嫉妬の冒険譚


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作:凪 瀬
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2話 削られるアレコレ


誤字脱字の報告もお待ちしております


 ダンジョン内で気まずい空気が流れ、明らかに目を泳がせるヴァレンシュタインさん。どうするべきか気をもんでいた時、ヴァレンシュタインさんと同じファミリアであり、同じくLv5の第一級冒険者【凶狼】ベート・ローガさんがヴァレンシュタインさんを回収していった。その際、随分と有難い言葉をいただいたが、俺の精神衛生の為に割愛させてもらおう、

 何はともあれ、イレギュラーに遭遇し、絶体絶命になりながらも、生き残ることが出来て何よりだった。ダンジョンの外の空気は、普段よりも澄み切って、清々しく感じた。天高く輝く太陽に目を焼かれて、ようやく生きている実感が出てきた。ついでにちょっと涙も出た。

 時刻はまだ昼過ぎといったくらいだが……体力・精神的疲労……よし、今日はもう休もう。こんな状態で活動してもロクな事にならない。

 とは思いつつ、ダンジョンで起こったイレギュラーの報告は冒険者としての義務。疲れた体と重い心を引き摺って冒険者ギルドに向かう。

 普段の3倍くらい陰気な雰囲気で歩けば、道行く人々は勝手に避けてくれるから有難かったりする。でも、その嫌なものを見たって顔はやめて欲しい。心が辛い。

 辛い現実によって、普段の5倍陰気に普段の10倍時間をかけてギルドに辿り着いた。どうしよう、既に帰りたい。入る前からそう思わせてくるほど、入口からでも中の喧騒が聞こえてくる。

 例えば、クエストの説明

 

「ダンジョン10層のオークから睾丸を取ってきて欲しいそうです」

「依頼人は正気か?」

「薬の材料にするらしいですよ」

「へぇ、健康にいいのか?」

「いえ、媚や……精力剤の材料らしいです」

「そうか。聞かなきゃよかった」

「依頼人のお爺さんからは『今晩使うでな、至急で頼むぞい』と」

「なるほど、聞かなきゃよかった」

 

 例えば、換金の値段交渉

 

「頼むよ!もう少しだけ値上げしてくれ!」

「だから、無理なもんは無理だって!」

「そんな!せっかくオークの睾丸をもぎ取ってきたんだぞ!!」

「もぎ取る過程で潰れちまってるからこのくらいが妥当なんだって!」

「なぁ、本当にもう少し、もう100ヴァリスでいいから値上げしてくれ……!俺の手の匂いに免じて!」

「止めろ!オークの睾丸に触った手を近づけようとするな!!ヴぉえ!くっせ!!」

 

 例えば職員をナンパする声

 

「なぁ、この後食事でもどうだい?」

「えっと……困ります」

「そう釣れないこと言うなよ……俺と君の仲じゃないかぁ……」

「いや、本当に困ります……三徹目なのに睡眠時間削られるのは流石に死ぬので止めてもらっていいですか?」

「お、おう……そっか、ごめんね……ゆっくり休んでくれ……あ、誘うつもりだった飯屋、美味しいから余裕があったら行ってみてな……」

「お心遣い、ありがとうございます……!」

 

 千差万別、三者三様、入り乱れた騒がしさは疲れた体と心には辛いものがある……

 嫌だなあ…入りたくないなあ…でも、イレギュラーが起こったなら報告しなきゃだよな……他に犠牲者が出たら寝覚めが悪いし……それに、ここでサボるのは悪事になるだろうしな……よし、行こう。

 入り乱れる冒険者たち達の隙間をぬいながら、受付嬢の人達が働くカウンターまで向かう。

 何とかカウンターまで辿り着くと、揺れる薄緑の髪を見つけた。

 

「エィラさん、今、時間いただけますか?」

「ハイハイ〜?おや、私の担当する初心者冒険者のズィーヤ君じゃないですか。普段に比べて随分早いお戻りですね?どこか怪我でもしましたか?それならディアンケト・ファミリアへ行くと良いですよ。あそこは割高ですが軽傷なら直ぐに完治しますし、重傷でも【戦場の聖女】のおかげで死ぬことはありません!ローンも組めますし、初心者でも気兼ねなく行ってみては?借金については知りませんけど!」

「すいません。すんごい長々と話させておいてなんですが……至急の案件です。ダンジョン上層5階でミノタウロスと遭遇しました」

 

 俺がそう報告すると、エィラさんは浮かべていた笑顔を引っ込めギルド職員として……ひいては冒険者の命の一端を預かる者としての真剣な顔になった。

 

「そのミノタウロスは?」

「ロキ・ファミリアの【剣姫】によって討伐されました」

「なるほど……ミノタウロスは単独でしたか?」

「俺が遭遇したのは単独でした。天然武器も持ってませんでした」

「そうですか……情報感謝します。イレギュラーと見て間違いないでしょう……上層に上がったのは一体だけなのか複数なのか……複数の場合、ダンジョン上層への侵入を一時制限する必要がありそうですね……上位ファミリアに探索の依頼を出して……いえ、その前にロキ・ファミリアに確認が先ですかね……」

 

