「スピネルくん! 紹介するぜ! 新しい家族になる、ベルくんだ!」
「は、はじめまして! ベル・クラネルです!」
スピネルがヘスティアに拾われて約三ヶ月ほどが経った、ある日。
スピネルが拾われた土砂降りの雨の日とは真逆の、よく晴れた日のこと。
その少年は、突然現れた。
ダンジョンから帰ってきたら、なんかファミリアの
「誰……?」
そいつを見た瞬間、男という生き物にロクな思い出の無いスピネルは、凄いスピードで家具の後ろに隠れながら、ベル・クラネルと名乗った少年を睨みつけた。
スピネルは人見知りだ。
ヘスティアに出会うまで、まともな人物に出会った試しが無いから。
最近はヘスティアの知り合いの善神やその眷族相手に多少は心を開くようになったが、それでも人見知りの完治にはほど遠い。
一方、ベルの方は先輩となるスピネルを見て、内心でかなりテンションを上げていた。
(エ、エルフ! しかも金髪の!)
彼女は少年の性癖にドストライクだった。
正確にはスピネルはエルフではなくハーフエルフなのだが、まあ、誤差の範疇だろう。
女の子との出会いを求めてオラリオにやって来た少年は、初手で理想のヒロイン(見た目だけなら)に出会ったのだ。
なんとも運が良い。
「……ごめん。街中で迷子の子供みたいに、沈んだ様子でトボトボ歩いててね。見捨てられなかったんだ」
「うっ……!?」
しかし、上がったテンションに冷水をかけるように、ヘスティアの言葉でさっきまでの自分のあまりの情けなさを再認識させられ、ベルは呻いた。
(ああ、なるほど)
そして、スピネルは納得した。
ヘスティアは温かな火を司る女神。
居場所を守る炉のごとき不滅の火を司る女神だ。
彼女は傷ついた子供を見捨てられない。
そのおかげでスピネルも救われたのだから、文句は言えない。
たとえ、ヘスティアと二人きりの居場所に異物が入ってくることに凄まじい抵抗感があったとしても。
「…………スピネル」
「え?」
「名前」
だからこそ、スピネルは不満も忌避感も嫌悪感も飲み込んで、ベル・クラネルに歩み寄った。
警戒心の強い猫のように家具の後ろに隠れながら、名前だけ告げる。
そんなスピネルにヘスティアがダッシュで寄っていって、ギューと抱きしめた。
「ありがとう! よく頑張った、スピネルくん! 偉い! 偉いぞ!」
「え、えへへ……」
スピネルの人見知りを知っているからこそ、ヘスティアはことさらに彼女を褒めた。
元々、ベルを連れてきた理由の一つも、スピネルの人見知り改善のためだ。
可愛い娘には、新しい家族を通じて人見知りを改善し、いざという時に助け合える関係を築いてほしい。
「よし! 今日はベルくんの歓迎会だ! 二人が仲良くやれることを祈って、いっぱい食べて飲んで騒ぐぞー!」
「え!? あ、ありがとうございます!」
「…………はぁ」
目を輝かせるベルと、憂鬱そうにため息をつくスピネルを引きずって、ヘスティアは行きつけの店へと向かった。
生活費をスピネルが稼いでくれるので、自身のバイト代を豪快に使うことができる。
宣言通り、ヘスティアは豪快に食べて飲んで騒ぎ、ベルはなんとかスピネルの好感度を稼ごうと頑張り、スピネルはそんなベルをどうにか受け入れようと頑張り。
この頃のヘスティア・ファミリアは、まだ家族として成立していた。