、それを使った魔石製品は、今や日常生活を送る上でなくてはならない存在。

 当然、世界中からの需要は高く、こんな小さな欠片でも、それなりの値段でギルドが買い取ってくれる。

 

「あ……!」

「そして、魔石を砕かれたり取り出されたりしたモンスターは灰になって崩れる。生きてても、死んでても。

 だから、相手が強くて余裕が無い時は、魔石を狙えば一撃で倒せる」

 

 まあ、そうしたら稼ぎが吹き飛んでしまうのだが、命には替えられないだろう。

 命あっての物種というやつだ。

 

「グギャグギャ!!」

「ひっ!?」

 

 その時、次の獲物が現れた。

 二匹目のゴブリン。

 トラウマでもあるのか、ベルは完全にビビりモードだ。

 

「見てて。ゴブリンと戦う時は、斜め前に踏み込んで攻撃を避けながら……」

「グギャ!?」

「すれ違った時に首筋を斬るのが一番効率が良い。少なくとも、私にできる範疇では」

 

 ゴブリンの首筋に真っ赤な華が咲く。

 異様に手慣れた戦い方だった。

 冒険者になってからの三ヶ月間、極貧のヘスティア・ファミリアに確実に稼ぎを持ち帰るために磨き続けてきた技法。

 もっとヘスティアに褒められたい。

 その一心で毎日のようにダンジョンに潜り、休みの日にも鍛錬を欠かさず、改善点を見つけ続けて洗練させた。

 無理に下の階層を目指すのではなく、自分にできる範囲のことを最高効率でこなせるように努力した。

 

「まあ、最初からできるとは思ってない。最初はとにかく攻撃を避けて、相手が勝手に体勢を崩したところに、相手の間合いの外側からリーチを活かしてナイフを叩き込めばいい。狙う場所も別に首筋じゃなくていい。当てやすいところならどこでも」

「す、凄い……」

 

 その鮮やかな手際に、ベルは憧れの目を向ける。

 彼は『英雄』に憧れて、数多の英雄を生み出した地であるオラリオにやってきた。

 目の前の自分より歳下の少女は、英雄とまでは呼べないだろう。

 けれど、過去に殺されかけたトラウマのあるゴブリンをこうも簡単に屠ってみせる姿に、ベルは『先輩冒険者』としての憧れをスピネルに抱いた。

 あと、もう一つの目的である『可愛い女の子との出会い』に関してもスピネルはドストライクであるため、彼女への好感度が天井知らずに上がっていく。

 もしも、スピネルが冷たい目でベルを見てさえいなければ、既に惚れていたかもしれない。

 

「グギャグギャ!」

「じゃあ、やってみて」

「あ、は、はい!」

 

 次のゴブリンがやってきた。

 ベルは教わった通りにトラウマに立ち向かう。

 

「ギャギャ!」

「ひっ!?」

 

 へっぴり腰回避で攻撃を避ける。

 本当ならスピネルのように、回避と攻撃を同時にできれば一番良いのだが、最初からできなくてもいいと言われた言葉を頼りに、まずはゴブリンの攻撃を避け続ける。

 そして、ゴブリンが拳を空振りし、体勢が崩れたところに、ナイフを突き出した。

 

「ああああああ!!!」

「グギャ!?」

 

 子供程度の身長しかなく、武器も持っていないゴブリンの腕では届かないところから、リーチの差を活かしてナイフを突き出す。

 教わった通りの動きはちゃんと通用し……ベルのナイフがゴブリンの肩を貫いた。

 

「ギャァアア!?」

「や、やった!」

「まだ死んでない。早くトドメ刺して」

「は、はい!」

「グギャァァァ!?」

 

 残った腕で反撃しようとしていたゴブリンに、追撃でナイフを振るった。

 狙いもつけずにとにかく振るったナイフは、恩恵によって強化された腕力によってゴブリンの頭蓋を叩き割り、絶命させた。

 

「勝った……? やった……! やったーーー!」

 

 ベルは飛び跳ねて喜ぶ。

 昔のトラウマを倒した。

 あの頃とは違う。

 もう自分は一端の冒険者なんだ、英雄への第一歩を踏み出したんだと、喜びの感情に支配される。

 

「倒したら解体して。魔石は基本的に胸のあたりにあるから」

「あ、はい……」

「それと、勝った後も周囲の警戒を怠らないで」

「はい……」

 

 しかし、直後にスピネルにごもっともな指摘をいただいてしまい、ベルはシュンとした。

 少し冷たい関係だが、それでもこの時の二人は間違いなく教える者と教わる者、ファミリアの先輩後輩として正しい関係を築けていた。

 きっと、このままだったら、いつかはスピネルもベルに気を許し、ちゃんとした家族(ファミリア)になれていただろう。

 

 ……だが、そこから約2週間後。

 温かな未来が音を立てて崩れ出す、そのキッカケとなる事件が起こってしまった。

 

━━━━━━━━━━

 

スピネル

Lv.1

 

力:E401

耐久:F300

器用:E477

敏捷:E433

魔力:I0

 

【魔法】

 

 

【スキル】

 

4/36 



メニュー

お気に入り

しおり

▲ページ最上部へ
Xで読了報告
この作品に感想を書く
この作品を評価する