嫉妬の冒険譚


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作:凪 瀬
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1話 俺と兎と牛と


初投稿です!ダンまち二次創作です!
拙いところも多々あるかと思いますが、暖かく見守っていただければ幸いです!


 ダンジョン

 それは古代からある大穴。絶え間なく強大な魔物(モンスター)が生まれる地獄の具現。

 古代の人々を苦しめ、人類を滅ぼす最悪。

 古代の人々は、英雄を求めた。自分達を救ってくれる英雄、人類を守護する圧倒的な英雄を求めた。

 そして、人々の願いに答えるかのように『始まりの英雄(アルゴノゥト)』を皮切りに、古代では数多の英雄が生まれ、数々の英雄譚が記されることとなった。

 生まれては消えていく様々な英雄達により(から)くも生き延びる人類の元に、天上から『神』が降臨した。

 神は人々に恩恵を与えることで魔物を打ち倒す力を与えた。神時代の始まりである。

 神によって力を与えられた人々は、英雄の掲げる旗の下で一致団結し、大穴の上に『バベルの塔』を築くことで魔物達を封じ込めることに成功した。

 こうして、バベルの塔を中心とした、現在のダンジョン都市【オラリオ】は生まれ、現在もダンジョンに挑む冒険者たちによって、多くの冒険譚と英雄譚が生まれている。

 人の夢と希望、現実と絶望が入り混じる混沌の坩堝(るつぼ)では、今日も喜劇と悲劇が巻き起こっている。

 

 

 ダンジョン5層目。小型モンスターが徘徊(はいかい)するダンジョン上層を一心不乱に爆走する、3つの影があった。

 何を隠そう、俺である。

 

「うわぁぁぁ!!」

「ブモォォォ!」

 

 そして、彼らでもある。

 

「はぁ!はぁ!おい、少年っ!君、道わかるっ!?」

「はっ…!はっ…!わ、わから、ないですっ!」

「はぁっマジ!?俺も、なんだよねっ!どうする!?この先、行き止まりっ、とかだったら!」

「はぁっ…!くっ…!まずい、ですね!」

「ブモォォォォンー」

「っソが!さっさと、諦めろよ、クソ牛!」

 

 一呼吸分の酸素さえ重要になる現状で、思わず悪態をついてしまう。後方からは体格の良い牛男が血走った目で追いかけてくる。冒険者ギルドで教えてもらった牛男の名前は『ミノタウロス』ダンジョン中層に現れるモンスターで、本来ならこんな浅い階層に来ることは無い。完全なイレギュラーであり、5階層で細々と狩りをしているような俺では相手にならない怪物だ。

 俺の隣で一緒に走る白髪の少年を見る。簡素な胸当てと関節を保護する皮の当て物以外防具らしい防具もなく、腰の短剣はギルドの支給品。恐らく、冒険者歴3ヶ月の俺よりも初心者だ。この階層に来たのも幸運……いや悪運によるものだろう。

 どうしたものか……5階層の地形については多少の知識はあるが、追いかけられる間に道が分からなくなってしまった。

チラリと追いかけてくるミノタウロスを盗み見る。俺たちと同じくらいの速度で走るくせに、体力には余力を感じる。曲がり角も含めて全力疾走で逃げ回っている俺達から引き離されない速度。これが中層レベルの速さか……!

 今はまだ逃げられているが、俺たちの体力が無くなった時、あるいは、どこかの袋小路に入ってしまった時が俺たちの最後になってしまう。いや、ミノタウロスの最高速を考慮に入れない時点でこれも希望的観測か……。

 足が重い、心臓が痛いし、吸う息が熱風のように感じてしまう。隣を見れば、あからさまに顔を顰め、苦しそうな少年の顔が見える。初心者で偶然5階層まで降りてきて、イレギュラーにぶち当たるとは……少年は運があるのか無いのか……違う、今考えるべきなのは打開方法だ。

 逃げ続ける?現状、逃げきれていないからジリ貧。

 助けを呼ぶ?どこに、どうやって?助けが来る可能性はあるのか?

 いっそ立ち向かう?レベルも装備も足りない。無謀だ。

 不味いな……完全に詰んでる。俺たちじゃこの状況を打開する術がない。

 

 

 なら、諦める?

 

「それこそ、ナンセンスだ!」

 

 ついさっき、見覚えのある広い空間があった。

偶然にも、俺たちは5階層から6階層に向かうための階段近くに戻ってきたらしい。この辺りは下から帰ってくる冒険者が多い。もしかしたら、ミノタウロスを倒せるほどの力を持った冒険者が帰ってくるかもしれない。

 今の俺には、か細いその可能性に賭ける以外の選択肢は無い。目の前の左右に別れた道、記憶通りなら右の先には袋小路、左の先には距離があるが、6階層に降りる階段がある。

 選択は一瞬。速度はそのままに、足首と重心を一気に傾けて左へ駆ける。少しでもミノタウロスから距離を取れるように、ミノタウロスが躊躇するように全力で……!

 だから、忘れていたのだ。俺と共に走っていた少年は5階層のことを知らず、駆け引きも小技もない初心者だということを。

 

「っ!ダメだ!!右に行くなっ!」

 

 俺が気づいた時には既に遅く、少年は右に進み袋小路の方向へ突っ込んで行った。ミノタウロスは俺よりも少年の方が楽に捕まえられると考えたのか、俺の方へ僅かに視線を向けてから迷うことなく右へ走っていった。

 直ぐに追いかけ、少年を助けるべきだ。だが、追いかけたところで俺の力ではミノタウロスを倒せないし、時間稼ぎすら危うい。俺の力じゃ、少年を助けるどころか2人で死ぬことになるだけだ。

 下に向かい救助を呼ぶ?距離があり過ぎる。少年が死ぬ方が速い。

 助けに行く?……やはり、無謀。

 

 なら、少年を見捨てて逃げる?