 口元に手を当ててブツブツと独り言を呟くエィラさん。普段は爛漫な笑顔を浮かべた端正な顔立ちなので目の保養なのだが、今は目が見開かれているせいで恐怖が勝る……どこ見てるんですか?俺の顔見ながらブツブツ言うのやめて貰えません?怖いので。なんで俺の顔見ながら手元ガリガリ言わせてるんですか?見ずに書いてるんですか?怖い、怖いよ……。

 

「……他にミノタウロスの目撃情報がないか確認します。それと、ズィーヤさんの知っている範囲で被害者は居ますか?」

「俺と一緒にミノタウロスに遭遇した支給品のナイフを所持した初心者がいました。攻撃される前に【剣姫】が討伐したため重傷はおっていません」

「分かりました。その初心者さんの名前やファミリアは分かりますか?」

「いえ、ミノタウロスから逃げるためにそんなこと聞く余裕なかったので……」

「そうですか、一応聞いておいたくらいなので気になさらないでください……何はともあれ、君が生きていてくれてよかった」

 

 そう言ってフワリと笑みを浮かべるエィラさん。丸ぶちメガネにフワフワとした薄緑の長髪、そしてお姉さん顔なのに普段うかべるのは可愛らしい笑顔……うーん、この人と付き合い、結婚できる人には嫉妬しちまうね。

 と、やるべきことを終えたからか、体の力が一気に抜ける。

 

「ズィーヤ君!?」

「あ〜……大丈夫です。疲れが出ただけなんで……じゃ、俺は帰るんで……イレギュラーの件、お願いします」

 

 心配そうにこちらを見つめるエィラさんに背を向けてギルドの出口に向けて歩く。その一歩の重いことよ……足が鉛とかじゃなくて超硬金属の枷をつけられたみたいに重い……。

 まぁ、そりゃそうか。命をかけた全力の逃走劇を演じてたら体力も気力も尽きる。寧ろ、冒険者3ヶ月ちょっとでイレギュラーに遭遇して、生き残って、ここまで冒険者の義務を果たせた俺の事を褒めて欲しい……

 賑やかな商業区域を脇に逸れて住宅区に入る。ギルドから普段なら徒歩20分の距離が今は何よりも遠く感じる……あ〜、ぶっ倒れそう。今ぶっ倒れたら絶対気持ちいい……

 人通りの少なめな穏やかな住宅区で幽鬼の様に虚ろな表情で歩く俺は不気味に見えたのだろう……足元を走っていった子供が親に捕まえられて離れていく。辛い……

 

「あら、ズィーヤ?」

 

 背後から聞きなれた美しい声が聞こえた。

 体が疲れを忘れたような機敏な動きで振り向き、その女神の姿を視界に収める。

 

「どうしたの?凄く疲れた様子だけど……」

 

 その女神はこてりと小首を傾げ、その動きに合わせて三つ編みにされた艶やかな黒髪の長髪が揺れる。長めの前髪が形のいい眉を隠しながらも、その美しいアメジストのような紫の瞳を隠すことは無い。女性的な丸みを持ち、男を惑わす豊満な体を黒い長袖と黒いロングスカートで隠す慎ましい美しさ。しかし、隠されてしまったせいで一層強調される豊満さが酷く扇情的で劣情を誘う……おい、そこのエロ親父、何うちの女神様に不躾な目で見てるんだ。その目玉抉り抜いてできた空洞にテメェの薄汚い睾丸ぶち込んでやろうか。

 俺の憤慨を気にした様子もなく、変わらず柔和な笑みを浮かべる我が【メガイラ・ファミリア】の主神、メガイラ様。

 主に悪事への復讐を司るらしく、【オラリオ】の治安維持を担っている【ガネーシャ・ファミリア】への手伝いを積極的に行って、生活費の足しにしてくれている。俺がもっと強くなれば生活を楽にしてあげられるんだが……。

 

「どうもイレギュラーに巻き込まれたようで……体力的にも気力的にも限界だったので今日は早めに上がりました」

「まぁ!そうなの?怪我はしてない?貴方が傷ついていたら、傷つけた相手に復讐しなくちゃ……」

「怪我は特にしてませんよ。逃げる途中で擦り傷や痣はできたかも知れませんけど、多分他の怪我は……あ〜」

 

 左足首が、痛い。

 そういえば逃げる時、凄まじい方向転換したな……あの時に足を捻ったか……。意識しだしたら凄い痛い。蚊に刺された時、その事に気づいたら異様に痒くなるのに似てる。痛すぎてちょっと冷や汗出てきた。

 

「……怪我してるんでしょ。どこか捻って、今更になって気づいたってところかしら?」

「……流石神様、なんでもお見通しですね」

「貴方の主神だからよ」

 

 そう言って俺の肩を支えだす神様……いや、あの、俺汚れてるんで、汗もかいてるし……後、神様のお召し物が汚れちゃうので止めて欲しい……あ、いえ、肩をかされるのが嫌とかじゃなくてですね?止めて止めて、その悲しそうな表情やめて?勝てないですから。俺が負ける未来しかないですから。あ、何かいい匂いする……

 結局、神様に肩を貸して貰いながら俺たちの家まで帰ることになった。

 その過程で俺の様々なものが削り取られて言ったことは、余談である……

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