 

「冗談じゃないっ!」

 

 ミノタウロスの背中はまだ見えている。今から全力で追いかければギリギリ袋小路までに追いつける。その後は、俺がミノタウロスの注意を引いて、少年にミノタウロスの脇をすり抜けて、改めて6階層への階段がある方へ向かう。俊敏が俺と同じくらいの少年ならできるだろう。

 少年も助けつつ、生き残るにはこれしかない。微かに違和感のある足を前に出し、加速する。俺よりも弱い少年を見殺しにして生きるなど、神様に顔向けできない。

 ミノタウロスの背中を追いかけ、ジワジワと距離が近くなる中で少年の悲鳴が鮮明に聞こえた。どうやら、件の袋小路に辿り着いてしまったようだ。

 だが、ギリギリ俺も追いつくことが出来た。後は、俺の短剣がどれだけミノタウロスの注意を引けるかの勝負だ。

 

「おいクソ牛!こっち見ろっ!!」

 

 背後から近づき、ミノタウロスの尻尾の付け根に向けて短剣を突き刺す。いちばん柔らかいと思った部位は、存外硬かった。短剣は殆ど刺さらず弾き返され、一滴の血すら出すことは叶わなかった。

 だが、後ろから攻撃されるとは思わなかったのか驚いた様子のミノタウロスは俺の方を振り返った。本来の目的通りミノタウロスの注意を引くことには成功したようだ。

 

「少年!脇からこっちに来い!」

 

 呆然と座り込んだままの少年に指示をする。慌てた様子でこちらに来ようとするが、目の前の怪物はそんなこと許してはくれないらしい。

 俺ではなく近づいてくる少年に狙いを定めて拳を振るう。狙われると思ってなかったのだろう少年は、目を見開いて体の動きを止めてしまった。

 間に合わない。ここからじゃ庇ってやることも出来ない。ダメだ、助ける手段がない。

魔法は?直ぐに発動することはできない。そもそも、この状況じゃ無意味。ダメだ、ダメだ…!

 いつも以上にゆっくりと時間が過ぎる感覚。

 後悔と絶望に目を閉じてしまいそうになった時、すぐ横を風が吹いた。

 

「ブモオォォ!」

 

 ザシュリッと肉を切り裂いた音がした瞬間、ミノタウロスの絶叫が響く。振りぬこうとした腕は肘先から切り落とされ、吹き出した血が少年にかかってしまっている。

 俺の前で絶叫するつミノタウロスの背中から剣先が突き出る。それを認識した瞬間に剣は引き抜かれ、溢れた血が俺の腕に少しかかる。絶叫が止み、喉から絞り出される微かな断末魔の後、ミノタウロスは灰となって消えた。

 ミノタウロスの背中に隠れて見えなかった向こう側。俺達を救ってくれた英雄は、美しい金の髪を持つ姫だった。

 

「アイズ……ヴァレンシュタイン……」

 

 迷宮都市【オラリオ】の二大派閥が片翼【ロキ・ファミリア】に所属するLv5の第一級冒険者。【剣姫】の二つ名で知られ、幼少期から強さに対する異常な執着は、一般人だった俺にも伝わってきた。

 その強さと噂もさることながら、妖精を思わせる美貌も彼女の知名度を上げる一助(いちじょ)となっているだろう。

 ダンジョンの下層を超えた深層まで潜る彼女が、こんな上層にいてくれたという幸運。ミノタウロスに追われた時はどうしようかと思ったが、天は俺らに味方してくれたようだ。

 

「……大丈夫、ですか?」

「……あぁ、お礼が遅れてしまって申し訳ありません。私達を助けてくださって、ありがとうございました」

「……………」

 

 無表情ながらこちらを気にかけてくれる彼女に思わず背筋が伸びる。目の前に立って初めてわかる、彼女の圧。強者特有の張り詰めるような、微かに死の気配がするような圧。

 命の恩人に対して恐怖することは無いが、どうしたって緊張はしてしまう。白髪の少年もそうなのか、先程から黙ってばかりだ。

 当然だろう。冒険者になったばかりの初心者がイレギュラーに遭遇して絶体絶命の危機に陥り【剣姫】に助けられる。物語にでもなりそうな展開だ。

 しかし、危機を脱したとはいえ、ここはダンジョンの中。腰を据えて話す場所でもなければ、座り込んでいていい場所でもない。未だ座り込みっぱなしの少年に歩み寄り、手を差し出そうとすると、その姿が掻き消えた。

 

「うわぁぁぁぁ!!!」

 

 叫びながら、少年はダンジョンの暗闇に走り去ってしまった。幸い外に向かう方向ではあったが、ちゃんと辿り着けるのだろうか……?というか、彼は【剣姫】に礼を言っていなかったが、大丈夫だろうか?後で虐められたりしないよな?

 【剣姫】も少年の行動には面食らったのか、ポカンとした表情で彼の走っていった方向を見ている。そして、説明を求めるような困惑した顔で俺の方へ向き直った。いや、そんな顔されても、俺も困惑してるんですけど?

 魔物ひしめくダンジョンの中で、【剣姫】と俺の間に微妙な空気が流れる。危険極まる魔物の巣窟に全く似つかわしくない、実に気の抜けた雰囲気だった。

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